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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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救わずに選ばせる

残酷描写が出てきます。

ご注意ください。

「私の記憶に間違いなければ、九十九はコツコツ頑張るって言ったよな?」

「言いましたね」

「じゃあ、どうしてこうなった?」

「そんな栞みたいなことを言わないでくださいよ」


 私の言葉に、女装姿の青年が笑って答えた。


 小奇麗な服に身を包み、化粧されて無駄に整っているその顔立ちが、今は妙に腹立たしく思える。


 私より高い背やがっしりとした体格、そして、その低い声の問題さえなければ、その佇まいは、どう見ても女にしか見えない。


 この護衛青年は、あの主人から離れると、兄に似て、本当に扱いにくく感じるのは私の気のせいではないだろう。


 兄弟揃って、主人の前で猫を被るのが本当に上手いヤツらだと感心するしかなかった。


「相手から、抵抗されることもなく、穏当な手段だったでしょう?」

「抵抗以前に眠らせたからな」

「水尾さんはお好きでしょう? 『導眠魔法』」

「別に好きじゃない」


 この建物に入り込んだ後、最初にしたことは何故か化粧だった。


 それは身繕いではなく、変装の意味合いの方が強いもので、状況を考えれば仕方がない話だと納得はした。


 だが、私たちが次にしたことは、この建物内にいた全ての()()()()()()()()ことだったのだ。


 女たちはある程度、部屋に纏めて入れられていたため、集団に有効な魔法は使いやすく、そして、効果的であることは認めよう。


 だが、相手を眠らせるなら、変装した意味が分からなくなると思うのは私だけだろうか?


 それぞれの部屋に入る前に隙間から、私が「導眠魔法」で眠らせた後、九十九がそれらを浮遊させてから、別の部屋へと移動させた。


 そして、その後に改めて治癒魔法などの対処をして、部屋に運び込んだ寝具に寝かせたのである。


 相手は怪我人が多い。


 だから、その扱いは雑だと感じる反面、物のように空中に浮遊させたために、一度に多くの人間を動かすことが可能となった。


 九十九の「浮遊魔法」は、あまり高く浮かせることはできないが、その数と重さはそれなりの量を運ぶことができるらしい。


 一度に複数人を運べるなら、運送も短時間で済むし、身体を変に圧迫することもないから、外見だけでなく、中身に損傷があってもそこまで大きく傷に響かないだろう。


 だが、人間を物扱いすることに抵抗がない辺り、この青年は本当に主人以外の人間には気を配らないんだなとも改めて思うしかない。


 前回、ここを発つ前に、あの時点でできる最低限の延命措置はやっていた。


 始めに向かった部屋が一番、酷かったことをよく覚えている。

 その部屋には、一刻の猶予もないような女が3人いた。


 その時の私でも分かってしまう体内魔気の気配から、その部屋を優先したのだ。


 だが、少し覗き見たぐらいでは中の様子が分からないぐらい真っ暗な部屋だった。


 そこにいたのは、死んではいないが、辛うじて生かされているだけの、もはや、死が秒読みとなっているといっても過言ではない女たちだったらしい。


 その時は、私がまだまともに魔法が使えなかった。


 だから、九十九が「誘眠魔法」を使ったのだ。


 そして、その部屋に入る前に中の様子を伺った彼が、何故かすぐさま私をその部屋から閉め出したことは、忘れられない。


 彼にしては、珍しいぐらい乱暴に扉を閉めたのだ。


 体内魔気の気配や、その状況から、部屋の中にいたのは女ばかりだということは分かっていた。


 だが、女たちの身体に衣服はなく全裸に近い状態で放置されていたらしい。


 そんな状況なら、本来は、同じ女である私が行くべきだったのだろう。


 それでも、扉を隔てた向こうから、部屋から閉め出した事情を説明する低い声が聞こえた時、情けないことに私はそれ以上、()()()()()()()()()()()のだ。


