表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1541/2805

動けるはずがない

 こんな状況はもう何度目になるだろうか?


 目を覚ましたら、床の上だった。


 それは良い。

 倒れる時に身体を打ち付けたのか、少しだけ背中や肩が痛んでいる。


 だが、頭や首は大丈夫のようだ。

 だから、これも問題ない。


 それらは問題なかったのだが、オレは何故か、眠っている栞を抱え込んでいたのだ。


 これは凄く良くない。

 大問題だ。


 だが、動けない。

 動けるはずがなかった。


 下手に動くと起こしてしまう。

 せっかく、栞が寝てくれているのだ。


 起こさずにこの状況をなんとかしたい。


 そのまま、すぐ近くの寝台に移動魔法を使って移動した。


 いや、これも良くない。

 寧ろ、状況は悪化した。


 好きな女を身体に載せたまま、寝台に寝そべるなど、男としては喜ばしいことだが、護衛としては良くない。


 毎回思うが、オレが一番、危険人物だ!!


 だが、栞を起こすと言う選択肢はない。

 そうなると、オレだけがこの場から離れるのが一番なのだが、それはしたくなかった。


 分かってるよ。


 でも、落ち着くんだよ!!


 ずっとオレの中にあったモヤモヤが晴れていくんだよ。


 すっげ~、癒されるんだよ!!


 いつからこんな状態なのかは分からないが、どうせなら自分の意識がある時にも堪能したいじゃねえか!!


 だが、どうしてこんな状況なんだ?

 そう言えば、魔法対決をした気がする。


 今回は同時に眠ったらしい。

 引き分けってことか。


 しかし、「誘眠魔法(Sleep)」の効き目がかなり悪くなったな。


 元から警戒心が強い女だ。

 眠らされる気配がしている状況で、対策を講じないはずがないとは思っていた。


 だから、不意を突くことにした。

 いや、正直に言おう。


 不意を突くと言う名目で、少しばかり邪な気分になったのだ。


 今なら、大丈夫だと思って。


 その行動を咎められても、「お前を眠らせるためだ」と言えば、根が素直な栞は納得してくれることだろう。


 そして、額にキスぐらいなら許されるとも思っている。

 これまでに、それ以上のこともやってるし、まあ、やらかしてもいるのだ。


 抱き締められることにも慣れてきたようだから、オレに対してかなり気を許してくれているとは思っている。


 男としてはどうかという話だが。


 それにしても温かい。

 そして、柔らかい。

 良い匂いもする。


 栞が聞いたら怒るかもしれないけれど、この重さが心地よい。


 この素晴らしい状況に、ムクリと起き上がろうとする男心(邪心)は勿論ある。

 オレも健康的な男なのだ。


 そして、それなりに我慢もしているのだと思う。

 もっと栞に触れたいという気持ちは強いのだから。


 だから、頭や頬を撫でることで我慢した。


 当然ながら、それ以外にも触れたいし、それ以上のこともしたいけれど、彼女の目が覚めた時に言い逃れができなくなるのは困る。


 だけど、そんな自分の感情以上に、栞にはもっと休んで欲しいと願う気持ちの方がずっと強い。


 これは理性から来ているものなのか、それ以外の感情なのかもよく分からない。

 いや、考える必要もないのか。


 オレは栞が第一なのだ。

 だから、彼女を大切にしたいだけだ。


 そして、自分を大事にして欲しいだけだ。

 目を離すと、すぐに無理や無茶をしてしまう主人だから。


 兄貴からの報告によると、そんな栞に対して、トルクスタン王子が自分の血縁を婚約者候補として、紹介したらしい。


 余計なことをするなとは言えない。


 栞は既に18歳なのだ。


 そろそろ本格的に嫁の貰い手を探さないと、売れ残るか、欠陥が多く問題ある男が相手になってしまう。


 それを避けたいとトルクスタン王子のように考える方が自然だろう。

 特に栞は魔力が強すぎる。


 それは一つ上の、水尾さんや真央さんにも言えることだが、あの2人には国の事情というものもあるのだ。


 それに対して、栞にはそんな枷がない。


 だから、このままでは勿体ないという王族的な思考もあるだろう。


 だが、そんなトルクスタン王子の考えに反して、栞は自身の結婚については、全く気にしていないと思っている。


 人間界の初婚年齢はもっと高い。

 いや、下手すると、栞自身は売れ残っても笑っている気さえする。


 女の幸せが結婚だけとは限らないと言われるようになった時代と、そんな国から来ているのだ。


 この世界の基準とは違う感覚を持っていても不思議ではない。


 オレとしてはどう考えるべきだろうか?


