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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界新生活編 ~
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眠り姫はいつ目覚める?

「魔法力がなくなるどうなるの?」

「こんな風にぶっ倒れる。『魔気のまもり』もなくなるだろうから、魔法の耐性も身体の防御も分かりやすく低下する」


 つまり、ゲームで言うステータス異常……、魔法防御、物理防御が大幅にダウンするということで良いだろうか?


「魔法で怪我は治せるのに、魔法力の回復ってできないの? 俺の力を受け取れ! みたいに」


 漫画では見かける話だ。

 ゲームでも、魔法力の譲渡や奪取はあった気がする。


「お前は本当に魔法をなんだと思っているんだ? 魔法力を渡そうとしても相性とかも質の問題があるから、簡単にできることじゃないんだよ」

「輸血みたいな感じ?」


 血液は確か、いろいろと難しい制限があった気がする。

 O型はほとんどの血液型におっけ~だけど、その逆はできないとかなんとか?


「もっと複雑だな。他者の魔力が入ってくると普通は、自分の魔力が阻害しようとするらしい。回復系はそれをうまく利用しているらしいが、詳しくは分からない。魔力を込めるのは物が相手でも意識して行うのは難しいからな」

「本当に魔法って言っても万能じゃないのね」


 なんとなくなんでもできる奇跡みたいなイメージだったのだけど……、ちょっと違うみたいだ。


「寧ろ、何故、万能だと思い込んでいるのかを知りたい」

「未知な力に期待をしてしまうのが人間なのよ」

「オレたちにとっては既知な力なんだが」


 確かに彼らにとってはそうだろう。

 でも……。


「わたしにとっては知らない能力だからね。昔は知っていたかもしれないけど、覚えてないものは知らないのと一緒だよ。多少勉強しても、やっぱり分からないままだしね」

「まあ、魔気の流れとか分からんとピンとはこないだろうな」


 わたしの言葉に対して、九十九はいろいろと思うところはありそうだが、一定の理解はしてくれる。


「先輩のお目覚めがいつになるかは分からないってことだけど……、魔界人ってどれくらい食べなくても平気なものなの?」


 確か、普通の人間は飲まず食わずだと三日くらいしかもたなかったはずだ。


 そして、医療が発達していないのなら、人間界のように点滴みたいなもので無理やり栄養補給させることもできないかもしれない。


「個人差だな。この人……、食欲はある方だったか?」

「痩せの大食いを地で行くタイプだったよ」


 真央先輩はそうでもないのだけど、水尾先輩の食事にかける熱というのはかなりすごかった覚えがある。


 それなのに、驚きのこの細さ。

 うらやましい話だ。


「あ~、それなら食事のエネルギーを体内魔気に変換するタイプの可能性があるな。それなら、案外、目覚めは早いかもしれん」

「何で?」

「そのタイプは腹が減ると眠れなくなるらしいから。意識を失っているのは魔法によるものじゃないようだから、自然と目が覚める。1日……、いや、2日くらいかもな」


 肉体的なダメージではないらしい。


「それって結構長い気がするんだけど……。魔法力の方はちゃんとその間にも回復するの?」

「今、こうして話している間にも回復していってるよ。魔法力の回復に必要なのは休息と栄養だからな」

「そっか……」


 ちょっとだけほっとした。


 難しいことはよく分からないけれど、九十九たちに任せれば大丈夫な気がする。

 後は、目が覚めた後、直接話を聞けば良い。


 でも……。


「本当に、何があったんだろう?」

「さあな」

「九十九は……、先輩を助けてくれたんだよね? ありがとう」


 面倒なことになるかもしれないのに、ここに連れてきてくれたってことは、九十九も見捨てることはできなかったのだ。


 わたしに見せることなく、さっき言ったみたいに聖堂へ預けることもできたのに。


「べ、別にお前に礼を言わせるためにここに連れてきたわけじゃねえよ。いろいろと気になることもあっただけだ」


 そう言って、九十九は顔を逸らした。


「気になること?」

「この人……、この国……いや、このシルヴァーレン大陸出身じゃないみたいなんだ」

「魔界人だって他の大陸に渡ることぐらいあるんじゃないの?」


 特に何かに追われて逃げてきたなら、そこまで不自然ではない気がする。


「あるけど……、人間界みたいに多くはない。他大陸、他国が必ずしも今住んでいるところより良いとは限らんからな」

「旅行とかしないってこと?」

「一般的ではないな。安全かどうか分からないところに行きたくはないだろ?」

「ある意味、魔界って閉じた世界なのね」

「人間界が広がりすぎなんだよ。商人や神官でもないのに世界を一周したいとかオレには不思議だった」


 安全の保障がある程度されていたからだろう。

 改めて、あの世界は恵まれていたのだと実感する。


「先輩がその商人や神官の可能性は?」

「ないな。着ていた服がそんな感じじゃなかった」

「着ていた……服……?」


 さっき見た限りでは、この国の服だった気がするのだけど……。


「妙な誤解をする前に言っておくが、着替えさせたのは千歳さんだからな」

