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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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「番い」を押さえるのも「番い」の役目

「お疲れ、栞ちゃん」


 やってきた正神官と案内を務めるリヒトの姿がいなくなったことを確認すると、雄也さんがそう労ってくれた。


「よ、よく分からないけど、疲れました」


 わたしは情けなくも、その場に座り込む。


「なるほど……。あの方は確かに『精霊族』に特化しているみたいだね」

「ふへ?」


 雄也さんは、溜息を吐いた。


「あの正神官は、リヒトに対して警戒をしているんだよ」

「な、何故!?」


 リヒトってどう見ても無害そうなのに!?


「前に会った時から成長しているからだろうね。つまりは精霊族として、成人している。精霊族が能力を上昇させるのは成人後らしいよ?」

「え? じゃあ、リヒトは今から成長期ってことですか!?」


 あんなに大きくなったのにまだ伸びるってこと!?


「精霊族はまず肉体が先に大きくなり、その後に、それを満たすかのように少しずつ力が成長すると聞いた。人間でいう魔力成長期に入ったということかな」


 身体はもう完成したってことか。

 そのことにほっとする。


 あれ以上大きくなったら、九十九だけでなく、トルクスタン王子、さらには恭哉兄ちゃんぐらいになってしまう。


 これ以上、背の高い美形は勘弁していただきたい。

 わたしの小ささが際立ってしまうではないか。


「つまり、リヒトが成長したから、警戒対象になったということでしょうか?」


 これまで無害な存在(子ども)だったのが、精霊族の力を成長させてしまうから?


「その辺は当人に聞いてみないと分からないね。ただ、先ほど感じた気配は明らかに敵意だったから」


 うぬぅ。

 確かに本人に確認しないといけないのか……。


 でも、なんて聞き出すべき?


「……って、そんな状態で二人きりにして大丈夫なんですか?」


 敵意を見せる相手が警戒対象と二人だけって、かなり危ないことではないだろうか?


「リヒトは気にしていないようだったし、正神官は仕事として来ている。しかも、栞ちゃんがリヒトを可愛がっていることは知っているのだから、特に何もないと思うよ」

「おおぅ」


 お仕事に私情を挟まない人だと言うことか。


「どちらかというと、問題はリヒトの『番い』の方だね。彼女に騒がれるとちょっと面倒かな」

「スヴィエートさん……ですか?」


 確かに水尾先輩以上に直情的なあの人は、何かしでかしそうな気配がずっとある。


「リヒトのことになると、彼女は実力差も考えずに飛び出してしまう。しかも、解決法は力技のみ。さらにあの正神官はこの島に常駐予定」

「うわぁ……」


 つらつらと上げられただけでも、嫌な予感しかしない。


 あの綾歌族の女性は、大神官である恭哉兄ちゃんにも敵意を剥き出しだった。


 大神官は人間世界で最も、神に詳しい存在だ。

 そんな人が、神の遣いとされる精霊族の対策を知らないはずがない。


 実際、さりげなく、わたしたちが行き届いていない方面で、リヒトに対する気遣いもしてくれているのだ。


 リヒトは銀冠(サークレット)によって、その能力を調整できることとかも教えてもらえた。


「それだけ、誰かを想えるのは凄いことだと思うけれどね」

「いや、想えるのは確かに凄いことだと思うのですが、そのために周りが見えなくなるのはどうかと思いますよ」


 彼女はわたしが「橙の王族」だと知っていた。


 さらに、精霊族はその血筋の人間には、手を出してはいけないということも聞かされていたのだ。


 それなのに「番い(リヒト)」の想い人というだけで殺そうとした。


 あの時は九十九が殺さなかったから良かったものの、人間の世では、王族に殺意を向ければ、処罰、あるいは処刑の対象になる。


 実際、わたしが止めなければ九十九は、彼女を三枚におろしていたかもしれないのだ。


 そんなに短絡的な考え方ではこれから始まる人間との交流ってかなり難しいのではないだろうか?


