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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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【第70章― 音を聞く島 ―】大丈夫だと言い切れるか?

この話から70章です。

『そこの人間たち』


 そんな高い声が聞こえて、顔を上げる――――――が、その方向には誰もいなかった。


「上だ」

「上?」


 九十九の声で顔をさらに上へ向けると、そこには……、えっと? 真っ暗でよく見えない。


「露出狂か?」

「はい!?」


 九十九の口からとんでもない単語が聞こえた気がする。


 声からすると、恐らく相手は女性だと思う。


 でも……、露出?

 そして、そんな状態を見ても、九十九は何故、平然としているの?


「いや、なんかビキニアーマーっぽいのを着てるから、つい……」


 彼が気まずそうに顔を逸らすが……。


「ビキニアーマー?」


 何、それ?


「お前、ゲーム好きなのに知らないのか。ビキニスタイルの鎧のことだよ」

「それ、一般的な単語?」


 少なくとも、わたしに聞き覚えも、読み覚えも、見覚えもない単語だと思う。


「……多分」


 わたしに問い返されると、どうやら自信はないらしい。


 ビキニスタイルの鎧……ねえ……。

 ビキニって、多分、セパレーツの水着のようなやつだったと記憶している。

 形としては、下着のような感じ?


 ああ、確かに露出と言えなくもない。

 そう言えば、有名RPGの女戦士がそんな鎧を着ていた気がする。


『お前たち、アタシを無視して会話を続けるな!!』


 どうやら、声の主はお怒りの様子。


 でも、そんなことを言われても……。


「姿が見えないことには……」


 九十九には視えているみたいだけど、わたしには見えない。

 真っ暗なこともあるけれど、陰も形も見えないのだ。


 それに、この状態って首が痛い。

 自分の身分とか立場はともかく、相手の()が高すぎるにも程がある。


『見えない? そちらの男は見えているみたいだが?』

「こんな規格外と一緒にされても……」

「人の努力の賜物を『規格外』の一言で片付けるな」


 九十九は不機嫌さを隠さない。


 しかし、ビキニスタイルという風変わりな姿の、女性と思われる存在が上にいると言うのに、彼に動揺はない。


 このぐらいの年代の青年男性って、そう言ったビジュアルの女性って好きじゃなかったっけ?

 九十九は興味なし?


 でも、「ビキニアーマー」ってわたしが知らないような謎単語も知っていたよね?


 興味のない系統のものを頭に入れているのも不思議。

 いや、九十九は割と多方面にいろいろな知識があったか。


 そうなると、相手がわたしみたいに残念な体型?


 ああ、うん。

 分かっている。


 わたしにはワンピースタイプの水着の方が合うってことぐらい……。


『本当に見えないのなら仕方がない』


 そう言いながら、上から何かが落ちてきた。

 いや、誰かが降りてきた。


 黒い。

 いや、違う。


 降りてきても、陰にしか見えない。


 コンテナハウスの仄かな光が届かない場所に降りたこともあるだろうけど、本当に真っ黒な人影だった。


 ただその影から身長はわたしよりも高く、髪の毛は少し癖があってあちこちはねていて、腰よりも長いことは分かる。


 服装は……、その癖っ気のある長い髪のせいで、上半身はよく見えないけれど、身体の線……具体的には足のラインぐらいなら分かる。


 なるほど……。

 確かに服を着ている感じではない。


 もしかしたら、タイツぐらいは履いているかもしれないのだけれど。


『これで満足か?』

「はい」


 そう答えはしたものの、わたしに見えるのは真っ黒な影だけで、相手の表情も分からないままだ。


 それでも、まあ、全身図が分かるようになっただけ、かなりマシだろう。


『これでも、まだ不満なのか?』

「いいえ?」


 わたし、一応、肯定の返答をしたはずだけど……?


「栞……」

「何?」

「その女は多分、『長耳族』だ」

「はえ!?」


 その九十九の言葉に思わず、自分でも分かるぐらい珍妙な言葉が口から出てしまった。


 でも「長耳族」……って、あの「長耳族」……?


「その長い耳。恐らくは間違いないだろう。だから、今、お前の心は読まれている」

「ほへ!?」


 更なる続いた言葉に、思わずその人影をしっかり見ようとしたが、駄目だ!! わたしには見えない!!


 せめて、特徴的な耳だけでも見せて欲しいが、何処をどう見ても、癖のある髪の毛の影ぐらいしか分からなかった。


『それを分かるお前は人類(ヒト)だよな? だが、アタシにはその能力はない』


 九十九の言葉を否定しない辺り、どうやら、本当に「長耳族」らしい。


 目を凝らして見るけど、やはり、特徴的な長い耳を見ることはできなかった。


「つまり、お前の表情で読まれているらしいぞ?」

「ほ!?」


 こんな暗闇なのに!?


