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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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いつも予想外

『よお』

「ぬ?」


 わたしはさっきまで雄也さんと一緒に話していたはずだが、気が付いたら、石壁が続く見知らぬ場所で、紅い髪の青年に見下ろされていた。


「……ライト?」

『おお』


 身体を起こしながら、確認すると返答があったので、本人に間違いがないだろう。


 そもそも、雄也さんの目を盗んで、わたしをこんな所に呼び出せるような人なんて、そう多くない。


 見たこともない場所だけど、多分、毎度おなじみ、夢の中だろう。

 なんで周囲が古い石造りの壁なのかは分からないけれど。


『聖女とは思えんほど気の抜けた顔をしているな、シオリ』

「本物の聖女じゃないから良いんだよ」


 わたしはそう答える。


 どんな能力があっても聖堂で認定されなければ、わたしは本物の聖女ではないのだ。


『よく言う。あれだけの『聖女の護り』を、護衛に施せる女が聖女ではない……と?』

「ぬ?」


 今、「聖女の護り」……って言った?

 しかも、「護衛」?


「あなた、九十九に会ったの?」


 ライトが言う「聖女の護り」というのは、多分、わたしが九十九に対して行ったあの「祝福」のことだと思う。


 なるほど、「精霊の祝福」を参考にして、我流で行ったあの身体強化は、本当は「聖女の護り」と言うのか。


 でも、わたしは聖女認定されていないから、「聖女の卵の護り」が正しいと、どうでもいいことを考える。


『会いたくて会ったわけじゃねえ』

「……ということは、水尾先輩を攫ったのはミラージュってこと?」


 わたしが九十九に身体強化した後で会ったなら、偶然だとは思えない。


 九十九を尾行していたか。

 九十九の目的地……、水尾先輩が連れ去られた先にライトがいたかのどちらかだろう。


『言っておくが、ミオルカ王女殿下の件は、俺の命令じゃねえからな』

「分かってるよ」


 彼なら、水尾先輩を攫わせるより、わたしを狙うだろう。


 でも、わたしがそう答えるのは意外だったようで、一瞬、彼がその赤紫色の目を見開いたように見えた。


「あなたなら、水尾先輩だけを攫わせない。絶対、わたしごと巻き込むでしょう?」

『随分、自分を高く見ているじゃねえか』

「高くというか、そっちの方が合理的じゃない? ミラージュの国王陛下は、アリッサムの王族と『導きの聖女』を探しているみたいだから」


 それなら、どちらも連れていった方が良いだろう。


「それに、水尾先輩にはわたしを。わたしには水尾先輩を。二人とも連れて行けば、互いへの交渉材料(おどし)としても使えるだろうしね」


 互いにそれぐらいの情はあると思っている。


 いや、少なくとも、わたしの方にはある!


『ミラージュの国王が「導きの聖女」を探しているっていうのは、どこで知った?』


 わたしが口にした「交渉材料(おどし)」という言葉よりも、ライトが気になったのはそちららしい。


「友人から。枕元で九十九と話している時に聞かせていただきました」


 わたしは胸を張って答える。


 ソウがいるなら、こんなことは言わない。

 だけど、もういないのなら、これぐらい言っても良いでしょう?


『お前はあの時、寝ていたはずだが?』


 おや、伝わっている?


「眠っていても、不思議と『夢の中』で音が重なることがあるでしょう? その声で目が覚めたのだけど」


 はっきり目が覚めたと思ったのは、その少し後だった。


 だけど、その前から、目を閉じていてもわたしの耳は「話し声」を拾っていたらしい。


「まあ、これが『夢の中』だから、思い出せているだけで、現実に戻ったら忘れていることだとは思うけどね」


 わたしは、夢の中の出来事をあまり覚えていない。


 だから、「誰か」がわたしに伝えたいことがある時は、しつこいぐらいに繰り返し、夢に現れる。


 それも登場人物たちの話では、優先順位みたいなのがあるらしいけど、その辺りの基準はよく分からない。


『確認しないのか?』

「何を?」

『お前の愛しい護衛と先輩が無事かどうかを』

「愛しいかどうかは置いておいて、九十九は無事でしょう? それなら、水尾先輩も大丈夫だと思う」


 遠くに離れても、伝わってくる力強い生命力(けはい)


 これが、もともとある九十九限定の感知能力のためなのか。


 彼にわたしが施した「聖女の護り」という身体強化の別の作用なのかは分からないけれど、少なくとも、九十九は大丈夫だと思っている。


「それに、今、その結果を聞いても、目が覚めたら、残念だけどわたしは覚えてないだろうから」

『意外と冷静だな』

「そうかな?」


 大丈夫だと確信しているからというのが強い。


『あまりにも帰りが遅いから、()()()()()()が美人な先輩と浮気している心配はしてないか?』

「わたしは、未婚ですが?」

『気にするのは、そこかよ』


 いや、そこが本当に気になったのだから仕方ない。


 一瞬、誰のことを指しているのかが分からなかったけれど、ライトが言いたいのはそういうことだろう。


 つまり、九十九が水尾先輩と仲良くイチャイチャしているから遅くなっているって思わないのか? ってことだよね?


