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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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幸せを掴んで欲しいのに

 九十九は、水尾先輩のことが好きなのかな?

 その時、なんとなく、そう思ってしまった。


 水尾先輩の体内魔気……、身体の魔力の流れている状態を確認している時、九十九が目を逸らしたのだ。


 それは、水尾先輩が自分の腰を軽く撫でている時……、だったと思う。


 まあ、確かに女性の身体をまじまじと見るのは失礼だと思うけれど、それでも目を逸らすってなんか違うんじゃない?


 それって、いろいろと意識しているってことだよね?

 そして、わたしには一切、そんな気遣いしないよね?


 わたしの身体の状態を確認する時は、本当にしっかりと見るんだ。


 しかも、わたしの許可を取る前に触るし、撫でるし、時にはもっと心臓に悪いことも平気でするし。


 だけど、水尾先輩の時は、身体を見ただけで目を逸らしました。

 それは、やはり彼女を女性として意識しているというやつではないだろうか?


 なんだろう、この複雑な気持ち。


 嬉しいは、嬉しいのだと思う。


 九十九はわたしを気に掛け過ぎて、他の女性を見ることがほとんどない。


 仕事をする上で、とても大事なことだと思うけれど、その状態は、主人としても、友人としても彼の行く末が心配になってしまうほどだった。


 それがようやく、わたし以外の女性を意識してくれた。

 主人としては喜ぶところだろう。


 でも、友人としては?


 水尾先輩が同じように友人だからってこともあるかもしれないけれど、どこかモヤリとする。


 万一、上手くいっても、目の前でベタベタされるのはちょっと嫌かも?


 いや、その辺の公私の区別みたいなのはちゃんとつけてくれるとは思っているよ、九十九だし。


 でも、自分の知らない所で、わたしにかける言葉以上に甘くて優しい言葉を口にする九十九?


 ……嫌だよね。


 わたしに対して、散々、いろいろなことをしておいて、それと同じ手や口で、わたしの友人にも同じかそれ以上のことをする?


 それは、なんとなく、許せない気持ちになるのは何故だろう?

 どうせなら、わたしが全く知らない女性にして欲しい。


 ミオリさんは中途半端に面識があったから、余計に嫌だったのだと信じたい。


 ああ、でも、本当に全く知らない相手だと、今度は全く分からないからこそモヤモヤするかもしれない。


 本当に勝手だ。

 九十九には幸せを掴んで欲しいのに、それ以上に何かが邪魔する。


 今は九十九が一番身近にいる異性だから、大事な物を誰かにとられたくないような気持ちが勝っている気がする。


 そうなると、これは、わたしに彼氏……、いや、恋人という存在ができたら落ち着く感情なのだろうか?


 それも、さっぱりだ。

 今の生活で、そんな相手が見つかるかも分からない。


 それも、九十九や雄也さん以上の殿方?

 そんな完璧超人は存在するのでしょうか?


 少女漫画のヒーローでも、そこまでデキすぎていると嫌だと思ってしまう人間なのに?


 わたしはキメるところはキメて、押さえるところはしっかりと押さえつつも、どこか少しだけヌケたところもちゃんとある愛らしさまで兼ね備えているような殿方が、漫画でもゲームでも現実でも好みなのですよ。


 完璧な男ってどこか人間味がなくて嫌なのだ。

 ワカは、どうせなら完璧超人の方が良いとは言っていたけど。


 ああ、だから、ワカは恭哉兄ちゃんが良いんだろうね。


 わたしには無理だ。

 あの方の相手なぞ務まる気もしませんわ。


「どうした?」


 わたしがいろいろ考え込んでいたためか、九十九が声をかけてきた。


「百面相してるぞ」


 そう言ってさらに頬を突いてくる。


「考え事してたんだよ」


 その行動に顔が赤くならないように膨れてみる。


 これなら、わたしが照れてるのではなく、怒っていると思ってくれるだろう。

 いや、彼はわたしの体内魔気の変化に反応できる男だ。


 もしかしたら、こんなわたしの浅知恵などバレバレかもしれない。


「それで、水尾さんの状態はなんとかできそうなのか?」

「やってみなければ分からないかな」

「お前……」


 多分、大丈夫だと思う。


 あの時の同じように、そこに溜まっている嫌な感じがする塊を流すか、溶かせば良いだけだ。


「ただ、『解毒』とは違うよね……」

「毒じゃないからな」

「ああ、高田の一言か。それなら、『解呪』……? もしくは『破魔』とか『破邪』?」


 水尾先輩も案を出してくれる。


「その中なら、『破邪』かな……」

「なんで『破邪』なんだ?」

「え? 『破邪』って言葉、かっこよくない?」

「かっこいいって、お前……」


 わたしの言葉に九十九が呆れたように呟く。


 いや、魔法にかっこよさって大事じゃない?

