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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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ここからが本番

 全ての女たちを別の部屋へと移動させた。


 この場所に残された女たちの人数は少なくないが、この建物は城だったこともあり、部屋数だけは多い。


 だから、それぞれ個室ごとに分けることを提案したが、事情が分からない状況で、いきなり一人にされても困惑するだけだと九十九が却下した。


「それに、不安な時は誰かがいた方が安心するでしょう?」

「それなら二人ぐらいで分けるのは?」

「同じ部屋にいたために多少、グループごとに連帯感みたいなものが生まれている可能性はあります。もしくは、適当な組み合わせで相性の悪い者同士になると、別のトラブルに結び付きませんか?」


 どうだろう?

 同じ場所にいても、誰も自分を助けてくれなかったのだ。


 私が最初にこの場所に来た時だって、我が身可愛さに別の人間を蹴落として身の安全を確保しようとするような印象もあった。


 それよりは、一人の方が良い気がするのだが……。


 この感覚と感情は、私が女だからなのだろうか?


「後、単純に見張るなら、ある程度、纏まってくれていた方が楽なんですよね」

「それは確かにそうだな」


 管理する視点から考えれば、それも納得はできる。

 あちこちで自由に過ごされても困るのだ。


「だが、徒党を組まれたらどうするんだ?」


 中には、精霊族たちもいる。


「オレと水尾さんを同時に相手にできるような方々なら、こんな所にはいない気がしますよ」


 そう言われると納得するしかない。


 彼女たちが反乱できるならとっくにやっていたことだろう。

 でも、する気力もなかった。


 既に心が折られていたのだから。


 そして、自分は手伝うことしかできないのだ。

 そうなると、彼の指示に従うしかないだろう。


「胸糞悪い」


 最初に来た時も、今も、私の口から吐き出される言葉は同じだった。


 それ以外の感想が出てくるはずもない。


「その言葉はどうかと思いますよ」


 女装青年は困ったように笑う。


「こんな悪趣味の極みを見せつけられて、それ以外の言葉があると思うか?」


 しかも、少し間違えれば、自分の身にも降りかかったことでもあるのだ。

 改めて、身震いするしかない。


「他人の城で傍若無人な行為ができるような輩の趣味が良いはずもないでしょう」


 そう言いながら、九十九は何故か治癒魔法の気配が強い結界を張っている。


 この部屋には、少し前まで(けだもの)たちにボロボロにされてしまった女たちが倒れていた。


 だが、今は全て別の部屋へと移して休ませているために、私たち以外は誰もいない。


「何してんだ?」


 だから、誰もいなくなった部屋に彼が結界を張る理由は分からなかったのだ。


「これは、ちょっとした罠みたいなものですね」

「罠?」


 どこか不穏な響きがする言葉を口にする。


「このようにしておけば、それぞれの部屋にオレ以外の人間が立ち寄れば、すぐに感知ができるんですよ」


 そのためにわざわざ結界の形にしたらしい。


 それはちょっと無駄ではないだろうか?

 だが、どう見ても魔法力の無駄となるようなことを彼がするとは思えなかった。


「それは普通に感知魔法を使えば良いだけじゃないのか?」

「オレの場合、結界にしないと常時監視ができなくなるんです」


 確かに九十九の感知魔法や探知魔法は何度か見たが、常時監視型ではなく、使用時に少しの間だけ発動するタイプだ。


 つまり、ずっと監視をし続けることは難しいらしい。


「でも、そんな風に結界にしてしまうのは疲れないか?」


 結界という形にしてしまう以上、探知魔法とは違って、常に意識していなければいけないのだ。


 そんな状態では神経が疲弊してしまう気がする。


「確かに疲れますけれど、栞からの身体強化のおかげで多少の無理が可能となっています」


 どこか得意げに見える顔ではあるが、本来は、難しいらしい。


「でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だな」


 私がそう言うと、九十九が分かりやすく変な顔をした。


 あまり想像したくないのだろうか?


