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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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【第87章― 会者定離 ―】切り替えは大事

この話から87章です。

よろしくお願いいたします。

「じゃあ、オレはトルクと真央さんを連れてアリッサム城に向かうってことで良いか?」


 九十九はいつもと変わらない調子で雄也さんにそう言った。


「ああ。トルクは人間を。真央さんにはアリッサム城に残されている物の回収を願いたい」


 トルクスタン王子は、空属性を得意としている。


 移動魔法の効果も範囲もわたしたちの中では一番だ。


 そして、真央先輩は数年前まで、そのアリッサム城に住んでいた。


 先に向かった水尾先輩が回収することができたのは、残念ながら隠されていた自分の私物だけだった。


 言い換えれば、真央先輩の私物もまだ残っている可能性は高いのだ。


 そして、権利とかそういった様々な思惑が動き出す前に、いろいろと片付けておきたいという話らしい。


「例の場所にミオを一人にして本当に大丈夫だったのか?」

「今のところは、『伝書』が送られてくる。これが偽書でない限り、彼女は無事だろう」

「なるほど……。ユーヤは、ミオと文を取り交わす仲ってことで良い?」


 真央先輩はいつの間にか、雄也さんのことをユーヤと呼ぶようになっていた。


 それが、あまりにも自然過ぎて、始め、幻聴かなと思ってしまったぐらいだ。


 わたしは、「雄也」呼びにまだ慣れない。


 雄也さんは気にしなくても良いと言ってくれるけど、ちゃんと呼べた時は嬉しそうな顔をしてくれるのを知っている。


 それなら、頑張るしかないよね?


 恭哉兄ちゃんは、一度、大聖堂に戻った。

 この島に、ちょっと変わった形の聖堂を建てて。


 あの形は恭哉兄ちゃんの趣味なんだろうか?


 まさか、聖堂を建立しに来たと言っても、本当にそんなにすぐに建つとは思ってなかったよ。

 この世界の建築物っていろいろおかしい。


 だから、大きな城が空を飛んでいても、別に不思議ではないのかもしれない。


「ところで、リヒトとあの綾歌族の女はどうした? また島の奥か?」


 九十九が周囲を見る。


「あれ? こっちに戻ってると思ってた。でも、あの二人、あそこにはいなかったよ」


 その言葉に真央先輩が答える。


「あいつら、『番い』なんだろ? どこか離れた場所でヤってるんじゃないか?」


 そんなトルクスタン王子の言葉に、どこんっと重たいものが吹っ飛ぶような音が返事をする。


「ふむ……。使える」

「「ちょっ!? 」」


 真央先輩のとんでもない動きと言葉に、反応したのはわたしと九十九だった。


 何故か、雄也さんだけが苦笑いをしている。


「何すんだよ、マオ!!」


 トルクスタン王子が王族としては品性に欠ける台詞を口にした時、真央先輩は見事な裏拳を繰り出したのだ。


 「ゆめの郷」ではアッパーカットでトルクスタン王子の意識を奪っていたような気がするけど、意外と格闘系が強い人なのかもしれない。


「トルクは毎回、デリカシーが欠けている。せめて、逢瀬とか逢引みたいに言葉を変えて」

「お前……、ミオより狂暴になってないか? しかも、今、俺を殴る時に魔力が籠っていただろ?」

「うん。ユーヤから、身体強化の装備品を貰ったからね」


 そう言って、真央先輩は嬉しそうに右手の甲に大きな紅い石の付いている黒い手袋を見せた。


 あれでは殴った方も痛そうだけど、大丈夫だったのだろうか?

 しかも利き手だけ?


「まあ、力を上げるのに、魔法力を使うのはちょっと慣れないけど、魔法を使うこともほとんどない私にはある意味、ちょうどいい装備品だよね?」


 得意げに語る真央先輩だが、それには下手に相槌すら打ちにくい。


「まあ、簡易結界の腕輪だけじゃ不安なのは分かるが……、ユーヤ。マオに随分、入れ込んでないか?」


 真央先輩は「ゆめの郷」で雄也さんから借りた「『柘榴石(ガーネット)』の腕輪をまた身に着けていた。


 確か、あの腕輪は、身に付けた者に対して、外から干渉されたある程度の魔法を無効化する効果があると聞いた覚えがある。


 それがあるから、その強化がついた手袋は、右手にしか嵌めることができないのかな?


