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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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1300/2798

思っていた以上にやらかしていた

祝・1300話。

「竜巻に呑まれた人間は29名。その全てが、意識の回復をしていないまま、放置してきた」

「…………」


 どうしよう。

 被害状況を聞いたのは良いが、始めから突っ込みどころしかない。


 思っていた以上に、その人数が多かったとか。

 その相手の意識が回復していないとか。


 しかも、放置していろいろな意味で大丈夫なのか? とか。


「その29名全てに命があったことと、四肢を寸断された者はいなかったかな。一番の重傷者が多臓器破裂。次いで、数か所の圧迫骨折や粉砕骨折。複雑骨折していた者もいたし、ほとんどがバーナー症候群や頸髄損傷などのように首の傷害があったかな」


 さらに、どうしよう。

 思っていた以上に自分がやらかしていた感がある。


 相手の命があったことは良い。

 四肢の寸断、欠損はなかったことも。


 でも、多臓器破裂って、普通は死ぬ気がする。

 交通事故とかで聞いたことがある状態だ。


 骨折の種類も多様過ぎて困る。

 せめて分かりやすい複雑骨折程度に留まって欲しかった。


 バーナー症候群っていうのは知らないけれど、頸髄損傷とともに首の障害ってことは理解できた。


「ヤツらは、濃淡の違いはあるだろうけど、精霊族の血が入っているからね。幸いなことに、簡単には死ねなかったようだよ」


 それって、普通の人間ならば死んでいた可能性が高いってことだ。


 そして、それを幸いと言っても良いものだろうか?

 精霊族って殺しちゃうと確か、大変なことが起きるんじゃなかったっけ?


『だが、ヤツらにとって、肉体の損傷よりも、精神に刻まれたものの方が大きい』


 リヒトがさらにそんなことを言う。


『それだけの恐怖を味わったのだ。ヤツらの心にはほとんどの者に「狂乱」があり、それを逃れても、「痛哭」、「苦悶」、「脅威」、「怖気」、「恐慌」などの畏怖の感情が根深く刺さっていた』

「それは、恐怖のあまり、気が狂ったってこと?」


 感情にそれだけマイナスの状態変化が起きているってことは、そういうことだよね?


「『祖神変化』だけでも相当な恐怖だったと思うよ。ヤツらは、人間より神に近しい精霊族の血が流れている。だからこそ、人間以上に神を理解してしまっているんだ。神に逆らうことは、死よりも惨い、()()()()の可能性もあるらしいからね」

「そ、そんな……」


 わたしにそんな能力はない。

 だけど、「祖神変化」はそれを可能にするということだ。


 それを精霊族の血を引いているものたちが恐れた。

 わたしが、短時間とはいえ、自分を失くしてしまったばかりに。


「だけど、自業自得だ」

『だが、因果応報だ』


 雄也さんとリヒトは、同時に似て非なる言葉を言った。


「世の中には絶対に手を出してはいけない存在があることを彼らが知る良い機会だったことだろう」

『これまでの悪行を含め、何度生まれ変わっても足りないほどの業を背負っているヤツらのようだからな』


 さらに二人はそう言うけど、どこか割り切れないものはある。


「それでも、あの人たちは、薬で操られていただけだったんですよね?」


 あの「綾歌(りょうか)(ぞく)」はそんなことを言っていたのだ。


 それって、あの人たちが100パーセント悪いって言いきれないんじゃないかな?