 でも、ダンナ、旦那か~。


 九十九を彼氏、恋人のように言われたことはあったけど、まさか、もっと先に進んだ関係を口にされるとは思わなかった。


「でも、それならそれで目出たいことでは?」

『は?』


 あれ?

 驚かれた。


 少なくとも、九十九はなんとも思っていない人に手を出すほど器用かつ不実な男性には見えない。


 水尾先輩と仲良くするなら、それなりに誠意を持つだろう。


「九十九に大事な人ができて喜ばないほど狭量な主人に見える?」

『そっちじゃねえ』

「水尾先輩ならちゃんと九十九を可愛がってくれそうだし」

『そっちでも……、って可愛がるってなんだ!?』

「イメージの問題」


 水尾先輩が年上のせいもあるだろう。

 なんとなく、水尾先輩に振り回される九十九しか浮かばない。


『お前の考え方は時々、分からん』

「考えを理解してもらいたいわけではないからね」


 そもそも、長耳族でもない相手に考えを読まれるのは嫌だからね。


 何というか、自分が単純な人間という気がしてしまうのだ。


「まあ、二人が仲良しさんになるなら、水尾先輩の身分が問題になりそうだけど」


 水尾先輩は魔法国家アリッサムの王族だ。

 国はなくなっても、その身体に流れる血筋は否定できない。


 その気になれば、国を再興するための神輿にもなれてしまう人が相手では、障害も多いだろう。


 でも、本来なら、九十九も情報国家の王族だ。


 だから、血筋的な意味では、問題にはならないはずだけど、雄也さんがそれを避けたがっている。


 その気持ちは分かるので下手なことは言えないし、できないのだ。


『意外と冷静に分析するんだな』

「身内のことなのだから、真面目に考えるのは当然でしょう?」

『そういう意味じゃねえ。護衛が自分の手から離れることに抵抗はないのか?』

「ああ、そういう……」


 少し考える。


「九十九はわたしから離れた方が良い。あのままじゃ、躊躇なく自分を犠牲にしそうで怖いから」

『……なるほど』


 ライトはそんなわたしの考え方に納得してくれたようだ。


『だから、お前は何度も事あるごとに護衛たちを突き放そうとするんだな』

「ほ?」

『護衛に「大事な人間ができたらそちらを選べ」っていうのはそういうことだろう?』

「それはまた違うような……?」


 離れて欲しいと願う気持ちはある。

 自分をもっと大事にして欲しいから。


 でも、大事な人を選ぶのはまた別の話だ。


「多分、わたしは相手の女性に恨まれたくないだけだよ」


 あれだけの良い男たちだ。


 それをわたしがずっと独占し続けていては、世の女性たちに恨みや妬みを買ってしまうことは避けられないだろう。


『主人に嫉妬するような女をヤツらが選ぶと思うか?』


 そう言われて考える。


「九十九はともかく、雄也さんは選ぶかもしれない」


 正しくは、好みでもない人を選ぶ可能性はあると思っている。


 あの人は利害関係……、政略結婚のような申し出でも、笑顔で受けるだろう。

 それが、自分ではなく、わたしや母の利に繋がると判断したなら。


『まあ、お前たちのために自分を殺すことが日常の人間みたいだからな』


 ライトも心当たりがあるのか、そんな風に返した。


 そして、「お前たち」と言ったのは、やはりあの人が「わたしの母」を護衛対象として常に頭にあることも知っているのか。


 この人は一体、どこまで知っているのだろうか?


「そんな話をするために、わざわざ『夢の中』に招待してくれたの?」

『いや、これはついでだ』

「そっか、教えてくれてありがとう」


 わたしは頭を下げる。


 本当に「ついで」でも、二人の無事を知れたなら良い。


「それなら、本題は?」


 この人がいうことはいつも予想外だから、身構える。


 こうやって、心の準備をさせてもらえるだけマシなのだけど。


『お前たち、あの島に何の目的で近付いた?』

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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