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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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男性に聞かせられない言葉

今回も女性の生理的な現象に基づくような話があります。


苦手な方はご注意ください。

「嫌じゃないのか?」


 わたしが彼を抱き締めると、そんな言葉が紡がれる。


 嫌?

 ああ、治療行為の手段とかそういう話……かな?


 どうだろう?

 そんな状況を見たことがないため、想像力が働かないのかもしれない。


「ん~? 確かにこう、モヤモヤっとするというか、なんとなく複雑ではあるんだけど、治療目的、医療行為って考えるとある程度、状況的に仕方ないんじゃないかな?」


 九十九の方に邪な気持ちはないのだ。


 えっちな男性なら、役得だと思って必要以上に見たり触ったりしてしまうだろうし、それ以上のこともしちゃってもおかしくないと思う。


 やっちゃいけないことだけど、水尾先輩を部屋から追い出してしまえば、それを止める人もいないのだから。


「確かに、本来なら、専門医に見せる方が確実だとは思うよ。そうすれば九十九も嫌な思いをしなくてすんだだろうし」


 九十九はずっと不快感を露わにしていた。


 わたしに話すことを躊躇うぐらいに。

 それぐらい、彼にとっては許せない行為ではあったのだろう。


 まあ、受け取り方によっては確かに「傷口に塩」と言えなくもない。


 男性から酷い目に遭った女性たちが、別の男性によって、新たに羞恥に晒されることになるのだから。


 でも、実際は違う。


 相手を眠らせて、不快感や羞恥心を抱かせないように精神的に気遣った上、自分も相手に対して恥辱を与えるような行動をしない。


 それは、つまり、「麻酔をした上に、傷口へ薬の塗布」というごく普通の行動である。


「でも、この世界でそういった医者って多分、難しいよね?」

「基本的に治癒魔法があるからな」


 そもそも専門医どころか、医者と言う存在がいない世界だ。


「さらに、場所が消えたはずのアリッサム城で、しかも、簡単に動かせないような状況にある女性たちばかりだったわけでしょう?」


 水尾先輩や真央先輩にとっては大事な場所だ。


 だから、他の人間たちが無遠慮に踏み込む前に、なんとかしたいとは思う。


「寧ろ、きっちり治癒魔法以外の治療行為までしようと思った九十九が凄いと尊敬すらする」


 心から尊敬する。

 わたしの護衛は本当にどこまでもかっこいい。


「治療行為については、兄貴の案だ」

「おおう。流石だ」


 もう一人の護衛も暗躍していたらしい。


 そして、妙に納得もできた。


 確かにこれらの方法なら、女性に不慣れな九十九でも、選びやすい手段ではある。


 治療行為と割り切って、薬を入れるだけだというのにここまで、罪悪感でいっぱいになるのだ。


 さらに、その部分に触れて直接治癒魔法を施すなんて、いくら治癒魔法が得意な九十九だって、難しいかもしれない。


「でも、頑張ったのは九十九だよね?」

「あれを、お前は頑張りと言うのか?」


 逆に頑張りと言わずになんと言うのか?


「わたしは医療の勉強もしていないし、薬についても全く分からない。治癒魔法すら吹っ飛ばし攻撃と言われるぐらいだからね」


 ちゃんとした治癒魔法を使える九十九は本当に凄いし……。


「だから、はっきりと言ってあげよう。わたしは九十九を心から尊敬するよ」


 逃げても誰も文句を言わないような状況で、それでも逃げなかった九十九は本当に自慢できる存在だ。


「オレを甘やかすな」

「別に甘やかしているつもりはないんだけど」


 だけど、九十九はそんなことを言う。


「寧ろ、九十九や雄也さん……、は自分に厳しすぎると思っている」


 もうちょっと肩の力を抜いて、楽にしてくれても良いのに。


 どれだけ心身ともに磨きぬく努力を続けるのか?


 そして、そんな護衛たちが傍にいるのだから、わたしも主人として無様なことは許されないよね?


「しかし、その場所は治癒魔法とは別に治療が必要なほど酷い状態にされているってことなんだね」


 改めてそのことに気付くとゾッとする。


「直接、見てないけど、恐らくは……」


 九十九は戸惑いがちに答えてくれる。


「身体の表面上の傷だけ見ても、あそこにいた女たちはかなり酷い扱いを受けている。その場所や付近の炎症や裂傷は少なからずあったと思う」


 さらに淡々とそう続ける九十九。


「そう……か……」


 炎症はなんとなく分かるけど、裂傷……。

 そこの部分が裂けるって、かなり痛そうだ。


 もしかしたら、口の両端を思いっきり引っ張られる以上の痛みかもしれない。

 アレだって暫くは痛んだのだから。


「性病とかも気になるからな」

「性病……。そっか、そういうことをするってことは、そんな心配もあるんだ」


 治癒の話ばかりしていたから、怪我のことしか頭になかった。


 でも、人間界ではそういった行為がもとで、性病が次々に感染してしまうという話は聞いたことがある。


 この世界だって、それは同じなのだ。


 しかも、病気に対しては、薬などの治療行為もできない。

 いろいろ最悪だ。


「だから、できるだけ状態が酷いと思われる位置の傷を塞ぎ、その上で炎症を抑えるだけでもある程度、身体の自浄作用が働いて抵抗力は上がるだろうとは思う」

「それって、そこに傷や炎症がなければ、過剰な治癒を施すことにならない?」


 治癒魔法が苦手な人は、治癒魔法を使う時に相手の自己治癒能力を促進させ過ぎて、体組織を破壊してしまうと聞いている。


 それと同じようになってしまわないだろうか?


