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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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女性の扱いが酷い

 黒い複数の羽が、矢のような勢いでわたしに向かって来る。


 そこで、九十九が油断なく、わたしの腕を引いてくれなければ、一本ぐらいその羽が当たっていたかもしれない。


「リヒト、お前な~。栞を巻き込むなよ!!」

『すまん。まさか、そんな行動に出るとは思わなかった』


 そんな会話をしている間にも、鳥に変化したおね~さんがわたしに向かって突撃をかまして来る。


 だが、わたしの護衛である九十九は、荒事慣れしているのだ。

 それはもう、本当に申し訳ないぐらいに。


 しかも、昔から魔法が使えない事態を想定した鍛錬もやっていたとも聞いていた。

 そんな彼が、こんな事態に対応できないわけがない。


 わたしを背中に庇い、背負っていたリュックの側面にくっつけていた棒を握りこむ。

 そして、リュックを真下に落としながら、その棒を一振りした。


 振られた棒は突進してくる黒い鳥に向かって、勢いよく伸びたように……違う!! よく見ると、なんか鎖がついていた!?


 あれは、ゲームで見たことがある双節棍(ヌンチャク)ってやつだろうか?


 でも、握り手と、棍棒部分の形は全く違うし、それを連結しているのは三つ又の長い鎖だ。

 そうなると、あれは棍棒じゃなくて三個の錘なのかな?


 もしかして、漫画でしか見たことがない、分銅鎖って武器?


 九十九はそれをぶん回し、錘を容赦なく、三つとも鳥の顔面にぶち当てた。


 あれは痛い!!

 嘴が折れ曲がらなかっただろうか!?


 少なくとも、その場に黒い羽が何枚も舞い散ったのが、九十九の背中越しにも分かった。


 さらに、それで怯んだ鳥に向かって、錘ごと鎖を投げつける。

 その鎖は、まるで生き物のように、黒い鳥の脚元から絡みつき、拘束する。


 遠心力を利用した打撃武器に見せかけ、実は、投擲武器にもなるとはびっくりだ。


 左片翼と、脚に絡んだ鎖によって、黒く大きな鳥は飛ぶこともできなくなり、そのまま地面に落ちる。


 その時点である程度、勝負がついているが、護衛はさらに、鎖が絡まり藻掻いているその黒い鳥の両脚を同時に踏みつけた。


『ギャゥッ!!』


 自分たちよりも身体が大きくても、その脚が太いわけでもない。

 寧ろ、脚だけならわたしの足よりも細いかもしれない。


 その九十九の踏み付けは、強さと勢いがあり、それだけで鳥の両脚を同時に折りそうなほどだった。


 鳥の口から悲痛な叫び声が上がるが、九十九はさらに背中から細長い刃物を取り出して、その嘴に突きつける。


 なんて凶器を服の中に仕込んでいたのだろうか。


 細く長く、そして、研ぎ澄まされた刃。

 その刃渡りは恐らく30センチぐらい。


 まさか、()()()()!?


 人間界でも見たことがある刺身包丁も、立派な凶器になることは分かっていたが、こうした使われ方をすると、本当に怖い。


「喧嘩を売る相手は選べ」


 その声の冷たさにゾクリとした。


 こんな九十九の声はあまり聞くことはない。

 わたしに向かって発することは、これまでに一度もない種類の声だから。


「このまま、脚を折るか? この刃なら、その嘴を削ぎ落とすこともできる。どちらでも好きな方を選べ」


 刺身包丁で生きている鳥の嘴を削ぐ……とか、シュールすぎる。


 その言葉から、殺すつもりまではないみたいだけど、九十九は、鳥の姿をしたままならば、食材と見なしてしまう可能性はある気がした。


 そして、彼は魔法が使えなくても、弓なんか要らない。

 先ほどの流れるような武器の準備、持ち替えを見た限りではそう思った。


 鎖武器を扱うって凄すぎませんか?


 わたしは、あの三個の錘を全て自分の身体に当てる自信すらある。

 どんな練習を重ねたら、あんなに器用な動きになるの?


『ツクモ』


 リヒトが何かを言いたげに九十九を見る。


「栞に標的を移した時点で、オレにとってはただの害鳥だ。そして、オレはそれを駆除する責務がある」


 九十九は冷たく言い放つ。


 そのわざと突き放すような言い方は、どこか彼らしくないようで、同時に何故か、ひどく彼らしい気もする。


 単純にわたしを護るためだけならば、そこまでする必要もないのだ。


 羽を含めた身体を拘束した時点で、彼女はわたしを害することができなくなっている。

 それでも体当たり特攻をやろうとすれば、その時に、叩き伏せれば良いだけの話。


 わざわざそこまでして、いろいろなものを圧し折らなくても良い。


「九十九、やり過ぎ」


 だから、わたしははっきりと言った。


「拘束までで良い。治癒魔法が使えない状態で、大きな怪我をさせないで」

「相手は精霊族だぞ?」


 九十九は不機嫌そうな顔でわたしを見る。


 だが、それぐらいで怯まない。


「この人の村に雄也さんたちがいるって聞いている。そうなると、こちらは人質をとられている状況なんだよ? 捕虜の扱いによって、人質の扱いだって変わってくるものでしょう?」


