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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間の闇編 ~

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どちらも同類

「ところで、そんな話をするためにここで待ち伏せをしてたのか?」

「そうだな。ミオルカ王女殿下ならば、ここがどこか分かれば、この部屋には必ず来るだろうと思っていた」

「つまり、ここはアリッサム城ってことに間違いはないのか」

「そうなるな」


 否定はされなかった。


 つまり、この空中に浮いていた城塞とやらは間違いなくアリッサム城だったものということになる。


 あの華やかだった城はもうない。

 こんな形でそれを理解することになるとは思わなかった。


 だが、今はそれよりも……。


「水尾さん?」


 私は、扉を塞ぐように立っていた青年を押しのけて、部屋の中に入る。


 彼はその背中でずっと庇ってくれたのだろう。

 だけど、これは私が確認しなければならないことだ。


 その部屋は、私の見知った部屋とは大分、様子が変わっていた。


 調度品はほとんどなくなっており、あるのは紅い髪の男が座っている机と椅子、あとは、本棚だけだった。


 この机と本棚は固定されているため動かせなかったのだろう。

 だが、本棚からは中身が取り出されていた。


 そこにあったはずの魔法書やそれ以外の本はきれいさっぱり無くなっている。


 当然だ。

 侵略した場所の状態を保つ理由などない。


 そして、誰の目にも分かりやすく価値があるものは奪われ、失われるのは自然の流れでもあるだろう。


 だけど、見覚えのある机と本棚の存在で、この部屋の昔の所有者が誰なのかがよく分かった。


()()()()()() ミオルカ王女殿下」

「ああ、()()()()だからな」


 豪奢な置物も、敷物すらなくなっている殺風景な部屋。

 それでも、間違いない。


 ここは……、私の部屋だった場所だ。


「自分の部屋だった場所ぐらい、覚えている」


 わたしは5年間、人間界と呼ばれる場所にいた。


 それから、帰ってきて僅か一カ月ほどで、もう二度と戻ってくることができなくなるとは思いもしなかった。


 こんな感傷が、自分にもまだ残っているとは思わなかったが、この部屋で過ごした時間を忘れられはしなかったらしい。


「水尾さんの……部屋……?」


 黒髪の青年も改めて周囲を見る。


「ここがアリッサム城で、彼女はその国の王女殿下なのだから、私室があることぐらいおかしな話ではないだろう?」

「なんで、お前がここを水尾さんの部屋だって知ってるんだよ?」

「アリッサム城の中央塔にある王族の間。女王陛下、王配、第一王女殿下、第二王女殿下、第三王女殿下の部屋の位置ぐらいは知っていてもおかしくはない」

「いや、おかしいだろ? 王族の部屋の位置図はある意味、最重要機密じゃねえか?」


 言われてみればそうだ。


 普通は王族の部屋がどこにあるのかなんて、城内の人間でも警護や世話役担当以外、知るはずもない。


「セントポーリア城、西の塔。そこに住んでいた女や、その愛弟子たちの部屋の位置も覚えているぞ。今はもう別の人間たちが入り込んでいるけどな」

「お前は一体、何者なんだ?」


 その会話だけで、それが誰の部屋について言っていたのかを理解する。


 そして、彼らの師匠は女だったのか。

 それは多分、初めて知ったかもしれない。


 聞いたことはあったかもしれないが、忘れている。


「各国の王族のことは調べてしかるべきだし、シオリに関係する人間を警戒するのは当然だろう?」

「ああ、本当に昔からのストーカーだったのか」

「お前たち兄弟より出会いは早かったからな」

「気持ちが悪い」

「お前たち兄弟の執着心ほどじゃない」


 私からすれば、どちらも同類だった。

 こんな男どもに執着されているあの後輩に心底、同情したい。


「それより、ミオルカ王女殿下。探し物だろう? ヤツらは皆、逃げたが、ある程度時間が経てばまた戻ってくるぞ」

「お前は何故逃げないんだ?」


 私がこの部屋に来た理由はバレているらしい。


 だが、いつまでもこの場所にいる男の方が気になった。


「現時点では俺に逃げる理由がない。警戒すべきあの情報国家がこの場所を嗅ぎつけるのは、お前たちが帰った後だろうからな」

「証拠隠滅しないのか?」


 その方が手っ取り早い気がするのだが……。


「ミオルカ王女殿下はこの城の大きさや質量を理解されてないのか? この大きさの物がこの高さから地上に激突すれば、どこに落ちても大惨事だ」


 呆れたように言うが、物理法則を捻じ曲げるほどの奇跡である魔法があるこの世界で、そんなことを真面目に考えるだけ無意味だろう。


「まだ理解されてないようだから付け加えさせていただくが、どの国のどの城でも魔法を無効化する空間が存在する。そして、このアリッサム城は、その区画が他の国と比べても桁違いだ」

「無効化する空間?」


 そんなものがあったか?

