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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 夢の師弟編 ~

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いつでも大歓迎

「そろそろ戻るか」


 そう言って、雄也さんは九十九の肩に手を置くと、九十九の姿が消えてしまった。

 夢の中に入る魔法を解除したらしい。


 白い世界に、わたしと雄也さんだけが残る。

 まるで、いつか見た夢のようだ。


 あの時は必死だった。


 雄也さんが文字通り、死ぬか生きるかの瀬戸際で……、わたしは、過去(ワタシ)でもあり、現在(わたし)でもあった。


 今の、このわたしはどちらだろう?

 自分でもよく分からない。


 まあ、どちらも「わたし(ワタシ)」なのだから、何の問題もないのだけど。


「栞ちゃん」


 雄也さんから名前を呼ばれる。


「はい」

「キミの夢の中に、勝手に入ってきてごめんね」


 そして、謝られた。


「いえいえ! 大丈夫です!! こんな夢で良ければ、いつでもお入りください」


 ここは夢の世界。

 現実ではないからこそ、不思議なことも起きる場所。


 それは例えば、亡くなった人との再会だったり。


 それは例えば、覚えてもいない過去の出来事だったり。


 それは例えば、知るはずもない歴史の流れだったり。


 それは例えば、会うことができない神さまとの出会いだったり。


 それは例えば、いつも隠された人たちの本音だったり。


 それは例えば、許されるはずのない罪だったり。


「そこまで、オープンに誘われると、また来てしまうよ?」


 雄也さんが苦笑する。


「雄也さんなら、いつでも大歓迎ですから」


 雄也さんにはあの紅い髪の、ライトからも助けられている。


 それに、彼がわたしの夢に入ったところで、それを元にして何か企てることはあるだろうけど、わたしにとって害になるようなことはないと思う。


「栞ちゃんは、ミヤのことはどれぐらい覚えている?」

「昔のことは、覚えていません。母からも話は聞いていたし、『過去視』でも何度か見ているために、あまり初めて会った気はしなかったのですが……」

「そうか」


 そう言って雄也さんは、俯いた。


 なんとなく、悪い気がしてくる。


 わたしが自分の過去の記憶を封印してしまっているので、覚えていないことは仕方ないと言えば、そうなのかもしれない。


 でも、あれだけわたしにも愛情表現を見せてくれるような人のことを全く覚えていないなんて、ちょっと冷たい気がしてしまうよね。


「ミヤは、俺たち兄弟の師であり、母親でもあった」

「……そこは姉じゃないのですか?」


 それがちょっと意外に思える。


 女性に気遣う雄也さんらしくない言葉だ。


「ミヤとの年齢差は、俺が18。九十九が20だよ?」


 おっと、思ったより歳が離れていた。


 いや、あの方は、確か母と同年代なのだから、それぐらいの差があっても、おかしくはないのか。


 魔界人って年齢不詳が多すぎるよね。


「それに、いろいろな生きる術を教えてもらった。あそこまでされて、彼女を姉とは、思えないな」


 それだけの愛情を、彼女から受けたと言うことなのだろう。

 そう納得しておこう。


 その扱いに関しては、ミヤドリードさん自身はいろいろ言いたいことはあるかもしれないけど。


「だけど、そんな彼女は、俺たちが人間界に行った後、亡くなった」

「そのことなんですけど、誰かによって殺されたと言うのは、本当なのですか?」


 亡くなったことは、聞いていた。


 でも、それが誰かによって殺されたってことは多分、わたしは聞いていなかったはずだ。


「遺体の損傷具合から、そう考えるしかなかったね」

「それって……」

「国王陛下の命で、俺が遺体の確認をしたよ」

「そんな……」


 九十九は5歳で人間界に来ている。

 つまり2歳年上の雄也さんは、まだたったの7歳。


 そんな年齢で、遺体の……検分だっけ? ……ってやつをさせられたのか。


「ミヤドリードは公式的に、身内がないという話だからね。養子縁組した相手やその親族も既に亡くなっている。それに、彼女の血縁者を呼ぶわけにもいかない事情も、栞ちゃんならもう分かるだろう?」

「あ……」


 彼女はイースターカクタス国王陛下の妹だ。


 その彼女が、他国で殺されたとなれば、どう考えても、国際問題だ。


「セントポーリア国王陛下は、正式に公表したかったみたいだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい」

「ふえ?」


 な、なんで?