 栞には幸せになって欲しい。

 その気持ちに嘘偽りはないのだ。


 そして、栞が他の男に向けて笑っている姿を見ても我慢できるかと問われたら、できると答えられる。


 実際、()()()()()()()()()()()()()


 シオリと出会ってから15年。

 彼女を見続けた、もとい、見守り続けたのは伊達や酔狂ではない。


 あの紅い髪の男のことは言えない。

 この妄執は、自分でも少しばかり気持ちが悪いと思う。


 それでも、この居心地の良さを手放すことができるはずもない。


「ん……っ?」


 栞が身じろいだ。


 そろそろ起きるのか?


「ん~~~~~?」


 薄っすらと目を開く気配。


 頭に載せていた手を下ろすと、少しだけ身体を持ち上げ……。


「九十九……?」


 ぼんやりとした目のまま、オレを見る。


「目が覚めたか?」

「ん~~~?」


 そのまま、ごんっとオレの胸に頭を打ち付け、暫く停止した後……。


「ふぐ?」


 奇妙な声を発した。


 ……河豚?

 食いたいのか?


 だが、この場で似たような味の魚介類料理は難しいな。


「ほげええええええっ!?」


 さらに叫ばれた。


「うっせえ」

「あ……、ごめん」


 口から出る言葉に色気はなくとも、栞の声は高いのだ。


 流石にこの距離だと耳にくるものがある。


「ど、どうしてこうなってる?」

「相打ちだったからじゃないか?」


 どうやら、栞としてもこの展開は予想外だったらしい。


「相打ちって、ベッドの上で?」

「ああ、それはオレが運んだからな」

「ほあっ!?」


 流石に驚かれた。


 良かった。

 それぐらいの感覚は残っていてくれたらしい。


「床に寝たままってわけにはいかないだろう?」

「だ、だからって……、その、ベッドというのもどうかと思うのです」


 顔を真っ赤にしながら小動物染みた動きで、そんなことを言うが……。


「オレを寝具にする女が今更何を言う?」


 この一言で、栞が固まった。


 いや、ホントに今更だよな?


 だけど、寝起きのせいか、いつもよりも顔を真っ赤にさせている栞は貴重なので、至近距離で堪能します。


「と、とりあえず、降りる」


 そんなつれないことを言うものだから……。


「もう少し乗ってろ」


 そう言って、オレは両腕で栞の身体を押さえた。


「ひあああああああっ!?」

「うっせえ」


 柔らかさとか温かさとかをより知覚するより前に、いろいろ台無しにする気の抜けた高い声。


「嫌なのか?」

「い、嫌ってわけじゃないけど、この状態はあまりよろしくないと思うのです」


 そんなことは分かっている。

 この状態はオレもいろいろなものと戦う必要があるのだ。


 寝ている栞なら何も問題はなかった。

 だが、起きている栞は破壊力が違う。


 オレのアレやソレを刺激して、容赦なくいろいろなものと削り取ろうとしている。


 だが……。


「お前が嫌じゃないなら、少しだけ回復させろ」

「……回復?」


 こんな機会を逃すほどオレもお人好しで無欲な人間でもない。


 そして、栞が嫌がらないなら、何も問題はないのだ。

 本気で嫌なら全力で拒絶してくれることはもう知っている。


 分かりやすい理由や事情があれば、自分が許せる範囲のギリギリまでは我慢してくれることも。


「体内魔気の感応症。ただ近くにいるだけよりも、張り付いている方が、魔法力の回復が早いみたいだ」


 これは嘘ではない。

 前々からそんな気はしていたことではある。


 それは、兄貴からの報告書で確信できた。


 勿論、相性にもよるようだが、オレが栞の気配を居心地よく感じている。


 しかも、同じ風属性だ。

 相性が悪くはないことはもう経験から知っている。


 だが、そこまでしなければいけないほど魔法力を減らしてはいないだけだ。


 そして、今、それが必要なのは兄貴の方だろうが、オレはゴツゴツした野郎に張り付いてやるような趣味はなかった。


 まあ、珍しく海よりも深い眠りに落ちているようだから、直に回復することだろう。


「そ、そうなのか……」


 栞はそう呟くと観念したように、力を抜いて、そのままオレに身体を預けてきた。


 やべぇ……。

 これはこれで、かなり、クる。


「魔法力の回復のためなら、仕方ない……よね?」


 まるで何かに言い訳するかのような言葉。


 ここまでチョロくて甘いと、かなり心配になるが、オレとしては好都合だから余計なことは言わない。


「おお、我慢しろ」

「我慢……、かぁ」


 栞は少しだけ考えて、そのまま完全に力を抜いたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