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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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差し出がましい話

今年最初の投稿となります。

改めて、よろしくお願いいたします。

『ところで、シオリ……。俺は先ほどからずっと気になっていることがあるんだが……』

「何?」


 ライトから、まるで友人のような気安さで声をかけられるものだから、わたしも普通に返答する。


『今、護衛弟がいないってことは、お前の寝間には誰がいる? 以前のように一人か?』


 寝間って、寝室のことだよね?


 相変わらず、どこか不思議な言い回しが好きな御仁だ。


「今回は雄也さんがいるはずだけど……」


 しかし、「以前のように」って、彼はわたしの寝室状況まで確認しているということだろうか?


 誤解のないように言っておくが、わたしが寝る時に異性と共にいたのは「ゆめの郷」にてソウや九十九と一緒に過ごしていた時ぐらいで、基本的には個室を使わせてもらっている。


 宿泊先の都合で誰かと同室になることはあっても、そのほとんどが水尾先輩と同室だった。

 

 寝る瞬間に誰かが近くにいることはあるけれど、今回のように集団で雑魚寝もほとんどない。


 ……あっても困る。


『お前、本当に警戒心ないよな?』

「今回は本当に危険な場所だから仕方ない」


 そんな理由でもなければ、わたしも雄也さんしかいない部屋で寝ようなんて思わない。


『……そうなのか?』

「正確にはもう一人いるし、完全に二人きりの空間でもないから」


 彼女は先に寝ていたけど……。


『つまり、あの護衛が特別……、いや、特殊な存在ってことになのか』

「そうなるね」


 九十九には本当に申し訳ないのだけど、多分、わたしは彼のことを男性の中では一番信用を置いているのだと思う。


 圧倒的寝具経験回数というのもある気がするのだが。


 それが何故かと問われたら、一緒にいる時間の長さ……、つまり、「付き合いの長さ」だと迷いなく答えることになる。


 尤も、起きている時のわたしが同じ考えかは分からない。


 夢の中にいるわたしの方が、覚えていること、思い出せることが多いために知識や経験の量が違い過ぎるのだ。


『いずれにしても危険だとは思わないのか? 護衛とはいえ、男の前で眠りこけているんだぞ?』

「雄也さんも、大丈夫だよ」


 確かに、あの人の前では、かなり緊張する。


 でも、同時に九十九とは別方向で信頼もしているのだ。


「女性に困っていない人が、わざわざわたしに手を出す理由はないでしょう?」

『世の中には物好きと言われている特殊性癖の人間が存在していることを理解しているか?』

「わたしは今、喧嘩の売買契約を持ちかけられていると解釈してよろしいね?」


 確かに全面的に同意するけど、他人から言われるのは腹が立つ。


『まあ、護衛弟が縛られているなら、兄の方も雁字搦めでもおかしくはないのか。年齢が上だから、より強固な縛りがあるかもしれないな』

「何の話?」

『ヤツらの慎重な雇用主が、駄犬と狂犬に対して何の首輪も鎖もなく、お前を託すはずがないという話だ』

「なるほど……」


 確かに彼らには鎖がある。

 わたしの「命令」という言葉一つで、強制的に従うほどの強い縛りが。


 しかし、どちらが「駄犬」で、どちらが「狂犬」だろうか?

 なんとなく分かる気がするけど、確認はしたくなかった。


『伝言すら頼めないようだから、相当な縛りみたいだな。恐らくは特定の言葉を口にできないような……』

「何の話?」


 彼が言っているのが、わたしの知っている「縛り」と違う気がして、思わず先ほどと全く同じ疑問を口にした。


『先ほどの会話で理解したかと思えば、全くしてなかったのか? 奴らの『縛り』、『呪い』の話だが?』

「わたしが知っているのは、わたしの言葉に反応する縛りだよ?」

『お前の……? いや、それではあの時の言葉がおかしい……』


 彼は何故か考え込んだ。


 わたしが知っている彼らの「縛り」は「命呪」のことだ。

 強制的に相手を従わせる隷属契約。


 そして、それはわたしが口にする「命令」の単語に反応すると聞いている。


『つまり、お前が聞かされている以外にもあるってことだな。まあ、そんなことは俺にとってどうでも良いことだ』


 そう彼は結論付けた。


 でも、わたしの頭にはぐるぐる回るものがある。


 わたしが知らなかっただけで、彼らに別の「縛り」があるなんて、考えもしなかった。


 相手の意思を無視して、強制的に従わせてしまう「命令」だけでもかなりの呪縛だと思っていたことが理由だ。


 わたしは、これ以上、彼らを縛り付けたくはないのに。

 昔のワタシはそれを知っていたのだろうか?


