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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界新生活編 ~
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目的地に行こう

 久し振りにこんなに歩いた気がする。

 高低差はほとんどなかったけど、それでも草木の間を通るのは正直きつかった。


 道じゃない所を歩くって結構、体力使うんだね。


 わたしが座り込んでいるのに、九十九は先ほどと変わらぬ様子で立っていた。

 そして、何も言わずに真っ直ぐ前を見ている。


 コレは単純に男女の体力差ってことじゃないのだろう。


 そう言えば、人間界でも、彼はわたしを普通に担ぎ上げていた。


 重い荷物扱いはされていた気がするけど、それなりに長い時間、担いだ上におんぶまでして平気な顔をしていた覚えがある。


 ……なんか悔しい。


 だが、自分ではどうにもならないようなことを考えても仕方がないことは分かっている。


 わたしは頭を振って、九十九が見ている方向に目を向けてみる。


「うわぁ……」


 そして、顔を上げて改めて見た時、目の前に広がる光景に、暫し動けなくなってしまった。


 木々に囲まれているため、空はほとんど見えないが、枝の間から光が漏れているため、暗さを感じない。


 さらに木漏れ日を反射するように光る水面が明るさを演出している。

 それでもその眩しさに目が眩んで見えないというわけでもない。


 そこに映し出されている景色は、見たこともないほど広い鏡のようだった。


 先ほどの池も凄いと感じたけど、ここはもっと言葉にできないものがある。

 それに、その水からは、妙に迫力を感じる気がした。


 なんだろう。

 恐れ多いとかそんな気持ちがなんとなく、自然に浮かんでくる感じかな?


「これって……泉?」

「ここまで大きいと湖だな」

「確かに大きい。で、でも……、どんな状態? 森の中に湖なんて……」


 でもこの大きさは確かに泉や池なんて小規模なものじゃなかった。


 森の奥に湖なんて、まるで外国のようで……と、そこまで考えたところで、そういえば、ここは今まで住んでいたところとは違ったということに、今更ながら気がつく。


「ここが、お前が小さい頃に利用していた場所だな。城を抜け出しては、一人で遊んでいたようだ」

「こんなところで……」


 小さい頃のわたしはなんと思い切ったことをしていたのだろう。


 どう見たって、この湖は深そうな場所がある。


 それに、こんな人気(ひとけ)がないところで遊んでいたなんて、溺れる心配とかをしていなかったのだろうか?


 そして、母は何をしてたんだろう?