 しかも、どの国にもある?


「水尾さん、多分、『契約の間』のことですよ。あの場所の壁は例外なく、全ての魔法を弾くでしょう?」

「あ~、確かに他国よりは広いな」


 ストレリチア城や大聖堂、カルセオラリア城でも「契約の間」を見たが、我が国よりはずっと狭い。


「それにアリッサム城内にはそれ以外にも、演習場と言う名の異空間があると聞いています。それらを合わせれば相当な広さとなるのでは?」

「演習場……。ああ、聖騎士団と魔法騎士団の模擬戦は見応えがあったな」


 三カ月に一度の魔法祭もそこで行われていた。


「演習場で騎士団規模の模擬戦……?」


 黒髪の青年が首を傾げる。


「100人規模の集団模擬戦だ。それを週一規模で行うんだぜ、この魔法()鹿()国家。正気じゃねえよな」


 今、何か不名誉な単語が差し込まれた気がする。


「騎士団が編成して魔法訓練しなくてどうするんだよ?」

「それでも、100人規模で週一はやり過ぎですよ」

「他国は多い所でも30人規模の小隊訓練だ。それも数か月規模で行う。アリッサムは明らかにおかしい」


 何故か故国を異端扱いされた。

 それも二人がかりで。


 確かにアリッサムから離れて、ストレリチアやカルセオラリアに長期滞在していた時に不思議だったんだ。


 なんで、中心国なのに、魔法の訓練が少ないのかって。

 それをトルクに言ったら「魔法国家と一緒にするな」と返された覚えがある。


 普通だ、当たり前だと思っていたことが完全否定された瞬間だった。


「それに訓練しても、その現状が今じゃないのか? ミオルカ王女殿下。イベントやストレス解消感覚で魔法訓練をして、まともな闘争心が育つかよ」


 確かに緩い部分は否定しない。

 それに、どこかなあなあになっていた部分もあった。


 だけど……。


「あんな訓練で、この護衛兄弟のような奴らを倒せるか? せいぜい、聖騎士団長の火力に期待……ああ、あんな単純な力圧しでは、護衛兄に動きを封じられるか、護衛弟の動きに翻弄されるかのどちらかだな」


 その言葉を聞いて思わず、紅い髪の男を見て、直後、黒髪の青年を見た。


 脳裏に浮かぶのは、黒い髪の聖騎士団長。


「あの男にそんな一般的な道理が通じるかよ」


 思わずそう言っていた。


 あの男は本当の意味で規格外だったのだ。


 少しぐらい策を弄したところで、そこまで考えて、逆にこの兄弟があの男に簡単に負ける図というのも想像できなくなった。


「おいおい、ミオルカ王女殿下。それでは、この護衛兄弟たちが()()()()()()()()()()()()()みたいじゃないか」


 その言葉に思わず納得しかかる。


 この兄弟たちを「一般」の枠に入れることができないなんて、私はとっくに理解していたから。


「おいこら。さりげなく、オレたち兄弟を落とすな」

「いやいや? 俺は十分、持ち上げているつもりだが?」


 言葉が悪くて惑わされそうになるが、確かにこの紅い髪の男は、この兄弟たちの実力を買っている気がする。


 いや、それ以上に、先ほどから聞いている限りだが、この黒髪の青年とは奇妙な友情関係にあるようにも思えた。


 なんだ?

 この違和感。


 あの後輩のことがなければ、こいつら、実は友人になっていてもおかしくなかったんじゃないか?


 だが、そう思いかけて、あの後輩がいなければそれもあり得ないことかと納得もした。


 彼らのこの奇妙な関係は、あの後輩の存在にあるのだ。


 だから、あの後輩がいなければ、もっとこいつらの関係は殺伐としていたはずだ。

 いや、互いに出会うこともなかったかもしれない。


 私はなんとなくそんな気がしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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