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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間の闇編 ~

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思考が似ている

「何、やってんだ?」


 自分がいない僅かな時間。


 ここで、何が起こったのかは分からない。


 ただはっきりと分かるのは、ここがかつて魔法国家の第三王女の部屋と呼ばれた場所だったことぐらいだろうか。


「調度品が何もなかったのは幸いだったか?」


 思わず独り()ちる。


 この部屋にあったのは、隠し部屋の入り口になる本棚と、机だけだった。


 ああ、そう言えば、あの椅子は私が使っていたものではなかったなと、少しだけ思考が現実逃避をしたくなる。


 そして、その椅子は既になくなっていた。


 恐らく、目の前にいる男たちのどちらかが消し去ったのだろう。


「「この男が……」」


 奇しくも互いを指差しながら同時に口にした言葉は、声の質や高低差はあったが、僅かなずれもなく、見事なまでに重なった。


 そして、それを見て……。


「そう言えば、年下のガキだったな……」


 自分もそう口にしていた。


「「ガキ?!」」


 さらに重なる反応。


 性格は似ているようには見えないのに、不思議と思考が似ているのかもしれない。


「他人の部屋で服やそこまで髪が乱れるほど大暴れするのは、ガキの証拠だろ?」


 私は大袈裟に溜息を吐く。


 この部屋が王族の部屋で良かったかもしれない。

 契約の間ほどではないが、それなりに魔法耐性が高い部屋の造りになっているはずだ。


 結界こそなくても、その周囲はカルセオラリア製の壁でできていた。

 つまり、簡単に、外に魔法が通らない。


 そして、仕掛けが施されていた本棚も机も同じくカルセオラリア製だ。


 本来なら自分の魔力の暴走に備えられていたはずの部屋は、自分がいない間に彼らの戦いの場になったらしい。


 人の部屋をなんだと思っているんだ?

 荒れ地と間違ってないか?


 そう思わなくもないが、互いの立場からこうなることは自然でもある。


 どうせ、互いにあの後輩のことで挑発し合って、その結果、大乱闘に至ったのだろう。


 そんな彼らを「ガキ」と称する以外にはない。

 尤も、彼ら二人の状態にも違いはあった。


 黒髪の青年は髪を乱してはいたが、平然としていた。

 対する紅い髪の男は、髪や服がかなり乱れ、その息も荒げている。


 分かりやすく、一方的な展開になったようだ。

 そして、その原因にも心当たりがある。


 本来、彼らの魔力、魔法力には、そこまでの差はないと思っている。


 やや、黒髪の青年の方が上だとは思っているが、それも簡単にひっくり返るぐらいの差だ。


 だが、これは、黒髪の青年の方が常識外れ(規格外)だといえる。


 紅い髪の男は、多分、非公認の国ではあるが、王族と呼ばれる存在ではあるらしい。


 そして、国家の在り方はともかく、人間の身体に宿る魔力や魔法力については、他国の公認など要らないのだ。


 人間の身体にある体内魔気と呼ばれる魔力の素は、大陸神の影響(加護)によって大きく左右される。


 だから、非公認国家であっても、王族と呼ばれる血筋ならばかなりの魔力を持っていても不思議ではない。


 それに肉薄どころか超えているというのは、同じように大陸神の影響が強い人間しかありえないはずなのだ。


 考えられるのは、同じく、大陸神の加護が強い王族の血が流れていること。


 あるいは、後輩の母親のように特定の神の加護が強すぎるほど気に入られていることだろう。


 以前、出会った精霊族によれば、この黒髪の青年は数種類の神の加護を受けているらしい。


 さらに、その力を、その精霊族の祝福とやらで増幅されていた。


 同じ時に、自分も似たような祝福を受けたから実感したが、あれは本来の力を少しだけ増強させている。


 だから、この黒髪の青年が、少しだけ普通から外れていることは分かるのだが……。


「そいつが突っかかってこなければ、オレだって大人しくしてましたよ」

「抜かせ。少し揶揄っただけで過剰な反応をしやがって……」


 端的だが、分かりやすい粗筋(せつめい)であった。


 自分がいない僅かな時間でこうも場が荒れたことは予想外ではあるが、ある意味、自然な流れと言えなくもない。


 古今東西。

 男がお気に入りの女を取り合う姿なんて珍しくはないのだ。


 だが、せめて、他所でやって欲しいとは思う。


 自分の物はほとんどなくなっているが、それでもこの部屋は自分の部屋だった場所なのだから。


「せっかく、お宝を見せてやろうと思ったのにな」


 私はそう言って、机に持ってきた魔法書を載せた。


「お宝?」

「ああ、魔法書か」


 私の言葉に興味を引いた黒髪の青年は近付き、紅い髪の男はちらりと見て、興味を失った顔をする。


 だが、甘い。

 これを見て、完全無視できると思うなよ?