「治癒魔法でも普通は、過剰に魔力を流し込まなければ部分破壊はしない。それに、今回使ったのは魔石の粉末を塗したものに対して治癒魔法を付加しているだけだ。だから、治癒する対象がなければ反応はない」


 なるほど。

 治癒魔法をやり過ぎて、相手を壊してしまう恐れはないらしい。


「魔石の粉末に治癒魔法の付加……。そんなこともできるんだね」


 そう言えば、カルセオラリア城下で水尾先輩が錬石に魔力を付加しようとして……、何度か粉砕してしまったことがあった。


 その時にできた粉を九十九や雄也さんがこっそり回収していたことを覚えている。


 魔石の粉と言うのも、あんな感じで作られたのだろうか?


「因みに、どんなもの?」

「は?」

「その治療効果のある魔石を使った……薬かな?」


 わたしがそう言うと、何故か九十九の身体が硬直した。


 先ほどまでよりしっかりと抱き付いているので、その変化は分かりやすいほどに分かり過ぎてしまう。


「それを知って、どうする気だ?」

「ん~? 単純にどんなものか興味がある。薬なの? 道具なの?」


 漠然と薬だと思っていたけど、魔石の粉を使ったのなら、道具の可能性も出てきた。



 人間界でも、鉱物を砕いたり溶かしたりして服用する薬はあったけど。


「薬とは違うから、一応、道具になるのか?」

「わたしでも使えそう?」

「使える」


 断言、いや、即答された。


「確か、人間界でも『止血栓』と呼ばれて使用されていたはずだ」

「ぬ? 止血……、栓?」


 あれ?

 その言葉に聞き覚えがある。


 なんとなく、そして、人間界で見た脱脂綿状の何かを思い出した。


「違ったら、ごめん」


 これが違ったらかなり恥ずかしいので、一応の断りを入れておく。


 いや、これまでの話題とかを総合すると行きつくと言うか……、何と言うか?


「それって、もしかして、その、女性が使うような、その、生理用品のことじゃない?」

「そうとも言う」

「なるほど。確かにそれは殿方の口から説明しにくいのも理解した」


 九十九は医薬品とかには強いけど、流石にその辺は詳しくなさそうだ。

 いや、詳しくても困る。


 でも、この世界にもそういった生理用品があったのか。


 生理用品は、セントポーリア城下にいた時に、母から渡されたけど、その時は人間界で馴染みのあるタイプの、俗に言うお座布団だった。


 水尾先輩と購入するのも同じようなものだ。


 だから、この世界にはそれしかないと思い込んでいたが、そうではなかったらしい。


「アレに魔石の粉を塗布……。合理的と言えば、合理的?」


 ……なのかなあ?

 まあ、魔石を直接入れるよりはマシだろう。


 止血栓という名前から、素材は脱脂綿に似たようなものでできているだろうから、柔らかそうではある。


「実際、そのもの自体は、人体に害はないことは証明されているわけで……。長時間、入れっぱなしにしてなければ……」


 その部分は問題なさそうだ。

 あまり長時間の使用は良くないと聞いたことがある。


「この世界でアプリケータータイプは難しそうだから、フィンガータイプか」


 基本的に医学が発達していないこの世界。


 筒状のものに入ったアプリケータータイプなら挿入しやすいとは聞いているけど、多分、脱脂綿を入れやすい形状にした指で入れるフィンガータイプぐらいしか作ってくれないだろう。


 自然な生理現象のためとはいえ、そういった細やかさはなさそうだから。


「栞」

「ほあっ!? な、何?」


 考えている内容が内容だっただけに、いきなり九十九から声をかけられたので飛びあがりそうになった。


「お前、先ほどから何を言っているか分かっているか?」

「へ? ど、どう言うこと?」

「お前、自分が今、声に出していたことに気付いていたか?」

「声……?」

「言葉を変えよう。女のお前は、男のオレの前で、余計なことを口にしていた自覚はあるか?」

「余計……? ……って」


 そこで先ほどまで自分が考えていたことを思い出す。


「はうわっ!?」


 アレらの思考がもし、口から駄々洩れていたとしたら?


「こ、声に出てた!?」

「おお」

「ちょっ……、マジですか?」


 信じられない。

 わたしはなんてことを口にしていたんだ?


 穴があったら入りたい。

 でも、穴がないから顔だけ隠す。


「マジだから、オレの方が驚いたわけだが?」

「うそぉ……」


 つまり、わたしは、普通、男性に聞かせられないような言葉を延々と呟いていたということになる。


「オレはお前に嘘は吐かないな」

「うん、知ってるけど……」


 九十九は嘘を吐かない。


「うわあああ」


 それを知っているから、余計に落ち込んでしまうのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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