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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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可能性の話

 もう何度、同じことを考えただろうか?

 本当に、敵に回したくないと思う。


「そんなに死にたいなら、栞に代わってオレがアイツを()る!」


 わたしのために迷わず手を汚すと力強く言ってくれる九十九(おとうと)


「勿論、彼を地獄の業火の中で生かす形でもな」


 わたしの望みのためなら、他者の気持ちを無視してでも叶えると言ってくれる雄也さん(あに)


 どちらもわたしのことを思っての言動だから、余計に困ってしまうことは自分でも理解している。


 そして、本当ならこんな良い男たちの言動にもっと喜んでも良いのかもしれないが、「高田栞」という人間は、やはり素直ではないらしい。


 自分の意思よりも、わたしを優先しようとしてしまう、どこか危うい護衛たちを見ると、わたしは思わず溜息を吐きたくなってしまうのだ。


「九十九、雄也さん」


 だが、ここはわたしがちゃんと自分の意思を伝えなければならない。


「これはわたしとライトの問題なのでどちらの案も却下させてください」


 はっきりとお断りをしておく。


「おいこら」


 九十九がわたしを睨んだ。


「九十九の言う通り、わたしと彼のシンショクの仕方は違うのは分かっている。しかも、ライトのシンショクは、大神官さまでもどうにもできないようなものっぽいんだよ」


 いつかどこかで、あの人はそんなことを言っていた覚えがある。

 でも、それをどこで聞いたのかは思い出せない。


「だから、仮に器であるライトを殺せば、もっと悪化する可能性も無きにしも非ずと思っている」


 あの人を殺したぐらいで本当にどうにかなるなら、大神官である恭哉兄ちゃんがとっくにそれを選んでいることだろう。


 でも、それをしなかった。


 恭哉兄ちゃん自身が人を殺める行為というのを好まないこともある。

 人間が同じ人間を裁くのは烏滸がましいと真顔で言えるような人だし。


 だけど、恭哉兄ちゃんはその法力(ちから)を持って、魔力、記憶だけでなく、肉体や魂の封印までできてしまう人だ。


 それは、生かさず殺さずの状態を保つことも可能ってことになる。

 その法力(ちから)を使って対処しない理由もどこかにあるのだと思う。


「例えば、肉体(うつわ)が壊れた時、その近くにいた人間に憑りつくとかね」


 わたしがそう言うと、九十九が目に見えて狼狽した。


 そんなに驚くことかな?

 ファンタジー系の漫画や小説では割と使い古されたネタだと思う。


 封印が壊れた時、それを壊した人間に憑りつくとか、あるいは、その近くにいた魔物に憑りついたりするとかって、あまり珍しくはない話だよね?


 特に、魔王とか大物魔族系の話に多いけど、何故、この世界では神なのだろうか?

 魔法使いばかりで、それを倒せる「勇者」がいないから?


「つまり、栞がライトを殺せば、栞がまたその神にシンショクされる可能性もあるってことか?」


 九十九の言葉にわたしは頷く。


「可能性の話だけどね。そして、僅かでもその可能性があるってだけでも、わたしは身近な人にライトを殺して欲しくはない」


 もしかしたら、あの人の身体をシンショクしている神自身がそれを狙っている可能性もあるのだ。


 恐らく、ライトの身体をシンショクしている神は、わたしの左手をシンショクしている神と似ているか同じものだと思っている。


 だから、あの人が近付くと、その気配を察するだけでなく、たまにだけど、わたしの左手に変な感覚が起こる時があるのだ。


 ずっと、ライトにシンショクしている神の狙いは、憑りついているその身体を使って「受肉」することだと思っていたのだけど、最近では、その肉体が壊れた直後、わたしの身体に入り込んで融合し、シンショクを進めて本来の目的であるわたしの魂の汚染を狙われているのではないかと思うこともあるのだ。


