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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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身勝手な理由

 雄也さんは「内緒話の時間」と言った。

 そのためには水尾先輩が邪魔だったということになる。


 だから、薬を使って眠らせた……と。


 なかなか勝手な理由が動機の犯行現場に立ち会わされてしまったようだ。


「念のために確認するけど、水尾先輩は大丈夫なんでしょうね?」


 わたしは実行犯に確認する。


「お前は人の話を聞いていたのか? 水尾さんは眠っているだけだ。命に別状はない」

「相手の許可なく新薬投与の治験者とした犯人を信じろって言う方が無理じゃない?」


 そう言いながらも、わたしは確信していた。


 水尾先輩は本当に眠っているだけだと。


 相手の許可なく新薬投与の治験者とした犯人のことは信じられなくても、自分の護衛の言葉は信じられる。


「人聞きが悪いことを言うなよ。これは水尾さんのためだ」

「水尾先輩の?」

「こうでもしなければ、水尾さんは眠ってくれない。お前と一緒で意地っ張りだからな」


 意地っ張りとは一体……。


 水尾先輩は確かに意地っ張りすぎるとは思うけれど、わたし自身は自分がそんなに頑固な人間だとは思っていない。


「眠らなければ、いつまで経っても体内魔気が落ち着かないだろ? 今、水尾さんに必要なのは十分な休養と滋養だ」

「なるほど……」


 先ほど、十分すぎるぐらい「滋養」はとった。


 それならば、後は、休むだけってことか……。


「だけど、体内魔気が乱れているため、水尾さんの意識は常に警戒態勢にある。こんな状況で、『誘眠魔法』、『導眠魔法』は状況が悪化するだろう」


 確かに、理由としては納得できなくもないのだけど……。


「いや、なんでそこで強制的に眠らせる方向に行くの?」


 その短絡的な結論はどうかと思う。


 タイミング的に、どうしても、彼が新たな薬の治験者を求めていたという疑惑が拭いきれないのだ。


「お前ならこんな状況で『休め』と言われて素直に休めるか?」


 どうだろう?


 わたしは図太いから、傍にいてくれた雄也さんを信用していたというのもあるだろうけど、こんな場所でも結構、ぐっすり眠っている気がする。


「わたしは眠れる気がするけど、水尾先輩はちょっと眠れないかもね」


 少なくとも、わたしより繊細な人だ。


 疲労から意識を落としていたのに、わたしが歌って大気魔気を動かした程度で起きてしまうぐらいに。


「いや、お前も素直に寝るなよ」


 何故か呆れられた。


「わたしの場合は、九十九と雄也さんがいてくれれば、大抵のことは大丈夫だと思っているから」


 確かに今回、彼らがいてもピンチにはなったけれど、彼らがいたから、最低限のピンチで収まったのだ。


「~~~~っ!! お前は、その油断が危ないって意識を持て!!」


 わたしの有能な護衛は、いろいろと面白い顔を見せてくれた後に、そんな結論を出した。


「九十九。護衛が主人に対して自分から必要以上に無能アピールしてどうする?」


 雄也さんも呆れてそんなことを言った。


 言われてみれば、護衛が主人に向かって「油断するな」というのはどうかと言う話だ。


「信頼は素直に受け止めておけ。有難いことだ。その上で二度と裏切るな」

「――――っ!!」


 雄也さんの言葉に九十九の表情が変化する。


「おお」


 そして、短いけれど、とても力強く頼もしい言葉を口にしてくれた。


 それだけでわたしにとっては、心強く思える。


「今回、水尾さんに眠ってもらったのはこれから話す内容についてもあるけれど、それ以上に彼女の休息を考えた結果かな。九十九の言う通り、かなり気を張り詰めているみたいだからね。今の彼女は少しの感情の揺れで暴発しないとも限らない」