 そして、トルクスタン王子は、石の付いた手の甲で殴られたことに関する苦情はないらしい。

 そのために、九十九も、治癒魔法をかけて良いか迷っている。


「呑気なお前に分かるように言えば、これか向かう先は、本拠地ではなく、敵陣だ。護りだけで足りると思うか?」


 その言葉に自分の肩が震えた。


「そこにミオは一人でいるわけだが……」

「あの方は戦う手段も護る術も身に着けている。だが、マオリア王女殿下は違うだろう? それは、俺よりもお前の方がよく知っていると思うが?」

「……そうだな。感謝する」


 トルクスタン王子は雄也さんに頭を下げようとするが……。


「別にトルクまでお礼を言わなくても良いよ。私のことでしょう?」


 真央先輩が眉を顰める。


「現時点でお前とミオの庇護者は俺なんだ。だから、俺が礼を言うのが筋だろう?」

「私とミオは食事も、生活環境も、交通手段すらほぼユーヤと九十九くんにお世話してもらっているのだけど?」

「こいつらには俺が代価を支払っているんだよ」

「おや? そうなの?」


 真央先輩が雄也さんを見る。


「何度も断ったのだがな。『お前に借りは作りたくない』と、押し付けられた」


 雄也さんが苦笑する。


「だから、俺はマオとミオの庇護者であることは間違いない」

「それって、庇護者というよりも、出資者(スポンサー)でしょう? いや、資金提供者(パトロン)? 金だけ出せば従うって? 私もミオも、貴方がお好きな『ゆめ』ではないんだよ?」


 どこかめんどくさそうに言っているが、真央先輩が纏っている体内魔気に少しだけ変化があった。


 それに、顔はそうでもないけれど、真央先輩の耳が紅い。

 わたしが気付くほどなのだから、多分、九十九や雄也さんも気付いているだろう。


 気付かないのは、トルクスタン王子ばかりなり。


「マオ~」


 どこか情けないお声を上げる機械国家の王子殿下。


「まあ、金も出せない私が言うのも変だね」


 その姿を見て、真央先輩も何か思うところがあったのか、肩を竦めて溜息を吐いた。


「トルクスタン=スラフ=カルセオラリア殿下。貴方のお心遣いを有難く存じます」


 そう言いながら、両腕を胸の前で交差し、それぞれの二の腕に手のひらを当てて深々と礼をした。


 アリッサムの最敬礼……だったはずだ。

 そして……、この人はやはり水尾先輩の双子の姉だとも思った。


 いつもは全く違うのに、こんな風に切り替えた時、具体的には「王女殿下」モードとなった時の雰囲気は凄くよく似ている。


「ユーヤも、九十九くんも、そして、勿論、高田にも感謝してるよ。トルクは金を出しただけで、実際は、私たちの世話を焼いてくれるのは貴方たちだからね」


 そう言って、真央先輩はわたしの方を向く。


「特に高田。ずっと言ってなかったけど、ミオを助けてくれてありがとう」

「わたしは何もしてませんよ」


 真央先輩に頭を下げられ、慌ててしまった。


 実際、水尾先輩を助けたのは九十九だし、それ以降の生活の補助だってわたしは何もしていないのだ。


「いや、高田がいなければ、そこの2人は絶対、動いてくれなかったから」


 そうかな?

 雄也さんも九十九も基本は悪い人ではない。


 だから、わたしがいなくても、知っている人間を完全に見捨てるとは思えなかった。


 確かにここまで手厚い保護はしなかったかもしれないけど、ある程度、生きていける算段を整えてくれたのではないだろうか?


「つべこべ言わず、素直に先輩からの感謝を受け取りなさい、後輩」


 だが、笑いながらそう言われてしまえば、従うしかない。


「分かりました、先輩」


 わたしもそう答える。


 先輩、後輩の関係を出されては仕方ないよね?


「ところで、先ほどからずっと気になっていたことを聞いても良いか?」


 微妙に場の雰囲気を読まないトルクスタン王子はわたしを見ながら……。


「リヒトたちだけじゃなく、ツクモとシオリもようやく、ヤったんだよな?」


 そんな爆弾発言を投下してくれたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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