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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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思い出を思い出したくない

 それは、オレが知らない話だった。

 何故なら、オレはその時に、()()()()()()()()()()()()()()からな。


「ストレリチア城に行く前で紅い髪……、ライトとの再会というと……、船で移動する前だね」


 あの時は、アリッサムが消滅した影響が大きな時期だった。


 まだ大陸間の定期船が動かなくて、そのためにクレスノダール王子殿下のツテで船を利用することになったのだ。


「そもそも、なんで、お前はあんな夜中にふらふらしてたんだよ?」


 それは、あの時も聞いた問いかけだった。


「なんでだろう?」


 だが、残念ながら明確な回答は得られなかった。


 誰か、この女を殴らせてください。


 いや、違うな。

 できるなら、誰の目にも止まらない所に隠させてください、頼むから。


『呼ばれたのだろう?』

「「は? 」」


 だが、オレの疑問に別の声が答える。


『先ほど、ツクモの問いかけの答えだ。ごく稀に、シオリは精霊に呼ばれるらしい』

「ほへ?」

「はあ~~~~~~~~~~~っ!?」


 栞は珍妙な声を呟き、そして、オレは奇妙な叫びを上げる。


 ちょっと待て?

 それはどういうことだ?


 そして、どうしてお前がそれを知っているんだ?


『二人とも、せめて、口で聞いてくれ』

「「ご、ごめん」」


 オレと栞の反省の声が重なる。


 どうやら、栞もリヒトに心で問いかけてしまったようだ。


「リヒト……。お前の説明も端的すぎて分かりにくい」


 それまで黙って聞いていた兄貴が口を挟む。


 兄貴は知っていたのか?

 栞が、精霊に呼ばれる……、だと?


()()()()()()()()()()()()()()時、その人間の体内魔気とシオリの体内魔気が反応し合って、微かに声が聞こえるらしい』


 なんだ?

 それは……。


 それって、精霊を使えるヤツは、栞を呼び出しやすいってことじゃねえか?


「なんで、お前がそれを知っているんだよ?」

『「ゆめの郷(トラオメルベ)」だ』

「んな!?」


 なんで、ここで、それが出てくるんだ?


『どこからかシオリを強く呼ぶ声が聞こえた後、まるで、それに応えるようにシオリが宿から出てきた』

「むぅ?」


 リヒトに言葉に栞が考え込んだ。


 だが、それはいつだ?

 後半はオレがほぼ管理……、いや、護っていた。


 それならば、着いた直後のオレに全く余裕がない時期か?


『その直後、シオリは全く別の男に絡まれたようだがな』

「ああっ!?」


 その言葉に心当たりがあったようで、栞が叫ぶ。


「アレだ!! ()()()()()()()だ!!」


 なんで紅い髪の次は、赤い髪が出てくるんだよ!?


「確かに誰かに呼ばれた気がして……。あれ? でも、なんで?」

『知らなかったのか? 確かに再会は偶然だったようだが、あの男はシオリが「ゆめの郷(トラオメルベ)」に来た時から気付いていた』

「ふえ?」


 そこで、顔を赤らめるな。

 見ていて、すっげ~、腹が立つから。


『まあ、その話は、今は置いておこうか』


 リヒトはオレの苛立ちに気付いているために、少しだけこちらを見て、シオリに笑いかける。


「そ、そうだね。あれ? 呼ばれた? そう言えば、あの時、ライトもそんなことを言っていた気がする。その、『わたしにここに来て欲しいと願った』だったっけ?」


 さらに思い出されたその言葉はもっと腹立たしい。


「お前、オレの知らない所で、あの男に口説かれていたのかよ?」

「へ? でも、あの人、九十九の見ている前でも、わたしにそんなことを言ってくる気がするのだけど?」


 確かに。

 そして、オレのこの考え方自体が、誰が見ても分かるぐらいの嫉妬でしかない。


 栞はその時のことを思い出しているだけなのに。


 ……というか、この女は何故、ここまで露骨すぎるオレの反応に気付かないのだろうか?

 オレの気持ちに関してだけ鈍すぎないか?


 いや、そっちの方が助かるんだけどさ。


『あの紅い髪の男から呼び出されたことに対してはどうでも良いのか?』

「あの人、もともとわたしのストーカーって公言しているぐらいだからね。呼び出されたことは納得したけれど、常に観察されている方が気になるかな」


 確かに、呼び出しには応じなければ良い話だが、覗かれるのは別の話だ。


 あの男……。

 まさか、風呂とか覗いてねえだろうな?


