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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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護衛弟の手段

見方によってはR15かも? な部分があります。

ご注意ください。

 どうしようもなくむかっ腹が立った。


 だから、多少、強引だったのは認める。


「まず、洗うか」


 そう言いながら、いつもより少しだけ強く、栞の腕を引いて、洗面台の前に連れてきたのだ。


「ほれ、洗え」


 本当なら、束子のような物で栞の腕を強く擦ってやりたいほどだった。


 だが、それはただの八つ当たりでしかない。

 それに、彼女の肌を必要以上に傷付けてしまう恐れがある。


 ただの嫉妬でそんなことはできない。


 そう……この感情は嫉妬だ。

 オレがあの紅い髪の男によく抱いている感情。


 それが、今、兄貴に対しても生まれている。


 これまではずっと兄貴だけは平気だと思っていたが、やはり、この感情に例外はないらしい。

 恋心の自覚というのは本当に自分でも儘ならないものだということか。


 オレのそんな態度も気にならないようで、栞は普通に腕を洗っている。


 石鹸を使うか迷ったようだが、傷口であるため、そのまま水洗いに留めたようだ。


 だが、その分、栞の白い腕にあのクソ兄貴の気配が残っていることがはっきりと分かるために、イライラしてしまう。


 素直に洗浄、いや、いっそのこと浄化した方が良かったか?


「これぐらいで良い?」

「もっと洗え」

「分かった」


 傷口があるために、あまり強く擦ってはいないようだ。


 血は止まっているが、そこにくっきりと浮かぶ紅い筋が痛々しい。


 とっとと「治癒魔法」を使ってやりたいが、彼女自身にしっかりと洗い流して欲しいと思ってしまうオレは、かなり器が小さい男なんだろうな。


 しかし、どうするか?

 兄貴は「嘗血(しょうけつ)」ができたが、オレはできないままだ。


 そして、この状態では、オレが切ろうとしても、先ほどと同じように弾かれるだろう。


 それほど警戒中の栞は「魔気の護り(まほうたいせい)」も「魔気の守り(ぶつりたいせい)」も強いと言うことが分かった。


 さらに、武器を意識してしまうと防衛本能からか、「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」も働いてしまうらしい。


 オレはともかく、兄貴が吹っ飛ばされたのなんて、久しぶりに見た。


 ふと、一生懸命に自分の左腕を丁寧に洗い流している栞の黒髪が、肩から流れ落ちるのが見えた。


「髪……、纏めるか?」


 肩までの髪は、結んでいないため、下を向くと邪魔そうだった。


「悪いけど、お願いできる? 髪留めは首に下がっているから」


 オレが作り出した魔力珠が付いているために、常にオレの気配がする髪留め。

 それが、彼女の首にかかった紐の先にいつもあることは知っている。


「一度、手を止めてこっち向け。流石に、この紐を引いたり、服に手を突っ込みたくはない」

「紐を引くのはともかく……、服に手を突っ込むのはセクハラだよ」


 そう言いながら、栞は笑いながらこちらを向く。


「しかし、治癒魔法を使う前に、結構、しっかり洗わないといけないんだね」

 オレの言葉を微塵も疑わない言葉。


「お前は兄貴から自分の腕を舐められて嫌だとか気持ち悪いとか思わないのか?」

「ん~?」


 オレの言葉に首を傾げる。


「前、ライトのお腹を舐めた時もそうだったけど、医療行為の一種と考えれば、大半のことは我慢できる気がするよ?」


 オレに髪留めを渡しながら、そう言った。


 なるほど、そこに激しい忌避感はないらしいが、それなりに忍耐の必要な行為ではあったらしい。


 そして、理由があれば、この女は譲歩できると。

 それなら、オレにもできることがあるな。


「邪魔にならないように髪は上で纏めるぞ」

(りょう)(か~い)


 どこか間延びしたような返事。

 その気の抜けた声には、オレに対する絶大な信頼を感じる。


 ―――― オレを信じすぎるな。


 何度、言っても、この女はそれを聞いてくれない。


 それは、あの「発情期」の前も後も、ずっと変わらないままだ。


 ―――― だから、たまには痛い目を見やがれ!!


