表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1584/2805

早い方が良い

「大神官猊下より、情報国家に対する助言は受けているようですが、まだ隙があります。それでは、かの国の国王陛下には容易に見破られますよ」


 俺の友人はそう口にした。

 まるで、あの国王陛下と会ったことがあるかのように。


 俺は、昔から、あの国王陛下が苦手だった。


 何度か会話に巻き込まれたことがあるが、僅かな言葉からでも、俺の全てを見抜くかのようで恐ろしかったのだ。


 さらに、あの方自身には隙が見当たらない。


 そう言えば、どこかこの黒髪の友人に似ている気がした。


「雄也さん、どの辺りに隙があるかを伺ってもよろしいでしょうか?」


 ふと俺たちの会話を見守っているだけだった大神官が口を挟む。


「言葉については大丈夫です。問題ありません。ですが、会話中にシンアン殿の目線が上に行くのを何度か見ました。言って良いことと隠すことを吟味しながら話しているせいでしょうね」

「お前、本当に情報国家の関係者じゃないのか?」


 俺は思わずそう確認してしまう。


 俺もこの正神官を同じように観察していたつもりだったが、そんな目線の動きには気付かなかった。


 どれだけ相手を見ているのだ?


「何度も言うが、俺も弟も、情報国家に足を踏み入れたことはないな。尤も、あの弟は、一度、連れ去られかけたようだが」


 友人……、ユーヤは溜息を吐いた。


 それはこの男がいない場の話。

 そして、俺の目の前で起こった出来事でもあった。


 あれは、ツクモが情報国家の王子に気に入られてしまったからだ。


 普通に生活していれば出会うことすらなかったはずなのに、カルセオラリア城の崩壊に巻き込んでしまったために、あんなことになった。


 だが、この兄弟があの主人と共に、今までかの国に見つかっていないのはある意味、運が良いとしか言いようもない。


 これだけ目立つのだ。

 行く先々で、何故かいろいろなトラブルの渦中にいる。


 それなのに、あの情報国家たちに目を付けられていないのは不思議だ。


 一度くらい、接触されていてもおかしくはないし、ツクモのように連れ去られかけても疑問には思わない。


 そんな国なのだ。


「目線ですか……。なかなか難しいですね」


 暗赤色の髪の神官、シンアンが口元を押さえる。

 無意識の行動を押さえるのは難しい。


「雄也さん、参考までに。情報国家の王族以外なら誤魔化せるでしょうか?」

「情報国家の王族以外……? 情報国家の国王陛下を越えるほど得体の知れない人間でない限りは大丈夫でしょう」


 ……ユーヤ?

 お前は仮にも一国の王に対して、得体の知れないという評価はどうなのか?


 しかも、それは割とお前にも該当する言葉だと言っても良いか?


「それならば、大丈夫でしょう。かの国王陛下のお相手は、暫くの間、私が担当することになるでしょうから」

「大神官猊下が?」


 それならば、その立場上、情報国家の国王陛下への対応も慣れているだろうから、この正神官に任せるよりはずっと安心できる。


 だが、この大神官は多忙だと聞いていた。


 そして、この島に常駐しているわけにはいかないと思うのだが、意外と暇なのか?


「例の建物の情報を『大聖堂』が公表します。この件は、あのお二方と、我が国も含めた連絡の取れる関係者たちには了解を得ているので問題もないでしょう」

「は?」


 さらりと告げられた言葉の情報量があまりにも多すぎた。


 例の建物ってアリッサム城のことだよな?

 それを「大聖堂」が公表ってどういうことだ?


 確かに今回の件で神官関係者が絡んでいた可能性が高いのはツクモからも聞いていたが、それでも、わざわざ「大聖堂」に公表させることに何か意味があるのか?


 そして、あのお二方というのは間違いなくマオとミオのことだろう。

 もともとマオとミオの居城だった建物だ。


 当人たちは気にしていないような振りをしていたが、それでも、あの建物内を歩いていた時の2人は、どこか終始落ち着かなかった様子でもあった。


 それに、我が国というのは……?

 ああ、ストレリチアのグラナディーン王子はヤツらの血縁だったか。


 それならば、確かに関係者と言えなくもない。


 それ以外の連絡が取れる関係者というのは、あの建物内で捉えられ、傷付いていた女たちのことなのか?


 あの女たちは本当に痛ましすぎる状態だった。


 それを引き起こしたのが、同じ人間だと言うことだったが、その知性と理性は(けもの)以下としか言いようがない。


 自分よりも弱い女子供に手を出し、悦に浸る男など、碌な死に方はしないだろうな。


 だが、あの建物内にいたほとんどの女たちはあの場所での記憶を封印することを選ぶと思っていたのだが、違ったのか?