「誤解する間もなかったよ。でも、それなら、着ていた服でどこの人かは分からないの? ほら、この国だって、こんな服だし」


 妙に広がったスカートのすそを摘んでみる。


「兄貴ほどオレは他国文化に詳しくはないんだよ。ましてや、女の民族衣装に興味があると思うか?」

「……あったらあったで嫌だね」


 女性の服に詳しい九十九。

 違和感しかない。


 でも、これが雄也先輩なら妙に納得できる不思議。


「だろ? だが、出身大陸ならなんとなく分かるぞ。そこから来たのかは分からんがな」

「出身大陸とか言われても、わたしが分からないんだけど……」


 魔界に来てから多少は地理も勉強しているけど、各大陸とその中心国ぐらいしか頭に残っていない気がする。


 でも、人間界の世界ほど、あちこちに小国が点在しているわけではないのは理解した。

 あまりにも小さいと、国として認知されにくいことも。


「まあ、オレも細かく分かるわけじゃない。火の属性が強いから、フレイミアム大陸出身だろうって予測するぐらいのことだ」

「フレイ……ミアム……?」


 火の大陸とも炎の大陸とも呼ばれる大陸のことだったはずだ。


 だけど、その中心国は確か……。


「あ、アリッサム……って国の可能性は?」


 それは少し前に聞いた国の話だ。


「あるだろう。アリッサムは、フレイミアム大陸の中心国だからな」


 聞き間違いでも、覚え間違いでもないのなら……。


「アリッサムは……、何者かに襲われて崩壊したって……」

「は?」


 ちょっと待って。

 落ち着こう。


 まだ考えがまとまってない。


「お前、どこでそんな話を?」

「城で……、確か……、情報国家の王さまって人から……?」


 そして……、雄也先輩によく似た声で……?


「どんな状況だよ!?」


 九十九が思わず叫ぶ。


「いや……、わたしにもよく分からなくって……」


 えっと?

 何がどうなってそんな話になったんだっけ?


 そんなわたしの混乱が分かったのか。九十九が大きく一息吐く。


「……分かった。とりあえずゆっくり、最初から話せ。お前が出かけてから兄貴に保護され、帰ってくるまでのことを。それぐらいの時間はあるから整理しながらで良い」

「う、うん」


 そう言われて、わたしは九十九に先ほどまでの話をした。


 気付いたら森で迷ってしまったこと。

 王子と出会い、城へ招待されたこと。

 やたらと気に入られた上、何故だか王と対面することになったこと。

 その最中で、アリッサム崩壊の報をたまたま耳にしてしまったこと。


 思い出せるだけ、ゆっくりと話したのだ。


 その話の最中、九十九は頭を抱えたり溜息を吐いたり表情をいろいろ変えたりしたけれど、ほとんど遮ることなく話をさせてくれた。


 何度も何か言いたそうにしたけれど、それでも黙って話を聞いてくれたのだった。


 そして……。


「お前はトラブル製造機か?」


 話し終えたわたしに九十九が最初に言った言葉がそれだった。


 そこは素直に「トラブルメーカー」で良いのではないだろうか?


「自分でもなんであんな展開になったのか、今でもよく分からないんだけど……」

「血じゃねえの? 基本的に大きな魔力を持つもの……、それも王族同士は惹かれあうらしいからな」

「大きな魔力って……、わたし、魔力ないんでしょ?」


 人間界にいた時にそう言われた気がする。


 わたしからは、全く魔力を感じないとかなんとか。


「魔力がねえわけじゃねえよ。魔法が使えない、魔気が感じられないのは封印されているだけだ。封印が解けたら恐らく、あの王子より凄い魔力のはずだぞ」

「王子って……、確か魔力が少ないって話だよね」

「俺が知る限り、かなり弱かったな。あれから10年でどう変わったかは分からんが、下手するとオレや兄貴よりも魔法が弱いんじゃねえかな……」

「そう考えると、魔力が封印されているのはある意味良かったのかな……」

「……だろうな。王子の魔力のなさは昔からコンプレックスだった覚えがある。あの性格が変わっていなければ、お前を森で拾うとかしてないはずだ。ある意味運が良かったな」


 その発言はどうなのだろうか?


「拾うって……、犬猫みたいに言わないでよ」

「ちゃんと家に戻ってくるだけ犬猫のほうがマシだ。可愛いし」

「は?」


 九十九の口から、なんとなく意外過ぎる言葉が飛び出した気がする。


「犬や猫は可愛いだろ?」

「猫は可愛いけど、犬については……、その意見には同意しかねるなぁ」


 わたしは犬が苦手なのだ。

 子犬とか大きさ、種類に関係なく、とにかく駄目なのだ。


 犬が嫌いとかではなく、なんとなく命の危険を感じる恐怖に近いものと言っても過言じゃないくらいだった。


「まあ、とにかく、アリッサムが崩壊の報告があって、その前後にこの火属性が強い魔力を持った人間が城下の森で倒れてた……、と。それを単に偶然……の言葉で片付けられない気はするな」

「……、だよね」

「どちらにしても、この人の目が覚めないことには何も分からんな」


 九十九はそう結論付けた。


 結局、水尾先輩が目を覚ますのを待つしかないということはよく分かった。


 でも、いつ頃、目を覚ましてくれるのだろうか?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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