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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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本気の愛情表現

 見ていると、気分が重くなる海が、目の前にある。


 何故、海というものは、こんなにも大きいのだろうか?

 思わず目を逸らした先にも、また海が見えるのだ。


 だが、この場所まで来れば、ツクモもミオも、いつもと同じように魔法が使えるようになるらしい。


 ミオの言葉を借りるとそれでもいつもより「体内魔気の巡り」が悪くなっているとのことだが、それも()()()のせいだろう。


「あ~、酷い目にあった」


 調子が悪くても、ツクモの治癒魔法は一定の効果があったようで、トルクスタンは頭を押さえながら身体を起こした。


「自業自得だ!!」


 ミオは叫ぶが、明らかな人災を自業自得と言って良いのだろうか?


「人が膝枕してやれば、いきなり足を撫でまわしやがって……」


 ミオの言葉にシオリは一定の同意を示すも、やはり、心の中では、「やり過ぎ」だと思っているらしい。


「撫でまわす? ああ、少しぐらいは触ったかもしれんが、気力回復ぐらいさせろよ」

「ふざけんな!!」


 この場合の気力回復は、自身のことではなかったようだ。


 トルクスタンは、怪我をしていた自分を気遣って気落ちしていたミオを元気づけようとしたらしい。


 確かに気力は回復したが、それ以上に、厄介ごとになっている気がする。


「太股を触るって、気力回復になるの?」


 シオリがツクモに確認するが……。


「オレに聞くなよ」


 ツクモとしても答えにくい問いかけのようだ。


『男限定のようだな。トルクの声を聞く限り、生きる希望が湧くらしい』

「お前もわざわざ心を読んでまで答えてやるなよ」


 トルクスタンから「そう答えろ」と心の中で言われたのだから、俺はそう答えるしかないのだ。


『人間はいろいろ難しいな』


 俺は小さく零した。


 それはずっと思い抱いている言葉。


 些細なことで喜び、怒り、悲しむ。

 その感情は、分からなくもないが、その移り変わりがあまりにも早く、そして、激しい。


 これは、人間が短命な種族だから……、だろうか?


「相手が嫌がることをしないというのは、人間に限らず、信頼構築のための最低限の決まりだと思うよ」


 先ほどの答えなのか……。


 シオリがそう言った。


『なるほど……。つまり、相手が嫌がらなければ問題ないのか?』

「そうなるね」


 見た目が笑顔でも、その後ろでは憎々し気な顔をしている人間はいる。


 その逆に、表面上は嫌がっても、その胸の内は真逆だったりすることもあった。


 それを俺は、あの森を出てから何度も見てきたのだ。


『それなら……』

「リヒト」


 俺がその先を言いかけた時、それをツクモが制止した。


 ―――― 今、余計なことを言おうとしただろう?


 心を読むまでもなく、ツクモの瞳がそう言っている。


 ああ、そうだ。

 人間は、内と外で違う感情を持つ生き物なのだ。


 例え、嫌ではなくても、驚きのあまり、石で殴りつけたり、大事にしたいのにわざと酷く傷つける手段をとってしまったり。


『理解した』


 そう口にしたものの、本当は何一つとして理解できない。

 こんな回りくどい生き物たちのことなど。


『人間とはいろいろ難しいものだな』


 俺ができるのは、その心を読むことだけ。


 だが、心を読めてもその心の変調を本当の意味で理解することなどできないのだろう。


 人間は、自分の心までも偽ることができるのだから。


「綺麗な足が見えたら思わず触りたくなるのは普通の感性だろ?」

「それはお前だけの感覚だ。このド変態!!」


 そして、互いの心を偽り合う2人がここにもいる。


 そこにツクモがシオリに対する時のような深くて重い感情ではないのだけど、互いを気にかけ、大事に思い合っていることには変わりない。


「なあ、ツクモ? お前もそう思うだろ?」

「こちらにそんな話題を振らないでください」


 どうやら、ツクモを巻き込むことで事態の収束を図ろうとするらしい。


 ミオ相手にそんな小細工は逆効果だと思うのだが……。


「お前だって、シオリに膝枕されたら触るよな?」

「触りませんよ」


 そう答えてはいるものの、触りたい気持ちはあるらしい。

 しかも、その気持ちが強すぎて、聞こえてくる心の声が大きい。


「ほら、見ろ。お前だけだ。この変態」


 ミオが勝ち自慢げな顔を見せるが、ツクモの内心を知れば、閉口するのではないだろうか?