「とりあえず、お前は人類の言葉を話せ」

「人類の言葉以外、知らないよ」


 確かにわたしはまだ、この近くの人類の言葉であるウォルダンテ大陸言語は怪しいけれど、今の言葉は少しあんまりだと思う。


『アタシがお前たちの言葉で言う「長耳族」と分かっているなら話が早い。お前!』


 そう言って、その人影は九十九を指差した。……多分。


『何も言わず、アタシに付いて来い!』


 姿の見えない相手は、そんなとんでもないことを言ったが……。


「断る」


 いつものように短くも迷いのない即答を九十九はする。


『は?』


 まさか、彼から断られるとは思っていなかったのか、相手は絶句した。


「オレが付いて行く理由はない」


 そんな素っ気ない返事だというのに、なんとなく安心してしまう。


 相手は女性だ。

 しかも、「露出狂」と九十九が口にしてしまう程度に、その肌が見えるような格好なのだろう。


 それでも、わたしの護衛はいつも通り、平然としている。


 もしかして、彼は女性に興味がない……ってことは絶対にないか。

 それは、恐らく、わたしが一番、よく知っていることだ。


『理由ならある』


 九十九の言葉に対して、人影はそう答えてこちらに向かって進み出る。


 少しずつ目が慣れてきたことと、直ぐ近くにあるコンテナハウスの光が届くようになったためか。


 黒いだけの人影が、その豊満な肉体と、黒い肌を見せつける。


 黒い肌……?

 違う!?

 この人の肌は、黒ではなく褐色、いや、もっと色濃い焦げ茶色だ。


 そして、かなりあちこちはねているけれど、黒い髪。

 その風貌は、まるで……。


『お前とよく似た男が村にいる』

「あ?」

「へ?」


 焦げ茶色の肌をした女性のとんでもない言葉に九十九とわたしは、それぞれ奇妙な声を漏らす。


『黒い髪、黒い瞳。薄い色彩の肌。纏う()こそ異なるが、その姿形はとてもよく似ている。お前の身内だろう? そいつの所まで案内してほしいとは思わないか?』

「いや、全く」

『は?』


 自信満々に語る女性の言葉に対し、あっさりと拒絶する九十九。


「仮に、その男がその村で捕えられているとして……」


 さらに考えながら、九十九は言葉を続けていく。


「オレが敵に捕らえられることがあれば、救うことを考えるより放置するというのが、あの身内の弁だ。ならば、オレもそれを選択しても恨むことはないだろう」


 ああ、確かにあの人は九十九に対してそう言いそうだ。

 それも、笑顔で。


『お、お前は! 自分の身内を見捨てるという気か?』


 そんな叫びに対して……。


「身内への甘さを見せて敵に侮られるぐらいならそうする」


 九十九は表情もなくそう告げた。


 こう言った時、あの人との血の繋がりを九十九に感じる。


 伊達に幼い頃から、周囲が退くぐらい、そして、今も尚、当人の心に傷を残すような、少しばかりスパルタ気味な教育を受けているわけではないようだ。


「九十九……」

「余計なことを言うな」


 わたしが何を言おうとしたのかを察したような九十九の言葉。


 でも、彼ら兄弟が納得した上での話であったとしても、わたし自身は、その選択をしたくない。


「尤も、あの男が、簡単に捕まること自体があり得ねえけどな」


 わたしもそう思う。


 いや、カルセオラリア城の崩壊までそう思っていた。


 あの人に限って、失敗するなんて、大怪我をするなんてあり得ないと。


 それでも、そんなあの人だって大怪我を負ったのだ。

 それも、瀕死の重傷クラスの怪我を。


 それなのに、「絶対に大丈夫だ」なんて、そんな慢心した考え方を誰が口にできると言うのか?


「雄也さんだって、魔法を使えない場所でも大丈夫だと言い切れる?」

「それは……」


 九十九が流石に言い淀んだ。


 あの人が魔法国家の王女に勝利したのだって、基本的には魔法という奇跡の補助があってのことだ。


 勿論、魔法が使えなくてもある程度は何とかできるだろうけど、いつもほどではないのではないだろうか?


「実際、九十九だって、昼間、魔法が使えないことにショックを受けていたでしょう?」


 その動揺を、他の魔界人が持ち合わせていないなどと、どうして言いきることができるのか?


 多分、魔法が使えなくなることに対してあまり動揺しないのって、元から使えなかったわたしぐらいだと思う。


 水尾先輩だって昔は驚いていた。

 魔法が使えない、大気魔気を感じられない状態は恐ろしいことだと。


 何故なら、魔界人にとって、「魔法を使うこと」、「他人の体内魔気や大気魔気の存在を感じること」は人類が呼吸をするのと同じぐらい、自然なことらしいのだから。


「だから、完全拒絶ではなく、まずは、この方の話を聞きましょうか?」


 少しぐらい話を聞いてから判断しても遅くはないはずだ。


「お前なあ……」


 九十九は呆れたような顔をするが、いつものことだと分かっているので、それ以上、わたしに何かを言うことを諦めたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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