コレハダンジテセクハラデハナイ
サブタイトルから分かるように今回の話もかなりどうかと思われる内容です。
思春期も終わりかかった女性の率直すぎる言葉はやはり酷い。
そして、それに振り回される男性が気の毒でなりません。
苦手な方はもう少し飛ばしてください。
「まさか……、あんなに痛いとは思わなかったんだよ」
栞が分かりやすく泣き言を口にする。
「そんなにか」
「うん。直後に治癒効果が働くから、何とか耐えれたけど……」
「治癒効果……」
それを聞いてあることに思い至る。
その「治癒魔法」はオレが付加したものだった。
つまり、その場所に……、オレの魔法が……?
「うん。ちゃんと痛い所に働いたよ。確認したよ」
「お前、まさか、そのために?」
確かに自己治癒能力が低下している女たちに対して、どれほどの効果があったのかは分からない。
その場所を見ているわけではないし、相手からも何の反応もなかったのだから。
それに、もともと目的はそこの治療が主体ではなかった。
だが……、主人がそれを気にしていたら?
「まさか。結果的に体感する羽目になっただけだよ」
栞は苦笑する。
「そう……か……」
でも、どうだろう?
いろいろ気にする女だ。
自分が身体を張ることで何らかの成果を得ようとしていてもおかしくはない。
「でも、九十九は凄い」
栞はオレに身体を預けながら、顔だけを向ける。
自分が心底惚れている女にこんなことをされれば、ほとんどの童貞男は舞い上がることだろう。
そんな本来ならば、喜ばしい状況だと言うのに、何故だろうか?
長年の勘……、みたいなものが、オレに警告を放っている。
―――― これは罠だ、と
「……その言葉に嫌な予感しかしないのは何故だ?」
オレは警告の意味でもそう言ったのだが……。
「よく見なくて、できたもんだね」
警戒している心すら、容赦なく抉りにきやがった。
「どこをどう聞いても、褒められた気がしない」
だが、皮肉でもなく、本気でそう言っているのが分かるから、タチが悪すぎる。
「いやいや、本当に凄いって。わたし、見てもできなかったから」
申し訳ないことだが、2,3人は何度も失敗している。
だが、何度もすれば、嫌でも大体の位置を覚えてしまった。
それに自分にとっては嫌な作業だったから、とっとと終わらせたくて、効率的にこなせるようにもなる。
それだけのことだ。
「この会話、続けなきゃダメか?」
「へ?」
「ホントにもう思い出したくないんだよ」
「そ、そうだね」
そもそも、好きな女としたい系統の会話ではない。
それも他の女に対して行ったことだ。
何よりオレにとっては、あれらの行動は、自分が栞に対して持っている全ての感情に対する裏切り行為としか思えなかった。
昔を知る幼馴染に、ずっと近くにいる友人に、誰よりも護るべき主人に、そして、何よりも大切にしたい想い人に対して。
だから、今後のために必要なことだったとは言っても、これほど褒められても嬉しくない話はそうないだろう。
「分かった。この件で九十九を褒めるのはもう止めよう」
それでも、この主人はオレのことを本気で穢れていないと信じきっている。
手袋越しとはいえ、他の女に触れた手だと知られてしまったのに、このまま触れても、栞は本当にオレのことを嫌わないのだろうか?
最近のオレは、いつかこの手が、再び彼女を穢そうとするのではないかと心配しているのに。
「でも、わたしの話をもう少しだけ聞いてくれる?」
その言葉に、何故か、とてつもなく嫌な予感がした。
なんだ?
この悪寒は……。
「また嫌な予感がするけど、どんな話だ?」
「本当に痛かったんだよ」
「……そうか」
そんなに念を押したくなるほどだったのか。
だが、この女の真の恐ろしさはこの先にあった。
「そして、異物感が酷い」
「――っ!?」
一瞬、思考が完全に白に……、いや、桜色に染め上げられた。
「毎回、お前はもっとオレの性別を考えろおおおおおおおっ!!」
良からぬことを考えたオレ自身を吹っ飛ばしたくなるほどの強烈な台詞をさらに跳ね除けるために、オレは至近距離で大声を上げた。
栞が肩を竦め、自分の耳を押さえるのが見えた。
「悪い。でも、お前はもっと悪い」
それだけは確かだ。
オレだけが悪いとは思わない。
「そんなに悪いことを言った?」
「おお。異物感とか言うな」
いろいろ想像しちまうだろ?
