お宝の数々
今更ながら、主人公が阿呆です。
「うわあ~!!」
わたしは思わず歓声を上げてしまった。
いや、これは叫んでもしょうがないと思う。
目の前に広がる美形少年たちの写真の数々!!
「九十九も、雄也さんも小さくて可愛い~!!」
わたしのアルバムを見せてもらったお礼にと、雄也さんが自分たちのアルバムを見せてくれたのだ。
これは可愛い!
愛でる!!
「それがここに来て一番始めに撮った写真かな。俺が7歳。九十九が5歳」
それはつまり、「高田栞」と出会う前の2人。
雄也さんは九十九にそっくりだった。
愛想のよいニコニコ笑顔で、今のような笑い方ではない。
そして、九十九は……、ぬ?
「九十九がかなり変な顔をしていますね」
警戒心バリバリというか。
得体の知れないものを見るような顔だった。
笑っている雄也さんの服の裾をぎゅっと握っていて、唇を噛み締めている。
この愛らしさは、今の九十九からは想像もできない。
「これは、近所の人が撮ってくれたものなんだけど、カメラを知らない魔界人だからね。警戒していたんだと思うよ」
「なるほど……」
初めて文明の利器に触れた時……、か。
それは確かに警戒するかもしれない。
しかも他人だしね。
いや、魔界人の文明も発達しているのだけど、電気が使えないせいで少し方向が違うんだよね。
「この写真をきっかけに、カメラを買っていろいろ撮ったよ。精密な絵に似た写真は報告に使えるからね」
それは現像代がかかりそうだ。
「……っと、この次の写真はセクハラになるか」
雄也さんが次のページを開きかけて、手を止める。
「セクハラ?」
そんな写真が存在するって……。
「人間界の暑さになれなくてね。魔界の感覚のまま、庭先で、服を全て脱いで水浴びしてたんだよ。まだ水着とか知らなかったし、そもそも、そんな恥すら知らなかったから」
「裸で、水浴び」
思わず片言になってしまった。
つまりはオールヌードらしい。
確か、小さいお子様の写真なら、写真屋さんも現像してくれると聞いたことがある。
流石に、洒落にならない年齢だと現像してくれないらしいけど。
「まあ、小学生と幼児の裸だからつまらないものではあるかな。隣人が数枚撮ってくれたみたいで、数日後に頂いたんだ」
「撮ったのは隣人だったんですか!?」
それはそれでどうなのだろう?
「しかも、俺たちは撮られたことに気付いていなかった」
「それは凄い」
魔界人である二人に気配を全く悟らせないとか……。
相手は忍びかな?
「望遠レンズで二階から撮れるという知識がなかったからね」
「しっかり、隠し撮りですね」
その技術を良からぬことに使ってないことを祈ります。
「因みに、その隣人は当時六十代の女性」
「ああ、孫を撮る感覚ですね」
悪意はなかったと信じたい。
そして、彼らに渡した以上の写真がなかったことも。
「そんな写真もあるけど見たい?」
「ふへ?」
い、今、何を……?
聞き間違いでなければ、小学生と幼児時代とはいえ、素っ裸の兄弟の写真をわたしに見せてくれる……と?
「九十九の方は本人がいないから無理でも、俺の分だけなら見せられるかな。もともと隣人だけではなく、近くを通りかかった人から隈なく観察されていたみたいだからね。話しかけられて応答していたけど、まさか観察の意図があったとは思わなかった」
いや、「隈なく」って……。
そして、通りがかりの人も、純真な小学生と幼児になんてことをしてるんですか!?
でも、将来有望そうな美形兄弟の裸体なら、確かに機会があれば見たいと思うかもしれない。
「ゆ、雄也さんは平気な人ですか?」
「まあ、十年以上も昔のものだし、今とは大きさも形も違うからね」
さらりと爆弾発言。
「違うんですか!?」
思わず聞き返していた。
え?
ナニソレ。
大きさはともかく、形も変わるの?
それって、体格のことだけじゃないですよね?
「小学校低学年のこの時期と、成人男性でもある今が全く同じだったら、流石に俺でも傷つくよ」
「そ、それは……」
女性で言えば、胸の大きさみたいなものだろうか?
確かにわたしも小学校低学年の頃よりは成長している。
男性もそんなに変わるのか。
それは知らなかった。
でも、見たいと言ってしまうのは年頃の女性としていかがなものなのか?
しかも、本人を目の前にして……。
いや、そのご本人様からの許可があるからおっけ~?
「いや、俺も意図せず、キミの水着姿を見てしまったわけだから……」
「水着ですよ? それも中学生の」
水着は、もともと人に見せても大丈夫なやつだ。
しかも色気のない紺色のシンプルなスクール水着。
小学校、中学校が男女共学なら見たことぐらいあると思う。
それに女子中学生が好きって男性もいるかもしれないけど、雄也さんはそんなタイプには見えない。
わざわざそんな未熟な年代の女子を相手にしなくても、異性には困らないように見えるし。
「栞ちゃん」
「はい?」
何故か両肩を掴まれた。
「人間の性癖は本当にいろいろある。新たな扉を開いてしまった猛者にはそんな常識が通用しないことをキミには理解して欲しい」
「はあ……」
真顔でそんなことを言われた。
言っていることは正しいかもしれないけど、そこまで深刻な話だろうか?
