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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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二度と同じ愚行は晒さない

「栞ちゃん」

「ふわっ!?」


 突然、背後から声をかけられ、わたしは飛び上がるほどびっくりしてしまった。


 いや、驚くよ。

 先ほど見送ったばかりの人と、似たような声質の人がまた背後にいるのだから。


 思わず、胸を押さえる。


「ご、ごめん。いきなり声をかけてしまって……」

「い、いえ、大丈夫です」


 振り返ると、そこには雄也さんとリヒトが立っていた。


 えっと、このタイミングのご登場ってことは、もしかしてずっと見守られていました?


 その、わたしが九十九の背中に張り付いたり、キスまでしてしまったことまで?


「いつから、ご覧になってました?」


 いくら何でも、2人が全く見てないってことはありえないだろう。


『恐らく、シオリが正気に返るよりも先に、ユーヤが目覚めている』

「ほあっ!?」


 そお、それて、例の九十九が気にしていた、九十九からのキスの方も見られていたってこと!?


 わたしの記憶にはないけれど、それでも身体はわたしだったのだ。

 それを第三者から客観的に見られたって、考えるだけで恥ずかしすぎる!!


『俺が目覚めたのは、2人がこちらに向かってからだな。叩き起こされたともいうが……』


 両頬を擦りながら、リヒトは横に立っている黒髪の男性を見る。

 頬を叩かれて起こされたようだ。


 魔法の世界なのに物理、いや、あの場所は魔法が使えなかったから、仕方ないか。


「その…………、なんか……、いろいろ、愚弟がごめんね」


 雄也さんから謝られた。


「いえいえいえ!! 今回、九十九は悪くないですから!!」


 どちらかと言えば、わたしの方が絶対に悪い。


 自分の身を護るためとはいえ、魔力を暴走させちゃったみたいだし、そのために九十九がやむなくキスする羽目になったのだ。


 しかも、その後、無理を押し付け、背中に張り付いたり、祝福と称して彼にキスしちゃったりとか冷静になった今ならそれらの行動全てが酷過ぎるって自分でも分かる。


 まさにスリーアウト、チェンジ。

 見限られて、主人を交代させられてもおかしくない気がしてきた。


「それと……」


 雄也さんが、両膝と両手を地面に付け、その前髪も下に付いてしまうほど深々と頭を下げてきた。


「今回のことは我々の不徳の致すところ、重ね重ねの不手際をお詫び申し上げます」


 セントポーリアの最敬礼!?

 そして、言葉から最上の謝罪を受けたってこと!?


「か、顔を上げてください、雄也さん!!」

 こんなことをして欲しくはない。


「それでも、俺たちはキミを護れなかった」


 頭を下げたまま、雄也さんはさらにそんなことを言う。


「護られてますから!! ちゃんとわたしは大丈夫ですから!!」


 だから、顔を上げて!!

 こんなのは嫌だ。


『ユーヤ。シオリは本当に困っている。顔を上げてやれ』


 リヒトからの助け舟。


「それでも、俺は合わせる顔もない」


 だが、雄也さんは乗っからない。


 そして、この人はやはり九十九の兄だとも思った。

 落ち込んだり、反省する時が似すぎている。


 迷惑なぐらいに!!


「でも、顔を合わせないと、話もできませんよ」


 わたしは、屈みこむ。


「それに、わたしは雄也さんと、ちゃんと話をしたいです」


 できる限り、穏やかに声をかけたつもりだ。


 でも、雄也さんは顔を上げてくれない。


 困った。

 どうすれば良い?


 思わず、すぐ傍にいるリヒトを見る。


『ユーヤ、お前の自己満足にシオリを付き合わせるな』


 おおうっ!?

 辛辣なご意見。


 心を読めるというのにリヒトは容赦がなかった。


「自己満足なのは分かっている。俺の謝罪ごときで償うことなんてできないことも。だが、これ以上の謝罪だと、ああ、切腹なら栞ちゃん好みになるか?」

「勘弁してください!!」


 そして、わたしは「切腹」を好んでなんかいません!!


「わたしに対して罪悪感があるなら、今後は気を付けてください。それに、仕事の失敗なら仕事で取り返してください。自己満足だと分かっているなら、猶更、そんな謝罪は迷惑な行為でしかありません」


