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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間の闇編 ~

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基準がおかしい

「ところで、ここはどこなんだ?」


 割と今更な質問をする。


 でも、私は連れてこられた時に意識はなかったので、この場所のことを何も知らないのだ。


 黒髪の青年は、移動魔法などを使って自力でここまで来たのなら、私よりは知っていることだろう。


「空中にある城塞って感じですね」


 ああ、そういえば、あの紅い髪の男も魔法が使えない状態では墜落死とか言っていたな。


 高い所にあるとは思っていたが、空中にあったのか。


「高さは?」

「はっきりと言い切れませんが、高度11,500メートルくらいでしょうか」

「いちまん……?」


 なんだ?

 その耳慣れない言葉は。


 高度という言葉は知っている。

 だが、そこまでの数字はあまり聞かない。


 日本で一番高い山だって、4,000となかったはずだし、世界で一番高いと言われていた山すら1万超えはなかっただろう。


「旅客機の飛ぶ高さが、ちょっとうろ覚えですけど、約3,300フィートぐらいだったかな。だから、約10,000メートルですね。それよりちょっと高いぐらいです。オレでも飛べなくはなかったですね」

「ああ、飛べない高さではなかったのか……って、いや、基準がおかしい!!」


 生身の人間が、航空機の高さを飛ぶってことがおかしいと気付け。


 しかも、それって、地道に飛んできたってことか?


「あ、あれ? そうなると、酸素濃度とか、気温の問題は……」

「外にいる時は自分で調整が要りましたが、この中は、人の生活環境に適した状態に保たれているみたいです。どこかにエアコンみたいなものがあるんでしょうね」


 エアコン……。

 人間界にある「空気(エアー)調節をする機械(コンディショニング)」という機械の名前だっけか。


 あれは良いものだった。


 誰もが体内魔気の自動調整だけで、どんな場所にも適応できるわけではない。

 しかも、私は体内魔気がまともに働かず、環境適応することができなかったはずだ。


 ここに来た時にいた場所は、少し息苦しさはあった。


 場所が場所だけに、快適な調整ではなかったようだが、死なない程度には気温などの調節がされていたのだろう。


 だが、この部屋に来てからはほとんどその息苦しさも感じなくなり、快適になった気がする。


 あれは、精神的なものだと思っていたが、そうではなかったことはよく分かった。


「人間界でも航空機内は快適だったでしょう? この城塞にあれと似たような設備があるんだと思います。そうでなければ、マイナス50度以下の気温なんて、とてもじゃないけど、生身には辛いでしょう? 酸素どころか空気そのものが薄い世界ですしね」


 さらりととんでもないことを言う黒髪の青年。


「あ~、九十九は、生身で来たんだよな?」


 そんなとんでもない高さの場所(せかい)に生身で飛ぶとか。

 上空10,000メートルの世界なんて、私でも自分の魔法で行ける気がしないんだが?


「高さはすぐに分かったので、事前にある程度、準備はしましたよ。それに、栞のおかげでかなり楽できましたし」

「あ?」


 そこで何故、あの後輩の名前が出てくるんだ?


「出掛けにかなり強力な身体強化をしてくれました」


 何故か照れくさそうに破顔させながら、青年はそんなことを言った。


「し、身体強化!? 高田が!?」


 これまでほとんど魔法を使うことができなかった後輩が、他者への強化魔法を使うようになったことを知って、私は驚くしかない。


「本人は身体強化を使った意識があったかは分かりません。それでも、自分が行った身体強化が、いつも以上に効果的だったので、慣れるまでに少し時間がかかりました」

「意識なく、他者に身体強化が使えるもんなのか?」


 普通はありえない。


 自分に対してなら、無意識に強化することはよくあるけど。


「栞は使えてしまうみたいですね。()()()で、()()()()()()で」

「しかも、無詠唱だと?」


 この青年が「強力」な身体強化だというのなら、本当にかなりのものだと思う。

 自身の変化に対して、贔屓目欲目で目を曇らすような男ではないから。


 しかも、慣れるまでに時間がかかったとなれば、能力の上乗せが1.1倍とかその程度の強化ではない気がする。


「さ、参考までにどれだけの強化があったかを確認して良いか?」


 私がそう言うと、青年は自分の身体を撫で回す。


「分かる範囲ですが、魔法攻撃耐性、物理攻撃耐性、魔法攻撃力強化、物理攻撃力強化、行動速度強化は間違いないですね。他には状態異常耐性と、多分、治癒能力強化。後は、体内魔気の自動調節でいつもよりも魔法力を使っていない気がします」


 私は種類を聞いたつもりではなかった。


 だが、思っていた以上にその種類が多すぎる。


 どれだけ時間をかけたのか?