 それに「破邪」って、言葉の響きが魔を打ち破る的な感じがする。


 だけど、それならもっとこう……、祓って清めるような感じの言葉はないだろうか?


 別に名詞、熟語に拘る必要はないんだ。

 実際、「燃えろ」とか「眠れ」とかは、動詞の命令形なわけだし。


 そうなると、「流れろ」とか「押し出せ」?

 いや、もっと単純に……。


 わたしは水尾先輩の手を改めて握る。


「やってみても良いですか?」

「ああ、高田に任せた」


 水尾先輩が笑ってそう言ってくれた。


 いつもの水尾先輩の体内魔気を思い出す。


 熱くて赤く燃え盛る激しい炎。

 それが、この赤黒い鉄みたいな塊によって邪魔されているのだから……。


()()()


 鉄を融解させるほどの熱い温度なんて分からないけれど、物質である以上、融点を越えれば溶ける。


 そして、これは本当の意味で固体ではない。


 単にわたしの頭の中に勝手に浮かび上がってくる、水尾先輩の炎を邪魔するものが分かりやすい形となっているだけ。


 それならば、そのイメージにちゃんと乗っかろう。

 高温にするには、自分の風を使って、水尾先輩の炎を煽れば良い。


 そうすれば、水尾先輩の炎は今よりもっと激しく燃え盛るはずだ。


「あ……」


 水尾先輩から小さな声が漏れる。


 だが、まだ足りない。


 塊は小さく、細かな粒となってその場所から逃げ出そうとしているけど、まだ身体から出ていかない。


 水尾先輩の体内は居心地が良いのかな?


 だけど、それを許すわけにはいかない。


 ()()()()()()恨みがあるわけではないけれど、その人は、わたしにとって、大事な人なんだよ。


 だから……、ごめんね。

 悪いけど、外に出させてね。


『排出』


 さらに言葉を紡ぎ、水尾先輩の体内に残っていた小さな鉄の粒たちを、強い風で外に押し出す。


 それと同時に……。


 ―――― ぼふぅっ!!


 かなり激しい熱風が、分かりやすい音を立てて、目の前で湧き起こる気配があった。


 咄嗟に、九十九が両腕でわたしの身体を引いて、その場から動かし、そのまま自身の身体を盾にする。


 これはアレだ。

 真央先輩と再会した時によく似ている。


 あの時も、わたしは熱気を浴びて、意識を飛ばした。


 一瞬で全てが焼き尽くされたかと錯覚してしまうほどの激しい高温。


 だけど、それだけの熱の塊を浴びて尚、わたしからは自動防御となる風の渦はやっぱり生じなかった。


 いつもはわたしに向かう殺意や敵意などの害意に対して、意識するよりも先に反応する「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」。


 考えるより先に発動するはずのそれが発動する気配は全くなかった。

 だから、これは攻撃の意思のない純粋な魔力の流れ。


「水尾さん、押さえてください!!」


 九十九はわたしを抱え込みながらもそう叫ぶ。


 まともにその熱を浴びている彼はわたしよりも、もっと熱いことだろう。


『れ、冷却!!』


 咄嗟に、わたしもそう叫んだ。


(さみ)い!!」


 さらに、前方から叫ばれる悲鳴。


 わたしの手から彼に向かって放たれた空気は……、仄かに白かった。


 あれ?

 クーラーをイメージしたけれど、もしかして冷やしすぎ?


 なんとなく、冷凍庫で見たことがあるようなひんやりとした空気。

 しかも、九十九は強化されているはずなのに「寒い」ってどれだけの冷気?


「あ~、クソ!! これらに攻撃の意図がないなんて、誰が信じられるか!!」


 九十九がそう叫ぶのも無理はなかった。


 水尾先輩は今まで止められていた自分の体内魔気が流れだしただけのようだし、わたしはそれを緩和させようとしただけだ。


 どちらも九十九に対する攻撃ではない。

 だから、彼にも備わっている「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」も発動しないのだ。


「えっと、今まで、体内魔気ってどう抑えていたっけ?」


 そんな水尾先輩の慌てるような言葉が聞こえた。


 暫く、魔封石の効果があったためか、水尾先輩も忘れてしまったらしい。


「兄貴!! 抑制石、制御石!! どちらでも良いから、とっとと持ってこい!!」


 ああ、雄也さんに任せれば良いのか。


 それなら……。


「後はよろしく……」


 もう、意識を手放しても大丈夫かな?


「おいこら~~~~~~!!」


 そう叫んだ九十九の声が聞こえた気がするが、真央先輩の時のように意識をすぐにもっていかれなかっただけ……、マシ……だよ……ね?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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