 そう言えば、水尾先輩は目が覚めた直後はとても不安定な印象があった。


 少しだけ、魔力が暴走しそうな気配もあって、それを、九十九がやんわりと止めてくれた場面もあったのだ。


「ああ、栞ちゃんが、魔法国家の王女殿下の魔力の暴走を止める自信があるなら良いけど……」

「無理です!!」


 かなり良い笑顔で言われたが、それに被せるように拒否する。


 水尾先輩の魔力の暴走と言うものがどれほどの規模のものかは分からないけれど、簡単に止められる気がしなかった。


 水尾先輩相手には、普通の魔法勝負ではまだまだ話にならないのだ。


 それなのに、魔力が暴走して、理性を失った状態の水尾先輩にわたしが勝てるとはとても思えない。


「因みに雄也さんは水尾先輩を止める自信の方は?」

「ここで『自信がある』と断言できれば、かっこいいのだけど、実際は九十九がどれだけ理性を失った彼女の魔法に耐えられるかによるかな」

「なんでオレなんだよ?」

「お前は昔から俺の盾だろう? 兄のために身体を張れ」

「ひでぇっ!! そして、断固として断る!!」


 確かにさらりと酷い。


「オレが身体を張るのは栞のためだ。なんで兄貴のために身体を張る必要があるんだよ!?」


 そして、こちらもさらりとなんてことを!!


 こんな会話だと言うのに、顔が赤くなってしまう。


「分かってないな、九十九。俺のために身体を張ることが、栞ちゃんを護ることに繋がるんだ」

「おお?」

「だから、後のことは任せて、安心して逝ってこい」

「冗談じゃねえ!! 一瞬、納得しかかったが、そんな状況で、そんな理由なら死んでも死に切れるか!!」


 一瞬でも納得しかかったのか。

 わたしはそちらの方がビックリだよ。


 でも、そんな形で護られるのはわたしもかなり嫌だな。


「簡単ではないことはよく分かりました」

「彼女は純然たる中心国の王女殿下だからね。簡単に勝てれば苦労はないかな」


 水尾先輩は、「純然たる中心国の王女殿下」……。

 つまりは、純粋な王族ということである。


 それは、わたしみたいな混ざり者とは違うと言うことですね?


 それでも、この人ならば勝とうと思えば勝てる気がしてしまうのは何故だろうか?


 実際、以前、水尾先輩との魔法勝負では一応、勝っているわけだし。


 単純な魔法の撃ちっ放しでは確実に水尾先輩に分があるけど、魔法を使った駆け引き勝負なら、雄也さんの方が有利そうだと思ってしまう。


 頭脳戦で水尾先輩が不利と言う話ではない。

 水尾先輩は頭が良い人で、魔法の使い方も、わたしよりずっと効率的だ。


 だが、雄也さんの頭の使い方は頭脳戦もあるけれど、どちらかと言えば、心理戦に近い気がしている。


 どちらにしても敵に回したくない人たちだよね。


「まずは、水尾さんを寝かせる場所だが、どうする?」


 九十九が水尾先輩を抱え上げて、雄也さんに確認する。


 この建物唯一の寝台は、既に精霊族の2人が占拠していた。

 2人ぐらいは眠れそうな場所だが、3人目となればかなり狭くなる。


 それでなくても、皆、手足がすらりと長く羨ましい体型なのだ。


「心配しなくても、もう一つ寝台を出す」


 そう言って、雄也さんがリヒトたちが寝ている場所とは対角線上にある部屋の隅に新たな寝台を準備した。


 そこに九十九が水尾先輩をゆっくりと下ろす。

 水尾先輩は目を開くこともなく、そのまま寝台の上にごろりと横たわった。


「どれぐらいで目を覚ます?」

「眠気のない状態での服用ならば3刻ぐらいだ。だが、水尾さんの場合は疲労もあるし、回復中でもある。それに時間的にももっと長くなるかもしれん」

「十分だ。彼女には少し眠っていてもらおうか。幸いにして夜は長いからな」


 な、なんだろう?

 この犯行現場の目撃している感はますます強まっている気がする。


 いや、寝台に寝ている美人な女性と、それを二人の男性が立って確認している状況って、少しだけ危険な香りがしませんか?


 ちょっとばかり妄想が過ぎる?


「お前は眠くないか?」

「この状況で寝たら、そのまま口封じで殺されそうなんだけど?」


 犯行現場の目撃者の軽い口を塞ぐのは、いつだってその手段だ。


「お前は推理漫画の読み過ぎだ」


 九十九が苦笑する。


「兄貴、準備はした。今度は何を企む?」


 そして、九十九は雄也さんに鋭い瞳を向ける。


 雄也さんはその視線を受け流すように笑った。


「無論、制裁だ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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