 でも、公表しようとする辺り、セントポーリア国王陛下は本当に真面目な人だと思ってしまう。


「『トカゲの尻尾切り(scapegoat)』として、別の新たな犠牲者が出るだけだ、と」

「ふわっ!?」


 な、なんて物騒な話だ。


 スケープゴートってあれだよね?


 罪を犯した人が、自分が逃げ延びるために別の人間に罪を被せて、犯人の身代わりに仕立て上げるってやつ。


 探偵物の漫画でよく見かけるパターンだ。


 そして、その身代わりにさせられた人の大半は、余計なことを言わないよう、疑われないように自殺と見せかけて殺されてしまう。


 新たな犠牲者って、つまりは、そう言うことなの!?


 わたしが、拙い説明で雄也さんに確認すると……。


「大体、そう言うことだね」


 と、苦笑された。


「イースターカクタス国王陛下は、『犯人を指一本動かせない状況に追い込め』と、『そのことで自国を混乱させない土台を先に作れ』とも言ったらしい」


 自分の妹が殺されたと言うのに、何故、他国のことまで気にかけることができるのだろうか?


「中心国の一角が荒れると、他の中心国にまでその影響が波及するからね」

「それでも、そこまで普通はしないですよね?」


 アリッサムが消滅した時も、カルセオラリアの城や城下が崩れた時も、会合を開くことで、収めている。


 それよりも程度としては軽そうなのに何故だろう?


 しいて言えば、荒れた国を継続するための世継ぎ問題とかぐらいしかわたしには分からないけど、それも、他国が介入するほどのことでもないよね?


「ミヤドリードがイースターカクタス国王陛下の類縁だと世間に知られると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えば納得できるかい?」

「都合が悪い事実?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」


 そう言えば、ミヤドリードさんは、母がセントポーリア城に来る前から、城にいたという話だった。


 それは、セントポーリア国王陛下も認めている。


「それは、わたしが聞いても良い話でしょうか?」

「絶対に、聞かない方が良い話だね」

「ぐ……」


 雄也さんにしては珍しく、「絶対」という言葉を使ってまで、警告してくれました。


 わたしは、それに従おうと思います。


「凄くいろいろ気になるけど、我慢します」

「まあ、ここはキミの夢の中だから話したところで忘れてしまうとは思っているけどね」


 そう言って少し意地悪な笑みを見せながら、わたしを唆そうとする美形。


「それでも、どこかには残っている可能性はあるので」


 そう胸を押さえながら、我慢の意思を見せる。


 わたし自身が忘れても、夢で見たことも、視たことも、何かのきっかけで不意に思い出すことはある。


 夢での出来事は、確かに忘れやすいけれど、記憶を封印することとは違うのだ。

 だから、ここでのやり取りを完全に忘れる……記憶を眠らせることなんてできないのだろう。


「賢明な判断だね」


 雄也さんはそう言って笑った。


「でも、まさか、本物のミヤドリードと本当に会わせてもらえるとは思っていなかったよ」


 雄也さんは自分の両手を見つめながら、そう言った。


「本物……、なのでしょうか?」


 それは本物を覚えていないわたしには分からない。


「俺たちにとって、害がなかったことと、本当の意味で、その真贋は分からないけれど、それを見分けることができなければ、間違いなく彼女は本物だったと思っていた方が良いと思わないかい?」


 そう言って笑いながら、雄也さんにしてはどこか楽観的な台詞を口にする。


 でも、それはそうかもしれない。

 いずれにしても、相手の意思に害がないことは分かっているのだ。


 それならば、どうせ本物かどうか分からないのだから、本物に対して、騙されたと思い込むよりは、偽物に対して本物だと思った方が、気分的に幸せだとも思える。


「まあ、与えられた情報の全てを鵜呑みにする気はないけど、全く何もない所から情報を探すよりは、彼女の言葉の裏付けを調べる方が楽でもあるしね」


 そうかと思えば、雄也さんらしい合理的な面もあった。


 わたしが妙なところで納得していると……。


「栞ちゃん」


 また呼びかけられたので……。


「はい?」


 反射的に顔を上げて返事をすると、これまでになく雄也さんの顔が近づいて……。


「本当にありがとう」


 そんな言葉とともに、白いこの世界が、さらに白くなったような気がしたのだった。

今回の夢は、主人公のみ感覚のない世界です。

それだけお伝えしておきます。


ここまでお読みいただきありがとうございました

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