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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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言っていて悲しくなる言葉

「高田、もしかして、胸、少し大きくなった?」

「のっけから酷い話題ですね」


 水尾先輩の言葉にわたしは苦笑する。


 いくら何でも、いきなりそれはないだろう。


 わたしは今、水尾先輩と2人でコンテナハウスのお風呂を使っているところだった。


 実は、これってありそうであまりないことなのだ。

 わたしは普段、彼女と一緒に入浴することはほとんどない。


 このコンテナハウスは、近くに町や村など宿泊できそうな場所がない時の簡易宿泊場所として使用するものだが、寝る場所はちゃんと個室となっている。


 お風呂は一つしかないけれど、基本的には決められた順番で入ることにしているのだ。

 その時は、わたしも最後に入りたいなどと我が儘は言わない。


 九十九と雄也さんは基本的に数時間単位の交代制で外を見張ってくれているので、彼らの後に入ろうとすると、自分が寝る前にお風呂に入れなくなってしまうのである。


 尤も、この世界には、「洗浄魔法」があるのだから、彼らは別にお風呂に入らなくても良いらしいのだけど、わたしは入ることができる環境にあれば、お風呂には入りたい。


 これは、人間界での生活習慣のせいだろう。


 それは水尾先輩も同じのようで……。

 だから、基本的には水尾先輩、わたしの順で入っていた。


 長耳族のリヒトには、お風呂どころか行水の習慣すらなかったために、九十九か雄也さんが「洗浄魔法」を使っていた。


 彼が、水をかける、水で流すなどの行動を、少しだけ怖がっていた部分があったためでもある。


 でも、あれから真央先輩やトルクスタン王子が加わったから、また、お風呂の順番を考えなければいけないね。


 今回、水尾先輩と一緒にお風呂に入ることになったのは、今いるところが全くの予定外であり、完全に見知らぬ場所で、しかも、魔法が使えなくなるようなところがあるような場所だ。


 いつ、不測の事態が起こるか分からないので、わたしは出来る限り、九十九か水尾先輩と一緒に行動することになったことによるものだ。


 トルクスタン王子と一緒に行動するのはダメらしい。


 水尾先輩曰く「いつセクハラするか分からんような男と一緒にするのは危険すぎる」とのこと。


 いや、太股を触りたくなったのは、膝枕をしていた相手が、水尾先輩の足だったからだと思うのです。


 さらに、わたしたちがお風呂に入るからと言って、「昏倒魔法」を使うのは、やりすぎだろう。


 そして、そのお風呂に入る前に身体を洗っている時に、冒頭の台詞である。


 でも、あまり見えないように身体を隠しながら洗っていたというのに何故、気付くのだろうか?


「これは胸が大きくなったのではなく、全体的なサイズアップです」


 そんな言っていて悲しくなるような言葉を、自ら口にする。


 だけど、そうとしか思えない。


 あの「ゆめの郷(トラオメルベ)」で九十九と過ごしていた間、甘いお菓子が何度も出てきたのだ。


 しかも、運動は室内でできる筋トレ程度。


 絶対にお太り様コース一名様ご案内となったのは間違いないだろう。


 何故、一名か?

 九十九はそこまでお菓子を食べないし、同じ室内の運動量でも全然、違うのです!


 その上、彼は汗だくになるほど身体を動かす。

 さらには、バランス栄養食。


 無駄なくガッシリした体型になるわけだよ。

 細すぎず、太くも見えない筋肉質。


 しかも、ちゃんと固いんだ、あの身体。

 でも、触れないと、その筋肉は分かりにくい。


 何なの?

 あの体型。


「ああ、九十九に食わされたか」

「食わされましたよ」


 港町で、いつもよりもたくさん歌ったぐらいでは、簡単に痩せないことはよく分かった。

 歌でカロリーはあまり消費されないのだろうか?


 あれ?

 でも、カラオケでカロリー消費の表示とか出てなかったっけ?


 でも、食事を減らせば、わたしのオカン、もとい、護衛は絶対に気付いて、もっと食べさせようと画策するだろう。


 こんな時、有能過ぎる護衛は本当に困る。


 わたしを太らせてどうする気だ?


 そして、男性って、一般的には太っている女性よりも、痩せている女性の方が好きなんじゃないの?


