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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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この島の管理について

「カルセオラリアを通して、ローダンセにこの島の現状を伝えた。その結論から言えば、この島の管理は、これまで通り、ウォルダンテ大陸の国家が管理する方向で話がまとまりそうだ」


 前置きがかなり長くなったが、トルクスタンは単刀直入に切り出した。


 そして、見事なまでの簡素化だ。

 その言葉には要点しかない。


「まあ、そうだろうな」


 他大陸の人間たちが介入したところで、距離がある分、これまで以上に杜撰な管理となるだけだ。


 それでも、恐らく数十年単位で気にされていなかったこの島に、ウォルダンテ大陸の国々から目と意識が向けられただけで良しとするしかないだろう。


「だが、どこの国がその中心となるかはすぐに決まらなかった」

「それも当然だな」


 長く放置された島。

 それも、問題を多数抱え込んでいるような場所だ。


 どの国だって、厄介ごとなど抱え込みたくない。


「年単位で管理担当国家を回すにしても、ここまで何もないような所の管理者を希望する人間がいるとも思えない」


 慣れ親しんだ場所から離れて、田舎暮らしどころか、種族の違う人間たちとサバイバル生活に変わるのだ。


 余程、今の生活から脱却したいとか、変革したいと考えられるような人間でなければ無理だろう。


 そして、俺たちのように国から逃げているなど、同じ場所に留まれない人間には任せられないことでもある。


 ウォルダンテ大陸の国家が管理すると言うのなら、所縁(ゆかり)があって、ある程度、信頼のおける人間から選出するべきだろう。


 信頼できない人間では二の舞になってしまう。

 ウォルダンテ大陸が自分たちの問題として引き受けてくれるなら、それにこしたことはない。


 ほとんど放置状態だったにも関わらず、それでもその管理をすると言い切るのは、それだけの権益を精霊族たちから得たということか。


 だからこそ、予想よりも早く話が付いたのかもしれない。


 尤も、俺たちがさらに手に入れた情報を知っても尚、自分たちの大陸だけの問題として受け入れることができるかは別の話だとも思う。


 まあ、無理だろう。


 いつ頃から結ばれていた契約で、精霊族たちから得られていた既得権益がどれだけのものだったかは分からないが、それと引き替えに、全人類から不信を得るのだ。


 一部の人間たちの所業とはいえ、ここまで穢されてしまった地が本当に必要なのかと。

 どんなに隠そうともいずれは、アリッサム城の状態とともに露見する話だ。


 それでも、管理をすると言い張るのなら、精霊族たちとの契約がそれ以上に重いことになるのだが……。


「それで、あとどれぐらいの日数で、ウォルダンテ大陸の人間たちがこの島に来ると言っていた?」


 少なくとも、管理の前に現状把握する人間たちが事前調査に来るはずだ。


 一週間では難しいだろう。

 そうなると二週間ほどか。


 その間にどれだけ話を進められるか……。


「早くても一月(ひとつき)らしい」


 想像以上に遅かった!!


