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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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少年は少女と出会う

 ―――― どんっ!


「あっ!」

「うおっ!?」


 ()()()()()()()()()でぼーっと相手を待っていた時だった。


 何故、ここを指定されたかは分からないが……、あの男がそう言うのなら、間違いはないと思って、ここに立っていたのだ。


 オレは、突然、歩いてきたやつに背後からぶつかられた。


 声からすると女。

 それも、オレの背中に当たった位置から考えても、年下なのは間違いない。


「悪いっ! 大丈夫か?」


 しかし、ぶつかってきた相手の方が転んでしまったので、反射的に謝る。

 その転んだ少女はゆっくりと顔を上げ、オレの顔を見た。


 黒くて短い髪に同じように黒く大きな瞳。

 まあ、可愛いといえる部類で、割とオレ好みの顔だとは思う。


 同時に、もう少し育っていれば……とも思った。


 全体的に小柄だから、多分、小学5年生ぐらいだろうか。

 でも、最近の小学生にしてはやや発育が悪く、あまり胸もないように見える。


 ちゃんと食っているのだろうか?


 しかし、何故かオレはそのままその大きな瞳から、じっと見つめられていた。


「おいっ! どこか打ったのか?」


 ぼーっとしている相手にそんな声をかける。

 反応が鈍い。もしかして、脳震盪でも起こしているんだろうか?


 それなら、少し考えなければいけない。

 オレが突っ立っている場所が悪かったのかもしれないからな。


「あ……、いや……、大丈夫です」

「あ?」


 我ながら間の抜けた声が出たと思う。


 だが、仕方ない。

 今の声は、ぶつかった時には分からなかったが、聞き覚えのある声だったから。


 そのために今度はオレの方がじっと見る立場になってしまった。

 ぶつかった相手を上から、下までよく観察してみる。


 そして、確信した。


 なんてこった。

 髪が短いだけで女ってやつはここまで印象が変わるとは。


 集中しなければ見落としてしまいそうなほど変化しているなんて予想外だ。

 これだから、人間って恐ろしい。


 まさか、相手がオレにぶつからなかれば、そのまま気付かずに見逃してしまう可能性の方が高かったとは……。


「あの……?」


 そんなオレを見て、彼女は明らかに不審そうな表情に変わった。


 ……というか、気付いてねえし、この女。


「あ、わたし、本当に大丈夫ですので。本当にぶつかって申し訳ありませんでした! それでは!」


 一礼してそう言いながら急いでその場を立ち去ろうとした黒髪の女を……。


「待てよ」


 オレは肩を掴んで引き止めた。


「ふぇっ!?」


 彼女の口から変な声が上がるが、オレは構わず続ける。


「もしかして……、高田……か?」


 逃げられる前に問いかけた。


 オレが彼女を見間違えるはずがない。

 気付かずに見落とすことはあっても、誰かと間違えることだけは絶対にないはずなんだ。


「はい?」


 彼女の大きな眼がさらに驚いたように大きく見開かれた。


 やはりそうだ。

 そして、その反応で畳み掛けることができる。


「何、間の抜けた(つら)してんだよ。オレのこと忘れたのか?まあ、3年も経てばお互い変わっているだろうし。それにしたって冷てぇよな。オレは髪の毛のないお前だって分かったのに」


 そう言いながら、わざとらしく息を吐く。


「でも、いつ切ったんだ? その長さなら割と最近だろ?」


 そのために、分かるまでに少しばかり時間かかったけどな。


 しかし、そんなオレの言葉にも彼女は驚いた顔のままだ。


 少し早口だったか? と思ったが、表情を見る限りでは、どうやら、オレのことを思い出せないらしい。


 それはちょっとショックだった。


 ……()()()()

