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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 狭間の島編 ~

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光からも音が聞こえる

 海が見える場所で、俺は、ツクモとシオリに合流することができた。


 できれば、海などもう見たくない。


 初めて見た時はその大きさに驚いたが、自分がそれに呑まれた後は恐怖の対象でしかないだろう。


 そして、あんなに塩辛い水だとも思わなかった。

 十分すぎるほど飲んだ気がする。


 だが、目を覚ました時、その喉の奥にまで広がった痛みは治まっていたから、もしかしたら、トルクスタンが何かの処置をしたのかもしれない。


 どんな処置をしたのかを確認しなかったのは良かったのだろう。

 誤魔化されても、心の声で分かってしまうから。


 ツクモが何かを警戒しているようだが、分からない。


 この男が考えている視線、とやらが、俺にはどうも分からないのだ。

 人間に限らず思考する動物ならば、その心が伝わるはずなのに……。


 もしかしたら、かなりの距離があるか、心の声が弱い生き物なのかもしれない。


 だが、俺を見た途端、変化した?


 ツクモは同族だと思ったらしいが、俺を見て同族が喜ぶとは思えない。

 だから、エサにでも見えたのだと思っている。


 ユーヤの話では、人間には興味がなくても、精霊族を好んで食らうような種族はいるらしいからな。


 だから、精霊族によっては、長耳族のように固まって暮らすモノたちもいるようだ。


 互いの身を護るため……と、数がいれば、襲われた時に生き延びる可能性があるという理由から。


 もしくは人間と契約すれば、その契約した人間が死ぬまでは護ってもらえるというのもある。


 ただそこには適性というモノがあるらしく、半人半精霊族の俺は、残念ながら人間とは契約できないそうだ。


「トルク……、他の皆は?」

『他の連れはミオだけだ。マオとユーヤがいない。トルクスタンは捜しに行きたそうだが、今は動けない』


 動きたくない……から、動けないに変わっただろう。


 いや、始めはミオが目を覚ましたら捜しに行くつもりだったようだ。

 だがミオからの「膝枕」という単語によって、「動かない」に変わった。


 そして、「動けない」状態になっただろう。

 ミオも力はないのに、ある意味では力強いから。


「動けない?」


 俺の言葉に気付いてツクモが思考する。


『ミオを庇って怪我をしたんだ。死ぬほどではないらしいが……』


 嘘は言っていないが、寧ろ、動けないように(とど)めを刺したのはミオだという点については、ツクモに言えるはずもない。


「つまり、水尾さんも動けない……か」

『それも、俺のせいだ。ミオは俺を抱えていた。その時に、船の破片が……』


 ツクモやユーヤは人の言葉から嘘を見抜く。


 だから、嘘は言わない。

 本当のことを全て言わないだけだ。


「状況は分かった」


 俺の言葉を全て聞かず、ツクモは遮った。


 ツクモ自身にも多少の罪悪感がある。


 あの時、ツクモはもっと近くにいた俺やミオではなく、少し離れた場所で眠っていたシオリに向かって手を伸ばしたのだから。


 そして、俺がシオリに向かって伸ばそうとした手は、先に俺を掴んだミオによって阻まれた。


「栞、聞こえてたな」

「う、うん!」


 黒髪の女性が草木の間から顔を出す。


 少しだけ離れていただけなのに、その姿を見ただけで安心できた。

 彼女を見ると、胸の奥が温まる。


 だけど、彼女に対してツクモが抱くような激しい感情は、やはり湧き起こることはなかった。


「移動するぞ。治癒魔法を使えるのは、オレとお前しかいない」

「分かった」


 目の前で、分かりやすく信頼し合う2人の会話を聞いても、邪魔をしたいとかそんな気持ちは全く湧かなかった。


 俺は人間とは、違う。


 ずっと一人だった俺には、「淋しい」と思う気持ちはあっても、「嫉妬」と呼ばれる感情はなかった。


 その2人が不意に足を止めた。


 シオリが怪我をしたようで、ツクモが癒しの魔法を使おうとする。

 だが、九十九の魔法(おもい)は途中で消える。


 近くにくすくすと笑うような小さな音がした。

 ツクモは何度も試すが、いつものような奇跡が起こらない。


「ふむ……」


 シオリがふと考えて……。


『光れ』


 一言だけ呟くと、()()()()()()恐ろしいほどの(ねがい)が弾け飛ぶ。


 なんだ、コレは……?

 俺は今、一体、何を見せられているのだ?


 いや、これは音なの……か?


「九十九は、明かり魔法は使える?」

照明魔法(Light)


 シオリの言葉に応じ、ツクモが言葉を紡ぐと、今度は手から(ことば)が飛んだ。


 それは、先ほどのミオと同じか?