その辺りは流石に、察しろよ。
「でも、本当に酷いんだよ」
まだいうか、この女は。
「そんなに嫌なら、とっとと、引っこ抜け!!」
「引っこ抜けって……。「止血栓」を外してもその感覚が残っているから困っているんじゃないか」
そうなのか。
そういうものなのか。
だが、それは……、それは……?
もう、何が正しくて、何が間違っているかも分からなくなってきた。
ただ、オレがいろいろなものと戦っていることだけは理解でき、思わず、栞の肩に顔を載せた。
この女は、どれだけオレを刺激しているのか、分かってんのか?
「そんな話を男のオレにするな」
「でも、男女に関係なく、こんな話は九十九以外にできないよ?」
「~~~~~~っ!! 」
身体のあちこちに血流が流れ込んだ気がした。
一番、流れ込んだ場所はともかく、熱を持ち過ぎた顔は、今、本当に見せられない。
それを誤魔化すかのように、栞の肩にさらに顔を押し付け、少しだけ身体を離す。
どうしたら、この女はオレを刺激しなくなるんだ?
誘われていると解釈して、行動するか?
いや、落ち着け。
早まるな、自分。
栞は、本当に他意がないのだ。
分からないことを確認したい、ただそれだけの感情で、オレに話している。
つまり、ここでオレがある程度、納得できる答えを出さなければ、最悪、兄貴に話が行くだろう。
同じ女性である水尾さんでは駄目だ。
あの人は栞以上に無知だった。
兄貴は無駄にこういった方面の知識もある。
そして、こういった話を他の男にされるのは、どうしても我慢できなかった。
オレが、乗り切れば……。
無になるんだ。
余計なことを考えない。
栞の悩みに答えるだけだ。
無になるだけで良い。
「コレハダンジテセクハラデハナイ」
「へ?」
オレの無機質な言葉に、栞は不思議そうな声を上げる。
「恐らくお前の使い方が悪い」
「ふ?」
見ていないのだから、想像しかない。
でも、恐らくはそういうことなのだと思う。
「『止血栓』の挿入が浅めだったんだろう。もう少し奥に押し込めば、感覚がなくなる位置に入るはずだ」
兄貴がそんなことを言っていた。
だから、余計にきつかったんだよ!!
眠っている女たち相手に、「止血栓」をできるだけ奥に差し込めとか鬼か!!
いや、兄はもともと当人たち自身の手で使わせるつもりでそう言っていたのだし、眠っている女たちに使うことを判断したのはオレ自身だ。
それだけ、女たちに正常な判断力はなく、目的のために治癒効果を発揮させるのは、早い方が良かった。
「無理!!」
オレの言葉に栞は叫んだ。
耳がキーンとなったが、オレは両腕を使っているために耳を塞げない。
栞の身体を支える方が重要なのだ。
「耳元で叫ぶな」
「ごめん。でも、無理だよ」
栞が気弱な声を出す。
「あの場所だってやっとだったんだ。それをもっと奥までなんて……」
そこまで言って……。
「なんで、九十九がそんなことまで知っているの!?」
その事実に気付かれてしまった。
「言っておくが、『止血栓』について、オレに使い方の指導をしたのは兄貴だからな」
嘘は言っていない。
「止血栓」の作成も、使用方法も、その使用時の注意点まで、兄貴は事細かに指示を出したのだ。
本当に何を想定していたのか?
我が兄ながら、本当に底と得体が知れん。
「なるほど!」
そして、栞のその反応もどうなのか?
「なるほど?」
だが、流石に自分でもどうかと思ったらしい。
栞が首を傾げた。
「その辺は兄貴に聞け」
「そ、そうだよね?」
なんとも言えない返答。
そして奇妙な沈黙の後。
「まあ、いろいろ勉強にはなったよ」
そう言う栞に……。
「……そうか」
オレはそう返すしかできなかった。
ここで何の勉強になったのかと聞いてはいけない。
更なる無邪気な刺激が待っている気がするから。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