 そんな本音を押し隠す。


「おいおい。マジで分かんねえ? オレだよ、笹ヶ谷九十九! 小学校のころ一緒だった……」


 ここまで言って、ようやく彼女は反応する。


「あ――――っ!?」


 その声の大きさに驚きながらも、思い出してくれたことにホッとする。

 簡単に忘れられてしまうのはかなり嫌なことだからな。


「思い出したか、鈍いやつめ」

「思い出した、思い出した! 完全に思い出した! ずっと同じクラスだったもんね。それに……」


 手を叩きながら、何かを言いかけて、何故か慌てて口を紡ぐ。


「それに……、なんだ?」


 その続きが気になった。


「えっと、割と一緒に遊んだよね?」


 明らかに違う言葉を言って、誤魔化そうとしやがったから。


「それはその通りだが、今、何を言いかけた?」


 言い掛けて止めるのは、少し彼女らしくない気がした。

 この誤魔化し方も、無理がある。


「いや……、その……」


 何故だか周囲がやや暗くてもはっきりと分かってしまうほど、真っ赤になって言葉に詰まっている彼女。


 そして、そんな姿を見て、面白くなってしまったオレはもっと突っ込みたくなった。


「何を隠してる?」


 しかし、そんなオレの好奇心に対しての彼女の返事は大変失礼なものだった。


「別に。もっと背が低かったよね、と言いかけただけだよ。でも、流石に久方ぶりに会った旧友にそれは、ねえ?」


 殴って良いか? この女。

 こう、ハリセンか何かで景気良くスパーンっと。


「背のことは言うな! それに、当時だってお前より高かった!」

「ほほう、女に勝って嬉しい?」

「ああ、負けるよりは嬉しいね!」


 何か、懐かしいこのノリ。


 その見た目はともかく、こいつの中身は何も変わっていない気がして、オレは少しだけほっとする。


「で……」

「へ?」

「元気だったか?」


 先ほどからの言葉や態度で、疑うわけではないが、本人の口から聞いておきたかった。


「見ての通りだよ。つ……、笹ヶ谷くんは?」

「うげ」


 耳慣れない呼び方をされて、オレは固まった。


 いや、今のはない。

 ある意味不意打ちの攻撃を食らった気分になる。


「何?」

「何だよ、その『笹ヶ谷くん』ってのは。らしくねえな。お前、昔は『九十九』って平気でオレのこと、呼び捨てにしてたじゃねえか。今更、変えるなよ。調子狂うから」


 いろいろな意味で耳慣れない。


「いや、でも……、流石にあの頃とは違うんだよ? ならば、中学生らしく、歳相応にと」


 まあ、彼女の言いたいことも分かる気はした。


 オレも、同じクラスの女どもに「九十九」と呼び捨てされることはほとんどない。


 ……っていうか、男も女も、オレに対して、同じ呼び方で統一されているのは気のせいか?


「『高田さん』」


 オレも負けじと全面的なエセ笑顏で呼びかけてみる。


 どうだ!

 恐らくかなり怪しいほどの顔になっただろう?


 この笑顔のモデルは身近なヤツだ。

 アレ以上に参考になるヤツはいない。


「うわ……」


 分かりやすく、その顔を歪める彼女。

 いや、そこまで嫌がるなよ。


「どうだ? 気色悪かろ?」

「うん。かなり。ほら見て。鳥肌立ってる」


 そう言って、白い腕を見せられると……、確かにプツプツとしたものが浮かび上がっている。


「そこまで嫌がられるとそれはそれで複雑なんだが……。ま、オレは今まで通り、『高田』って呼ぶから、お前も『九十九』って呼んどけ。それがお互いのためだ」

「そうさせていただきますわ」


 彼女から「笹ヶ谷くん」と呼ばれるのは、オレも酷く嫌だった。

 昔の呼び名を知っているためか、「これは絶対変だ」と言う感覚がある。


 オレの友人のほとんどは男女問わず、オレのことを「笹さん」と呼ぶためかもしれない。

 いや、この女から「笹さん」と呼ばれるのも、違和感は大きそうだが。


 そんな会話の中、ふと先ほどからかなり気になっていることがあるが、それを口にしても良いものだろうか。


「ところで、だ」

「何?」

「こんなとこで何してる?」

「何って……。美容室の帰り。バッサリ髪の毛を切ったのはつい先ほど。それで、今から帰宅するところだけど?」


 なるほど……。

 だから、髪の毛がかなり短くなっているのか。


「一人か?」


 オレが気にかかったのはその一点だ。

 どう見ても、連れがいるようには見えなかった。


「う~ん。背後霊ならこの辺にいるかもしれないね」

「はあ……。お前なぁ」


 昔と変わらない脳天気な返答に、オレは大袈裟に溜息を吐くしかなかった。


 いくら何でも、無防備すぎる。

 クラスの女子どもだってもう少し警戒心はあると思うぞ、多分。


「女が一人でふらふらしてんじゃねえよ。今、何時だと思ってんだ?」

「何時って……、何時?」

「ほれ」


 そう言いつつ、オレは彼女に左手首の腕時計を見せた。

 アナログ時計だが、角度的に時間を間違えずに見えただろうか?


「8時半?まあ、それぐらいだろうね」


 だけど、時間を見せても、彼女は変わらなかった。


「あのなあ。お前、仮にも女だろ? 世の中、どんな物好きがいるか分かんねえんだぞ?一人で歩いてたら危ねえだろうが」


 この歳になってここまで危機感の乏しい女はこいつぐらいじゃなかろうか。


「物好きって……」

「ほら、幼児体型好きとか。」

「失敬な! そこまで酷くない!!」


 本人はそう叫ぶが、残念ながら、その体型ではあまり説得力がない。


 しかし、ここはオレの方が折れてやることにする。

 今、こいつを怒らせるのは良くないのだ。


「だったら、余計に危ねえだろ? 家まで送ってやるから、感謝しろ」

「できるか! って……、はい?」


 なんだ? その妙な反応は。


「何だよ?」

「送るって……、誰が、誰を?」

「この状況で、そんなに選択があるのか? オレが、お前を、家まで送ってやるって言ってんだよ」

「いいよ。ぶつかった上、そこまでしてもらうのは、なんか悪いし。それに、九十九だって帰るのが遅くなっちゃうよ」


 そこで何故オレの方を気遣うのか?


 どう考えても、この時間帯に一人で歩くのに危険があるのは、一応、生物上、女である彼女のはずだ。


「あのな~。このまま、オレがお前と別れて帰るだろ? それでたまたま付けたニュースとかにお前の名が出てみ? 寝覚め悪いっての」


 そして、オレにとって、それだけは避けたいことだった。


「そりゃそうかもしれないけど」

「いいから、オレが遅くなる分にはいいんだよ。男だから」

「通り魔とかなら男も女も関係ないよ?」

「女よりは危険が少ない」


 オレを襲う通り魔の方が絶対に危険だろう。


「いや、ほら、世の中には殿方同士の方が好きという方々も……」


 そんな特殊性癖の所持者には是非オレの前からご退場願いたい。


 ちゃんとオレは異性が好きなんだ。


「やめんか。そんなことを言い出したら、キリがねえ」


 そう言いながら、オレ達の足は、彼女の家へ向かって歩き出していたのだった。

予告なく、二話同時更新です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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