「中学校時代の写真が出てきたんだ。勿論、()()()()()()()()()()()


 そう言いながら、一番上に載せていた冊子(アルバム)を開く。


「こ、これは!?」


 覗き込んだ黒髪の青年は驚きの声を上げる。


 その最初のページには後輩と私が並んだ姿があった。

 2人で「4」と書かれた白い布を持っている。


 ソフトボールや野球での「4」は、「二塁手(セカンド)」と呼ばれる守備位置を表すものだ。

 スコアブックと呼ばれる試合の流れを記すものにも書かれているらしいが、私はそこまで詳しくない。


「それは、卒部記念の時だな。背番号の引継ぎだ」


 当時の部活動の指導者が背番号と守備位置に対して妙に拘る人間だった。


 私は生徒会活動で部活にほとんど顔を出せなくなっていたが、それでも、私に「4」の背番号を渡し、後輩は私が卒部するまで「14」を背負っていた。


 三年生10人、二年生11人だったからできた話でもある。

 もっと人数が多ければできなかっただろう。


 一年生は、もっと少なかったか?

 あまりもう覚えていない。


 二カ月程度の付き合いだったからな。


「栞の髪が長いですね」

「三年前、受験直前はもっと長かったはずだぞ。腰ぐらいまであったはずだ」


 ここ数年、セミロングが定着している後輩は、久しぶりに再会した時には、何故かショートカットになっていた。


 思い切ったものだと思ったし、彼氏ができたみたいなことを言っていたが、そのためにばっさり切ったのかと思っていたのだ。


 付き合う男の趣味に合わせて、自分の髪形を変える女っているらしいからな。


「これぐらいの長さなら、もっといろいろいじれるな」


 だが、その当時の彼氏役だった男のこの反応からすると、そういったわけではなかったみたいだ。


 そうなると気分転換、心境の変化だったのか?


 あの後輩は妙に思い切りが良いところがある。


 だけど、今更、それが気にかかるのは、写真を通して、あの頃の彼女の姿を見てしまったからだろうか?


「水尾さん、まだありますか?」

「あ? ああ、ある」


 最初の一枚だけでは物足りなくなった黒髪の青年に声をかけられ、慌てて反応する。


 部活動だけを貼り付けたアルバムではあるが、中学一年時の写真はほとんどコレには貼っていなかった。


 彼女と出会った二年生、三年生の写真だけが妙にある。


 考えてみれば、一年生の頃の自分はまだ浮いていたのだと思う。


 あの後輩が懐いてくれたおかげで、あの部活動でも、「先輩」らしくなることができたのかもしれない。


「高田が写っているのは……」


 意外とある。

 ページをめくりながらそれに気づいた。


 同じ学年の他の部員よりも明らかに一緒に写っている写真が多い。


 同じ守備位置だったために一緒に写り込みやすかったということもあるだろうが、それを差し引いても多い気がする。


「シオリは、()()()()()()()()()()()()な」


 ポツリと別方向から声が漏れた。


「あ? なんで、お前が知っているんだ?」

「自分自身がある程度、見ていたということもあるが、ソフトボール中に関しては、『ソウ』からも聞いていた」


 堂々としたストーカー発言に含まれるその言葉の中には、どこか感傷的な響きがあった。


「来島か……」


 黒髪の青年が分かりやすくその表情を変える。


 どうやら、共通の知人の話らしい。


「この試合に覚えがある。それなら、ああ、やはり、ここに写っているな」


 アルバムの写真の中にいた一人の人間を指し示しながら、紅い髪の男は苦笑する。


 それは、私にとって最後の試合となった大会の写真だった。

 それだけに、様々な角度で撮られた多くの写真があったようだ。


 二学年下の部員の保護者の中に、かなりの写真好きの人間がいたことも理由だろう。


 実際、一番活動期間が短かったはずの三年生の写真が一番多い。


 写真ってフィルムの現像代もそう安いものではなかったはずだが、趣味に生きる人間というのはそんなものらしい。


「……マジでアイツ。()()を見ていたのかよ」


 黒髪の青年は、思わず昔の呼び名に戻っていた。


「この時代のあの男は、俺以上に『高田栞』を追っていたからな」


 その言葉に、黒髪の青年は露骨にその表情を崩す。


「分かりやすい嫉妬だな」


 それに気づいた男が青年を揶揄うようにそう言った。


「この頃のオレは接近禁止令が出てんだよ」


 不服そうなその言葉に、それは青年の意思ではないことが分かる。


 だが、それは意外な言葉でもあった。

 あの後輩の護衛である彼が、彼女の傍にいない時期があったのだ。


 あの世界で四六時中赤の他人が張り付くことは難しい。


 それを考えてみれば、当然の話でもあったのだが、仲睦まじい二人しか知らない自分には俄かに信じられないことでもある。


 だけど、それ以上に驚くべき言葉があったことを、この黒髪の青年は気付いただろうか?


 王族が気になる人間を部下に監視させることは珍しくもない。

 どんなに暇人でも、いつも自分が見張り続けることなどできるはずがないのだ。


 だが、この男は、その部下が、その時立っていた位置まで知っていた。

 それも、四年……、いや、五年近く昔の話なのに。


 これは一体どういうことだ?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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