 今更ながら、リヒトが穏やかで良かったと思う。


「まあ、その辺はリヒト次第になるだろうね」

「ほ?」

「『番い』を押さえるのも『番い』の役目だから」

「それって一方的にリヒトが疲弊する気がします」


 自由奔放な彼女に振り回されるリヒトの図しか思い浮かばない。

 今の状況では、リヒトだけが一方的に我慢を強いられる気がする。


「それに、リヒトがもし、大神官の元に行くのなら、スヴィエートさんと一緒にはいられないでしょう?」


 彼女は多分、この島以外では生きられない。

 その言動もだけど、考え方とか習慣とかがこの島に染まり過ぎている。


 それも、一朝一夕でどうにかなるレベルでもない。

 だから、この島から離れて、人間の世界で生きることは無理だろう。


「そうだね。リヒトが神官の道を選ぶなら、あの女性とともにいられない」


 雄也さんも同じ結論だった。


 やはり、あの人はこの島以外で生きることはできないと思っているのだ。


「ただ、リヒトは神官になれば、その昇格は速いと思うよ」

「法力の才がそれだけ凄いってことですね」


 恭哉兄ちゃんが見込んだと言うことは、それだけの才能だってことだろう。


「いや、アイツは人の心が読めるから」

「ぬ?」

「上司の性格の悪さが出る試験なんて、大好物だろうね」

「ふわっ!?」


 そ、それは、カンニングというヤツではないだろうか?


「自分の能力を使って試験を受けるという意味では、この上なく使っていると思うよ」

「それはそうかもしれませんが……」


 素直に「解せぬ! 」と叫びたくなるのはわたしだけだろうか?


 いや、意味は理解できるけど、真面目に試験を受けている方には本当に申し訳ないというか……。


「でも、以前の準神官たちによる昇格試験であったように、バトルロイヤル形式の試験ならば……?」


 九十九が巻き込まれた昇格試験はそんな感じだった。


「最初の昇格試験で一次合格者にもなりやすいし、逃げるにしても護るにしても、心が読めるからな~」


 攻撃に関してはまだ分からいけれど……と付け加えられる。

 そうなれば、確かに心を読めるリヒトに隙はない。


「せ、精霊族対策をされているならば?」

「能力を見極めるための試験だから、逆に使ってくださいと推奨されると思うよ」


 そうですね。

 試験って本来、そういうものですよね。


 でも、納得できないのはわたしだけですか?


「そして、『正神官』に上がれば、この島の聖堂に来ることができる」

「ふ?」


 この島に……?


「少なくとも、大神官はそうお考えのようだよ」

「ふおっ!?」


 恭哉兄ちゃんがそんなことを考えて……?


「精霊族のことは精霊族に任せたいようだからね。だから、あのシンアン殿は、『繋ぎ』ってところかな」

「そ、それはあの人もご存じなのですか?」

「うん。知ってる。その上で引き受けてくれた。まあ、聖堂に正神官は何人いても良いらしいけどね」


 確かにリヒトなら、この島に来ることに反対はされないだろう。


 もともと「精霊族」の血を引いているのだ。

 そして、普通の人間の神官たちにとっては、この島の価値は薄い。


 正神官が大聖堂から離れ、地方の聖堂に行けば、出世は遠のくとも言われている。


 リヒトに法力の才があれば、勿体ない話だけど、才能ある人間たちを蹴落としてでも上位に上がりたい人にとってはライバルが減って大喜びの結果だ。


 個人的には納得できないけど。


 見習神官から始まって、準神官、下神官……、その後に正神官。

 毎年昇格試験を受けて、合格し続ければ、最短で二年と数カ月。


 リヒトの能力を考えれば、いけてしまう気がする。


「でも、少しでもリヒトから離れるのを嫌がるスヴィエートさんが、数年も離れるなんて納得できるでしょうか?」


 なんだかんだで追いかけてきそうな執念を感じる。


 鳥に変身できるのだから、それが可能かもしれない部分が恐ろしい。


「あの女性がリヒトから離れて不安だったのは、自信がなかったからだよ」

「自信?」


 あれだけ根拠のない自信に満ち溢れているような人なのに?


「それだけ、自分が愛されている自信というのは難しいんだよ」

「おおう」


 雄也さんが言うと、なんという説得力と思わされてしまう。


 でも、確かに愛されている自信って難しいかもしれない。

 誰もがリヒトのように心なんて読めるわけではないのだ。


 相手からの言葉を疑いもするし、自分の魅力の無さに落ち込むことだってある。


「だから、もう大丈夫なんじゃないかな」

「大丈夫?」

「リヒトが彼女の想いを受け止める決意をしたみたいだから」

「ふわぁっ!?」


 い、いつの間に!?


 え?

 いや、確かに当事者間の問題ではあるのだけど、でも、本当にいつの間に!?


 しかも受け取るではなく、受け止めるってどういうこと!?


 そんないきなりすぎる報告に、わたしはただ混乱するしかないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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