 本当に人質として扱われているかは分からない。

 もしかしたら、もっと状況が悪いかもしれないし、逆に良すぎるくらいかもしれない。


 それでも、何も分からない状況で、無駄に傷つける行為というのはどう考えても、悪手だろう。


 そして、それぐらい九十九は分かっている。


 だから、主人であるわたしにそれを言わせようとしたのだ。

 この場での上下関係を、そこのおね~さんにも分からせるために。……多分。


 さて、これでどう出る?

 綾歌族(りょうかぞく)のおね~さん?


「『番い』を探したければ、もっと手段を選べ。想う相手の想い人を殺したところで、その代わりに収まることなんかできない。寧ろ、相手から恨まれるだけだ」


 九十九は黒い鳥から足を下ろし、縄を少しだけ緩めながらそう言った。


『グアッ!!』


 カラスを何十倍も大きくしたような鳥なのに、どちらかというと、ガチョウやアヒルみたいな声だった。


 そして、なんと返答したのか分からない。


「変化を解け。話しにくい」


 九十九がそう言うと、鳥は少しだけ首を傾げたように見えた。


「言っておくが、これ以上、緩める気はない。また暴れるようなら、今度はその羽を毟ってやるからな」


 九十九はその仕草を、解放の懇願と受け止めたらしい。


 相手が女性と分かっていても、容赦なく言い切る。


『グワァ』


 鳥は力なく一声鳴くと、また黒い羽根が舞い上がった。


 九十九が羽を毟っているのではない。

 変化を解いているのだろう。


 忍者の煙幕、いや、木の葉隠れの術みたいなものかな?


「えっと……」


 だけど、再び現れたその姿を見て、わたしは声を失うしかなかった。


 九十九の鎖は、緩めてはいても、その全身に絡めたままなのは変わらないのだ。


 背中から両足と、右肩から左腰への袈裟懸け、そして、腰に鎖が絡まっている状態というのは何というか、かなりえっちくさい。


 胸の大きい人の谷間を鎖が通っている図って初めて見るけど、鎧の上からでも変な感じがする。


 しかも、この地面に倒れている構図って、胸当てから胸が零れ落ちそうにも見える。

 本当に、何を食べたらそこまで育つのでしょうか?


「これだと、手が自由過ぎるな」


 だけど、そんな図を見ているというのに、九十九は平然としながら、組紐で両手首の拘束をしている。


 これは男女の差なの?

 わたしがいろいろ意識しすぎ?


 え?

 わたしって、もしかして、九十九より、えっち?

 女なのに?


『ツクモ、足を組紐に変えて、鎖を解くことはできるか?』


 リヒトもごく普通な態度だ。


 それなのにそっち方向に意識しているわたしってどれだけ阿呆なのでしょうか?

 相手は、同じ女性なのにね。


「甘くねえか?」

『この状態では連行しにくいだろう?』

「袋に詰めれば、鎖も紐も関係ねえけど」


 そして、九十九は相変わらず、女性の扱いが酷い。


 最近、少しマシになったと思ったのは気のせいだったようだ。


『ユーヤにまた嫌味を言われるぞ』

「あ~、それは面倒だ」


 そう言って、手早く両足を組紐で縛り、鎖を解いた。


 視覚の暴力から解放され、わたしはこっそり、撫でおろす。


「凄い武器だね」

「改造ボーラだ」

「改造……、ボーラ?」


 鎖分銅ではなかったらしい。


 そのボーラとかいうのは、確か、15人の少年たちが漂流した話にも出てきたような気がする。


 でも、武器だったっけ?


「投擲用武器としても使えるが、生け捕り用の狩猟道具だ。本来のボーラは投げやすいように縄でできているものが多いが、威力重視にして、武器として使いやすくした」


 そう言って、三本の鎖がバラバラにならないように頭の上で器用に回す。


 縄跳びのように簡単に回しているように見えるけど、思ったよりも鎖は細く、そしてかなり長かった。


 それらを持ち手部分に綺麗に巻き上げていく。


「ボーラって、丸っこい石の錘がついているイメージだったけど」

「即席ならそうなるな。でも、金属の方が投げやすいし、軌道計算もしやすいぞ」


 わたしの護衛、前から思っていたけど、いろいろおかしい。


「で、この女だけど……」

『俺が運んでも良いか?』

「「は? 」」


 リヒトからの、そんなかなり意外な申し出に、わたしと九十九の疑問の声が重なったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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