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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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自分たちが置かれている状況

 ―――― 夜、ふと目が覚めた。


 この場所に住んでいると思われる人たちは全て雄也さんによって拘束され、その上で、九十九の薬によって眠らされていたはずだ。


 本当なら、別の建物に詰め込みたかったけれど、見張りの数が足りないので、同じ建物にいる。


 その代わり、雄也さんと九十九が交替で寝ずの番を務めることになった。

 確かに、別の建物でそれぞれ寝ずの番だといろいろ危ない気がする。


 でも、同じ建物内にいるのも落ち着かない。

 だから、いつもより早く目が覚めてしまったのだろうか?


 数十人が半強制的に寝かしつけられている場所だというのに、信じられないぐらい静かな空間だった。


 さらに、住人たちの身動きができないため室内の明かりも灯らない。


 そして、当然ながら、彼らが必要以上に照明をつけることはしないため、周囲は完全に闇に包まれて、落ち着かない気分のまま眠ろうとしたことだけは覚えている。


 普段のわたしはあまり夜中に目を覚まさず、朝までぐっすりだ。

 それでも、こんな状況ではよく眠れなかったらしい。


 目が覚めて、目に入ったのは暗闇だった。


 黒一色。

 漫画でいう、ベタ塗り状態。

 この闇には、(のう)はともかく、(たん)はない。


 だけど、目覚めたわたしは、何故かそこにナニかがいることを感じていた。


 でも、おかしい。

 こんな敵陣に等しい場所だというのに、護衛兄弟が起きている気配を感じないのだ。


 少なくとも、交替で見張りをする以上、どちらかは必ず起きているはずだった。


 こんなところでうっかり寝こけるような程度の低い護衛たちではない。


 わたしの専属護衛たちは本当に優秀過ぎて、主人であるわたしが全く彼らに釣り合っていないのだ。


 それなのに、どうして二人が動く気配を感じないのか?


 不意に、全身が粟立った。

 二人が動く気配を感じないって、どう考えても普通の状況ではない。


 だけど、すぐに、そんなことを考え続けていることすらできなくなる。


『驚いたな』


 聞いたこともない声が、周囲に響き渡った。


 その声は決して、張り上げているわけでもないのに、空気の震える気配を感じる。


 まるで、よく鍛えられている舞台に立つ役者さんのような声だと、何故か場違いなことを思った。


『まさか、あれだけ探していた「赤の王族」が、こんな場所で手に入るとは……』


 混乱の余り、余計な方向に思考しているような頭でも、その台詞は、よくわたしの耳に届いた。

 そしてその意味も、やや遅れてから脳に伝わる。


 「赤の王族」って……、水尾先輩のこと!?


 この世界の王族と呼ばれる存在を表す言葉として、そんな言葉を聞いた気がする。


 だから、フレイミアム大陸の中心国として長く存在したアリッサムの王女である水尾先輩のことをそう呼んだことは分かった。


 しかも、「手に入る」って……。

 それは既に手中に収められている言葉だ。


 わたしは叫びたい気持ちを懸命に抑え、息を殺して、意識を集中する。


 九十九のように暗闇で何かが見えるほど、夜目が良いわけではないが、それでも、不思議な気配と声は同じ方向からだ。


 その場所に目を向けて集中すれば、何か見えるかもしれないと、期待を込めたが、やはり真っ暗な闇の中には何も見えなかった。


 でも、そこに何かがいる気配は確かにある。微かに音が聞こえるのだ。


 誰か……ではなく、何か。

 わたしは確かに無意識にそう表現した。


 その感覚は間違っていない気がする。

 そこにいるのは人の形をしているけど、人間ではなかったのだから。


 バササッ!!


 そんな昔、ゲームの効果音で聞いたことがあるような音とともに、薄っすらと見えるものがあった。


 あれは確か……、大きな鳥が初めて羽ばたく時の音だったはずだ。

 その音によく似ていた。


 そこには、確かに灰色っぽい大きな羽が見える。

 

