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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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【第86章― 世道人心 ―】都合の良い夢?

この話から86章です。

よろしくお願いいたします。

 わたしはぼんやりと目を覚ました。


「ん……っ」


 なんとなく、思考が定まらない。


 わたしはいつ、眠ったのだろう?

 それすらも覚えていなかった。


 周囲を見ると、すっかり明るくなっている。


 だけど、わたしは九十九のように、体内時計がしっかりしていないから、この状態で今の時間を判断することはできなかった。


「ん~~~~~~っ!!」


 目を覚ますために、身体を起こして、腕を伸ばしてみる。


 そして改めて周囲を見回した。


「あれ?」


 ここ数日過ごした建物内ではなかった。


 なんとなく見覚えのある場所ではあるのだ。


 でも、わたしが記憶している見覚えのある場所とは少しずつ何かが違う気がした。


 それは、間違い探しのような些細な違和感。


 具体的には寝台にある毛布の色とか、窓にあるカーテンの柄とかそんな細かな違い。

 いつものコンテナハウスのようで、ちょっとだけ違う。


 これは、一体?


 窓に近寄って、カーテンを捲り、外を少しだけ窺ってみる。

 隙間から、まばゆい光が差し込んできた。


「海……」


 水面が反射してキラキラしい。


 その見える角度的に、ここは二階のようだ。

 どうやら、わたしはコンテナハウスの二階で休んでいるらしい。


 いろいろと違うのは、いつものコンテナハウスと違うためだろう。


 いつもは九十九がコンテナハウスを出しているけれど、今回は雄也さんが出している。


 わたしは、薬の調合とかそれ以外の理由で、今回はほとんどこのコンテナハウスを利用していなかった。


 あの高温多湿すぎる温室にずっといたのだ。


 朝も昼も夜もずっとあの場所で過ごしていたため、睡眠時間はこれまでよりも短かったとは思う。


 今日は久しぶりに適度な環境でぐっすりと眠っていたらしい。


「あれ? でも……」


 いつ、寝たかを覚えていない。


 寝る前に恭哉兄ちゃんが来たと思ったけど、あれは、夢だっけ?


 そう思いながらも、寝台に腰掛けると……。


 ―――― コンコンコン


 それを見計らったようなタイミングで、扉を叩くリズミカルな音が聞こえてきた。


「はい」


 反射的に返答する。


 ガチャリと扉を開ける音がして……。


「やっぱり起きていたな? 気分はどうだ?」


 見慣れた黒髪の青年の姿が目に入り、聞き慣れた青年の声が耳に届いた。


「……へ?」


 突然のことで理解できない。


 何故、ここに彼がいるのか?

 戻ってくるには早すぎる気がするのに。


「まだ、ぼ~っとしているか?」


 黒髪の青年はわたしの傍に来て、いつものように目線を合わせて様子を窺ってくる。


 その慣れた仕草をぼんやりと見ていた。


 いや、これ、夢?

 わたしにとって都合の良い夢?


「本当に大丈夫か?」


 さらに顔を覗き込まれる。


「つかぬことをお伺いいたしますが……」

「なんで、オレに対して、敬語なんだよ?」


 心配そうな顔から、不機嫌そうな顔に変化する。


「いや、よくできた九十九の幻だなと」

「お前は本物と偽物のオレの区別も付かんのか?」


 黒髪の青年は大きく息を吐きながら、額を押さえた。


 いや、間違いなく本物だとは思っているんだ。

 ここまでよくできた幻って難しいだろう。


 姿形だけじゃなくて、わたしの言葉に対する反応や、漂う体内魔気(雰囲気)が完全に一致している。


 ここまでの再現は九十九のことを知り尽くした人でも難しいんじゃないかな?


 少しだけいつもと何かが違う気がするけど、それでも九十九だってことは、わたしの中で確信があった。


 だから、逆に夢かと思ったのだけど……。


「なんで九十九がここにいるの?」

「帰ってきたからに決まってるだろ?」


 帰ってきたのか。

 でも……。


「早くない?」


 わたしがどれぐらい眠っていたかは分からないけれど、多分、丸一日寝ていたわけではないだろう。


 前回に比べてかなり早すぎる気がした。


「オレも、もう少しいるつもりだったけどな。呼び戻されたから仕方ねえだろ」

「呼び戻された?」


 あれ? どうやって?