「因みに、それは古代魔法? 現代魔法?」

「現代魔法だな」


 そう呟いて、今度は再び全身から(おもい)を放つが、やはり何か別の(ちから)によってかき消された。


「何故だ?」


 それは疑問として当然だろう。


 2人の困惑が伝わってくる。


 ツクモは、自分の力量不足を考え、シオリは自分の認識を考える。

 確かにツクモとシオリは分かりやすく違う。


 だが、それは知識とかそんなものではなく、単純に思いの強さ、ではないのだろうか?


『違う』


 だから、思わずそう呟いていた。


「「は?」」


 思っていた以上に大きな声となっていたらしく、2人が驚いて反応する。


『シオリの魔法も、ツクモの「古代魔法」も自身の「体内魔気」を利用して、「大気魔気」への呼びかけているという点に差はない』

「「へ?」」


 先ほどから、2人の声が重なっている。


『「現代魔法」の方は呼びかけ方が違うのだな。「古代魔法」は全身からの呼びかけで、「現代魔法」は、手だけなのか』


 一箇所からよりは、全身を使う方がより大きな音となるのは当然だろう。


 そして、先ほどから聞こえていた「音」は、肉体からの呼びかけ、つまり、何かへの要請ということではないのだろうか?


「ちょっと待て?」


 ツクモが分かりやすく混乱する。


 俺だって実はよく分かっていない。


 ただ、そう感じただけなのだ。


『なるほど、一般的な知識ではないのか』

「リヒトは、『大気魔気』が視えるようになったの?」


 シオリも思考を整理しながら確認する。


『「大気魔気」が、視えると言うか。恐らく、お前たちとは違った形で視えていると思う。だが、上手く言えない』


 先ほどから視えている微かな光と、声のような音。

 これをどう伝えたら良いのだろうか?


「いつから?」

『この場所に、辿り着いてから……だな。気が付けば、身体がこのようになり、視える景色(モノ)が変わった気がする』


 身体が大きくなったから聞こえるようになったのか。

 それとも聞こえるようになったから、身体が大きくなったのか。


 今の俺にはそれすら分からない。


「わたしの魔力の封印が解放された時みたいな感じ、かな?」


 シオリの思考(こえ)にふとした色が混ざる。


 それは過去にあったことを思い出すように少しだけ、雑音(じゃま)が入ったような声。


『ああ、それと似ているかもしれないな』

「リヒト、大気魔気がオレたちとは違った形で視えるってことだけど、どんな風に視えるんだ?」


 ツクモはそちらの方が気になったのか問いかけてきた。


『声、いや……、音?』


 言葉にしてみたものの、やはりうまく言えない。


「「音?」」


 そして上手く伝わらない。


『この場所だからか、それ以外の理由があるのか分からないが、小さな、聞き取りにくいモノが何か聞こえるのだ』

「聞き取りにくいモノ?」

「視えているわけじゃねえのか?」

『お前たちのようにしっかり何かが視えているのではないのだと思う。それぞれの光……があって、そこから音が聞こえるようだ』


 俺の言葉を受けて、ツクモも自分の視覚情報を考える。

 だが、ツクモの眼に映っている色と、俺が視ている光の色もかなり違うようだ。


 しかし、ツクモの思考の中にあった駱駝色とはなんだろう?


『恐らくはお前たちが体内魔気として視えている色も少しだけ違っているのだと思う』


 この場にいないユーヤとマオは分からないが、ミオは赤だ。


 そして、シオリは橙色だ。

 それもかなり色がはっきりと視える。


 トルクスタン王子は、カルセオラリア城が崩壊した時に見た天に向かう青い光が近いが、ややぼんやりとしている。


 そして、ツクモの色は、黄色と橙色が混ざっているように視えた。


 だが、先ほどシオリに対して治癒魔法を使おうとした瞬間は、橙色が強まり、照明魔法を使おうとした時は、黄色の方が強まったことだけは分かる。


 だが、視えているものに関しては問題にはならない。


『だけど、最大の違いは……』


 明らかに人間とは違う部分。


 それは俺が「長耳族(シーフ)」と呼ばれる種族だから……だろう。


『お前たちが纏っているその光から、音のような声が聞こえているのだ』


 光から直接聞こえているのだと思う。


 だが、この感覚はどうしたら伝わるだろうか?


 俺が迷っていると……。


「いろいろ気になるけど、その辺の話は後だ」


 ツクモがそう言った。


 俺の心が読めるわけではないのに、俺の迷いを感じ取ったらしい。


「リヒト、2人の所へ案内はできるか?」

『ああ』


 確かにあの2人をあのままにしておくのは問題だろう。


 俺は、離れている間に、あれ以上の被害が出てないことを心から祈ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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