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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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自己評価が低い

「さて、腹ごしらえも済んだことだし、そろそろ本題としようか」


 食事が終わった後、そう切り出したのは、雄也さんだった。


「まずは、俺とリヒト。そして、スヴィエート嬢までここに集めた理由を伺ってもよろしいかい?」


 雄也さんは水尾先輩に向かって微笑みながらそう続ける。


「リヒトから聞いているだろ?」


 長耳族のリヒトはわたしたちの心の声を読むことができる。


 だから、その理由は分かっているはずだと水尾先輩は返した。


「理由の理解と説明責任は別の話だと思うが、アリッサムでは違うということかな?」


 それは、理由は分かっているけど、ちゃんと話せと言っている。

 そんな風に雄也さんは、水尾先輩に向かって、笑みを浮かべながら挑発的な言い方をした。


 わざと感情的にさせようとしていることが分かっているので、水尾先輩も落ち着いたものだ。


 負けじと優雅に微笑んで……。


「情報共有の不足が見られる」


 と水尾先輩は口にした。


「……と、言うと?」

「そこにいる高田と九十九すら、意思疎通ができていない。事実と感情は別物だ。互いの言い分を理解して呑み込んでおかないと、ミラージュは確実にその齟齬を狙う」


 ふへ?

 わたしと九十九の意思疎通できていない?


 なんとなく、九十九を見ると、彼はわたしの方ではなく、すぐ横の水尾先輩を見ていた。


 今の席配置は、九十九と水尾先輩が並び、リヒトとスヴィエートさんがそれに向かい合っている。


 わたしは九十九とスヴィエートさんの角に挟まれる形で、その対面に雄也さんがいた。

 六人で円卓ではなく、長方形のテーブルなのでこうなった。


 入り口から一番離れている席なので、人間界的な言い方では上座……ってやつになるのだろう。


 なんだか、偉そうだね。


 でも、部屋を含めて、全体が見渡せるために、少しそわそわしてしまう。

 こんな仲間内だけの時に、九十九が対面や真横にいないのは珍しい気がする。


 そして、雄也さんが正面なのはかなり落ち着かない。


 長方形の短辺と短辺。

 つまり、位置的には一番離れているというのに、何故か一番、圧を感じるのだ。


 真正面ってこんなに怖いんだね。


 九十九が前にいる時は、明らかに怒られる時以外では、こんな威圧のような感覚がないから気にしたことはなかった。


 でも、確かに情報国家の国王陛下が目の前にいた時も緊張したし、雄也さんと同じように怖かった。


 セントポーリア国王陛下の時は、緊張したけれど、怖いよりも興味の方が(まさ)っていた気がする。


 ああ、でも、わたしを怒る時の九十九が一番、怖いかな。


 それは九十九が、凄くわたしのことを心配した上で、自分のことのように怒ってくれるからかもしれない。


「水尾さん、意思疎通ができていないと言うのは?」

「ほら見ろ。当人すら気付いてない」


 九十九の問いかけに、水尾先輩はその台詞に被せるようにして答える。


「一番分かりやすいのはアレだ。高田が自分のことを『化け物に見えてないか? 』と問いかけた時」


 そこを持ってきますか? 水尾先輩。


 その後の言動とか流れとかを思い出すと、それを別の人に見られていたことがかなり恥ずかしい。


「どこから聞いてたんスかね」


 九十九もそれは同じだったようで、少し、頬を赤らめた上、微妙に敬語が崩壊している。


「高田が歌った時から」

「オレたちがこの建物に来てからほとんどじゃないですか」

「あれだけ、大気魔気が変動していて、鈍っているとはいえ私が反応しないと思うか?」


 大気魔気の変動?


 言われてみれば、この建物内から水属性の大気魔気はあまり感じない。

 なくはないけれど、風属性の大気魔気が圧倒的に強いのだ。


 始めからこうだったっけ?


「思いません」


 九十九は少し考えた上で、そう返答する。


「鈍ってるからこそ、分かりやすい異常に反応したかもしれないけどな」


 水尾先輩が肩を竦めた。


 分かりやすい異常、それってわたしの歌……、だよね?


「先に言っておくと、高田は意外と自虐的で、悪い方向に物事を考える部分がある。見た目や言動は呆れるほどポジティブなのに、基本思考がかなりネガティブなんだよ」

「はうあっ!?」


 容赦のない言葉を水尾先輩から言われた。


 それって言動が阿呆な上に、マイナス思考ってことですよね?

 救いがないじゃないですか?


「別に意外じゃないですよ」

「のうっ!?」


 さらに九十九から同意される。


 救いはなかったらしい。


「この女は他人に対しては褒めたり持ち上げたりするのは巧い。当人が意識していない些細な長所を見つけ出すこともできて、それを素直に口にできる。でも、同時に、呆れるぐらい自己評価が低すぎます」


 九十九の言葉に雄也さんとリヒトが大きく頷いている。


 これは褒められた?

 それとも、落とされている?


「謙遜も過ぎれば嫌味というが、ここまでくれば、異常なぐらいに卑下しているよな?」


 水尾先輩がそう言いながら、わたしを見た。


 ひげ? ヒゲ?

 話の流れから「卑下」だと思うけど、わたし、そこまで酷いっけ?


