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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 港町の歌姫編 ~

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1200/2808

「聖女」にとって気をつけるべき人間

祝・1200話!!

「あの方も、私が還俗した頃は、まだあんなに酷くはなかったのです」


 部屋に案内した酒場の主人は、寝台を整えながら、ポツリとそんなことを漏らした。


「先ほどは、本当に不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。貴方たちはただ、私の無理な申し出に応えてくださった。ただ、それだけだったのに……」


 そう言って、さらに頭を下げた。


 時が経てば、性格なんて変わることは珍しくもないだろう。


 特に後輩が優秀な才を持っていることが分かれば、やっかみなども加わって、いろいろなものを拗らせる。


「いや、謝罪はいらない。あの主人も、それを望まない」

「主人?」


 酒場の主人は何故か、首を捻った。


「あっちの『歌姫』が主人。オレは従者だ」

「ああ、それは存じております。港でお会いした時も、そうおっしゃっていましたから」


 勘違いをしていたわけではないらしい。


 それならば……。


「だから、その、そこまでしっかり整える必要はない」


 そもそも、この階に来る口実が欲しかっただけだ。


 ここに栞と泊まる気など始めからない。

 だから、寝台をそこまでしっかり整える必要はないのだ。


 寧ろ、()めてくれ!!


「そ、そうですか。その、私はてっきりその、あの『歌姫』様と、貴方様は本当に恋仲なのかと。仲睦まじいご様子でしたし」


 まあ、かなり他者の前で、愛でたからな。


 いや、まさか、栞の口からあんな言葉が飛び出すなんて、兄貴も思っていなかっただろう。


 破壊力抜群の新型魔法の数々で、容赦なくオレの胸を貫きにきやがった。


 そして、その栞は、大神官に事情を説明しに隣の部屋に行っている。


 普通なら、こんな夜遅くに男の部屋へ栞一人で行かせるのはかなり抵抗があることなのだが、あの人に限って、何故かそんなことは思わない。


 だから、今、オレは部屋を整える酒場の主人と二人きりという、なんとも気まずい状態だった。


「違う」


 残念ながら、それはありえない。


「あの女は、あの神官たちの望み通り、綺麗な身体だよ」

「そ、それは、その、なんとも……」


 オレがそんなことを言うとは思っていなかったのか。


 それはどこか歯切れの悪い返答だった。


「だけど、金はちゃんと渡す。迷惑料も兼ねて」

「いえ! そんなわけには! それに、こちらの不手際です!!」


 どうも、この主人は融通が利かない不器用な男らしい。

 貰える物は貰っておけば良いのに。


 だから、あんな奴らに付け入られるのだ。


「主人、あの男のことをもう少し伺っても良いか?」

「はい。あの『リューゲ=ウン=ザオバ』様は、この港町にある聖堂の管理者で、その……」

「分かってる。建立したのは別の上神官だな」

「……はい」


 そう言って、男は俯いた。


 臆面もなく嘘を吐いたあの男も悪いが、それを元神官でありながら、止めることもしなかったこの男も、あの付き従っている下神官も、オレからすれば同類だ。


 いずれも、神官の質を疑われるだけではなく、信用失墜の行為でもある。

 しかも、ヤツが吐いた嘘は一つや二つではない。


「あの男が、『正神官』に上がったのは?」

「十年ほど前だったと記憶しております」


 十年……。

 それならば、今の大神官と面識がなくてもおかしくはないのか。


 大神官が今の神位(かんい)に上がったのは確か、三年前だ。

 オレたちがこの世界へ戻って来た直後……だったと記憶している。


「あんなに鈍い男でも、正神官になれるんだな」

「鈍い? と、申しますと……?」

「鈍いだろ。少なくとも下神官から還俗して、酒場の主人となった男よりもずっと」


 魔力に関しても、法力に関しても、明らかに鈍い。


「それは……」

「貴方は、『歌姫』の手首にあった『お守り(アミュレット)』の存在に気付いた。だけど、あの男は、あそこまで『歌姫』に接近しても気付かなかった。法力が視えないのは、神官として、致命的だ。少なくとも、本来ならば、『正神官』に上がれるとは思えない」