「通信珠が使えない距離……だよね?」

「通常、兄貴との連絡用に使っている通信珠では無理だな。お前に渡している物や、各国の城や各地の聖堂、大貴族の館に備え付けてあるものよりは感度が低いから」

「もしかして、アリッサム城に通信珠があった?」


 セントポーリア城で見た通信珠を思い出す。


 あれは、情報国家の国王陛下とも通信できたのだから、かなり遠くの人間とも通信できるものなのだろう。


 今にして思えば、普通の建物に備え付けられている通信珠よりはずっと大きく、そして、オレンジ色に光り輝いていた。


「いや。流石にそれはない。確かに、あの建物内で通信珠が置かれていたという部屋は見つけたが……。まあ、通信珠を設置したままってことはしないだろう。捕らえていた人間たちに外部との連絡を取る手段を少しでも与えるわけにはいかないからな」

「じゃあ、どうやって呼び戻されたの? まさか、雄也さん、九十九の夢の中に入った?」

「いくらあの兄貴でも、あれだけ距離があると、オレや水尾さんの夢の中には入ってこれないと思うぞ」


 九十九が苦笑する。


 どうやら、あの港町の元酒場の店主さんと連絡と取った時のようにはいかないらしい。


 あの港町も、ここから結構な距離だと思うのだけど、彼らの基準がよく分からない。


「伝書を使ったんだよ」

「伝書?」

「お前も千歳さんと手紙の遣り取りをしているだろ? アレのことだ」

「ああ、その手があったのか」


 この世界の手紙の出し方は変わっている。


 特殊な魔法紙……、手紙用の紙を専用の封筒に差出人と相手先を書いて入れた後、シールを張って、そこに魔力を込めると、一瞬で、その相手に届くようになっているのだ。


 勿論、人間界のように誰にでも気楽に送れるわけではない。


 まず、手紙用の紙も、専用の封筒も、何より、魔力を込めるためのシールが物凄く高価らしい。


 そして、その宛先となった相手がいる建物に通信系妨害の結界が張ってあれば、それに阻まれる。


 そのために、どんな建物でも外に、裏門などの出入り口に手紙専用の受け箱が備え付けてあり、専用の封筒の効果で、そこに収まるようになっているそうだ。


 さらにシールの効果で、宛先人以外に開封は不可能となっている。

 つまり、よく封書が届くような人気者ほど、その開封作業が大変らしい。


「届くかは賭けだったみたいだがな。オレが一度ぶち破った場所に兄貴の魔力を感じた気がしたから、そこに行ってみたら、『状袋(じょうぶくろ)』……、封筒が落ちていた」

「オレが、一度、何?」


 かなり非日常的な単語が聞こえた気がするのは気のせいか?


「最初に水尾さんを迎えに行った時、ぶち破った……、壁だな」

「城ですよね?」


 思わず敬語になってしまう。


「明らかに対策を取られている入り口や窓から侵入するよりは、壁の方が脆かったんだよ」


 九十九は常識人のようであって、実は、そうでもないことを実感する瞬間である。


 基本的に、彼ら兄弟はこんな感じだ。


 彼らからすればわたしの方が非常識なのかもしれないが、あえて言おう、他人の(いえ)の壁をぶち破って入り込むなと。


 水尾先輩もいろいろ複雑だっただろうね。


「だから、オレがいなくなった後の、大体のことは伝わっている」

「そっか……」


 まあ、前回と違って、九十九が不在だった期間は短い。


 だから、そこまで大きなこともなかったと思うけれど……。


「まさか、大神官猊下自らが、来るとは思っていなかったけどな」


 ああ、それがあったよ。

 わたしが九十九のいない間に薬を作ったことよりも、絶対、そちらの方が大事件だよね?


「それと、リヒトのことも戻ってから聞いた。法力を使える可能性が高いんだってな」


 うん、それもあったね。


「大神官さまが言うには、高位の神官並の法力を使えるかもしれないって」

「へえ……。大神官猊下の見立てなら、確率じゃなくて、もはや、確定って気がするな」


 九十九は感心したように息を吐く。


 そして……。


「でも、お前はリヒトを神官にさせたくないんだよな?」


 はっきりと、誰もが気付いていて避けたような問いかけを、わたしに向かって口にしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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