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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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少年は怪しい3人組と出会う

「危ねっ!」


 オレは咄嗟に身を躱した。


 そして、さっきまでオレがいたところに煙が立っている。

 威嚇としてはあまり上手くねえな、これ。


 当てる気ならもっと確実に当てろよ。


「何? これ……」


 横にいる女は呆然と呟く。


「知らないのか? 火というものだが」

「火ぐらい知ってるよ。原始人じゃないんだ。でも、それがなんで飛んでくるの?」


 彼女は、真っ直ぐオレに疑問をぶつけてくる。


 しかし、まだその答えをオレの口から答えるわけにはいかない。


 この空間には、上空に3人の女がいる。

 まずそいつらからなんとかするべきだろう。


 それに、他にもオレたちをじっと見つめている奴もいた。

 この気配から察するに、そこの女どものお仲間だと思う。


 とりあえずは、こいつらの目的、狙いを探らなければならない。

 あまり、面倒臭いことにならなければ良いんだが、無理だろうな。


 相手は、既に戦闘態勢っぽいし。


『見てな。こうやるんだよ!』


 そんな声とともに何もない空間から炎が6つ発生した。


 そして、それらは一つずつ上に上がっていったかと思うと、それぞれがこちらに向かってくる。


 まあ、何も知らない相手に分かりやすい手段だな。


 水や風よりは、目に見えて恐ろしいのが炎だ。


「何!?」


 彼女は目を瞑り、クロスガードで身を守ろうとしているようだが、相手は炎。

 そんな防御に意味はない。


 寧ろ、その両腕が焼けてしまうことだろう。


「よけろ!」


 だから、オレは彼女の腕を引っ掴んで引っ張る。


 思った以上に細く感じたこの腕に、傷一つ、付けさせる気などない。


「お前、アホか。ボクサーじゃねえんだからそんな防御になんの意味があるんだよ」

「だ、だって……」

「でも、咄嗟の反応にしちゃ上出来だ」


 そう言ってポンッと彼女の頭に手を置いた。


 こいつの反射神経は見た目ほど鈍くないようだ。

 恐らく、何かスポーツをやっていたんだろう。


 それだけでも救いがある気がする。


 後は、状況判断能力と状況適応能力を身につければ問題はない。


『あちゃ~っ。またまたよけられたよ』

『どうやら、あの邪魔者。ただもんじゃねえな』

『さしづめ、ガーディアンといったところでしょうか?』

『やっぱり一筋縄じゃいかねえか。なら、小細工なしだ』

『了解』


 そんな声とともに、黒い服に身を包んだ3人が空中にその姿を現す。


 回りくどいことをせずに、始めからそうしてくれれば面倒も少なくて済むというのに。


「な……に……?」


 冷めた目で見ていたオレの横で、彼女が驚愕しているのが分かる。


 それも無理はないか。

 いきなりこんな現実を、何も知らない人間が目にしたら誰だって驚くのは当たり前だ。


 先ほどまで誰もいなかった場所から姿を見せる人間。

 それも空中浮遊というおまけ付きだ。


 思わず、考えることを()めたくなってもおかしくはない。


 まぁ、本当に何も知らないただの人間ならの話だが……。


「浮いてる……。どうなってるの……?」


 そう呟きながら、彼女は暫く考え込んだ。


 そして……。


「お化け、気孔、ヨガ、超人、マジシャン、超能力者、格闘家……」

「なんで格闘家が浮くんだよ」


 明らかに不自然なその部分には突っ込ませていただく。


「え? 漫画では普通に空飛ぶでしょ?」


 きょとんとした顔で言う。


「阿呆。一緒にすんな」

「だって……」

「他にも、可能性があるだろう。魔法使いとか、天使や悪魔とか、魑魅魍魎とか……」


 それ以外なら、妖怪とか妖精とか精霊とか。


 ファンタジーに焦点を当てるだけでも、まだまだあるだろう。


「うんうん。そう考えると割とあるもんだね~……って、そんなことあるはずないじゃない!」

「じゃあ、アレの説明は?」


 答えられるもんなら言ってみろ。


 正解を答えられたらオレの手間は減るし、分からないなら後で説明してやる。


「う゛……っ」


 思ったとおり、彼女は何も言えなくなってしまった。


『おいおい。てめえら、こちらを無視してんじゃねえよ』

『余裕ですね~』


 そんな会話が聞こえてくる。


 オレからしてみればこいつらのほうが余裕をかましているように見えて、すっげ~、むかつくんだけどな。


「あなたたちは何者でしょうか? わたしたちに何か用ですか?」


 彼女は丁寧ながら直球で相手に尋ねた。


 オレから不確かな答えを聞くより、当事者より正解をもらいたいのだろう。


『別にお前ら2人ともに用があるわけじゃねえ。1人は勝手についてきただけだろう』

『それに、何者って聞く辺り、分からないかな?』

『まあまあ、相手はただの人間のようですから』

『そっか~。でも、あの御方も物好きだね~。どう見てもただの人間にしか見えない、それも、こんな子どもなんかを欲しがるなんて』


 まあ、そういうことにしておいてくれ。その方がオレも助かる。


 ただの人間?