「それは羨ましい話だ」


 九十九の料理が好きな水尾先輩は笑って言った。


「私はどんなに食っても太れないからなあ」

「わたしにとって、そっちの方がすっごく羨ましい話です」


 食べても太らないとか、全人類の夢ではないだろうか?


 しかも、胃弱とかではないのだ。

 寧ろ、水尾先輩は胃腸が異常なほど仕事をしている気がする。


 ああ、だけど、全然、太らなくなったら、わたしのオカン、違う、護衛がさらに食べさせようとする未来しか見えない。


「どんなに食っても、体内魔気に変換されていくからな」


 水尾先輩は自分の右腕を伸ばす。


 その腕は長くほっそりしていてわたしは羨ましいのだけれど、彼女にとってはそうではないらしい。


 そして、普段は抑えられているけど、かなりの強さを誇る水尾先輩の体内魔気は、その膨大な食事量の賜物らしい。


「まあ、胸なんて、あっても邪魔なだけだけどな」

「そう言えば、弓道部の友人もそんなことを言っていたのですが……」


 人間界で中学生をやっていた時を思い出す。


 何でも、弓道をやるのに、大きい胸はかなり邪魔だったらしい。


 彼女はかなり大きかったから、和装下着というやつで押さえつけていたのに、少しでも形を崩すと弦が当たって胸当ての上からでも大ダメージを負うと言っていた。


 ギリシャ神話に出てくる女性部族(アマゾネス)にも、邪魔だから片方だけ切り落とすとかそんな描写があったので、わたしはそこまで気にしなかったのだけど……。


「それを聞いていた他の旧友たちは、『ただの巨乳自慢だ』と言っていた覚えもあります」

「まあ、人間界……、日本の中学生、高校生ってのは、大きい方が良いと思っている年代みたいだからなあ……」


 水尾先輩が何故か苦笑した。


「アリッサムとは真逆だ。アリッサムは胸も身長も小さい方が好まれる」

「胸はともかく、身長も……ですか?」

「成長よりも魔力に栄養がいった証拠だからな」


 確かにあれだけ食べている水尾先輩や真央先輩が細いままだというのは、妙に説得力のあるお言葉だ。


「そうなると、わたしはアリッサムだとかなり好まれる体型ですかね?」

「高田は胸があるからなあ。どうだろう?」

「この大きさで、わたしのことを『胸がある』と言ってくれるのは、水尾先輩ぐらいですよ」


 あの弓道部の友人を始めとして、わたしより胸の大きい女性はいっぱいいる。


 寧ろ、小さい方が少ないだろう。


 具体的に上げるならば、わたしより胸が小さいと思われるのは、水尾先輩と真央先輩だ。

 そして、その2人ぐらいしかすぐに思いつかない。


「でも、少なくとも私やマオよりはあるだろ?」


 自分の考えを読まれた気がして閉口してしまう。


 そんなわたしの様子を見て、水尾先輩はくくくっと笑った。


「まあ、男はないよりある方が好きなんだろうけどな」


 そう言って、水尾先輩は自分の胸を撫でるように手で押さえた。


 同性相手にも、身体を隠しているわたしと違って、水尾先輩は堂々としている。


 わたしにはできない。

 同性でも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「気になるなら、九十九に頼めば良い」

「ふへ?」


 何故、九十九?

 ああ、食事療法的な話かな?


「胸って、揉むと大きくなるって言うだろ?」


 揶揄うような水尾先輩。


 でも……。


「何故に九十九?」


 改めてそう思う。


 そして、なんとなく、その話に聞き覚えはあるけれど、わざわざ他人の手を借りる理由が分からない。


 自分の手は二本あり、胸も同じく二つあるのだ。


 それならば、わざわざ他人の手を煩わせずとも、自分で揉めば良いんじゃないのかな?

 結果としては一緒だよね?


「何故って、先輩よりはマシじゃないか?」


 そう言われたので考える。


 まあ、確かにそんな阿呆なお願いを聞いてくれそうなのは、九十九と雄也さんぐらいしかいないけど……。


「どちらに頼んでも、間違いなく退()かれますよ?」


 少なくとも、世間一般の「女性主人」としては、どんなに胸の大きさを気にしていたとしても、そんなことを異性の護衛にお願いなどしないとは思う。


 同性なら、どうだろう?

 それでも難しい気がする。


「それもそうだな」


 水尾先輩も少し、考えて、その結論に達したようだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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