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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間の闇編 ~

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お先真っ暗

 いずれ、他国に嫁ぐ身だと分かっていた。


 だけど、どこからもそんな申し出はないと聞かされ続け、それを信じていた。


 だから自分は、魔力と魔法だけが取り柄で、それ以外の魅力を持たない人間だと思って、19年ほど生きてきたのだ。


 それが、今更、「実は申し出がありました」と、全く関係のない第三者から知らされても、疑うしかないだろう。


「知らなかったことにびっくりだ。幼い頃から魔力も強く、魔法力も豊富。魔法も多才。それだけでも垂涎の的なのに、容姿も優れている上、勉強家で努力家。王族としての責務も強い。それだけの人間が、その歳まで売れ残るなんて、意図的に決まっているだろ?」


 褒められているのか、けなされているのかよく分からない。

 だが、この男の言いたいことはよく分かった。


「女王陛下が私への求婚を阻んでいたってことか」

「俺が知っている限り、フレイミアム大陸からはクリサンセマムとヒューゲラ。ライファス大陸からはイースターカクタスとアストロメリア。ウォルダンテ大陸からはローダンセ。そして、スカルウォーク大陸からはカルセオラリアとメディオカルカだったかな」


 思っていた以上に多かった。

 そして、気になる名前がいくつかある。


「その中なら、美食国家アストロメリア()()だな」


 私が真面目にそう言うと、紅い髪の男が噴き出した。


「さ、流石、料理の苦手な人間が育つ火の大陸出身者の言葉だな。だが、()めとけ。アストロメリアの美食国家は高級食材や稀少食材を使った珍味の追求だ。あの護衛が作るような方向性のものではない」


 笑いながらそう言われた。

 だが、他国の人間に、私のこの気持ちは分からないだろう。


「それでも、アリッサムの料理よりはずっと……」


 それ以上、続けることはできなかった。


 すっかりこの舌は人間界によって変えられ、さらにあの護衛青年が作る料理に胃袋をがっちりと掴まれている。


 人間界での五年と、国がなくなって三年。

 もうあの国の料理に戻れる気がしなかった。


「想像以上に苦労してんだな、アリッサム出身者」


 同情されても嬉しくはない。


「だが、中心国も三国ほど名を連ねている。逆に、全く知らされてなかったのは驚きを通り越して異常だな」


 ローダンセは分かる。


 恐らく相手は正妃の子だ。


 だが、長子ではないため、魔力の強い人間を入れ、確実に王位継承者になろうとしているのだろう。


 イースターカクタスは一人息子だが、あの国王陛下のことだ。


 上手くいけば、アリッサムが秘蔵している古代魔法に触れることができると判断したのかもしれない。


 残念ながら、その秘蔵されている古代魔法の数々は、第三子には知らされていない。

 いや、もしかしたら、長子も知らなかった可能性はある。


 女王として即位する時に知らされるはずだったのだから。


 だが、カルセオラリアはどっちだ?

 その当時、王子は二人いた。


 そして、どちらも年の差はそこまで開きがない。


 カルセオラリアは中心国の中でも魔力が強くないのだ。

 だから、マオの申し出に乗った部分もある。


「カルセオラリアはトルクスタン王子殿下の方だ。ウィルクス王子殿下には当時、婚約者がいた。流行り病で夭逝したらしいがな」


 だから、アリッサムが崩壊した時点で、ウィルクス王子殿下は婚約者候補すらいない身だったのか。


 あの国で王位継承権第一位の人間が、年齢まで全く婚約者候補となる女がいないはずがないとは思っていたが、やはりいたんだな。


 マオは、知っているのだろうか?


「因みに打診は10年前。残念だったな、ミオルカ王女殿下」

「全く」


 そう答えたが、紅い髪の男はニヤニヤと笑うだけだった。


 なんかこの男にはいろいろと読まれている気がする。


 単純に、この男はあの後輩のストーカーってだけじゃないようだ。


 確かに10年前なら私は飛びついていただろう。


 まだ世界が狭く、アリッサムとカルセオラリアぐらいしか知らなかった時期だから。あの頃の私は、調薬に目を輝かせるトルクのことが嫌いではなかったのだ。


 断った女王陛下に心より感謝する。

 今となっては、トルクはあり得ねえ。


 それ以外の国も分かりやすく魔力目当てだ。

 いっそ清々しい。


「クリサンセマムは現国王の第二王妃として、だったらしい」

「まあ、年が離れているからな」


 第二王妃としてでも問題はない。

 私の立場上、そうなっても女王陛下から勅命を受ければ、受諾以外の選択肢はないのだ。


 だが、そっちも断ってくれてよかった。


 あの中心国会議。

 初めてまともに見たクリサンセマムの国王は、本当にクソだった。


「クリサンセマムの正妃も、貴女と変わらん。現在、18歳だ。丁度三年前、クリサンセマムが中心国に任命される際、譲位すると同時に、正妃がいないのは格好がつかないからと乗物国家ティアレラの王族で婚約者だった娘と慌てて契り、形を整えたと聞いている」


 確かに王位継承時に正妃となるべき王子妃がいなかったために、格好がつかないのは分かるが、当時15歳ぐらいだと?