「ミオ、膝を貸せ」

「お前の顎にめり込ませれば良いんだな?」

「違う。ツクモに膝枕しろ」

「「あ?」」


 トルクスタンはさらに巻き込むつもりらしい。


 ツクモとミオが同時に奇妙な声を出す。


「口ではなんとでも言える。ミオの足の誘惑に抗えたら俺の非を認めてやろう」

「なんでそうなるんですか?」


 頭を押さえながら、ツクモは問いかけた。


「口ではなんとでも言えるからだ。このままでは、俺が『ド変態』の烙印を押されたままとなってしまう」

「どこに出しても恥ずかしい立派な変態じゃないか」

「お前は自分の足の魅力を分かってないからそう言えるんだ。アレに男が抗えると思うなよ?」


 この辺り、男と女で受け取り方が違うらしい。

 ツクモは口に出さないまでも、トルクスタン寄りだ。


 だが、言われているミオと聞いているシオリは、「そんなことを言われても困る」と思っている。


 ただトルクスタンを除いた3人の頭の中に共通している言葉は、「ヘンタイ」と言う謎の単語だった。


「なんで、高田じゃなくて私なんだよ?」

「足だけならお前の方が、魅惑的だからだ」

「お前という男は……」


 額を押さえながらミオが震えている。


 その状態にシオリとツクモが身構えた。

 付き合いの長さだろう。


 心が読めないはずの2人は、続くミオの台詞を警戒している。


「九十九! 頭を貸せ!!」


 激しく腰を下ろしながら、ミオはツクモに向かって叫んだ。


「なんで、オレが巻き込まれるんですかね?」


 興奮気味のミオに対して、ある程度、この展開を予想していたツクモは、やや疲れたような声で応じる。


「九十九が巻き込まれ体質だからじゃないかな?」

「お前に言われたくはねえ」


 その点に関しては俺も同意する。


 シオリが言う「巻き込まれ体質」と言うのは、恐らく、トラブルに巻き込まれやすいという人間のことだろう。


 確かにツクモに対してそう言っているシオリの方が、周囲で発生するトラブルに巻き込まれているような気がする。


 だが、彼女の護衛であるツクモは、その結果、巻き込まれることになるわけだから……、やはり同じようなものではあると思う。


「それで、どうするの?」

「どうするって……」

「水尾先輩は九十九の頭をご所望のようですよ?」

「嬉しくねえな」


 ツクモの苦笑いに、シオリが不思議そうな顔をする。


 シオリはツクモの複雑な心境に気付いてはいないし、ツクモ自身もそれを伝える気はないだろう。


「高田、護衛の(ツラ)を借りるぞ」

「どうぞ」


 ミオの言葉に対して、迷いもなくシオリは返答する。


「お前も躊躇なく、オレを売るな!!」

「いや、これらをとっとと終わらせて、真央先輩や雄也さんを捜しに行きたいんだよ」


 ツクモたちのどこか平和な問答よりも、この場にいない2人のことを気にかけるシオリ。


 だから、どこか気もそぞろとなっている。


「兄貴たちなら大丈夫だ」

「それは分かっているけど……」


 それでも、あの2人のことが気になって仕方がないらしい。


 だが、マオにはユーヤが付いている。

 そして、マオはシオリにとっても大事な人間の一人だ。


 それならば、ユーヤは全力で護るだろう。


「分かってるよ。姿が見えないと安心できないもんな」

「ふえ?」


 ツクモはそう言いながら、どさくさに紛れてシオリに触れる。


 隙あらば、触るようになっている気がするのは気のせいではないらしい。


 トルクスタンよりも自然に行う行為に対して、そういった行動に慣れていないシオリは面白いように反応する。


 そろそろ、少しぐらいは警告をしていた方が良いだろうか?

 ツクモのソレは、「揶揄い」ではなく、シオリに対する「本気の愛情表現」だぞと。


 尤も、そんなことを本気で言えるはずもないのだが。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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