『差し出がましいことを言うようだが……』


 少し迷ったライトがそんな風に切り出すものだから……。


「あなたが『差し出がましくない』ことがあったっけ?」


 思わずそう返していた。


 それを言うと、彼は眉間に縦皴を刻み、少しだけ頬を膨らませたように黙った。


 この様子を見た限り、わたしは余計なことを言ってしまったのかもしれないが、なんとなく言わずにはいられなかったのだ。


 彼自身がそのことに本気で気付いていないようだから。


 彼は、確かにその出自がアレだったりするため、倫理観とか道徳心とかそういったものがわたしとはかなり異なるが、基本的に根が善人なのだろう。


 どうしてもわたしに対して、お節介を焼きたくなってしまうようで、これまでに何度も忠告、警告染みたお言葉を頂戴している。


 それが、彼自身の首を絞めかねないようなことでも。


「そうじゃなければ、わざわざ、わたしの夢に入ってこないでしょう?」


 それ自体が、相手に自分の能力を見せている。


 雄也さんみたいに隠そうとしない。

 夢に入る能力は珍しく、治癒と同じように適性がいるらしい。


 そして、夢の中なら何でもできる。


 相手を屈服させることも、支配することも、やりようによっては洗脳することすらできてしまうのだ。


 だから、周囲にバレないように、その能力はこっそりと秘匿すべきもので、誇示するものではない。


『それは、お前に聞きたいことがあるだけだ』


 まるで用意されたような答え。


「それでも、聞きたいことだけ聞いて、余計なことを言わずに去ることだってあなたにはできると思うよ?」


 それがどんなに一方的な態度や言動であっても、これが「夢」であるなら、相手は勝手に納得してくれる。


 わざわざ、こんな風に会話をする理由にはならない。


「その上で、『差し出がましい』話って何か話してもらえる?」

『お前、そこまでずけずけと言って、よく話してもらえると思えるな?』


 自分でもそう思わなくはないのだけれど……。


「その『差し出がましい』話が、実は、『本題』だと思って」


 わたしがそう言うと、ライトはかなり不服そうな顔をした。


 基本的に、この人は回りくどいし、素直でもない。


 だから、本題に見せかけて、長い前置き。

 そして、雑談に見せかけた本題。


 その流れはある気がする。


『それならば、あえて言ってやろう』


 どこか尊大な物言い。


『あの護衛たちが本当に大事なら、突き放すような物言いをするな』

「はい?」


 まさか、そんな心配をされるとは思っていなくて、わたしは聞き返した。


『突き放そうとすればするほど、お前にヤツらは執着する』


 ヤツ「ら」ってことは、九十九だけじゃなくて、雄也さんのことも言っているらしい。


「なんで断言できるの?」

『俺がそのタイプだからだ』


 きっぱりと断言されてしまった。


「なんという説得力」


 そして、それは胸を張って言うことではない気がする。


『逃げれば追いかけたくなる心理に近いが、それだけではない。ヤツらは何度も大事なものを失っている。これ以上失わないようにする意味でも、今、手にあるものは離したがらないだろう』

「だから、突き放すなと?」

『いや? 突き放すのはお前の勝手だ。それもまたお前の考え方なのだろう。俺は突き放すような言い方をするなと言っているだけだ』

「ぬ?」


 あれ?

 それって……。


『ヤツらはヤツらの利で動いている。その利がある間は離れることはない。だから無駄なことはするな。多少、突き飛ばしたぐらいで離れるほど単純ではないが、それでも傷を負わないだけではない』

「九十九たちの心を心配してくれているの?」


 それはちょっと、いや、かなり意外だった。


「違う」


 だが、ライトは否定する。


 でも、今の流れはそうだよね?


「どうせ離れないのだから、わたしに彼らを突き放すようなことを言って無駄に傷つけるなって話じゃないの?」


 そうとしか受け止められないのだけど……?


『俺はヤツらのことなんてどうでもいい』

「ぬ?」


 だが、彼はさらに変なことを言った。


『俺はお前の方を気にしている』

「わたしの?」

『ヤツらを突き放すようなことを言えば、傷付くのは結局、お前の方だろ?』


 ああ、なるほど、彼が気にしていたのはわたしの心の方なのか。


『言った側が傷付いていないと、どうして言い切れる? 「離れろ」と口にするたびに、ヤツらは全力でお前の意思に逆らうだけだ。お前の願いが叶うことはない。他ならぬヤツら自身によって全力で拒絶される』


 その表情から、彼が本気でわたしを気にしてくれていることが分かる。


 だけど……。


「本当に差し出がましい話だな~」


 わたしはそう口にした。


()()()()()()()()()()()()()()()()、それで良いんだよ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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