 だから、あの人はわたしに「自分を殺せ」と言ったのではないかって。

 そうすることで、その神の狙い通りとなる。


 でも、あの時のあの言動は、憑りついている神に操られて、とはあまり、思いたくはなかった。


「彼の身体が()()()()()()()()()()()と考えれば、その可能性はなくはないな」


 雄也さんも同意してくれた。


 そのことで、少し安心してしまう。


 自分の意見に自信がない時に誰かに賛同してもらえるって、それだけで心強く思えるものなのだ。


「尤も、それがなくても、ライトには生きて欲しいとは思っていますよ。やっぱり彼が死ぬのは何か違う気がしているので」


 確かにあの人は、厄介な神に憑りつかれている身ではある。

 だが、今現在のライト自身は、まだそこまで大きな実害がないのだ。


 あの人は善人ではないが、悪人でもない。

 それは、自分や九十九と何度か会話していることからもよく分かる。


 そして、今回、水尾先輩を護ってくれたとも聞いた。


 そのことを九十九は「点数稼ぎ」と言っていたけど、それが本当なら、あの人は自分の考えを曲げて相手に合わせることができるほど狡猾で計算高い性格だとも言える。


 それでも、それだけではないとどこかで期待してしまうのだ。


 少なくとも、馬鹿の一つ覚えのように破壊しかできない人間ではないということは救いだろう。


「でも、雄也さんの言うように、『地獄の業火の中で生かす』となれば、ちょっと迷いますね」


 その状態は「生きている」ではなく、「生かされている」だけだ。

 それを、あの人は絶対望まない。


 でも、責任の所在を考えれば、あの人が「ミラージュの王族」である以上、この世界に置いて、雄也さんが言うような扱いは避けられない気もする。


 なんとも悩ましい話だ。


 いや、分かっている。

 これをわたしが考える問題ではないってことも。


 あの人からすれば余計なお世話なのだろう。

 でも、一度、関わってしまった以上、見て見ぬ振りができなくなってしまう。


 いっそ、わたしの知らないところでの話なら、何も気にしなくて良いのに。


「何かあってからでは遅いことは分かっているんだな?」

「うん」


 九十九の問いかけに対して、わたしは頷くことしかできない。


「だとよ、兄貴」

「分かっている」


 九十九のどこか投げやりな言葉に、雄也さんは微かに笑みを浮かべて頷く。


 現実問題として、わたしは恐らく、彼らほど現状を客観的に見ることができていないとは思う。


 でも、どうしても、感情が先走ってしまうのだ。


 あの人には命を救ってもらった恩がある。

 だから、どうしても助けたいと。

 そんなわたしの気持ちが伝わっているのかどうかは分からない。


 それでも、わたしの優しい護衛はこう言ってくれる。


「とりあえず、この問題はまだ検討の余地がある。今、ここで焦って結論を出す必要はないよ」

「ふ?」


 その言葉で思わず、雄也さんを見返してしまった。


「既知の友人をその手に掛ける覚悟など、簡単にできることではない。同時に、未知の事情の想像だけで、現状の打破は見込めない。それならば、もう少し時間を置こうか」


 動揺しているわたしに対して、さらに言葉を続けてくれる。


 雄也さんの台詞を纏めるなら、「返事の保留」……、即ち、「問題の先延ばし」でもあるのだが、今のわたしにはそれが救いに思えた。


「兄貴はそれで間に合うと思うか?」

「さあ? それでも、俺たちは主人の望みを叶えるのが務めだ。他国の王族事情や神の話など、考えるのは管轄外だな」


 九十九の問いかけに対して、肩を竦めながら雄也さんは答える。


 その答えはきっと正しくない。


 雄也さんが嘘を言っているわけではないと分かっていても、結果は違った形になることだろう。


 口では管轄外と言っている雄也さんも、どこか不服そうな表情をしたままの九十九も、この現状でできる限りのことをしようとする。


 彼らはいつもそうなのだ。

 そんな彼らのために、仮にも主人であるわたしに、一体、何ができるのだろうか?


「このまま考えていても埒が明かない。そして、無駄に時間が経つだけだろう。まずは、目の前のことから一つずつなんとかしていこうか」


 雄也さんはそう結論付けるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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