 あの後輩と変わらんじゃないか。


「聞けば聞くほど、本当にただのクソじゃねえか」


 思わず心の声が口から出ていた。


「おいおい。王女としてというより、女性としてどうかって口調になってるぞ」

「だって、クソだろ?」


 しかも慌てて……とか。


 状況的に仕方ないとはいえ、あんまりな話じゃねえか?


「歳の差婚は、アリッサムでも珍しくない話だろ?」

「確かにそうだが、この場合、問題となるのは年齢の開きじゃなくて、経緯の話だ」


 しかも、婚約者は乗物国家ティアレラの王族。


 スカルウォーク大陸出身者はカルセオラリアだけではなく、全体的に魔力がそこまで強くない者が多い。


 輸送国家クリサンセマムとしては、利害関係による婚姻の約束をしたが、国を支える魔力を考えて、アリッサムの王族に目を付けたということか。


 それは今でも必死になるわけだ。

 フレイミアム大陸を支える中心となっていたアリッサムがいなくなったのだから。


 そして、あの中心国の会合で交わされた会話も、そんな視点から見ればまたいろいろな意味が見えてくる気がした。


「もし、クリサンセマムと婚儀の話が出ていたら、第二王妃って点は腹が立たないのか?」

「別に。輸送国家が乗物国家を優先するのは早急に必要だったことで、魔力の保持はあの時点ではそこまで問題じゃなかったはずだからな。理解はできる」


 周囲の思惑は分からん。

 今、その正妃が18歳なら、既に19歳となっている私の方が間違いなく年上だ。


 年下の正妃と、年上の第二王妃を周囲がどう見るか。


 しかも、自大陸の中心国の王族より他大陸の中心国になる資格すらまだない新興国家の王族だ。


 いろいろ面倒なことに巻き込まれた可能性もあるな。

 まあ、起こらなかった仮定の話を考えても仕方がないことなのだが。


「では、国のない今なら?」

「それをお前たちが言うか? ミラージュ(その原因)

「尤もだ。ミオルカ王女殿下」


 私は笑みを形作ると、男も笑った。


 フレイミアム大陸の環境が不安定なのは、カルセオラリアにいた時にトルクからも聞いている。


 気候も安定しないし、大気魔気が暴走しやすくなっているそうだ。

 それは、現代魔法が制御しにくくなっていることを意味している。


 その原因は、中心国だったアリッサムが消えたからだと噂も絶えない。

 もしくは、クリサンセマムに中心国の資質なしと考えられている。


 あのクソ国王に資質なんかあるかよ。

 中心国の会合なんか、集団に囲まれてボコボコにされていたじゃねえか。


 しかも、情報国家の国王陛下を怒らせたり、剣術国家や法力国家を揶揄したり、あの国の立場も弁えずに、全方位に敵を作るとかただの阿呆だろ?


 違った。

 これは、私怨に満ち溢れた考え方すぎる。


 大気魔気が不安定なのは、それを抑える魔力が足りてないだけだ。


 つまり……。


「クリサンセマムは、今でも必死にアリッサムの王族を探している。第一王女殿下がすでに他の男の物であっても強引に奪い取るような勢いだ」

「無理じゃねえか?」


 私は即答した。


 あの時点で、第一王女をモノにできそうな男は一人しかいなかった。


 名は「ラスブール=ベリア=ローレス」。

 アリッサムの聖騎士団長だった男だ。


 そして、妄信的な第一王女崇拝者でもある。


 あの男から、第一王女を奪い取る?

 そのためには数回ほど国を滅ぼす覚悟がいるな。


 他の三国からすれば、迷惑な話でしかない。


「ああ、無理だ。クリサンセマム国王は、客観的に見る目がない。自分の理想が形になると思い込むところがある。そこが、我が国の国王陛下に酷く似ていて笑える」

「見る目がない上、理想を思い込むって……。為政者としては三流以下だろ」

「フレイミアム大陸のお先は真っ暗だな」


 その原因を作り出した国の人間が言うことではない。


 それに……。


「そちらの国王陛下も似たようなタイプなら、もっと真っ暗なんじゃないのか?」


 少なくとも、統制が取れていない。


 その国王陛下の息子と思われるこの男が、既に父親を見限っている気がする。


「真っ暗だよ」


 私の嫌味にもあっさりと笑いながら男は答えた。


「元から、『闇の大陸』の住民に、救いの光なんかあるわけないだろ」


 そんなどこか悲しい言葉を。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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