『あの男から言われたことは?』

「ああ、『俺を殺せ』ってやつね。それについては、わたしの中でも結論が出たから、もう大丈夫だよ」


 栞はそう言って笑った。


 その顔がまるで、あの紅い髪の男を思い出しているみたいでムカついたので……。


「随分、アイツの扱いが軽いな」


 思わず皮肉を口にする。


「軽くしてくれた人たちがいるからね」


 だけど、そんなオレの言葉に栞はさらに笑みを深めて言葉を返してくる。


 ああ、どうしても、オレはこの女に適わない。


 そのことを一体、何度、思い知らされれば良いんだ?


『シオリが納得しているならそれで良い』

「うん」


 リヒトの言葉に、栞は笑顔で応じる。


『それでは、別の紅い髪の……精霊? からの話についてはどう思う?』

()()()()()()()()()なと」


 思い出させるな!!

 しかも、あれだけのことがあって、最初に思うのがそれかよ!?


『災難? ああ、ツクモにとっては災難という話か。なるほど、災難……』


 何度も言うな!!


「災難? あれは光栄というのだ。精霊族に気に入られる幸運など、そう多くはない」

「兄貴も自分の腰よりも太い腕の野郎に巻き付かれてから言いやがれ」


 思わず口に出していた。


「残念ながら、俺の容姿はそちら方面に需要がないらしい」


 馬鹿言え。

 オレよりも整った顔しやがって。


 一つ一つのパーツはよく似ているのに、組み合わせた完成形がオレより格段に上なんだ。


「お前も、なんで、よりによって、思い出すのがそこなんだよ!?」


 もっと他にいろいろあっただろ?


「わたし、あなたたちに過去(きおく)を覗かれたらしいけど、わたし自身はそれを覚えてないからじゃないかな?」

「あ?」

「それ以外で、わたしが覚えているのはこの左手首から神さまのご執心、シンショクを可視化されたことぐらいなんだよ」

「いや、普通は、そっちの方がインパクトは凄くないか?」


 自分が知らないうちに、神から執着されて、さらにそれが目に視える形となって表れたんだぞ?


「それよりも、目の前でキスシーンを見せつけられた方が衝撃的だった」

「おいこら?」


 見せつけられたってなんだ?

 オレだって好き好んでそんな状態になったわけじゃねえ!!


「わたし、ドラマとかも観なかったからさ~。生まれて初めて見たんだよ、キスシーンって」

「嬉しくねえ!!」


 何が悲しくて好きな女の前で、角刈り大男からキスされなければいけないんだよ。


 自覚する前で良かった。

 自覚した後では、いろいろ立ち直れる気がしない。


「ごめん、ごめん。でも、ありがとう」


 謝られながらも、何故か、礼を言われた。


「なんだ? 絵の資料的な意味か?」

「いや、その発想はなかった。今はともかく、あの頃はもう、二度と絵を描けないって思っていたから、そこに結び付いていなかったよ」


 そう言えば、栞が絵を描くようになったのはこの一年以内の話だ。


 オレが勧めてからはずっと描き続けているから、そのことすら忘れていた。


「あの時、九十九はわたしを護ってくれたんだよ」

「あ?」

「忘れたの? 水鏡族のセドルさまは九十九かわたしのどちらかとのキスを所望されたんだよ? 一歩、間違えたら、あの時が、わたしのファーストキスになっていたかもしれない。だから、護ってくれて本当にありがとう」


 照れくさそうにそう言う栞。


 オレは今日、この時間だけで何度、彼女から心臓を撃ち抜かれるのだろうか?


 だが、確かにオレの目の前で外見上だけでも野郎からキスされている栞を見るのは多分、自覚していなかった時期でもそれなりにきつかったのではないだろうか?


 それに、その結果があの「聖女の守護」に結び付いたのだ。

 だから、あの時のオレの犠牲は無駄ではなかったと思うことにしよう。


 喜べ、過去のオレ。

 その数年後に心底惚れ込んだ相手からキスされるんだぞ。


 いや、実はその前に、オレがその相手にキス以上のこともやらかしてしまうわけだが……。


『「精霊の祝福」から護られて礼を言うというのはどうなのだ? 俺もあまり詳しくはないが、普通は精霊族から『祝福』相手に選ばれるのは、喜ぶものではないのか?』

「まあ、神官でもないこの年代の人間たちは、基本的に外見重視だからな」


 煩い、黙れ、外野ども。

 見た目はいろいろな意味で大事なんだよ!!


 どんなに有難い神の加護や精霊の祝福だったとしても、オレは、キスするなら異性であって欲しいだけです!!


『やはり、人間というのは難しいものだな』


 そんなどこか人間臭いことをリヒトは言うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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