 少しその様子を確認しただけでも、分かるぐらい女たちは、その肉体の損傷を含めて、状況がかなり凄惨だったらしい。


 部屋にはあちこちに血溜まりや、狂乱の跡。

 そして、暗い部屋でも容赦なく鼻に突く腐臭。


 女たち自身も、血や様々な汚物がこびり付き、そのまま何の処置もなく放置されていた。


 さらに、生物の腐肉を好むような小さい魔獣や魔蟲が数体ほど一緒に放り込まれていたらしく、それらが()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうだ。


 それらは死体の始末の意味合いが強かっただろうが、一思いに食らい尽くせるはずの大きな魔獣や魔蟲を一緒にしていなかったことに、そこを管理している人間の性格の悪さが窺えると九十九が言っていた。


 逆に、少しでも命を繋ぐための時間を稼ぐためだったかもしれないが、生きたまま食らわれる恐怖を味わい続ければ、大概の人間の気は触れる。


 そして、それと分かるような状態を私には見せない方が良いと思ったらしい。


 そんな言葉を聞いて、それ以上、私が動けるはずもなく、何かできるはずもない。

 部屋の鍵はかけられなかったにも関わらず、その扉を開くような勇気は、私には持てなかった。


 寧ろ、その時はまだ、「魔封石(ディエカルド)」の影響下にあった私は、さらに状況を悪化させる可能性もあるので、部屋の外で素直に待つしかなかったのだ。


 そんな部屋だというのに、迷いもなく飛び込み、たった一人で奮闘することになった青年の力になることもできない自分の無力さを呪いながら。


 その部屋に入った九十九は、それらの魔獣、魔蟲の無力化と捕獲をした上で、女たちの洗浄と手当てをしたらしい。


 その際に、必要以上に見ないように、紳士らしく、目隠しをしていたようだ。


 幼い頃からの訓練によって、気配で大体のことは分かると言っていたが、その真実は分からない。


 でも、あの先輩のことだ。

 女主人を護ると分かっていたのだから、それぐらいのことを訓練させていても驚かない。


 だが、目隠しをしていたためにその細部の確認はできなかったとも聞いている。


 手足の指などの食いちぎられた場所については確認したらしいが、ある意味、()()()()()()()()()()()()()は流石に確認できなかったと言っていた。


 尤も、その辺りは私も女ではあっても専門家ではない。


 外へ運び出すことができるほど、その身体を癒すことができたなら、専門家に任せるしかないのだろう。


 あの時は、あの場で癒せるだけの治療を施した後、これ以上、損傷が酷くならないように、厳重な結界を張り、さらに九十九が持っていた睡眠導入剤を使って、世界の闇よりずっと深く眠らせた。


 そのためか、今回、来た時にもまだ彼女たちは眠っていたようだ。


 だが、自分たちに起きた出来事の全てを理解できるほどの精神状態にあるかどうかは分からない。


 その女たちは、小部屋の中で、九十九が張った治癒魔法を基にした結界に包まれたまま、眠らされている。


 九十九の治癒魔法は私が見た限りではあるが、その性能は良い方だと思う。


 だが、腐れ落ちた部位や、食いちぎられてしまった肉体を戻すことまでは、残念ながらできないらしい。


 高田によって身体強化をされてはいても、基本的な魔法の性質が変わるわけではないのだ。


 九十九の治癒魔法は、その相手の自己治癒能力を促進させる一般的な魔法だった。


 相手にその自己治癒能力が欠けていたり、衰えていたならば、その効果が最大限に発揮されることはない。


 だが、その命を繋ぐことはできる。


 だから、九十九は、ここに運んだ後も、何度か彼女たちに治癒魔法と、新たに持ってきた薬を使っていたようだ。


 勿論、そんな状態の女たちがなんとか命を拾うことができたとしても、そこに救いがあるかどうかは分からない。


 楽にしてくれと願う者もいるだろう。

 だが、それを選ぶのはその女たち自身だ。


 こちらはそこまでの面倒を見るつもりはない。


 中途半端に手を差し伸べておきながら、救わずに選択肢を与えることしかできないのは、かえって惨いだろうか?


 今の私には、それも分からなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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