 だが、この部屋の惨状を見ていると、変な細菌とか病原菌とかがいっぱいいても、おかしくないと思う。


「さて、まずは、掃除するか?」


 とっとと、その細菌や病原菌たちを撃退したいからな。

 匂いだって酷いもんだ。


 私は気合を入れるために腕まくりをする。


「そうですね」


 そう言いながら、九十九は袋を取り出した。


 それもかなりでかいものを。


「それは……?」

「ゴミ袋ですよ。ここで出たゴミを残して去るわけにはいかないでしょう? 使った掃除道具を含めて全てこの袋に回収するつもりです」

「ゴミだけじゃなく……、掃除道具まで!?」


 何より、道具を使っての掃除というのがこの世界では珍しい気がした。


「どんな菌があるか分かりませんので、最終的にはこの袋ごと洗浄する予定です」


 そう言いながら、九十九はどこかで見覚えのある掃除道具を取り出していく。


 箒とかデッキブラシとか雑巾とか、バケツとか。


 それらを見て、なんとなく懐かしさを覚えるが……。


「そんな面倒なことをしないで、この場で『洗浄魔法』を使えば済む話じゃないのか?」


 そんな気の遠くなるような作業をするつもりだったことに驚いてしまう。


「でも、『洗浄魔法』を使って、うっかりこの城が浮いている仕掛けまで消してしまったら、困るでしょう?」

「そうだな」


 少し考えて、私は素直にそう答えた。


 この建物が何故浮いているのか、やはり、私には分からない。

 自分が暮らしていた時には、当然ながら一度もこの建物は浮いたことなどなかったのだから。


 つまり、この建物本来の機能ではないと思う。


 だが、何らかの手段を使って浮かされていることは間違いないだろう。

 そして、九十九は、建物内の床や壁になんらかの仕掛けがあると思っているようだ。


 この世界の掃除は基本的に「洗浄魔法」を使うことが多い。


 目に見えない埃まで綺麗に掃除できてしまう使い勝手のよい優れた魔法なのだ。


 女中を含めた使用人には必須の魔法とも言われている。


 だが、「洗浄魔法」を使った際に、建物に施されている魔法陣を消してしまったという話はたまに聞くことがある。


 だから、どこの国でもその城内にある「契約の間」と呼ばれている場所や、「転移門」の近くでは、「洗浄魔法」や「文字消去魔法」など、特殊な部屋に影響がありそうな魔法を使わず、機械国家の人間たちが定期的に保守点検をして維持管理しているらしい。


 尤も、トルクの話では、機械国家の技術は魔法でそんな簡単に消せるものではないらしいが、万一、ということもある。


 特に九十九が使う魔法は、「現代魔法」よりも「古代魔法」と呼ばれる特殊な魔法も含まれているのだ。


 用心しすぎるぐらいが丁度良いということだろう。

 そして、私の「洗浄魔法」はあまり室内向きの魔法ではない。


 ちょっとやり過ぎると言うか、何故か、水浸しになりやすいと言うか……。


 人間相手ならちゃんと調整できるのだが、これが、物になると難しいのだ。


「だが、全ての部屋をいちいち掃除するのか?」


 それはかなりめんどくさいと思う。


 この建物がどれくらいの広さなのか、外から見ていた九十九だって、ある程度は予想をしているだろうに。


「とりあえず、人の気配が残っている場所を重点的にやりたいところです。この建物内を全て掃除するなんて、オレには無理ですよ」


 そう言って、彼は笑った。


 確かに多数の人間によって清掃、管理されていた場所だ。

 しかも、魔法を使っての維持管理だった。


 たった二人だけで魔法にも頼らずに掃除をするなんて、何日かかるか分からない。


 私はそう納得した。

 だから、気付かなかったのだ。


 この時、何故、この青年が治癒魔法をベースとした結界を使ったその理由と、掃除で出たゴミだけでなく、使った道具ごと洗浄すると言ったのかなんて。


 彼ら兄弟の思惑を私が知ることになるのは、もう少しだけ先の話である。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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