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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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これ以上何を知りたい?

注意:主人公の思考が護衛以上に阿呆で危険です!!

 リヒトを見送って、扉を閉める。

 今、この部屋には眠っている人しかいない。


 流石に立ったままというのも落ち着かないので、眠っている九十九の向かい側になんとなく腰かけた。


 様々な種類の寝息が聞こえる不思議な空間に、ただ一人起きているのが自分というのもなんとも言えない居心地の悪さがある。


 だけど、眠れる気もしない。

 九十九たちが帰ってきたのだから、もう眠っても良いはずなのに。


 これまでずっと早寝遅起きだったのに、完全に昼夜逆転してしまったようだ。

 外が真っ暗なのに眠れる気がしなかった。


 なんとなく、目の前で寝息を立てている黒髪の青年を見る。


 本人には内緒で思いっきり絵に描きたい衝動にかられるが、それでまた怒られるのは嫌なので我慢する。


 それでも、もっと近くで観察したい気がして、わたしは横に座り直した。


 座った時の振動で起こしてしまうかもしれなかったけれど、幸い、九十九はその両目を開ける様子もなくほっと胸を撫で下ろす。


 この嘘を許さない瞳が獲物を見据えた瞳に変わる瞬間は、本当に心臓に悪いのだ。

 それでも普段の彼は割と穏やかな人間だと思っている。


 水尾先輩を気遣っている姿を見て、改めてそう思った。


 つまり、それだけわたしが彼を怒らせているだけなのだろう。

 ちょっと申し訳ない。


 改めて見ても、整った顔だと思う。


 この世界の住人は基本的に顔が良いけれど、自分の好みから見れば、間違いなく彼が一番だろう。


 人間界で出会って、同じクラスになって、何度も言葉を交わしているうちに、ああ、この顔は自分の好みの顔なんだな~と思うようになっていた。


 顔から彼に惹かれたわけではないから、顔に付いて深く考えたのは、出会って随分経ってからだったのだけど。


 あの頃の自分が今の状態を知ればどう思うだろうか?


 挨拶するだけで嬉しかった。

 言葉を交わせば、その日は良い日だったと思えた。


 そんなありきたりなわたしの初恋。


 忘れもしない小学校の卒業式の日。


 中学校が別れると分かっていたのに、九十九の方から「またな」と挨拶されたことを思い出す。


 言われた時は本当に嬉しくて、その場にへたり込んでしまうぐらいだった。

 あの頃の純粋なわたしはどこに行ってしまったのだろう?


 決まっている。

 時空の彼方だ。

 そうに決まっている。


 まさか、その「またな」という言葉は、こうなることを予想していたなんて思わないでしょう?


 普通、思わないよね?


 あの言葉を言われた日から既に6年過ぎた。


 気が付けば、一緒にいることが当たり前で、互いに寝具にしたり、されたりの仲にまでなってしまった。


 抱きしめられることなんて、もう珍しくもなくなった。


 キスを何度もされたり、こちらからもしてしまったけれど、それでもわたしたちは恋人というわけでもない。


 この関係はなんだろう?

 普通に考えれば、主人とその護衛だ。


 だけど、少なくともわたしの中にある感情はちょっと違う気がする。


 じゃあ、好きか? と問われても、嫌いじゃないとは思うけど……、自分の中にはっきりとした答えがない。


 でも、キスをすることに羞恥はあったけど、抵抗はあまりなかった。


 まあ、九十九の「発情期」の時に数えきれないほどされたというのもある。

 初心者であの量は絶対おかしい。


 そう言い切ってしまうぐらいに多かった。


 流石に三桁はいってないと思うけれど、二桁は間違いなくいっている。


 それだけでなく、この身体中にいっぱいキスされた。

 それも暫く消えないほどくっきりと跡を残されたぐらいだ。


 胸も直接、素肌を素手で掴まれたし、その……吸われたし、人には言えないようなところも触れられてしまった。


 アレらについては他の人に知られたら、わたしはお嫁にいけないかもしれない。


 恥ずかしい思いもしたけれど、信じられないほど高くて甘い声も勝手に出た。

 あんな声、もう二度と出せる気はしない。

 少なくとも、意識して出すことなんてできない。


 九十九は、あの時のことをどれぐらい覚えているのだろうか?

