これだけは主張したい
今回の話もかなりどうかと思われる内容です。
思春期も終わりかかった女性の率直すぎる言葉が酷い。
苦手な方は飛ばしてください。
「大丈夫か?」
わたしの顔を見るなり、九十九は心配そうに声をかけてくれた。
だから……。
「痛かったあ……」
何の捻りもないそんな感想しか出てこなかった。
よろよろと甘えるように九十九にもたれかかると、彼はちゃんと受け止めてくれる。
そのことが妙に安心できた。
「だから、言ったじゃねえか……」
耳元に響く低い声。
「うん」
確かに、九十九は何度もやめさせようとしてくれた。
その忠告を無視して、強行したのはわたし自身だ。
これは、その罰なのかもしれない。
「まさか、あんなに痛いとは思わなかったんだよ」
ただ、ちゃんとやりたかっただけだ。
その処置がどれだけ大変だったのかを知りたかった。
わたしは、いろいろと何も知らないのだから。
「そんなにか」
「うん。直後に治癒効果が働くから、何とか耐えられたのだけど……」
それでも、変な所に当たった直後は痛かったのだ。
そして、すぐに癒されるわたしの身体。
有能な護衛は、扱う道具までも有能だった。
「治癒効果……」
「うん。ちゃんと痛い所に働いたよ。確認したよ」
「お前、まさか、そのために?」
「まさか。結果的に体感する羽目になっただけだよ」
そこは無駄にかっこつけたくない。
確かに自己治癒能力が低下していた女性たちにどれだけの効果が働いたかは分からないけれど、少なくとも、わたしの激痛を治してくれる程度の治癒効果は感じた。
いつもの治癒魔法と違って、当人がいないのにその部分から、九十九の気配を感じたのはなんとも複雑な気分ではあったのだけど。
「そう、か……」
そう答えてくれる九十九もどこか微妙な返事だった。
「でも、九十九は凄い」
顔を上げると、九十九の顔が目に入る。
「その言葉に嫌な予感しかしないのは何故だ?」
「よく見なくて、できたもんだね」
「どこをどう聞いても、褒められた気がしない」
「いやいや、本当に凄いって。わたし、見てもできなかったから」
視界を覆っているというのに、大体の場所に狙いを定めて……って相当凄い技術だと思う。
「この会話、続けなきゃダメか?」
「へ?」
「ホントにもう思い出したくないんだよ」
「そ、そうだね」
でも、その気持ちは分かる。
自分自身のでも、あれだけ嫌な感覚だったのだ。
それを他者にするとなれば、相当な負担だったことだろう。
そして、彼の場合、処置する相手の数も多かったから、感覚的に麻痺して機械作業になっていたかもしれない。
一人一人に心を砕いていたら、とてもじゃないけど、できる気がしない。
だけど、それでも誇張なく異性のデリケートな場所である。
しかも、見知らぬ他人相手となれば、確かにかなり嫌だってことは分かった。
「分かった。この件で九十九を褒めるのはもう止めよう」
本当はもっと絶賛したい。
九十九は凄いって。
でも、それを彼は望まない。
寧ろ、この件に関しては単純に相手のための治療行為と割り切ることができず、罪悪感すら覚えているようだ。
それなら、わたしは触れない方が良いだろう。
わたしとしては、今回、九十九が凄すぎることが分かったのだ。
それだけで十分だった。
「でも、わたしの話をもう少しだけ聞いてくれる?」
だが、これだけは言いたい。
いや、主張したい。
「……また嫌な予感がするけど、どんな話だ?」
「本当に痛かったんだよ」
「…………そうか」
「そして、異物感が酷い」
「――っ!? 毎回、お前はもっとオレの性別を考えろおおおおおおおっ!!」
そう叫ばれてしまったので耳を押さえる。
耳に近いこの距離で、叫ばれるのは確かに辛いかも。
九十九が何度か「うるさい」と言ったのはよく分かった。
「悪い。でも、お前はもっと悪い」
「そんなに悪いことを言った?」
「おお」
しかも、性別ってどういうこと?