 今の母からはちょっと信じられない。


 わたしは周りを見渡し、ゆっくりと立ち上がった。

 それに合わせて、足元の植物が一斉に揺れる。


「このふわふわした綿毛みたいな植物は何?」


 あまり大きくなくて可愛らしい、タンポポの綿毛みたいな植物が、この湖を囲むように生えていた。


 この森を歩いている時にも、さっきの池の周辺にも見かけなかった気がするから、ここがこの植物の群生地なのかもしれない。


「ミタマレイルの花だ」

「花? これが? 吹けば一気に飛びそうなほどポワポワしているのに!?」


 まるで、綿毛みたいだから、なんとなく種子だと思っていたんだけど……、まさか花だったとは……。


「昼間ははただの綿毛にしか見えんが、夜になると発光する性質がある。強い苦味があるため食用には向かないが、確か薬効成分があったはずだ」

「ほえ? 光るの? これ……」


 その時点でタンポポとは全く違うことが分かる。

 試しにちょっと(つつ)いてみたが、光源みたいなものは見当たらない。


 この花のどこがどう光るのかよく分からなかった。


「それにしても……、本当に植物に詳しいんだね」


 わたしは花を軽く(つつ)きながら、九十九に声をかける。

 彼の視線はその花ではなく、何故か別の所を見ていた。


「ああ、この花は特別だ。ガキの頃からずっと見てきたから……。光るところも、花が一斉に種子に変わるところも」

「ほ~」


 九十九の視線を追ってよく見ると、このミタマレイルと呼ばれる花たちは、この湖を囲むように沿って、さらに森の奥へと続いている。


 まるで、花たちに案内されているような気分になった。


 だから、なんとなくそちらへ行こうとして……。


「……っと、そっちに行くな!」

「へ?」


 不意に肩を掴まれる。


「その先はちょっと見えづらいが、崖になっている」

「そ、そりゃ危ない」


 どう見ても森が続いているようにしか見えなかったのに……。


 ここはある意味行き止まりだったようだ。

 危ない、危ない。


「だから、気にしてたの?」


 わたしは気になっていたことを口にする。


「は?」


 だが、九十九は目を丸くした。

 どうやら彼は気づいてなかったみたいだ。


「いや、さっきからチラチラと九十九がそっちの方を見てたから……。だから、この先に何かあるのかなと思ったの」


 九十九はこの湖についた時から、向こう岸……に見えるところを見ていたのだ。


 始めは確認のために、先ほどと同じように、この湖の大きさを測っているのかとも思ったのだが、この場所を覚えているのだからその必要はあまりないはずだった。


 すると九十九は目を伏せてポツリと言った。


「……墓だ」


「はか? お墓?」

「そう……。オレたちの両親が眠っている場所がこの先にある」

「そう……、なんだ……」


 なんだろう、このやらかしてしまった感は……。

 なんだか聞いてはいけないようなことをうっかり聞いてしまったような気がする。


 九十九が大事にしていた場所にズカズカと無遠慮に土足で踏み荒らしてしまったようなそんな感じがして、酷く申し訳ない気持ちになったのだ。


 でも、同時に疑問が浮かんでくる。


「九十九は10年間人間界、地球にいたんだよね?」

「? そうだが?」


 九十九は不思議そうな顔をする。


「確か、一度も帰っていなかったって言ってなかった?」

「言った気がするな」

「じゃあ、その間一度もお参りしてないってこと!?」

「その間どころか、父親が死んでから一度もしたことがないな」


 淡々と答えられたが……、つまりは……。


 亡くなってから一度もお参りしてない!?


「このバチ当たり!!」

「な、何でだよ!?」

「いや、なんか違う! この親不孝者!!」

「それなら、分かる」


 妙に冷静な九十九のその態度が、妙に腹が立ってくる。


「なんでお参りしてないの? 魔界人だから?」


 魔界人は亡くなった人を悼む気持ちが無いとか?


「この場合、魔界人は関係ねえよ」


 宗教とか考え方の違いならば、仕方がないと諦めただろうけど、九十九の言葉からそうではないことが分かる。


「母親は生まれてすぐ、父親は3歳の頃に死んでるんだ。そんなガキにお墓参りという習慣や心があると思うか?」


 それは確かに……。


 わたしだってそんな小さい頃にそんな心があったかどうかは……、覚えていないから分からない。


「えっと……、魔界人にお墓参りの習慣はあるってことで良い?」

「墓参りって言うより、死者に対して祈りを捧げる……、だった気がする」

「なるほど、お祈りはあるのね」


 それならば問題はない。


「確かに昔は小さかった。でも、今は15だよ! 立派にいろいろ分かるお年頃!!」

「今更……」


 どうも九十九にしては煮え切らない態度だった。


 そして、それを見ているとなんだか無性に腹が立ってくる。

 ここまで来たなら、躊躇(ためら)う理由ってのがわたしには分からない。


 親なんだよね?


 実際、九十九はその方向を気にしていたのだ。

 つまり、関心が全くないわけではないと思う。


 もしかして、わたしがいるから行けないってことだろうか?


 でも、この機会を逃すと、九十九はここに来ない気がする。

 それはちょっと許せない。


 親は大事にしなきゃ!


「わたしも付き合うから!」


 そう言って、九十九の手を握る。


「お、おいっ!?」


 九十九が言ってた。


 この先に、崖があるって……。

 つまりその先にお墓があるってことだと思う。


「れっつ、じゃんぴんぐ!!」


 できるだけ明るく言ってみる。


「このどあほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうっ!!」


 そんな九十九の叫びと、わたしたちの足元がなくなるのは、ほぼ同じだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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