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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界新生活編 ~

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相手を知ろう

『姿を……変える……?』


 雄也先輩の言葉がよく分からない。


 この国で暮らすために姿を変える必要があるってどういうことだろう?

 それに、この姿って今は完全に見えない状態なのだけど……。


『魔法で変えるってことか?』


「いや、魔法を使っても四六時中は限度がある。それに、この城下でも魔法の気配に敏感な者がいないとも限らないからな。怪しまれる要因は極力作りたくない」

『つまり……、魔法を使わずに変装すると言うわけね』

『変装……?』


 どうもピンとこない。

 母は何故分かるのだろう?


 変装……、文化祭でさせられた扮装みたいなこと……なのかな?

 それとも、仮装(コスプレ)ってやつ?


『兄貴のことだ……。もうそれらの手配はしてんだろ?』

「当然だ。ここに……」


 そう言いながら、雄也先輩はどこからかいろんなカツラを取り出した。


『あら、いっぱい』


 母は驚くわけでもなく、その中の一つを拾い上げた……、多分。


 不自然にカツラが宙に浮いて、髪の毛がゆらゆらと揺れる。

 その様が生首のようで怖い。


 見た目にもかなりホラーだった。


『……って、どれも女物にしか見えんのだが?』

「……話を聞いていたか? お前は姿を変える必要などないだろう。千歳さまと栞ちゃんの姿さえ誤魔化せれば、後はどうでも良いんだよ」


 兄弟の会話をよそに、わたしも一つ手にとってみる。


『うわっ! うねってした!?』


 初めてまともに触れるカツラは、なんだか不思議な生き物みたいにするりと手から滑り落ちた。


 正直、本当に気色悪い。


「違和感がないよう、それっぽい素材で出来たものを用意しているからね。慣れないと驚くのも無理はないかな」

『これ、人毛じゃねえよな?』

「人の髪は多少なりとも魔力を帯びるからな。不自然ではないように他人のものは極力避けるようにした」


 雄也先輩が見やすいように、一つ一つを台に並べていく。


『栞はどの色、形にする?』

『え? いきなり言われても……』


 出されたカツラの髪は、金や茶と、一般的なものから、銀……、白、紫、青と……どこの漫画やアニメから出てきたんですか? と、問いただしたくなるようなものまで様々な色が並んでいる。


『私は……、ピンクかしら?』

『年齢を考えてください、母上……』


 ピンクの髪の毛の母親なんて……ちょっと嫌だよ。


『できるだけ、元の色……黒から離れないといけないでしょ。どうせなら自分じゃ絶対にしない色にしたいじゃない?』

『元の色から離れる……ねぇ……』


 そう言われたら、納得するしか無い。


 でも、自分の中で、ある程度の常識と思われるラインがある。

 あまり奇抜な色は被りたくなかった。


『母がピンク……、わたしは……この辺かな?』


 そう言いながら、金色と茶色の中間色っぽいのを選んだ。


『亜麻色の髪……って、無難すぎない? 本当に若いのに洒落っ気がない娘ねえ』

『母さんみたいに冒険できる性格してないんだよ、わたしは』


 ピンクは無理だし、水色とか黄緑とかはもっと無理!


 来島はよく赤い髪の毛してたけど、人間界であんな毛色をしていられたなと思う。

 違和感がなかったから似合ってはいたのだろうけど。


 あの神経ってかなり凄いよね。


『雄也くん、眉や瞳はどうするの?』

「眉や睫毛は、髪と同色に染めましょう。瞳は……カラーレンズで変えていただこうと思っています」

『か、カラーレンズ?』

『人間界で言えば……カラーコンタクトだな』

『目が悪くないのに異物を入れるなんて……』


 そんな恐ろしいことまでしなければいけないの?