「髪を少し引っ張って持ち上げるから、()()()()()()()ぞ」

「はいはい」

「そのまま、下を向いて腕をしっかりと洗っていろ」

「わたしが腕を洗いながらでもできるなんて、九十九は器用だよね」


 そのまま、再び栞が下を向いた時だった。

 髪を持ち上げ、軽くゴムで止め、手早く髪留めを使う。


 そして――――、オレは栞の首の後ろを小さなナイフで軽く裂いた。


「――――()っ」


 太い血管を避けてはいるし、流石に無痛というわけにはいかなかったようだが……、安心しろ。


 すぐに痛みなんか感じなくなる。


「ふわっ!?」


 後ろから顎を掴んで動かないように固定した後、その首筋に紅い線に舌を這わせた。


 その感覚に驚いたのか、栞がオレから逃げるように仰け反ろうとするが、オレの右手が彼女の顎を掴んでいる上、左手で肩を抱きこむようにしているため、簡単には逃げられない。


「ちょっ!? やだあっ!!」

 突然のことに栞は当然ながら抵抗するが、「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」が働く様子はなかった。


「動くな」


 騒ぐ分には良い。


 それでも、オレの腹に肘を入れるように暴れるから……。


「良い子だからじっとしてろ」


 耳元でそう言うと、薄く切って一度、舐めたはずの首筋の紅い線が、心なしかまた鮮やかな赤を見せる。


「も……、もしかして、今……?」

 オレの行動から、何かを察してくれたらしい。


 まあ、一度、舐めたからな。


「おお。髪を上げるついでに、少し、首筋をさくっと切った」

「酷い!!」

「酷いことは承知しているから、大人しくしてろ」


 そう言いながら、また首から出てきた血を舌で軽く舐める。


「ふっ!!」


 栞が声を殺す。


 でも、頬の赤みはあるし、耳も真っ赤だ。


 身体は震えているが、逃げようと暴れる様子がなくなったので、顎にあった手を離し、右手を栞の右肩に置く。


「悪いな。少しだけ、我慢しろ」


 オレがそう言うと、栞は少し時間を置いて頷いた。


 それにしても、髪を上げた(うなじ)というのは、どうして、こうも色気を感じてしまうのか。


 少しだけ残っている後れ毛とか本当に最高だと思う。


 しかも、白い首筋に引かれた紅い線がさらにエロさを増す。

 嗜虐心を抱く人間の気持ちが少しだけ理解できてしまう気がした。


 ああ、クソ!!

 本当に、邪な気持ちってやつはなかったのに、この女は、どこもかしこもオレを刺激する。


 少しだけ首の後ろから出てくるこの血だって、オレにとっては鉄の匂いがする嗅ぎ慣れたものなのに、栞の首筋から出てるってだけで、これは酒か!? って錯覚してしまうぐらい、強烈な甘さを感じるのだ。


 オレの祖先に実は、吸血鬼がいるんじゃねえか?


 栞の首に、オレが舌を這わせるたびに、彼女の身体が揺れ、息をかみ殺すような音が口から漏れる。


 普段の彼女からは見られない反応に、思わず、自分の中に強く押さえつけて閉じ込めているはずの感情が、ゆっくりとその鎌首をもたげる。


 ああ、本当は首以外も舐め回して、もっと反応を見せて欲しい。


 ()()()()()()()――――。


 そこまで考えて、頭が冷えた。

 それをやったら、今度こそ嫌われる。


 この行為だって、栞は我慢しているのだ。


 これが、「嘗血(しょうけつ)」行為のためという、明確な目的があるから、耐えてくれるだけだというのを忘れてはいけない。


「つ、九十九……?」


 よく見ると、栞は涙目になっている。


 その身体だって、ずっと小刻みに震えていたのは知っていたのに。


 ―――― オレは卑怯だ。


 それが分かっていても、どうしても、理由を付けて栞に触れたくなる。

 本当は我慢しなければいけないのに。


 ああ、セントポーリア国王陛下は本当に先見の明がある方だ。

 いずれ、オレがこんなにも我慢できなくなると知っていたに違いない。


 だからこそ、強く深く奥底で縛った。

 オレが、決して、栞を想わないように。


「治すぞ」

「ふ?」


 オレは自分が付けた傷に治癒魔法を使う。


 そこまで深く切っていなかったので、すぐに元通りの綺麗な白い首筋に戻る。


 忘れてはいけない。

 男として栞のことを好きになっても、それ以上を求めることはできないと。


「左腕も出せ」

「う、うん」


 栞は素直に左腕も出した。


 流石、兄貴だ。

 やはり、深くは切っていない。


 こちらは、ほとんど血も止まっているが、それでも、蚯蚓(みみず)()れのような薄く細い傷すら残したくなかった。


「悪かったな。だが、これ以外、今は方法がなかったんだよ」


 傷つけたいわけじゃない。

 傷ついて欲しくない。


 癒せるからって傷を負わせて良い理由なんかどこにもないのだ。


 だけど、同時に、オレ以外のことを考えられなくなるぐらい強く深く傷付けてしまいたいと願いたくなるのは何故だろうか?

嘗血(しょうけつ)」シーンはもう少しR15よりにするつもりでしたが……、正気に返るのが早かったためにこうなりました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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