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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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性悪護衛兄弟

何を今更なサブタイトル

「水尾さん、そろそろ小腹がすいた頃じゃないですか?」


 九十九がお皿を片手に水尾先輩に声をかける。


 わたしが歌っていた時間はかなり長かった。


 その間、水分補給を含めた休憩は何度もしていたけれど、食事どころか間食すらお腹に入れていない。


 わたしは大丈夫だけど、水尾先輩は先ほどから随分、辛そうではあった。

 何度も、水分を摂っているところからもそれが分かりやすい。


 だけど、九十九くん?

 あなたの主人はわたしではなかったでしょうか?


 それなのに、なんで、わたしより水尾先輩に声を……って、それは当然か。


 水尾先輩はまだ体力と魔法力を回復中だ。


 しかも、あれから結構な時間が経っているというのに、まだ「魔封石(ディエカルド)」という魔石の影響で、体内魔気の流れがおかしい。


 元気いっぱいで、しかも、そこまでお腹がすいていないわたしより、九十九が気にかけるのは当然だろう。


「ありがとう、九十九」


 そう言いながら、九十九の差し出したお皿に手を伸ばす。


 その水尾先輩の表情もどこか柔らかい気がした。


「栞も食うか? ずっと、歌いっぱなしで腹も減っただろ?」


 水尾先輩の前に2皿、サンドイッチのようなものを並べた後、九十九は別のお皿をわたしに差し出した。


 水尾先輩に出したお皿より、もっと小さくて摘まみやすいサイズのサンドイッチに似たものが並んでいる。

 量も、少ない。


 九十九はよく分かっているな~と感心する。


 あまりお腹はすいていないけれど、ここまで気遣われたら少しぐらいは食べないと申し訳ない。


「ありがとう。九十九も食べたら?」

「食べるよ」


 そう言って、わたしの横に座った。


「兄貴は?」

「いただく」


 そう言いながら、雄也さんはわたしの正面に座った。


 な、なんだろう?

 この囲まれている感は。


 因みに水尾先輩は離れた場所で、九十九たちの書いた記録を読み直している。


「やっぱ、栄養補給は大事だよな」

「そうだな」


 それぞれ目の前のお皿に乗ったものを次々に口へ入れていく。


 いつも、二人ともペースが速い。

 しかも、わたしよりも量も多い。


 流石、男性だよね。


「九十九~、おかわり~」


 同じ女性であるはずの水尾先輩は既に食べ終わったらしい。


「後、何皿要りますか?」

「ん~、このサイズなら5皿ぐらいだな」

「ごっ!?」


 九十九ではなく、わたしの方が反応してしまった。


 それほど驚いたのだ。


 わたしの前にあるお皿は、15センチぐらいのパン皿だった。

 その上に、細く小さく切られたサンドイッチのようなものが6個ほど並んでいた。


 対して、水尾先輩に渡されたお皿は25センチぐらいありそうなプレートで、食パンにして半分サイズで作られたサンドイッチのような物が、多分、一皿10個以上は載っていたように見える。


 食べる量がおかしい。

 そして、それなのに、なんでそんなに細いんですかね?


「いきなり、そんなに食べて大丈夫ですか?」

「魔法力、回復中だからな。それぐらいはいける」


 胸を張ってそう言うが、九十九が気にしているのはそこではない気がする。


「食欲の問題ではなく、胃腸を気にしてください。それと、食べるだけではなく、ちゃんと水分も摂取してくださいね」

「食事中の飲み物を水分扱いするやつ、初めて見た」

「それでは、オレが初めての男ですね。光栄です」


 そんな九十九の軽口に対して、ぶほっ!! ……と水尾先輩が勢いよく噴き出した。

 幸い、口に何も入っていなかったようだ。


 ああ、でも、あれはわたしでもああなるかもしれない。


 さらりとなんてことを言うんだ、あの男は……。


「水尾さん?」

「食ってなかったからセーフだ!! ……じゃなくて、今のは九十九が悪い!!」


 そう言いながら、九十九から差し出されたお替りを1皿と、飲み物をひったくるように受け取る。


「オレもまさか、そんなに反応されるとは思っていませんでした。でも、オレが悪いなら謝ります。申し訳ありません」


 流れるように頭を下げた九十九の謝罪に水尾先輩が絶句する。


 気のせいかもしれないけど、最近、九十九が何かいろいろ、変わってないかな?

 前に比べると、こう、余裕? ……みたいなのがあるような?


 でも、それって、わたしに対してだけかと思っていたけど、水尾先輩にもあんな感じになるのか。


 いや、わたしよりもっと扱いが……?

