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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 音を聞く島編 ~

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共に歩める相手が見つかれば

 ぐうの音も出ないとはまさにこのことである。


「だから、今の栞ちゃんにはまだ俺と九十九が必要だと思うよ」


 それを否定することができない。

 自分でもそのことは自覚していて、それを改めて突き付けられた気がした。


 いや、分かってるんだ。


「わたしの無謀な行いを諫める人は必要……、ですよね」


 九十九や雄也さんは、わたしが本当に危険な時は止めようとする。


 先ほど話に出た大神官の襲撃事件に関しては、城門に張られた結界に対して、無謀な行動に出ようとしたときに、身体を張って止めた上で、もっと良い方法を教えてくれた。


 そして、カルセオラリア城の時は、雄也さんは危険だって止めてくれたんだ。

 それなのに、わたしが強制的に従わせようとした。


 だから、わたしの替わりに雄也さんが瀕死の重傷を負って、暫くの間、動けなくなってしまったのだ。


「いや、栞ちゃんが自由にやりたいことをやるために必要なだけだよ」

「ふへ?」


 だけど、わたしに甘い護衛は、それ以上に甘い声でそんなことを囁く。


「栞ちゃんが自分のいきたい道を選ぶ時に迷わないで済むように、俺たちがいる。だから、自分の力でその道を歩めると判断した時、初めて、俺たち兄弟が不要になるんだ」

「不要……」


 そんな日が、本当に来るのだろうか?

 想像もできない。


 その時点で、本当にいろいろ駄目だと思う。


「だから、俺たちの方から、栞ちゃんの元を離れることはない。栞ちゃんの方が判断して、容赦なくクビを切ってくれるまでは、この雇用は継続されるようになっている」


 なんだろう?


 雄也さんが言うと、「解雇(くび)」ではなく、「頸部(くび)」の意味で聞こえてしまう。


 思わず、物理的に首を斬るイメージ図が浮かんでしまった。

 グロい。


「今の段階では無理だろう?」

「無理……、です」


 雄也さんの言葉は自信に満ち溢れていた。

 わたしが「無理ではない」なんて言わないことを確信しているのだ。


 そして、どう考えても「無理」なのは自分でも分かっている。


「手っ取り早く俺たちをクビにしたいなら、栞ちゃんが婚姻することかな」

「こっ!?」


 何故、そんな話に!?


「共に歩める相手が見つかれば、俺たちは要らない。既婚女性にとって同年代の男の専属護衛なんて邪魔だし、その相手から見ても、面白くない存在ではあるだろうからね」


 わたしが驚いているのが分かっているはずなのに、雄也さんは気にせず進める。


「でも、適当に選んだ男じゃ駄目だよ? それなりに周囲が認めるような男じゃないと難しいかな」

「周囲が認めるような?」


 それって結構な良い男を捕まえろってことですか?

 これまで九十九と雄也さん以外に、近くに異性がいなかったようなわたしに?


「三年前なら、正直、誰でも良かった。栞ちゃんは王族の血を引いていても、公式には認められていないから、魔力が強いだけの女性ということで押し通せたと思う。でも、状況が変わり過ぎたんだ」

「状況が変わり過ぎた……」


 それはなんとなく心当たりがあるが、雄也さんの言葉を待つ。


「まず、『聖女の卵』となってしまったことが大きい。相手の身分に拘らなくても良いとは思うけど、神官なら現役で神位(かんい)にあるものは、聖堂建立が許される上神官以上が好ましいかな」

「大神官を除いて年齢的にかなりの開きがあると記憶しているのですが……」


 大神官である恭哉兄ちゃんとの年齢差は5歳。


 これぐらいなら許容だけど、それ以外の上神官以上の神官は、一番若い人でも実の親たちより上しかいない。


 その下の正神官ですらほぼ30歳以上だ。


 「愛があれば歳の差なんて!」って人もいるが、年の差を気にしなくても大丈夫だと自分が思えるような人は、イースターカクタス国王陛下ぐらいだろうか?