 ()()()()()()()()


『お偉い方の考えることなんて分かんね~よ。ただの道楽じゃねえのか』


 3人は、オレらを無視して好き勝手に話し出した。


「九十九、『あの御方』とやらに心当たりは?」

「あると思うか?」

「やっぱり、ないよね~」


 いや、本当はないわけではないが、まだ言うべき時ではない。


 姿を隠して、この場を窺っているヤツがいるが、ソイツの可能性が一番高いだろう。


 始めはオレが知っているヤツらの仕業かと考えていたが、ちょっと違う気がする。

 根拠となるのは、アイツらの服。


 あの不自然なほど真っ黒な服を着ているヤツらついては、昔、聞いたことがあった。


「あなたたちは『ただの人間』とは違うってことでしょうか?」

『おめえは「ただの人間」が空中に浮くと思うか?』

「ただの人間じゃねえなら、何だよ。いんちきマジシャンか?」


 それならもっと扱いやすかっただろう。


『いんちきだって、ひっど~い』

『仕方ありませんよ。そう思うのが人間というものです。自分の目の前に起こっていてる現実も認めようとせず、全てを否定することで平静を保たねば、己が崩壊してしまう脆い種族なのですから』

『ざまぁ、ねえな』


 三者三様の意見……と言うよりも、(はな)から、見下している感が酷い。


「いんちきじゃねえなら何だっていう気だ? まさか超人とか抜かす気じゃねえよな?」


 映画で見たことがあるヒーローとか?

 オレからすれば、そちらの方がかなり非現実だけどな。


 野菜食ってパワーアップとかすっげ~ドーピングもあったもんだぜ。いや、

 あの人物は空を飛ばなかったか。


 空を飛ぶのは「S」のマークを付けたものやそれ以外にもいた気がするけど、その辺はあまり詳しくない。


『まあ、下等な貴様ら人間から見ればそう見えても不思議はねえな』

「じゃあ、あんたらは上等な種族とでも言うのか? ハナから相手を見下して話している時点で、そうは思えんのだが」

『なかなか言いますね~』

『たかが人間風情が、偉そうに』


 お前たちよりはマシな人種だと思っているんだけどな。


「で、あなたたちは何なのですか? わたしたちは家に帰りたいんですが……」

 そこで、一番の当事者が、一番、状況を見ていない発言をする。


『帰れると思いますか?』

『おめでたい子だね~』

「へ?」

 そして、案の定、申し出は却下される。


「お前な~。話を聞いていたんだろ?あいつらが言うには、あの御方とやらに捧げられるか、始末されるか。二つに一つしかないらしいぞ」

「なんで? どっちも嫌だよ」

「それについてはあいつらに言えよ」


 どちらもやすやすとさせる気はないけどな。


『娘。てめえは、あの御方に捧げられる方だから安心しやがれ。この場で命までは取らねえよ』

「え、嫌ですよ。その言い方では、この場以外で殺される可能性もあるってことじゃないですか」

『あの御方に捧げられた後のことまでは責任もてねえってことだ』

「そんな、『あの御方』っていう人の正体だって分からないのに、『はい、そうですか』って納得できますか!」

『そちらの方は納得されているようですけど』

「え?」

「……ってことは始末されるのは、オレかよ。やっぱ、供物とかは女が選ばれるもんだな~」


 口ではそう言いながらもこいつが選ばれたのは多分、オレの考えている理由が原因と考えて良いだろう。


 ただこいつらが何も知らない、というよりその一番重要な部分について何も知らされていない気がする。


 自分のしていることに、何の疑問に思わない部下って大丈夫なのかね?


「九十九! 何をのんきなこと言ってるの? あなたが『始末』されるんだよ?」

「らしいな」


 簡単に始末できると思うなよ。

 オレの相手は結構、めんどくさいらしいぞ。


「『らしいな』って……」

『案外、諦めが早いじゃねえか』

「でも、ただで殺されんのは嫌だな。せめて、何故自分が殺されるのか理由を知ってからってのはだめか?」


 オレは、できる限りこいつらから情報を引き出すことにした。


 何かあった時は、情報収集が全てにおいて基本だと言われている。


 オレは対象を説得することも、ちょっとした人との会話から情報収集するのも苦手だが、こいつらが、自分たちの優位を確信している以上、今なら少しくらいそれっぽい真似事ぐらいはできそうな気がしていた。


『それぐらいならいいんじゃない?』

『そうだな』

『でも、依頼では他言無用と……』

『心配性だな、おめえは。大丈夫だ、話し終えたらすぐ始末する。逃がしはしねえ』


 思ったとおり、やつらは簡単に乗ってきてくれる。


 自分たちが明らかに上で、格下にやられるとは思っていない。

 「窮鼠猫を噛む」って言葉を知らないな、こいつら。


 弱者だって追い詰められたら強者に噛み付くことだってあるんだってこと知っていれば、力が劣っている人間が相手でも最低限の警戒はする。


 少なくともオレはそう教えられてきた。


 そんな3人組を見て、オレは思う。

 「あの御方」とやらは少なくともこいつらよりは格段に上だろう。


 任務であっても情報共有は最低限……というか、この様子ではほとんどしていない。


 まあ、確かにこんなヤツらでは、大事なことを伝える訳にはいかないのはよく分かる。

 隠したいことまでだだ漏れになってしまうのは問題だろう。


「九十九!」


 彼女が心配そうに叫ぶ。


「オレのことを心配してくれているのは嬉しいが、少し気になることがあるんだよ。だから、悪いけど高田は、少しの間、黙っててくれねえか? このままじゃ、何も分からねえからな」


 何も知らない彼女には申し訳ないが、余計なことを口に出されるとそれだけで厄介な方向に進む気がした。


 そこに根拠はないが、オレは自分の勘を信じている。

 彼女に口を挟ませてはダメだと。


 こいつらから本当にこの場で聞けることはなんとか聞き出しておきたい。

 問題は誰かと違って、オレは情報を引き出すことに関してはほぼ初心者だということだ。


 だから、お手柔らかに頼むぜ、怪しい3人組。

ニ話同時更新しました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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