 忘れているかもね。


 その後に、「強制命令服従魔法(めいれい)」を使って眠らせちゃったから。


 多少、覚えているから謝ろうとしたのだろうけど、わたしほど細部を覚えてはいないと思っている。


 あの時の九十九は明らかに正気じゃなかったし。


 だから、そんなことがあっても、わたしたちの関係はそこまで大きく変わらないままだった。


 いや、九十九の揶揄い方が酷くなったし、前よりもわたしに触れるようになった気はしている。


 抱き締められる回数は確実に増えているし、低くて甘い声を耳元で囁かれることも増えた。


 でも、それって……「発情期」の後、お互いに慣れた……というか麻痺してしまった感覚もあるのだ。


 少しだけ男女の境界、線引きのようなものが甘くなったような感じ。


 ぬ?

 これって、わたしが緩くなっただけ?


 女性としての恥じらいをなくしてしまっただけ?


 いやいやいやいや?

 そんなことがあろうはずもない。


 抱き締められたり、キスされたり、そんなことを誰とでもしたくはないって思っている。


 なんとなく、横で眠っている青年の黒い前髪に触れる。

 少し癖があって硬いけれど、ツヤがあって綺麗な黒髪だ。

 でも剛毛とは違う。


 わたしは彼の髪や頭を撫でるのは嫌いじゃないのだけど、一度、激しく逃げられたから、なかなか撫でることができない。


 慰める時は許してくれたけど、改まって撫でるとなると、やはり難しい。


 なんだろう?

 彼の寝顔を見ていると少しだけムズムズするのだ。


 この頬の柔らかさを知っている。

 この唇の柔らかさと甘さも知ってしまった。

 この唇に隠されている舌だって怖いぐらいに柔らかくて熱いことも知っている。


 腕の力強さとか、肩幅の広さとか、胸板の厚みとか素肌の温かさや安心感とか、全身の熱さまで知ってしまった。


 これ以上、わたしは彼の何を知りたいのだろう?


 表面上、見たことがない場所ってもう下半身しか残ってないよね?

 それも足とかは知っているから、残されたのは局部や臀部と呼ばれている部分だけだろう。


 いや、それを知っていたら完全に九十九がよく言う痴女だけど。


 でもその場所にしても、見たことはないかけど、雄也さんが見せてくれた写真からある程度の想像はできる。


 あれ?

 でも、雄也さんは成長するとその形も変わるって言ってた気がするような?


 それなら、やっぱり分からないままなのか。


 ああ、でも、そこにあるものについてはなんとなくだけど、かなり硬いことだけは、あの時知ることになった。


 服の上からでもあれだけ鈍器のように硬かったのだ。


 ゲームの武器にもなる棍棒とかを実際、触ったことはないけれど、あれぐらいの硬さじゃないかな?


 いや、個人的に一番近い感覚は、人間界の調理器具にもあった麺棒だったような気もするけど、それ以外、似たような硬さのものを知らないから仕方ないね。


 でも、漫画とかでよく急所を狙う攻撃ってあるけれど、あそこまで硬いと蹴った方も痛いんじゃないかな?


 打ち勝てそうなのは、膝ぐらい?

 でも、靴の上からなら大丈夫だろうか?


 なんとなく、立ち上がってみる。

 わたしの身長は一般的な青年よりもかなり低い。


 つまり、足を使う蹴り技は不利だ。

 だが、殴るよりも蹴りの方が、人間は強いらしい。


 わたしは、学生時代にワカに鍛えられたため、ハイキックで自分の身長よりも高い位置を狙うことはできるけど、ミドルキックや膝蹴りだと届かないかもしれない。


 なんで、でもワカはハイキックをさせたんだっけ?


 ああ、ソフトボールである程度、体幹を鍛えていたために、足を振り上げてもバランスを崩さないのが凄いって話からだった。


 でも、制服でハイキックを繰り出す練習をする女子中学生は異様だったことだろうと今なら分かる。


 あんなことばかりしていたから、ただでさえ少ない色気がなくなった感はあるかな。

 でも、そんなワカは相手の顔面位置を狙う後ろ回し蹴りが綺麗だったよね。


 九十九と再会した時にもやっていたみたいだし。


 でも、「ゆめの郷」で変な男の人に絡まれた時みたいに、誰でも良いって思っちゃう人はいるかもしれない。


 神官たちのこともあるし。

 そうなると、蹴り技を練習するべきだろうか。


 いつものように深夜のテンションアップも手伝って、思考が明後日の方向に大暴走していたわたしは、布団お化けが現れるまで、ひたすら蹴り技を繰り出すことになるのだった。

もう少し甘い方向に思考させたかった。

だが、無理でした。

R-15の範囲内だと思いますが、問題があれば修正する予定です。


主人公が蹴り技の練習をしている間に、82章が終わります。

次話から第83章「千錯万綜」です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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