「そんなつもりはないですが……」


 わたしはそう言いかけて、水尾先輩の視線が鋭くなったために、言葉を止めた。


「これだから自覚のないテンサイは嫌なんだよ」


 水尾先輩は自分の頭を乱暴にかく。


 ……天災?

 災いってことかな?


「お前、今、『災い』って意味だと思っただろう? この場合、違うからな?」

「な、何故、それを……?」


 九十九に心を読まれた!?

 そして、毎回思うけど、自動翻訳機能ってどうなっているんだ!?


 どうして言語が違う同音異義語もしっかり、翻訳できちゃってるの?


「自動翻訳機能は、言語の逐語訳や直訳ではなく、意訳だからね。だから、大体の雰囲気で訳されている。日本語に多い同音異義語もある程度はくみ取るはずだよ」


 なるほど……。

 なるほど?


 雄也さんの言葉に納得しかかるが、そこで納得して良いものだろうか?


「これ以上、考えるな。単純にオレや兄貴が日本語も理解しているだけだ。同時に、お前の思考予測もしている」


 理解しました。

 どうやら、この辺りで納得するしかないようです。


 何かが深く突っ込むなと言っている気がする。


「水尾さんが言ったのは『天賦の才能』の方だ。今の流れで、どうして『災い』の方になるんだよ?」


 逆に今の流れだからじゃないでしょうか?


 わたしのその「卑下」って、その自動翻訳機能の有難迷惑な意訳……いや、誤訳にも原因があるんじゃないのかな?


 それに……。


「天賦の才能?」


 生まれつきの才能ってやつだよね?

 天性とかそういったやつ。


 でも、そんなものを所持した覚えはない。

 ここにも誤訳がある気がする。


「栞ちゃん。基本的な話として、この世界に住む一般的な女性は、まず、僅かでも『神力』という特殊能力を所持しないことは理解できている?」

「一応……」


 でも、全くいないわけでもないらしい。


 知られていないだけ、気付かれていないだけで、ゼロではないだろうとも大神官でもある恭哉兄ちゃんから聞いている。


『ああ、なるほど……』


 それまで黙っていたリヒトが不意に納得したような声を出す。


『シオリは他人からの気遣いを、そのまま受け止めてしまうのだな』

「ほへ?」


 他人からの気遣いを……?


『大神官が言った「ゼロではない」という言葉。確かに「神力」を持つ人間がいないわけではないが、どちらかと言えば極めて少ない確率というのは分かるか?』

「少ないとは思っているけど、極めて少ない?」


 それは大袈裟ではないだろうか?


「いや、逆に多いと思うか?」

「わたしが持てるような力だよ?」

「だから、それが過小評価だとどうしてお前は思わないんだ?」


 そんなことを言われても、自分が凄い人間だなんて思っていないのだから仕方ない。


「落ち着け、九十九」


 雄也さんが九十九を制止する。


「一度根付いてしまった考えと、それぞれ見解の相違は、口で説明したぐらいで簡単に埋まる物じゃない」

「だが……」

「それに、本題はそこではないのだろう?」


 雄也さんはそう言いながら、水尾先輩に目配せをした。


「まさか、高田の考え方が、ここまでとは思っていなかったけどな」

「その出自や才はともかく、十年もの間、ただの人間として生きてきた者に、いきなり全てを理解しろと言っても思考が追い付くはずもないだろう。心証を積み重ねたところで、本人に受け入れ準備がなければ心には届かないよ」

「高田に理解力がないわけじゃないんだろうけどな」


 水尾先輩は溜息を吐く。


「知能とは別の領域にある話だからね。こればかりは理屈ではないんだよ」


 雄也さんはそう言って笑ってくれるが……。


「そうやって、兄貴が甘やかすから、この女はいつまでも変わらないんじゃないのか?」


 九十九はどこか納得いかないような顔をしている。


「物分かりの悪いお前にも分かるように言えば、『お前は俺の弟じゃない』とか、『実は栞ちゃんと兄妹だったんだ』と俺が言っても、お前は信じないだろう?」


 雄也さんはそんなとんでもない例を持ち出した。


「そんなはずがないからな」


 でも、動揺することなく九十九は冷ややかな顔でそう答える。


「そうだろう? 栞ちゃんの考え方を変えるのはそれほどのことだと思え」

「いくら何でもそれは極端すぎないか?」


 雄也さんの言葉に九十九はどこか呆れたように言う。


 確かに、九十九と雄也さんは体内魔気やその容姿や声、そのほかいろいろなものを含めて良く似ている。


 逆に、わたしと九十九は体内魔気が風属性ってことぐらいしか共通点がない。


 それ以外だと、九十九がわたしの魔法に対して、異常なまでに耐性が強いってこともあるか。


 でも、シルヴァーレン大陸出身者なら、体内魔気の属性は風属性が強くなるし、魔法耐性については、それだけわたしの魔法を昔から食らっているってことだろう。


 だから、誰が聞いても、先ほどの雄也さんの言葉に信憑性を感じないと思う

 

 でも、そんな誰の眼から視ても分かるような事実すら、今のわたしが受け入れることができていないってことだけはよく分かったのだった。

改めて言いましょう。

言語については深く突っ込むなと。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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