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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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【第83章― 千錯万綜 ―】聖歌対策

この話から第83章です。

よろしくお願いいたします。

  ふとんおばけがあらわれた!

 コマンド?


 ……って、違う!!

 どこか懐かしさを覚えるようなドット絵を頭に思い浮かべている場合ではない!!


「り、リヒト?」


 その「布団お化け」は顔も見えないけど、足は見える。


『通れん』


 一言だけ答えたリヒト。


 実に分かりやすい理由で彼は動けなくなっていた。


 リヒトは「適齢期」に入って成長し、前よりかなり体格が良くなっている。

 そのために、どうやら、布団をちょっと多めに持ってきてしまったようだ。


 だけど、それでも入り口を塞いだ布団は簡単には通り抜けることができないことはよく分かった。


 そして、流石に布団というものを地面に下ろすわけにはいかない。


 九十九や雄也さんは気にしないせず、大地に布団を下ろすことも迷わない人たちだが、わたしは、曲がりなりにも日本で育ったものとして、それは抵抗がある。


 いや、雄也さんは布団を敷く前に、ちゃんと地面の上に防水シートのような物を敷く人だけど。


「こちらから引っ張れば良い?」

『いや、それは……』


 わたしは返事も待たずに布団を掴んで引っ張る。


『シオリ、待て!!』

「へ?」


 ぐらりと視界が揺れた。


 布団は入り口を塞いでいた。

 それも、縦横ともだ。


 つまり、わたしの高さから無理に引っ張れば、中途半端な場所から崩れてしまうのは当然で……。


 咄嗟に思ったのは、「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」を奥底にしっかりと押さえつけることだった。


 いくらなんでも、布団の雪崩に襲われて吹っ飛ばし攻撃とか阿呆っぽいし、何よりリヒトが危険だ。


 目を閉じて、来るべき衝撃に備える。


 軽い布団とはいえ、このまま圧し潰されるのは避けられないな~。

 でも、人が運べるような布団の重さなら、多分、死ぬことはないか。


 そんな諦めに似た気持ちが頭をよぎった時だった。


「この阿呆!!」


 そんな聞き覚えのある声と。


「無茶するな」


 こんな聞き覚えのある声が耳に届いた。


 そして……、目を開けた。


 白い布団がまず視界に入る。

 いや、正しくは白い何かが眼前を覆い尽くしていた。


「大丈夫か?」

「大丈夫?」


 そんな二種類の声。


 声質はかなり似ているけど、わたしに呼びかける声はどこか違う。


 至近距離で聞こえたのが九十九の声。

 わたしを心配してくれているのだけど、同時にどこか焦ったような苛立ちを含んでいる。


 白い布団の向こうから聞こえたのが、雄也さんの声。


 こちらもわたしを心配してくれているけど、同時にほっとしたような安堵を含んでいる気がした。


「だ、大丈夫」


 わたしは九十九の右腕に捕まりながらもそう答える。


 この腕は何度、わたしを護ってくれるのだろう?


 布団の雪崩に呑まれる覚悟を決めた時、強い力で引き寄せられた。

 それがこの腕によるものだと気付いたのは、目を開けた時だった。


 そして、同時に、布団の雪崩を止めた手もあるようだ。

 それが、この向こう側から聞こえてくるもう一人の声だろう。


 ふっと、目の前の布団が消えて、雄也さんとリヒトの姿がある。

 リヒトはどこか恨めしそうな顔で雄也さんを見ていた。


「お前たちはなんで、オレたちを起こさないんだよ?」


 九十九がそんな正論を言う。


 だけど、こちらにも言い分はあるのだ。


「九十九は気持ち良さそうにわたしが寝ていたら、起こしちゃう?」


 わたしがそう尋ねると、九十九は目を泳がせて……。


「じょ、状況次第では起こす」


 気まずそうに答えた。


「わたしもリヒトも2人を起こさないでなんとかなると思ったんだよ」


 まさか、布団を運ぶだけであんな事態になるなんて思わないじゃないか。


『身の程を考えなかった俺が悪い』

「違うよ。わたしが引っ張ったから、崩れたんだよ」


 リヒトは止めようとしてくれたのに。


「あの量を下から引っ張るなよ。誰が見てもバランス崩して危ないだろうが!!」


 実際、雪崩れたのでその辺りは何も言えない。


「何故、下からだと?」

「リヒトの身長とお前の身長差から考えれば、すぐに思い至ることだと思うが?」


 この護衛は本当に観察眼が的確で腹立たしい!!


