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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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考え方が違った

「ここに、更に強固な結界があるな」


 わたしたちが、移動魔法で飛んだ場所から歩いて、一、二時間ぐらいのところで、九十九が立ち止まってそう言った。


「そうなの?」


 わたしには何も視えない。


 九十九と同じように手を翳しても、分からない。


「お前、本当に視る眼が育ってねえな」


 そう言って、何故か柔らかく笑った。


 そこで、するような顔じゃないよね?


『ここから、また別の「音」が聞こえる』


 すぐ近くにいたリヒトまでそんなことを口にした。


 でも、目を凝らしても、耳を澄ましても、わたしには何の変化も分からなかった。


 ぐぬぅ……。


「『音』……か……。そうなると、この奥に、何かあるってことは間違いないな。そして、栞には何の変化も視えないんだな?」

「見えない」


 視ることも聞くこともできない。


 これは、わたしが半分、人間だから?

 いやいや、それはおかしい。


 わたしの目には、他人が纏っている体内魔気や、周囲に流れる大気魔気ならば、ちゃんと視えているのだ。


 つまり、リヒトはともかく、九十九とも、視えているものが違うってこと?


 集中してみよう。

 初めて大気魔気を視た時はどうだった?


 うん。

 それでも、視えない。


 目が乾くほど、眉間辺りに鈍痛を感じるほど、見つめているのに、さっぱりだ。


 それどころか、九十九が言ったこの先からは、大気魔気の流れすら全く視えなかった。


『大気魔気が、視えない?』


 不意にリヒトがそう言った。


「うん。さっぱり」


 わたしは溜息を吐く。


 大気魔気の流れすら視えないほど、この先は何も分からない。


「そりゃ、ここには自然結界が広がっているみたいだからな。大気魔気が視えにくいのは当たり前だ」

「ぬ?」


 だが、九十九が変なことを口にする。


 そして、わたしの声で、九十九も何かを察する。


「まさか、お前……。結界が全て、目に視えるものって思ってたのか?」


 九十九が呆れたようにそんなことを言った。


 だが、わたしは何度も頷くしかできない。


「結界そのものは感じることができても、視るのはかなり難しいものだぞ。特に自然結界は本当に自然に溶け込んでいるからほぼ視えない。ただ、大気魔気の変化ははっきりと目に視えるから、結界の有無や種類はある程度、それで判別できる」