 わたしは一気に言い切った。


「承知した。我が主人」


 雄也さんが顔を上げる。


 そこには九十九にあったような悲壮感はない。

 わたしが屈んでいるため、目線の高さが同じぐらいとなる。


「二度と同じ愚行は晒さないと、キミに誓おう」


 距離が近いために、黒い綺麗な瞳に自分が映っているのが、夜でも分かる。


 それだけ近い距離で、曇りのない真剣な眼差しをされると、ちょっと困る。

 いつもとは目線の高さが違うので、なんか、変な感じだった。


 雄也さんが立ち上がる。


「まずは、情報共有をしたいところだけど、栞ちゃんは大丈夫かい? いつもはまだ寝ている時間だろう?」

「大丈夫です」


 これまでのアレやコレで、眠気は既に飛んでいた。


 何より、九十九のことが気になって、今更、眠れる気はしなかった。


「無理なら言ってくれる? 話に集中すると、俺も気遣えなくなることがあるから」

「分かりました」


 雄也さんは、何故かテーブルセットをこの場に召喚した。


「えっと……?」

「話が長くなりそうだから、お茶でもしながらゆっくり話そうかと思って。立ちっぱなしは辛いだろ? それとも、栞ちゃんは九十九のお茶菓子とは違うから嫌?」

「いえ、大丈夫です」


 確かに九十九のお菓子は絶品だが、雄也さんの準備するお菓子だって負けていない。


 二人して料理ができる兄弟。

 羨ましい……。


「リヒトも座れ。そっちは栞ちゃんに座ってもらうから、お前はこっち」

『シオリの横が良い』

「顔が見えなくなる方が良いか?」

『……なるほど』


 わたしは、海が見える方に座った。


 雄也さんとリヒトが対面。


 これなら、九十九たちが帰ってきたら、すぐに分かるね。


 尤も、戻ってくる時に移動魔法を使う可能性もあるけれど。


「なるほど……。ここなら、通信珠も使えそうだな」


 雄也さんは自分の通信珠を取り出して確認した。


 わたしの通信珠は九十九の魔力が込められているため、オレンジ色の光が中に見える。

 でも、普通の通信珠は真珠のように白く、使用する時だけ、水晶のように透明になって光る。


 今は、使用していないため真っ白のようだ。


「まず、栞ちゃんと九十九は運が良かった。最初に辿り着いた場所が、魔法が使えるところだったからね。それがこの島に来て、唯一の救いだったよ」


 あの時、気が付いたら海の中だった。

 すぐ近くで九十九が声をかけてくれなければパニクって、溺れていたかもしれない。


 そこで知ったのは、着衣遊泳は、話に聞いていたとおり、服が水を吸って、めちゃくちゃ身体が重く感じることだった。


『俺たちは、もっと奥にミオの移動魔法で飛んだ。そこではミオもトルクも魔法は使えなかったらしい』


 それは、合流した時にも聞いている。


 なるほど、雄也さんとリヒトとわたしで、改めて、情報共有をするということか。

 確かにこの島に着いた時には、三人はバラバラの位置だったね。


「そして俺と真央さんは、飛んだ場所がかなり悪かったことは聞いた?」

「はい。あの集落に直接飛んでしまったと聞いています」

「そこで遭ったことは?」

「雄也さんが、集落の『狭間(きょうかん)(ぞく)』たちを薙ぎ倒して、ほぼ全滅に近い所まで追い詰めたことは聞きました」


 だけど……。


「でも、それだけじゃなかったんですね」


 九十九ははっきり言ってくれなかった。


 だけど、自分の身に起こりかけたことや、あの「綾歌族」の人の発言を聞いた今では、それだけで済んだとは思えない。


 雄也さんは真央先輩を連れていたのだ。

 そして、彼女を護りながら戦ったとも。


「真央先輩も、怖い思いをしたんですね」


 この島にいる男の人たちは薬みたいなもので常時、それも見境なく「発情」させられていると聞いた。


 そんな状態にしているのは、何の目的があってかは分からないけれど、そこに極上の美人が現れたのだ。


 そうなると、男性である雄也さんを無視してでも、女性である真央先輩に手を伸ばそうとしたのではないだろうか?


「そうだよ」


 続く言葉は残酷なほどの肯定。


「まあ、勿論、指一本触れさせてはいないけどね」


 雄也さんはそう続けた。


「あの人の気高さを、あのような下賤な輩如きに僅かたりとも穢させるわけにはいかないから」


 さらに臆面もなくそんなことも言った。


 九十九といい、この人といい、わたしの護衛たちは真顔でこんなことを言ってしまうから本当に困る。


「それでも、男たちが欲望を前面に押し出した上、自分に迫りくるのは女性にとっては畏怖の対象でしかないと思うけどね」


 その気持ちはよく分かる。

 触れるとか触れないとか関係なく、自分に害意を向けられるのは凄く怖いことだ。


 ましてや、その目的がそっち方面だと分かるなら、そこには相手に対する嫌悪とか、軽蔑とかそんな感情も上乗せされることだろう。


「そのことを踏まえた上で、栞ちゃんにもいくつか確認しておきたいことがある。内容的に答えにくい質問になるかもしれないけど、大丈夫?」

「分かりました」


 わたしも自分に何が起きたのかを知りたかったところだ。

 それなら、ちょうど良いかもしれないと頷いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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