 これってもしかしなくても雄也さんの教育の賜物ってことだよね?


 なんとなく雄也さんを見ると、目が合ってしまった。


「栞ちゃんはどう思う? 今のは九十九が悪いよね?」


 雄也さんから微笑みながら同意を求められる。


「状況を考えて口にする言葉だと思います」

「それは、例えば?」

「ほへ?」

「例えば、どんな状況なら『キミの初めての男』って、栞ちゃんの前で口に出しても良いかな?」


 わたしも噴くかと思った。

 主に鼻から。


 それはいろいろ、女性としてマズい。


「少なくとも、今ではないと思います」

「そうだね。俺もそう思うよ」


 さらに笑顔とか。


「オレは兄貴の方がもっとタチが悪いと思います」

「そうだな」


 わたしも2人に同意したい、心から。


 でも、このタイミングでそれに同意したら、目の前にいる雄也さんから更なる追撃が来る気がした。


 この場所は確実にそれをよけきることができないだろう。

 この兄弟って、いつも本当にいろいろ心臓に悪い。


 そして、雄也さんからは揶揄われているのも分かっている。

 十分すぎるぐらい分かっているのだ。


 そして、同時に気遣われている。


 彼らがそんな軽口を口にするのは、わたしと水尾先輩に残っている嫌な気分を払拭するため、そんな気がするのだ。


 わたしはこの島で、水尾先輩はアリッサム城だった建物で、それぞれ怖い思いも嫌な思いをした。


 それらは簡単に拭い去ることなんてできない。


 だから、彼らはできるだけその時のことを思い出させないように、考えさせないようにしてくれているのだろう……、多分。


 その気遣いは本当にありがたいのだけど、それならもっと、心臓に負担がかからない方向でお願いしたいです、雄也さん。


 ここ数日で、どれだけこんな風にわたしのことを揶揄ってくれましたか?


 いや、そのおかげで、余計なことを考える時間は少なくてすむのだけど、それでも、心臓がお仕事をし過ぎで困ってしまう。


 ちょっと心臓を働かせすぎだ。

 だけど、こればかりは休ませるわけにもいかない。


 なんというジレンマ!!


 わたしが、そんな阿呆なことに意識を割いていた時だった。


 ごとり……。


 背後で、重い荷物が倒れたような音がした。


 そんな音を、わたしは何度も耳にしている気がする。


 そちらの方向を向くと、水尾先輩が倒れ伏している姿が目に入った。


「み、水尾先輩!?」


 わたしは思わず叫んだ。


「凄いな。一口か……」

「普通に一週間保温したやつよりも効果的だな」


 ちょっと待て?


「普通の飲料水として渡したんだよな?」

「ああ、『汗をかいているようだから、味付きじゃない方が良いでしょう? 』と声をかけた」


 ちょっと待て?


「乱れているといっても、王族の体内魔気が警戒する暇すらないとは……」

「やはり、魔界人は薬効耐性がほとんどないってことだな」

「ちょっと待て~~~~~~~!!」


 心の声がしっかり言葉となった瞬間である。


「どうしたんだい? 栞ちゃん」

「どうした? 栞」


 ほぼ同時にわたしに向き直る二人の美形。

 違う!!


 二人の性悪護衛兄弟。


「何を、水尾先輩で新薬治験してるんですか!?」


 今の話はそう言うことだろう。


 なんという男たちだ。


「水尾さんには眠ってもらう必要があったんだよ」


 さらに、犯人的な台詞を言う九十九。


「この薬。間違いなく、『もんわか』状態になると、薬品化している。それは間違いない」

「だからって躊躇なく使う!?」

「ちゃんと成分を検証して安全性の確認はしたぞ?」


 悪びれる様子もなく、九十九はそう言った。


「それは最低限の話!! 当人の意思は!?」

「意思があったら、警戒されるだろう?」

「当然でしょう?」


 新薬の治験に使われると分かっていて警戒しないはずがない。


「無警戒の方が治験者に向いているんだよ。水尾さんが全力で抵抗したら、薬効耐性と別の力が働いて無効化される可能性もある」

「いやいや、向き不向きの話じゃなくてね?」


 わたしの言いたいことは分かっているだろうに、九十九から微妙に話を逸らされている感がある。


「栞ちゃん」


 わたしたちの問答を見ながら、共犯者が笑みを零しながら声をかけてくる。


 この時点で嫌な予感しかしない。


「それでは()()()()()()だよ」


 雄也さんはいつも以上に妖艶な笑みを深める。


 どうやら、わたしの予感は的中しそうだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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