「異物感とか言うな」
「でも、本当に酷いんだよ」
ずっと何かがそこにあるような感覚がするのだ。
こればかりは、体感したものにしか分からないだろう。
「そんなに嫌なら、とっとと、引っこ抜け!!」
割ととんでもないことを言われている気もするけど……。
「引っこ抜けって……。「止血栓」を外してもその感覚が残っているから困っているんじゃないか」
「…………」
九十九が黙って、わたしの肩にずっしりと顔を載せた。
あれ?
なんか、少し前にもこんなことがなかったっけ?
「そんな話を男のオレにするな」
「でも……、男女に関係なく、こんな話は九十九以外にできないよ?」
「~~~~~~っ!!」
肩に更なる負荷がかけられた。
何らかの抗議をされている気がするが、九十九の言葉が言語化されていないので分からない。
日本語とまでは言わないけれど、せめて、人の言葉を話して欲しい。
でも、まさか、必要ないのに「止血栓」を試してみて、痛みとか異物感が酷いって話は、普通、誰にでもできるものじゃないよね?
そんな経緯と事情を知っているからこそ、九十九に聞いてもらいたかったのだ。
「コレハダンジテセクハラデハナイ」
「へ?」
どこか機械的な口調。
そして、やはり、少し前にどこかで聞いたような台詞でもあった。
「恐らくお前の使い方が悪い」
「ふ?」
「『止血栓』の挿入が浅めだったんだろう。もう少し奥に押し込めば、感覚がなくなる位置に入るはずだ」
「…………」
な、なんですと!?
でも……。
「無理!!」
わたしは思わずそう叫んだ。
「耳元で叫ぶな」
「ごめん。でも、無理だよ。あの場所だってやっとだったんだ。それをもっと奥までなんて……」
そこまで言って……。
「なんで、九十九がそんなことまで知っているの!?」
今更ではあるが、そんな当然のことに気付く。
いや、だって、本来は、女性向け商品ですよね?
男性に必要のないものですよね?
いくら何でもいろいろ詳しすぎるんじゃないでしょうか?
「言っておくが、『止血栓』について、オレに使い方の指導をしたのは兄貴だからな」
「なるほど! ……なるほど?」
確かに雄也さんなら知っていても……?
いや、それでも、そこまで知っているのはどうなの?
どう転んでも殿方には必要のない道具だよね?
「その辺は兄貴に聞け」
「そ、そうだよね?」
そう答えたものの、聞けるはずないじゃないか~っ!!
それでなくても、今回、自分でアホなことをやっている自覚はある。
だからこそ、これまでの経緯とわたしの言い分まで知っている九十九にしか話せないのに。
さらに雄也さんに話せと?
医療行為っていうか、人体の仕組みだからさらりと聞けば、笑顔で答えてくれそうな気はするけど、会話の切り口的に無理だと思う。
それに、本当に感覚がなくなる場所があるの?
いくらなんでもそれはちょっと考えられない。
自分でやってみて入り口だけでもあんなに痛かったし、後々まで残る異物感が酷かったのだ。
あの感覚が簡単に消えるとは思えないし、それ以上奥に押し込むっていうのは単純に怖い行為だ。
あと、経験ないけど、さらに奥って気持ち良くなる場所なんじゃないっけ?
でも、それをそのまま口にするのは流石に憚られた。
それを口にすると、これまでのように医療的な話ではなく、完全に性的な話になってしまうことは、そういった方向性に不勉強なわたしでも理解できる。
これまでだって、セーフだと思っていても、散々、九十九に「性別を考えろ!! 」って怒られているのだ。
自分でアウトと思うようなことまで口にする気はない。
それにそういった話をして、九十九がノリノリで答えてくれても複雑だ。
うん。
触らぬ神に祟りなしともいう。
これ以上は止めておこう。
「まあ、いろいろ勉強にはなったよ」
「……そうか」
この「止血栓」のこともそうだけど、それ以外の意味でも勉強できたと思う。
挑戦や経験はやはり大事だ。
あとは、この今も入っているような感覚が少しでも早く抜けることを祈るだけである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