 わたしは、早くも魔界に来たことを後悔したくなった。


「一応、異物感がないものを選んでいるけど、怖いならしなくても良いよ。瞳が黒い魔界人は案外多いからね」

『駄目よ! せっかくだから完璧に姿を変えなきゃ!! ……ってことで、私はこのオレンジにしようかしらね』

『ううっ……』


 母は明らかに楽しんでいる。


 こんな時、ノリの良い性格って羨ましい。


 だが、確かにここまでやっておいて、手を抜くのもどうかとは思う。


『じゃ、じゃあ……この紫っぽいのを……』


 実際、目に入れたら色味は変わるかもしれないけれど、今の黒い瞳の印象からは離れるだろう。


 人間界の雑貨屋で見た紫水晶(アメジスト)にどこか似ている色だった。

 あの紅い髪の人も、確かこんな色だっけ?


 いや、彼の瞳はもう少し青紫っぽかったかな。


「うん、分かった。でも、ウィッグもレンズも装着するのは姿が現れてからかな。多少、顔とのバランスも見ないといけないし……」

『ありがとう。助かるわ~。自分じゃ分からないもの』

『母さんがノリノリ過ぎて困る……』

『娘はノリが悪いのにな』

『うるさいよ、九十九。母さんみたいに気楽に考えられないんだよ』

『その割にお気楽なところがあるから、お前と言う人間はよく分からん……』


 そう言いながら九十九が溜息を吐いた気がした。


「不便だけど、大事なことなんだよ、栞ちゃん」


 雄也先輩は選ばれなかった髪たちを片付けながら言う。


「キミたちは、王妃殿下にだけは見つかるわけにはいかないからね」

『王妃ってそんなに怖いんですか?』


 そんなわたしの問いかけに対して……。


「怖い」

『手強いわね』

『関わりたくねえ』

 

 三者三様の反応が返ってきた。


 人間界でもこんなことがあった気がする。


『雄也先輩が「怖い」って言うくらいだから……、相当なのでしょうね』


 思わず身震いをしてしまった。


「色々な意味で怖い方だよ。まず国内では権力を持っている。国王陛下に次ぐ第二位の力があるようなものだね」

『本来なら王子殿下が第二位のはずなんだけどなぁ……。マザコンはタチが悪い。』


 なるほど……。

 お母さん大好きなのか。


 それは仕方ない。


「子は親に逆らえないものだ。多少は仕方ない面もあるだろうけれど……、あれは王妃殿下の性格上、そういったバランスになっている気もするな」

『性格も怖いんですか?』

「気性が激しい……、いや、荒い感じかな?気に入らないことがあれば癇癪を起こすタイプだよ」


 そ、それはすごくタチが悪い。


 ……というより、そんな人が上にいるってかなり嫌じゃない?

 ちょっと失敗しただけで首が飛ぶ世界?


 どこの「不思議な国のアリス」な世界だ?


『ヒステリックなんだよな。その上、権力があるから些細なミスで罰を受けてるヤツも何度か見たよ。オレはあまり関わりたくはなかったから遠くから見てただけだけどな』

『お、王は、そんな人のどこが気に入って……?』


 わたしには理解できない。


「この国の王家は血族婚だからね。望んだ婚儀ではなかったみたいだよ」

『あら、雄也くん。少し違うわ。国王陛下はちゃんとあの方を……、今の王妃殿下を望まれたから。ずっと……、あの方と結婚すると口にしていたのよ』

「千歳さま……、それは……」

『当時を知る人間の言葉よ。信じてね』


 雄也先輩の言葉を遮るように、母は言った。


 う~ん。

 会話から察するにいろいろとドラマがあったらしい。


 でも、なんだろうね?

 母親の「女性」としての部分が見え隠れするたびに、すっごい違和感がある。


 わたしが知っている母は「母」であって、「女性」ではないのだ。


 いや、母ってだけで「女性」であることは間違いなのだけど、父親と思われる人に対して惚気るとか、それとなく庇うとか。


 そんな姿を見るたびにもやもやとした感情が広がっていくのが分かる。


 まるで、ずっと一緒にいた母なのに、わたしがまったく知らない人みたいで……。


 でも、それってわたしがまだ子どもってことなのだろうか?


 もし、父親と思われる人に会うことができたのなら、母の気持ちが少しは理解できるのかもしれない。


 今は相手を知らないから、実感が伴わないというのはどうしてもあるだろう。


 わたしは魔界に来て初めて、父親に会ってみたいと思ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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