 しかも、その種類をたった一人でやったのか?


「効果はどれぐらい出ている?」

「魔法攻撃耐性、物理攻撃耐性に関しては、間違いなくオレが使っているものより遥かに強いですね。下手すれば、ほとんどの魔法と武器を無効化するかもしれません」

「ちょっ!?」


 なんだ、その異常な強化は。


「試されますか? 魔法国家の王女殿下」


 驚く私に対して、挑発的に笑う護衛青年。


 そこにあるのは絶対的な自信。

 いや、絶対的な信頼か。


 だが、見た目ではそこまで分からない。

 私の眼でも読めない。


「私も今はそんなに魔法が使えないぞ?」


 体内魔気は全身を巡っているが、「『魔封石(ディエカルド)の首輪』」をそれなりの時間、身に着けていたせいか、違和感がまだ残っている。


 ところどころ交通渋滞を起こしているようで、綺麗に巡ってはいないのだ。


「火属性の魔法なら先ほど使えたでしょう?」

「いや、そこまで自信があるなら、いっそ、最大級の魔法をぶち込みたくなるだろ?」

「魔法国家の王女殿下?」

「魔法国家の王女殿下だからこそ、魔法に関してはきっちりと落とし前を付けたくなるんだよ」


 しかも「最大級の魔法」と聞いても、その顔色は変わらなかったのだ。

 大半の人間は、その言葉だけで顔が蒼褪めたり、色を失くしたりするのに。


 それなら、全力で試してみたいと思うのが、魔法国家のサガだろう。


「でも、ここの結界の強度が分からんな~」


 せめて、それが分かれば、試せるのに。


「本当に城塞なら、契約の間があるかもしれませんが」

「それだ!!」


 人間が生活しているなら必ず、その住居区域には「契約の間」と呼ばれる部屋が存在する。

 そして、そのほとんどは魔法を無効化する壁でできているはずだ。


 そこに行けば……。


「全力を出せる!!」

「本気ですか?」


 それでも顔色は変わらない。


「煽られたからな」

「お手柔らかに願います。それと、効果時間は分からないので、効き目がなくなった時はやめてくださいね」

「魔法をぶっ放した直後に切れたら楽しいな」

「……オレは楽しくないですよ」


 流石に顔色が変わった。

 本来の魔法耐性では不安らしい。


 その顔を見て、少しだけ、気が晴れた。

 魔法に関しては、相手に余裕ぶられると腹立たしいのだ。


「じゃあ、『契約の間』を探すか」

「……脱出は?」

「私の体内魔気がもっと落ち着いてからの方が良いだろ? それとも、私を抱えて10キロ以上離れた地上に降りる気か?」


 今の私は浮遊系魔法と移動系魔法は使えない。


 そうなると、抱えられるか。

 それとも、背負われるかのいずれかになるだろう。


 あの後輩の扱いを見ていると、「担がれる」も選択肢にある気がした。


「もともとオレはそのつもりだったんですが……」

「それでどうやって立ち回る気だよ?」


 担いでも、抱えても、背負ってもその両手は塞がってしまう。


 その上、空中浮遊と体内魔気の調整なんて無謀だろう。


「水尾さん、栞の護衛をする人間が、それぐらいできないと思いますか?」

「ああ」


 この青年の主人を思い出す。


 彼女が自分の意思で魔法を使えるようになったのは、ごく最近だ。


 それならば、こんな事態を想定して……。


「いや、地上10,000超えの世界で女抱えて立ち回るなんて普通、考えねえ」

「気温マイナス50度。酸素濃度を薄くし、重力を地球の二倍にした空間で、60キロの水袋を抱えて兄貴の攻撃を回避する訓練ならしたことがあります」

「どこの亜空間を想定してんだ!?」


 気温は分かる。

 ある程度の範囲までなら魔法で下げられるから。


 酸素濃度が薄いなら、高山に行くことを考えたか?


 だが、重力を増やす意味だけは分からない。

 しかも60キロって、あの後輩はそんなに重いって考えていたのか!?


「しかも、そこは砂袋じゃないのか?」


 なんとなくそう言ってみる。


「袋の性質や詰め方にもよるんでしょうけど、水袋の方が腕から逃げるんですよ。砂や土は、重いだけで、意外と固定しやすいんです」


 それは笑顔で言うことじゃない。


 そして、あの先輩は何を考えて自分の弟をこんな男に育てたんだ?


 しかも、それがちゃんと活かされている辺り、全てはあの人の手の上にあるような気がして、なんとなく嫌になるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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