「世の中には健康的な少女の制服姿でも欲情する輩も多いんだ。異性に写真を見せる時は本当に気を付けて欲しい」
「はあ……」
「特に栞ちゃんは可愛くて魅力的な女性だからね。だから、ある程度自衛もしてくれるかな?」
「……はい」
いつもよりかなり真面目に言われて、「可愛くて魅力的」と言われても、照れる隙もなかった。
どうやら、異性に対してアルバムを見せる時は、その辺りもいろいろと気を遣わなければいけないらしい。
「そんな理由で、そのお返しにもならないけど、キミが望むなら見せても良いと判断したわけだ。でも、そこまで見たいものではないよね?」
「水浴び写真ですか? 見せてもらえるなら、見たいですよ」
わたしの知らない時代の2人だ。
できるなら、もっと見たいと思う。
「…………」
何故か絶句された。
暫く雄也さんは固まった後、再起動を始める。
「俺の申し出は、結構、セクハラに近い要請だったと思うけど、大丈夫?」
「今のではないのですよね? それなら、大丈夫だと思いますけど」
その大きさも形も違うらしい。
どこがどう違うのかは分からないけど、見たこともないものは、見てみたいと思う好奇心が勝る。
近年の写真でなければ、問題はない気がした。
それに本当に問題があるような写真なら、雄也さんも見せようとは思わないだろう。
いつもは寝ているような時間帯だから、わたしもどこか変なテンションになっているのかもしれなかったのだけど。
「それなら……」
そう言って、ゆっくりと開かれたページは、見事なまでに肌色一色だった。
いや、髪の毛とは勿論黒いのだけど、肌色率が高い。
会ったこともない隣人さん、頑張ってしまったんだね……。
「次のページは九十九特集だから、見ないでね」
そう言われたけど、それどころじゃない。
あまりにも無防備で純真な小学生の姿に釘付けとなってしまった。
なんだろう。
確かに真っ裸なのにいやらしさは皆無で、これはもはや芸術性を持っていると言っても良いのではないか?
「綺麗……」
この光の入り方とか、確かに隣人さんがシャッターを切りたくなるわけだよ。
二階からと聞いていたけど、俯瞰だけじゃなくて、同じ高さのもあった。
恐らく、一箇所から撮っただけでは物足りなくなったのだろう。
いろいろな角度から撮られた小学生の姿は、健康的で綺麗だった。
「し、栞ちゃん……。そうまじまじと見られるのは流石にちょっと……」
あれ?
雄也さんの顔が真っ赤だ。
それが、なんか、すっごく可愛い。
年上なのに、変だね。
「そうですか? どの写真も綺麗ですよ?」
「そんな評価をされるとも思っていなかった」
雄也さんの顔から赤みが減らない。
この状況はかなり新鮮だ。
いつもと立場が逆転している。
なるほど、確かにこれは揶揄いたくなる気持ちは分かる気がした。
だけど、やり過ぎるとかなり手痛い反撃が来ることは、九十九で経験済みだ。
これ以上は止めた方が良いだろう。
改めて写真に向き直る。
そこで、自分にはないものに思わず注目してしまった。
全裸だから当然だ。
それも、隠されもしていない。
それだけ無防備な時期がこの雄也さんにもあったんだね。
「あの……、その流れで、今の俺を見るのもやめて欲しい」
「あ、すみません」
それなら、写真に集中しよう。
それもどうかという話なのだけど、人生において、わたしは一度も実物を見たこともないものなのだ。
機会があればしっかり見たいと思うのは仕方がないだろう。
コレに関しては、漫画に出てくる簡略化されたものしか見たことはない。
春先の女子高生、女子中学生に悲鳴を上げさせる風物詩にも幸いにして、出くわしたことがないので、そこは仕方がないね。
まあ、露出狂も、相手は選ぶということだろう。
でも、コレは今とは大きさも形も違うのか。
どう違うのだろう?
形も違うのなら、普通に大きくしただけってわけじゃないよね?
だが、流石にこればかりは「見せてください」と頼むのはアウトだ。
痴女だ。
ヘンタイさんだ。
それぐらいはわたしでも分かる。
絵の資料と称すれば、わたしを「痴女」扱いする九十九はともかく、雄也さんなら引き受けてくれそうで怖い。
以前、儀式の際にそんな感じのことを言っていたし。
ああ、そうか。
つまり、雄也さんは、わたしに対して、それほど気を許してくれているってことなのか。
わたしはそう自分を納得させた。
その信頼を図る基準がこんな形というのもどうかという話なのだけど……。
隣人さんが頑張ってしまった結果、時代を経て主人公が喜びました。
これには、護衛・兄も驚いたことでしょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