「ちょっと待って。結界そのものは視えないの?」


 そうなると、わたしのこれまで考えてきたことが全て(くつがえ)されてしまう。


 まるで、ちゃぶ台を、乗っていたお皿ごと、どんがらがっしゃ~んとひっくり返されたかのような気分になった。


 そんなことをしたら、九十九が一番怒る気もするけど。


「視えるものもあれば、視えないのもある。大体、敵対する人間に対して使うこともある結界が、簡単に視覚情報だけで分析されるのは問題だぞ?」

「それを早く言ってよ!!」


 それを知っていれば、いろいろ違ったと思う。


「言ったこと、なかったか?」


 九十九は首を捻った。


 改めていろいろ思い出してみる。

 法力国家で封印解呪されてからのことをずっと……。


 だけど……。


「多分、言われたこと、ないよ?」

「そうだったか?」


 お互いに疑問形のやりとり。


 なんてことだ。

 わたしは、結界の考え方が違ったのだ。


 結界って、ずっと大気魔気の流れのように、はっきりと目に視えるものだと思っていた。

 一部の結界はちゃんと視えるのだから。


 だけど、その前提が違っていて、ほとんどの結界は、気配を感じるものであって、目にくっきりと視えるものの方が少ないそうだ。


 尤も、結界魔法によっては、使い手の力量で、周囲に溶け込ませることができずに目に視えてしまうものも少なくないらしい。


 もしくは、敵対する人間への分かりやすい牽制や、護り手に対して安心させる意味で、視覚化させることもあるとか。


 そうなると、結界魔法は状況に応じて使い分けられるってことだね。


「それを早く言って欲しかった」

「悪い。とっくに知っているものだと思っていた」


 九十九の話では、わたしは法力国家である程度、結界についても学んでいたはずだから、ある程度、知っているものだと思っていたらしい。


 だが、法力国家で学んだ知識は「神力」、「法力」のことが中心で、「魔法」についてはあまり学んでいない。


 その理由については、大神官である恭哉兄ちゃん曰く「浅学な神官からの知識より、魔法についてはもっと適した指導者がいるから」とのことだった。


 まあ、水尾先輩のことだろう。

 あるいは、雄也さんか。


 大神官にまでなった恭哉兄ちゃんが浅学とは思わないが、「魔法」はその専門家である魔法国家の方が間違いないと思ったのは確かだ。


 そして、「結界」は、魔法だけでなく、法力、神力でも形成できる。


 だから、まあ、法力はもともとあまり視えないので、法力国家の結界とかはそんなものだと思っていたのだが、まさか、「結界魔法」まで視えないものだとは思ってなかった。


『見解の相違というやつだな』

「な、なんてことだ……」


 リヒトの言葉通りだろう。


 他にもいろいろあるかもしれない。

 互いが知っていて当然だと思うことが、実は認識が違うというのも。


「思いのほか、栞の知識が偏っているってことか」


 九十九が顎に手を当てながら、考える。


「魔法を使い始めてまだ3年にも満たない人間ですよ?」


 そんな人間が普通の魔界人と同じような知識があると思ってもらっちゃ困る。


「その割に、オレにもない知識と技術を持っているからタチが悪いな」

「失敬な」

「その辺は、兄貴や水尾さん、真央さんと合流したら相談してみるか」


 さり気なく、トルクスタン王子が除かれているようですが……?


 魔法に関しては、ともかく、結界に関しては、トルクスタン王子に聞くのが一番だと思うのですよ?


 空間魔法に強い「空属性」の王族なのに。


 そんなわたしの視線に気づいたのか。

 九十九は苦笑しながら言った。


「『空属性』に関して、トルクは天才型だ。だから、結界について、旨く説明できるとは思えん」

「天才型……」


 おおよそ、普段のあの人からかけ離れた言葉。


 でも、妙に納得できる気がした。


『疑問を持たずに、「息をするように魔法を使えるタイプ」だな。確かにユーヤやミオ、ツクモとは正反対だ』


 今、ナチュラルにわたしが除かれましたよ?


 真央先輩は分かる。

 彼女は、まだ魔法がうまく使えないから。


 でも、わたしは違うでしょ?

 努力してもまだ全然、足りない。


『シオリは天才型だ』

「ふおっ!?」


 まともな魔法が使えない人間に対しての評価とは思えない言葉が返ってきた。


『少なくとも、普通のマカイ人には、魔法の開発などできん。ましてや、大気魔気に強く願うだけで、自分のイメージを再現できてしまうほどの思いの強さも持ち合わせない』

「加えて、イメージしきれない『空属性』以外なら使えそうな勢いだ。しかも、他者の魔法の再現性も高い。まさかと思うが、お前、自覚ないのか?」


 リヒトの言葉に九十九が続ける。


「じ、自覚って……?」


 九十九が溜息を吐き、頭をかきながらもわたしの疑問に答える。


「お前が使い出した魔法は、神官たちが『聖女』に拘る以上に、分かりやすい価値がある。露見すれば、魔法国家のような魔法探究者や、情報国家のような情報追求者たちがこぞって狙いに来てもおかしくないほどの魔法だ」

「ふげぇ!?」


 な、なんてことだ。


 情報国家はなんとなく分かる。

 わたしの魔法って変だから。


 でも、魔法国家までだとは思っていなかった。


「あれ? でも、それって、魔法国家でミラージュから逃げ延びた人たちを探すことが楽になるってこと?」

 わたしの魔法目当てに集まってこないだろうか?


「阿呆。そんな危険なことがさせられるか」

『宣伝の仕方によっては、情報国家や魔法国家の逃げ延びた者たちだけでなく、他の魔力の強い女目当ての人間が挙ってシオリを狙いに来る。数が増えれば、ツクモやユーヤ、ミオだけでは守り切れなくなるぞ』

「おおう」


 九十九とリヒトの言葉に冷や汗が出た。


 しかも、そのやり方だと、水尾先輩や真央先輩まで危険に晒すことになりそうだ。


 彼女たちも魔力が強い。

 そして、立場的には国が消え去っているために王族たちが「庇護」の名のもとに、囲い込みに走らないとは言い切れないのだ。


「きゃ、却下で……」

「当たり前だ。元から、これ以上、お前を公の場に出す予定なんかない」

 九十九が苦虫を噛み潰したかのような表情をした。


『その辺りは既に手遅れ……という気がしなくもないがな』

「だから、これ以上……っつってんだろ? ちょっと最近、『聖女』要素が強まりすぎだ。もっと自重しろ、自重」

「そんなこと言われたって……」


 好きで「聖女」っぽい扱いを受けるわけではないのだ。


 歌っただけで「聖女」と言われるなんて、誰も想像できないだろう。

 あの大神官である恭哉兄ちゃんですら、あの状況は想像していなかったみたいだよ?


『もともと、シオリは「聖女」に近しい魂を持っているのだ。そんなシオリの魅力が、簡単に収まるわけがあるまい』

「ふおっ!?」


 成長したリヒトの言葉は破壊力が強まっている。


 真顔でそう言われると、かなり気恥ずかしい。


「お前、その姿(ナリ)でそんなことを言うなよ」

『嘘ではないから仕方あるまい?』


 九十九に向かって挑発的な笑みを浮かべるリヒトは、間違いなくあの雄也さんの教え子だな~と思ってしまうのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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