 法力国家に滞在したから分かる。

 法力の才があれば、「見習神官」になること自体はそんなに難しくない。


 そして、普通よりも才があることが分かれば、昇段試験の受験資格を経て、「準神官」にはなれるのだ。


 だが、そこから「下神官」以降は、受験者を観察しつくした上司から嫌がらせのような昇段試験があるため、容易には上がれなくなる。


 「下神官」から聖堂に常勤することが許されるのもその辺りにあるだろう。


 そして、その上の神位(かんい)である「正神官」ともなれば、受験資格に当人が持つ法力だけでなく、法力の知識と、他の神官が持つ法力を視る才が必要となってくる。


 ただ、法力が強いだけでは駄目なのだ。


 だが、どう見ても、あの男からはその才を感じなかった。


 魔力を視る眼については神官には必須ではないが、他者の法力に気付かないことは問題だろう。


 大神官の法力を知らなかったことは理由にならない。

 誰のものであっても、法力の気配に全く、気付かなかったことが問題なのだ。


 しかも、大神官は今回に限り、かなり近くにいたのに。


 相手が、法力を抑えているから気付かなかった……では、神官として三流以下だろう。


「あの方は、通常の神官とは違った方向で、自身の法力を高める方法をご存じだと聞いたことがあります」


 ふと酒場の店主が思い出したかのように呟いた。


「通常の神官とは違った方向で?」

「詳しくは、私も存じません」


 オウム返しのようなオレの問いかけに答えた声は、どこか感情が抜け落ちている気がした。


「ですが、あの方は、あの方は……」

「?」


 なんだ?

 酒場の店主が震え出した。


 あまり強くはないが、体内魔気が激しく乱れている。


「あの方は、リーヴェを……、娘を!!」


 嫌な予感がする。


 この先を知れば、引き返せない気がした。

 だが、仕方ない。


 そこを知らねば、問題は解決しないままだ。


「誑かされたか?」


 できるだけ、ソフトな表現を使った。


 だが、それでも、酒場の主人の顔色を変えるには十分すぎた。


「本人たちから直接聞いたわけではありません。ですが、あの方は、私の先輩と言うことを利用して、我が娘リーヴェに近付き、そして……」


 その後は、声にならなかった。


 嗚咽混じりの中に、「駄目な父親」、「気付けなかった」などの単語が出てくる。


 ここで泣くぐらいなら、復讐すれば良いのに……。


 少なくとも、オレなら、例え、上司が相手でも生かしてはおかない。


 いや、上司だからこそ、絶対に生かさない。


 そんな判断をする気がした。


「娘が家を出たのは、それが理由か?」

「分かりません。娘が還俗したのは、その、別の男と恋仲になったことが理由でして……。あの方が娘に近付いたのは、ここに帰って来たその後でしたから……」


 確か、大神官もそんなことを言っていた気がする。


 ああ、でも、あんな男に良いようにされたら、家を出たくもなるな。


 なるほど……。

 だが、やはりあの男は、法力の才がある女を食い物にしていた可能性がある。


 オレが鎌をかけた時、間違いなく嘘を吐いた。

 栞を、自身の穢れを祓う道具として見ていたのだ。


 法力ではなく神力の才がある「聖女」から俗世の穢れを祓ってもらえば、確実に神官の格が上がるという話を聞いたことがある。


 だから、法力を持つ人間には気を付けろと。


 そして、同時に、大神官が安全な理由はそこだ。

 あの方は確かに法力を持っていても、誰かを犠牲にして高みに上ることは望まない。


「どちらにしても、大神官に報告すべきことだな」


 あの方は、世界のあちこちで、今、法力を持った女が行方不明になっていることを気にかけていた。


 今回のことが全くの無関係かどうかなんて、まだ分からないのだ。


「で、ですが、娘から直接聞いたわけでもありませんし、リューゲ様から聞いてもいないのです」


 そんな風に下を向くな。


 この気の弱さが、還俗の理由なのかもしれない。

 このような性格では、生き馬の目を抜くようなあの世界では生き辛かったことだろう。


「ああ、大丈夫だ」

「は?」

「あの手のヤツは、絶対に諦めないからな。証拠はすぐ出来上がる」


 少なくとも、既に何度も成功してしまっているのだ。

 だから、今度も来るだろう。


 誰の目にも分かりやすく、直接的で強引な手段を取りに……。

もう1200話です。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告をくださった方々と、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげだと思っております。


いつも、本当にありがとうございます。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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