「栞ちゃん。キミが優しいのは美徳だが、この場合は悪徳だよ」


 雄也さんは笑みを浮かべながら、そう言った。


「真央さんや水尾さんが被害に遭っていたとしても、同じことが言えるかい?」

「言えません」


 雄也さんの言葉に即答する。


 わたしは「聖人」じゃない。

 大事な人間たちを傷つけられて、大人しくしていられるほどお人好しでもないのだ。


 そして、ちゃんと分かっているんだ。

 誰も、傷つけたくないなんて綺麗事でしかないって。


 何より……。


「そうしなければ、わたしも無事ではなかったでしょうね」


 そんなことも分かっている。


「そうだね。キミは他でもない自分を護るために『祖神変化』をして、身体だけではなく、心ごとヤツらを叩きのめ、いや、粉砕した」


 わたしは唇をきゅっと噛み締める。


 それだけのことをしておきながら、全く覚えていないなんて、被害者にとってはふざけるなと言いたいだろう。


 でも、そうしなければ、わたしは自分を護ることはできなかった。


 「祖神変化」をしなければ、わたしは意識を失くし、碌な抵抗もできないまま、その人たちによってこの身体を穢されていたのだろう。


 改めて、自分の身体をぎゅっと抱き締める。


 重傷を負わせてしまった相手に申し訳なく思う反面、それでも自分が無事で良かったと心の底から思いながら。


「そして、同時に俺たちも救っている」

「へ?」

「特に俺は集落を全壊させているからね。気の済むまでキミを嬲った後は、まあ、俺も九十九もそれなりに凄惨な目に遭ったとは思うよ」


 雄也さんはさも当然のように言うけれど、それはそれでショックだった。


 自分のことばかりしか考えていなかったけれど、あの時、意識を落としたのはわたしだけではなく、九十九や雄也さんも一緒だった。


 わたしは、暴行を受けたとしても、命まで奪われなかったかもしれないけれど、彼らは命を奪われる可能性は高い。


 いや、わたしも見知らぬ男の人たちから、自分の意識がない間に好き勝手されたなら、死にたくなるとは思うけど。


『何故、俺は除かれた?』


 リヒトはどこか不服そうだった。


「リヒトはあの子が身体を張って護るんじゃないかな?」

『迷惑だ』

「そうだな。女性に身を挺して庇われるなんて、男としては情けない限りだな」


 雄也さんは笑うが、わたしは笑えなかった。


 確かにわたしの「祖神変化」は、やり過ぎだったのかもしれない。


 でも、そのためにいろいろ自分にとって大事なものが救われたなら、悪くなかったと思い込むしかないのだ。


 それが無理矢理だったとしても。


「教えてくださってありがとうございます」


 わたしは雄也さんにお礼を言う。


 九十九は、それを隠そうとした。

 多分、わたしがショックを受けることが分かっていたから。


 だけど、知らないままが良かったとも思えない。

 知らなければ、また、同じことを繰り返してしまう。


 そして、その時も無事だとは何も保証されていないのだ。


「俺の見通しが甘く、浅慮だったばかりに、栞ちゃんに怖い思いをさせてしまったね」


 雄也さんがそう言うけど、わたしは首を横に振る。


「いいえ。わたしももう少し考えるべきでした」


 あの時、何もわたしたちがあの建物に留まる必要はなかったのだ。


 この浜に来ていれば、魔法が使える。

 あの「綾歌族」に対して、もっと抵抗らしい抵抗もできたことだろう。


「水尾先輩のことにしても、トルクたちと一緒にカルセオラリアへ還せば良かったのに……」


 水尾先輩は、私のために残ってくれたのだ。

 そのために、あの「綾歌族」に連れ去られることになってしまった。


「そこは悩ましいところだね」

「へ……?」


 悩ましい?


「水尾さんがいなければ、その『綾歌族』の男は、恐らく、栞ちゃんを連れ去っていたと思っている」

「そっちの方が良かったのでは?」

「馬鹿を言わないで欲しい」


 雄也さんから鋭い目を向けられた。


「栞ちゃんが水尾さんのことを大事にしていることは承知で酷いことを言わせてもらうけれど、俺からすれば、連れ去られたのが水尾さんの方で良かったと思っているよ」

「そんな……」

「少なくとも、現状ではキミの安全が保障されているからね」


 それはわたしの護衛としては当然の考え方だとは思う。

 それでも、わたし自身は納得はできない。


 だけど、続く言葉でわたしは閉口させられることになる。


「もし、俺たちの意識がない状態で栞ちゃんが連れ去られていたら、目を覚ました九十九が真っ先に冷静さを欠いたことだろう。今のヤツは、状況が分からないまま、キミの魔力反応だけを頼りにして闇雲に飛び出しかねない」


 ああ、なんだろう?

 想像できる気がした。


 九十九は見た目やその言動に反して、意外と落ち着いて、いろいろな対処ができる護衛だけど、時々、変に熱くなる時があるから。


「通信珠に込めた魔力でも九十九が気付くような距離だ。栞ちゃんが攫われていても、九十九なら探せてしまう。しかも通信珠を持っている状態なら、迷いもなくキミの元へと移動魔法を直接使ってしまうだろうね」

「あ~」


 わたしは自分の目頭に手を当てる。


 目を閉じるだけで、容易に想像できてしまった。


『ツクモのことばかりだが、そんな状況なら、ユーヤも似たようなものだろう? 相手より優位に立っていると錯覚していたところから、未知なる存在より返報されるのだ。混乱にも拍車がかかると推測する』


 リヒトは、お茶ではなく水を飲みながらそう言った。


「これは手厳しい」


 雄也さんは苦笑するが……。


『事実だ』


 それに対して、鰾膠(にべ)もなく、リヒトは言い切るのだった。

もう1300話となりました。


勢いのまま書いている話ですが、ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告をくださった方々と、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげです。


いつも、本当にありがとうございます。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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