 あんな忌まわしい記憶など覚えていたところで、何の得にもならないだろう。

 しかも、いつの間にそんな話になっていたのだ?


 そんな言葉の数々が、次々と頭の中を通り抜けていく。


「公表はいつ頃の予定でしょうか?」


 だが、ユーヤは次の質問に移った。


 お前の情報処理能力が早すぎないか?


「本日、我が国の聖歌時に一斉通信の予定です」

「早すぎる!!」


 想像以上に「大聖堂」の動きが早い。


 確かに関係者たちが承知しているなら問題はないと思うが、それでも知らされていなかった俺としては、その早さに驚きを隠せない。


「トルク、早い方が良いのだ」

「どういうことだ?」

「その分、俺たちが身を隠すまでの時間が稼げる。それほど、あの建物の発見の報は、世界に与える影響が大きい」


 確かに三年ほど前に消滅した魔法国家アリッサムの手掛かりを探している国は少なくない。


 特に情報国家は国の威信をかけていることだろう。


 そして、今回、ツクモが発見したのは、アリッサムの中枢として存在していた城だ。


 城の周囲にあった水路を含めた城下跡こそ見つからなかったが、あの建物は間違いなくアリッサム城だった。


 その城の発見。

 確かに、情報国家の調査網は、そちらに重点を置くことだろう。


「要は、情報国家からこの島への関心が薄れてくれれば良いのだ。そして、その中でも一番、手強い存在は、大神官猊下がお相手してくださるそうだからな」


 ユーヤは不敵に笑った。


 精霊族たちの血を引く者たちが住んでいる島と、アリッサム城の調査なら、あの情報国家の国王陛下は間違いなく、アリッサム城の方を選ぶだろう。


 しかも、その対応は何故か「大聖堂」。……いや、大神官だ。


 必ずや、その因果関係を洗おうとするはずだろう。


 もともと魔法国家アリッサムの消失には、法力国家ストレリチアが関わっていると見ていた人間たちも少なくない。


 そのことはその事件の当事者でもあるアリッサムの王族たちが2人して否定していたけれど、その2人の健在を知っている人間の方が少ないのだ。


 法力国家ストレリチアを疑っていたのは、同じ大陸にあり、中心国となった輸送国家クリサンセマムがその先鋒だった。


 アリッサム消失後に開かれた中心国の会合に参加した時、声高に叫んでいたらしいからな。


 アリッサム消失で、一番、利を得たように見えたのは、新たに中心国となったクリサンセマムだった。


 自国への疑いを逸らしたいと言う考えがあったのだろう。


「なるほど……。それならば、お前たちは暫く、ウォルダンテ大陸のリプテラという町に潜め」

「リプテラに? 何故だ?」


 目の前の黒髪の男は訝しげな視線を俺に送る。


「俺もここの後始末のために、ウォルダンテ大陸の人間たちが来るまで待機する。だが、マオとミオを残せない。理由は……、分かるだろう?」

「お前を無視して、俺たちがあの方を連れて、別の場所に行くとは思わないのか?」

「お前は、本当に酷い男だな」


 ()()()()()()()()()()()


 そして、この男の主人は、マオとミオのことを慕ってくれている。


 だから、彼女たちの意思に外れるようなことはしないだろう。


「ローダンセよりは、リプテラの方が安全だ。お前たちにとって魔法具など興味深いものも多いだろう」


 ウォルダンテ大陸のアベリアにあるリプテラという町は、カルセオラリアについで、魔法具が多く存在する。


 正しくは、カルセオラリアは道具の製造段階で魔法などの効果を付加しているが、アベリアは道具に直接魔法を付加する後付けのものが多いのだ。


 だから、アベリアは近年、付加国家とも言われるようになった。

 この男たちのように、自分で道具に魔法を付与できる人間ばかりではない。


 そして、カルセオラリアの道具は一般的に高価らしいので、使い捨てになりやすくても、安価なアベリア産の魔法具を求める人間も少なくない。


 リプテラはアベリアの城下に次ぐ(みやこ)であり、多くの人間たちが訪れ、商工業や経済、文化が発展している地だ。


 そのために、他国から狙われないように、アベリア国屈指の強い結界が張られている。


 少なくとも、ローダンセよりは安全だ。

 あの国は中心国の中で最も結界が弱い。


 だから、自分の身は自分で護らないといけないと言う考え方が浸透しているのだ。

 何故、結界が弱いのかは……、結界(護り)を重視していないことが原因だろう。


「リプテラか……。芸術の都とも言われている町だったな」

「ああ、お前たちの主人であるシオリは絵が好きだろう? 滞在するなら丁度良いとは思わないか?」

「……考えておく」


 どうやら、()()()()()()()()()()ようだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