 その羽は微かに光を帯びていて、少しだけ周囲の様子が分かる程度に照らした。

 それでも、人間界の室内に使われている常夜灯ほど明るくもないのだけど。


 その人の形をした存在は、錫色の大きな羽を背にしていた。


 その羽の大きさから、一瞬、「神さま」と呼ばれる存在かとも思ったが、神の御羽(みはね)に黒はあっても、灰色はない。


 考えられるのは神の使いとされる精霊族だ。


 わたしは精霊族に詳しくはないけれど、中には羽を持ったものもいると聞いている。だから、恐らくは間違いないだろう。


 ここは「狭間族」と呼ばれる、精霊族の血が流れる存在が住んでいる島だ。

 関わっているのが、人間だけだとは誰も口にしていない。


 当然ながら、精霊族たちが関わっていても不思議な話ではなかった。


 そして、本当に精霊族なら、相手が悪すぎる。

 人間とは違う系統の能力を持ち、それは人間よりも神に近いのだ。


 仮に、ここでわたしが魔法を使えたとしても、通じない可能性の方が高い。


 だけど、わたしにはあまり迷っている暇などなかった。

 その両腕に、見知った女性の姿が見えたから。


 わたしは胸元を握りしめる。


 その握り込んだ拳から、それ自体が自分の心臓になってしまったかのように、大きな鼓動が伝わってくる。


 チャンスは恐らく一度だけだ。


 悟られてはいけない。

 わたしは自分が非力なことを理解している。


 願わくは、相手が心を読める系統の精霊族ではないことを祈ろう。


 自分にできる限りの小さな動き。

 そして……。


『ぐっ!!』


 その背中の(ひかり)を目印に思いっきり体当たりをした。


 だけど、羽がクッションになって、あまり手応えがない。

 不意打ちだったために、少しだけぐらついたようだけど、すぐに立て直された。


『まさか、この状況で意識がある人類がいるとはな』


 そう言って、身体ごと振り返った相手、恐らく精霊族は、その闇夜にも輝く緑の瞳をわたしに向ける。


「水尾先輩を放してください!!」


 無駄だとは分かっているけど、そう叫ばずにはいられなかった。


 この人は「ずっと探していた」と言った。

 さらには、「手に入れた」とも言っていた。


 明らかに人外の相手に対して、手足も声も震えるが、それ以上に、このまま、水尾先輩がどこかに連れ去られる方がずっと怖い。


『その瞳、どこかで……?』


 ふとその緑色の瞳が細められる。


『ああ、人類以下の只人かと思えば、やはり、普通ではなかったか。(あるじ)の見る目は確かだったようだ』

「主……?」


 精霊族の主ってことは、契約者がいるってこと?


 精霊族と契約するのに必要なのは資質だけでなく、上位の精霊族になるほど契約相手を吟味すると楓夜兄ちゃんが言っていた。


 寿命の短い人類に対して、一時的とはいえ、雇用契約や主従関係を含めた上下関係を確立するのだ。


 気に入らない相手と付き合うことなどできないだろう。


 そう考えると精霊王を召喚することができたり、四大精霊と言われる存在と契約を結んでいる法力国家の第一王子の婚約者殿の規格外っぷりがよく分かる。


『「橙の王族」だったのか。それで、あの時も眠らなかったのだな』


 なんだろう?

 わたしは、こんな知り合いはいないはずだ。


 だけど、わたしの何かを知っているような口調。

 記憶のない時期に会ったことがある……?


『だが、不思議なものだ』


 そう言って、錫色の羽の精霊族はそんなことを言った後、さらにゆっくりと口を開き……。


「うっ!?」


 音のような声が頭に響いた。


 その声はわたしの脳を揺らし、目の前の景色が大きく歪みを見せる。


 何?

 これ……。


 眩暈とも違う不思議な感覚。

 まるで、いつものように不意に意識が落ちる手前のようだった。


 わたしは、頭を振るが、その行動がかえって脳を刺激するのか、状態が酷くなる。


『ふむ……。やはり効果が薄い』


 音のような声が止まり、同時に視界が戻る。


 だが、頭が揺らされたような奇妙な感覚だけは、すぐに戻らない。


『これは、かなりの加護持ちだな』


 加護……?

 ああ、なんかいろいろ持っているらしいね。


 自分では自覚はないのだけど、そんなことを言われたことがある。

 それは、九十九や雄也さん、水尾先輩も同じはずだ。


 だけど、もしかしたら九十九や雄也さんが動く様子もないのは、さっきの音にやられたのかもしれない。


 でも、動かないだけで生きてはいるのだと信じることにする。


 そして、水尾先輩もあの状況で目が覚めないのは同じ理由だろう。


 魔法が使えないこの場所では、「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」も発動していないようだ。


 そう考えると、「魔気の守り(物理耐性)」も落ちている可能性が高い。


「今、何を……?」

『ほう!』


 どこか嬉しそうな声。


『意識があるだけではなく、意味ある言葉も吐けるのか』


 どうやら、相当強い攻撃を食らったらしい。


『見事だ、娘。神すらも眠らせる「綾歌(りょうか)(ぞく)」の(うた)を聞いて意識のある人類など初めて見たぞ』


 綾歌族!?

 そうか、リヒトに心酔してしまったあのおね~さんは綾歌族の狭間族だった。


 それなら、ここに他の関係者が来てもおかしくはないのだけど、タイミングとしては最悪だ。


『だが、場所が悪かったな。ここが、お前たちの領域なら、少しぐらいの勝ち目はあったかもしれないが……』

「ああっ!?」


 頭が割れそうなほどの(うた)が響き渡った。


『残念ながら、ここは我らの領域。王族であっても、人類であるお前たちに僅かな勝算すらありえない』


 そんな無情な声とともに。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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