「とりあえず、部屋に戻ろうか。その上で話を聞こう」


 そんな有無を言わさない雄也さんの言葉。


「それに、お前に偉そうなことを言う権利などない。今回のことにしても、俺たちが同時に寝てしまったことの方が問題だとは思わないか?」

「ぐっ!!」


 雄也さんの鋭い目線と言葉に九十九が押し黙った。


 だけど、二人が寝たことについても、わたしが原因な気がしてならない。


 雄也さんは一度目の聖歌で眠ってしまったし、九十九も三回目の聖歌で眠ってしまったのだから。


「それに……」


 雄也さんは机を見る。


「気付けば、小瓶が増えている理由も気になるしね」


 あ……。

 そう言えば、片付けてなかった。


 机の上には小瓶が三つ並んでいる。

 そして、それぞれの小瓶は独特の光り方をしていた。


 液体自体が光っているのか。小瓶が光っているのかは分からない。

 雄也さんが眠ったのは最初の「愛しき光はここにあり」。


 その小瓶は仄かに黄色く光っている。


 次に歌ったのは、大聖堂でも流れ、わたしが「聖女の卵」となるきっかけとなった「この魂に導きを」。


 わたしは、この歌が一番歌いやすい。


 だから、「導きの聖女」なんて、有難くも不相応な名前を頂戴することになってしまっているのだろうけど。


 その時に混ぜていた小瓶は橙色に光っている。


 そして、最後に歌った「全ては大いなる神のために」。

 この歌を歌った時に混ぜた小瓶は、何故か青と緑の光が入れ替わるように交互に光っている。


「早急に『聖歌』対策もした方が良さそうだね」


 それには歌わないことが一番だと思う。


 わたしは、「聖歌」をいくつか覚えているけれど、実は、「聖歌」そのものはそこまで好きではなかったりする。


 「聖歌」は、当然ながら、基本的に神さまのことを歌ったものが多いのだ。


 わたしは「神力」を少し使えるかもしれないけれど、それでも、神さまを信仰しているわけでもない。


 寧ろ、そんな人間が何故「神力」などという大層な力を扱えるのかが不思議でならないぐらいだ。


 勿論、神さまの存在を否定しているわけでもない。


 実際に「祖神変化」してしまったとか、神さまの意識を「降臨」させたとか、何より神さまから「ご執心」を受けているのに、その根本を否定しても仕方ないだろう。


 住んでいる世界が違うだけで、いるものはいるのだ。


 だけど、従来の考え方である法力が神さまへの信仰心によって強くなるというのは全く信じていない。


 それなら、神さまが好きではないと言い切っている恭哉兄ちゃんが、その神官の最高位というのは本当におかしいから。


「もう歌わない方向で」


 恐らくそれが良い。

 それが一番平和的で何も問題がない道なのだ。


「それで良いの?」

「わたしは『聖女の卵』であっても、『聖女』を目指しているわけでもないので、そちらの方が良いです」


 そもそも、「聖歌」は歌うことで、神官や神女たちの魂を神さまに近付けさせるためのものだ。


 多少、歌っただけで近付くことはないが、本格的に歌えば、どうしても近付くことになってしまう。


 だから、大神官である恭哉兄ちゃんは、「聖歌」については、「本気で歌わないように」とわたしに言い含めている。


 この場合の「本気」は「童謡」を歌っている時のように、気持ちを込め過ぎるなという意味らしい。


 自分では意識していなかったけれど、確かに童謡は歌詞の意味が分かりやすい物が多いため、感情移入はさせやすいとは思っている。


 尤も、「聖歌」についても、これまでのことから、神さまという存在にあまり好意的な感情を抱いていないわたしが普通に歌う分には何も問題ないとも言っていたけど。


 だから……。


「勿体ないな」


 そう小さく呟かれた雄也さんの声は聞こえなかったことにしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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