 あの王様はその言動だけでなく、見た目も若かった。

 でも、「寵姫」はちょっと勘弁してほしい。


 そして、一番若い恭哉兄ちゃんは選ぶことはできないし、選ばれないだろう。


「『聖女』の素質がある人間は神官たちの神格を大幅に上げることが可能らしいからね。でも、無能が高位の神位に就いても困るだろう?」

「そうですね」


 言葉は酷いけど、事実だ。


 「聖女」によって一時的に法力が増強されたところで、その人の実力ではない。


「まあ、つまり、大神官猊下なら大丈夫だけど……」

「わたしが無理です」


 いろいろな意味で無理だ。


 まず、ワカと争いたくはないし、そこまでわたし自身が恭哉兄ちゃんを想っているわけではない。


 恭哉兄ちゃんはずっと頼りになるお兄さんって感じだったのだ。

 今更、異性として見るというのは難しいと思う。


 何より、あそこまで綺麗な男性の隣に立ち続ける勇気をわたしは持っていない。


「そして、王族相手ならもっと慎重になる必要もある。栞ちゃんの魔力が強すぎるから、そこの国の継承権にも絡んでくることになるからね」

「おおう」


 パワーバランス的な話になるのか。

 それは面倒なことになる気がする。


「俺たちはキミを王族の第二妃以降にする気もない。少し前ならトルクスタンは理想だったんだ。ウィルクス王子殿下が魔力の強い真央さんを正妃にして王座に就けば、王弟妃として目立たずに護られただろう」


 わたしは、アリッサムの王族ほど魔力が強くないからってことか。


 そして、「聖女認定」を受けていない以上、神官に関係のない王族ならそこまで大きな影響もない。


「でも、事情が変わっちゃったからね」


 雄也さんが苦笑する。


「ウィルクス王子殿下が子を()せない時点で、王となっても王弟の子が継承権第一位になる。結局、面倒な事情に巻き込まれたかな」


 そうなると、真央先輩との関係は悪くなっていたことだろう。

 それはわたしも望みたくない。


「ストレリチア王女殿下には既に婚約者がいる。セントポーリア、イースターカクタス、現在のカルセオラリア、ローダンセ、クリサンセマムは論外だ。中心国以外の他の国は、婚約者がいるか、年の開きが大きすぎる」


 もともと王族は嫌だ。

 これまでの経験から、面倒ごとに巻き込まれる未来が確定している。


「だから、考えてみればアーキスフィーロ様は悪くないのだけど……」

「へ?」


 あまり、耳慣れない人の名前が出てきて、聞き返してしまった。


「ああ、先ほど言っていた『階上(はしかみ)彰浩(あきひろ)』くんのことだよ。彼は、ジュニファス王子殿下の側近だし、トルクスタンとの遠戚でもある。しかも最近、婚約を解消したらしい」

「婚約を解消!?」


 あの人に婚約者がいたことにもびっくりだし、しかも解消って一体、何があったの!?


「王位継承権を持つ王族は、国のために婚約者選びを慎重にする必要があるけど、傍系王族や直系王族の側近、従者は早々に婚約者を見つけることが多いね」

「か、解消の理由は?」

「気になるかい?」

「ちょ、ちょっとだけ……」


 なんだろう?

 芸能人のゴシップ記事を読みたくなるのってこういう心理なのだろうか?


 でも、知り合いのこういう話って、ちょっと胸のあたりがモヤモヤする。

 全然、違う場所で聞くというのもなんだか、酷い罪悪感があった。


「婚約者の不貞行為らしいよ」

「ふ、不貞行為!?」


 そ、それって、婚約者がいながら、他の人とってこと!?

 それは酷い!!


 確かに解消したくなる理由だと思う。


「ただ離れた場所で聞こえてくる噂程度の情報だから、そこに誤解や曲解はあるかもしれない」


 それでも、この人が言うのだから、ある程度信用できると思ってしまう。

 ある程度の確証がなければ口にしない人だから。


「当人同士に非がなくても、婚約の解消は一種の瑕疵だ。原因を作った方にも、作られた方にも厳しい目が向けられることになるから、次の相手を探すのも苦労するだろうね」

「原因となった方が厳しい目を向けられるのは分かるんですけど、原因を作られた側にも厳しい目が向けられるって何故ですか?」


 原因を作った人は自業自得だと思う。

 自分のしでかした行いなら、自分で向き合うしかないだろう。


 でも……。


「相手のやらかしたことを、我慢ができない人って判定されるんだよ。あるいは、その前に止めることも気付くことすらできなかった無能とかね。他には、不貞の場合は当人の魅力不足ともとれるかな」

「酷い!!」


 わたしは思わず叫んでしまった。


 浮気された上にそんな不名誉な噂を立てられるの?


 しかも、今回に関してはそれが自分の知っている人だと分かっているから、余計に憤りを感じているのだと思う。


 それ以外の感情は、少なくとも、この時のわたしには本当になかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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