 それだけ、ウォルダンテ大陸内でも話が纏まっていない可能性が高い。

 まあ、他大陸の国家からいきなり管理責任を問われているのだ。


 管理責任がウォルダンテ大陸全ての国家だというのなら、互いに調整が必要なのかもしれないが、それにしたって遅すぎる。


 だが、好都合でもあるのか。

 それまでにこちらの問題を片付ければ良いだろう。


「先遣隊の予定は?」

「ここは精霊族たちの領域でもあるからな。いろいろ根回しすることはあるだろうが、すぐには動けないとは聞いている」


 なるほど……。

 人間だけの話に留まらないからこその話らしい。


 だが、そこまで遅ければ、先に情報国家が動き出す可能性もある。

 秘匿したところで、あの国家に隠し事など無意味だ。


 その上、ヤツらはフットワークが軽い。

 だから、もう既に動き出していても驚かない。


 そうなると、精霊族たち自身にこの島を護らせる必要が出てくるな。


 情報国家は、何の準備もなく未知なる領域に踏み込むほど愚かではない。


 それでも、精霊族たちの対策も考えて下準備をした上で、ウォルダンテ大陸の国家よりも早く動き出すはずだ。


 つまり、この場所は安全とは言えなくなる。


 だが、ここから少し離れ、少しだけ奥へ進めば、結界によってほとんどの魔法が使えなくなってしまう。


 そして、この世界は何をするにも、機械ではなく、魔法を使うしかない。

 その魔法……、現代魔法も古代魔法も共通するのは、人間の意思と体内魔気だ。


 それならば、対策も立てようがあるだろう。


「トルクスタン。この島の結界のことは話したか?」

「ああ」

「では、結界外……。この場所については?」

「話した……か?」


 曖昧らしい。


「少なくとも、カルセオラリアの国王陛下にはちゃんと話してるよ。そうじゃなければ、国に帰ることだってできないじゃないか」

「ああ、そうだった。陛下には話したが、陛下からローダンセ国王陛下にまで伝わっているかは分からん」


 真央さんが覚えていてくれたのは幸いだが、伝わっているかはやはりはっきりしない。


 いや、希望的観測は捨てる。

 相手にはこの島に結界の影響がない場所があることを知っているものとして動いた方が良い。


「そちらの報告は以上か?」

「大体は伝えたぞ」

「待機している時間の方が長かったからね」


 これらのことは他大陸の国家間の話にもなる。

 トルクスタンに全て伝わってはいないだろう。


「分かった」


 そして、紙の束を再び、召喚する。


「これが、俺が書いた分。こちらの分厚いのが、九十九だ。そして、これがミオルカ王女殿下の報告だ。できれば、九十九の分から読むことをお勧めする。ヤツが一番、いろいろと関わっているからな」

「いろいろ?」


 真央さんはその言葉に引っかかりを覚えたようだ。


 だが、実際、九十九からの報告書が一番、時系列順に纏まっている。


 どの報告書も、この島で、トルクスタンと真央さんがいなくなった後、この島に現れた「綾歌族」に水尾さんが連れ去られたことから始まっているのだ。


 主人の「祖神変化」部分については九十九の分も、俺の分も誰が見ても問題のないよう「暴走」という言葉に直してある。


 その後のアリッサム城の発見。


 そして、主人の初めての製薬まで。


 勿論、「聖歌」については、始めから伝える気はない。


「複写もしてあるから、トルクスタンと同時に読める」

「それは助かるけど……」

「ぐっ!! シルヴァーレン大陸言語か」


 トルクスタンが手に取った瞬間、呻いた。


「自分の出身大陸言語で書いて何が悪い? それにお前はシルヴァーレン大陸に5年ほどいたと記憶しているが違ったか?」


 トルクスタンは、10歳から15歳の間をセントポーリアで過ごしている。

 その間はシルヴァーレン大陸言語を読むしかなかったはずだ。


「5年以上昔にたった5年しかいなかった大陸の言語をいつまでも全て記憶していられるか!!」

「甘えたことを抜かすな。他大陸の言語については王族の教養だろ」


 我らが主人はこの世界に来てから3年ほどで、人間界で言う英語に似たライファス大陸言語や出身地のシルヴァーレン大陸言語だけでなく、グランフィルト大陸言語、スカルウォーク大陸言語をある程度読むことができるようになっていた。


 会話については、体内魔気による自動翻訳に任せているが、文字の読み書きについては当人が努力次第となる。


 勿論、そうしなければならない境遇ではあるのだが、俺たちが世話をしている以上、言語を覚えることは必須ではないのだ。


 この世界の識字率は低くもないが、地球の識字率ほど高くもない。


 それは言い換えるなら、この世界では文字を読めなくても、生活に支障がないことを意味している。


 それでも、主人は学ぶことを選んだ。


 俺を含めた周囲がそうなるように仕向けた面は多々あるが、それでも、逃げることは選ばなかったのだ。


「ライファス大陸言語ならまだ読みやすいのに……」


 そんなどうでも良い部分で抗議をするトルクスタンとは真逆に、真央さんが一気に報告書を読み始める。


 彼女は水尾さんと同じように、シルヴァーレン大陸言語で書かれている文章も支障はないらしい。


「先輩……。ミオは無事、なんですよね?」


 始めの方から、夜に「綾歌族」が侵入したことが書かれている。


 恐らくは、自分の妹が連れ去られた部分を読んだのだろう。

 その表情には出していないが、その声の震えまでは隠せていない。


「無事だよ」

「そうですか」


 それだけを告げるとほっとしたように続きを読む。


「どういうことだ?」

「お前たちがいない間に、ミオルカ王女殿下は誘拐されていたんだよ」

「は?」


 訳が分からないという顔をされたが、事実だから仕方ない。


「それについては、俺たちの不徳の致すところだな」

「お前っ!!」


 胸倉を掴んで持ち上げられる。


 だが、トルクスタンが怒るのは当然の話だ。

 この男なりに俺たちのことを信用して幼馴染である水尾さんを任せたのだから。


 だから、二、三発ぐらいは素直に殴られよう。

 四発目からは反撃するけどな。


 だが、俺が殴られることはなかった。


「トルク。黙りなさい」


 真央さんが冷えた声を出して激昂したトルクスタンを制止させたのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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