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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 夢の師弟編 ~

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【第66章― 夢で逢いましょう ―】白い世界

 どこを見渡しても、白いだけのこの世界。

 これは、いつものように夢なんだろうなと思う。


 この世界には基本的に誰もいない。

 自分の姿があるだけ。


 だけど、暫く待っていると、必ず誰か来るのだ。

 この世界はいつだってそう言う世界だった。


 実際に、過去へ渡る「過去視」のようにはっきりとした背景はなく、普通の夢のように曖昧でもない。


 はっきりしているのは自分を形作っている輪郭だけ。


 そんな不思議な世界で、わたしは誰かに待たされていた。

 さて、今回、現れるのはどなただろうか?


 遥か昔の金髪のお姫さまか。


 ちょっとだけ昔の黒髪の幼い娘か。


 紅い髪の黒装束の青年か。


 それとも、ここ数日、連続で現れる金髪の美人さんか。


 まあ、それら以外の人間が訪れる可能性もあるのだけど。


 呼ばれた以上、何らかの理由はあると思っている。


 現実に還れば、ほとんど覚えていないような夢の話。

 何かの弾みで微かに思い出すだけの薄くて淡い記憶。


 それでも、わたしに伝えたい言葉がある人たちは、何故か、夢を通じて現れるのだ。


 事情があることは分かるけど、頼むから、現実世界で言ってくれないかな?


 そう言いたくはなるが、現実で会えない人たちばかりが来るのだから仕方ない。


 特に、時を超えた方々に関しては、どうしようもないことも分かっている。


 それでも、しっかりと覚えていられない自分としては、申し訳なく思ってしまうのだ。

 それが、わたしに伝えるための懸命な言葉(でんごん)だと分かっているのに。


 だけど、それだけ気合を入れても、今日は誰も来る様子がない。


 時間だけが経っていく。

 いや、夢の世界に本当に時間ってものがあるのかは分からないのだけど。


 退屈になると、不思議なことに、夢の中でも眠くなる。

 その辺り、自分でも図太い神経だとは思うのだけど、眠いものは眠いのだから仕方ない。


 そのまま、こてりと横になった。

 そう言えば、少し前にここで寝ようとした時は、あの紅い髪の人が来たなと思いつつ……。


「おいこら」


 どこかで聞いたことがあるような声が背後から聞こえてきた。


 いやいや?

 そんなまさか……。


 これは夢だ夢。


 ああ、うん。

 夢だった。


 だって、彼はわたしの夢の中には入れない。

 その手段を持たないからだ。


 だから、「過去視」で昔の彼が登場することはあっても、今の彼がここに来ることなんてできないはずなのだ。


「なんで、お前は夢の中に来てまで寝てるんだよ!?」


 そんなどこかで聞いたことがあるような突っ込みが聞こえてきた。


 それも、彼ならそう言うだろうなと思ってしまうような言葉だったから笑えてしまう。


「眠いから?」


 そう言って身体を起こして、振り返ると、分かりやすく不機嫌そうな顔をした九十九と、その兄である雄也さんの姿があった。


 それで、わたしは状況を理解する。


「なるほど、()()()()()()()ですか」


 そう言うと、九十九は眉間に皺を刻み込み、雄也さんが苦笑する。


 九十九は他人の夢に入る魔法を使うことができないが、雄也さんは使うことができるのだ。

 しかも、範囲を広げれば、自分以外の人間を一緒に連れてくることも可能だった。


 つまりは、そう言うことなのだろう。


 そして、その雄也さんは、今回、20歳バージョンでご登場のようだ。


 いつもと同じ姿に見える。

 どうやら、今回は魔法力の節約をしないらしい。


 わたしの年齢に合わせると、同じ18歳の九十九と並んじゃうからかな?


「せっかく、ご招待を受けたからね。来ないわけにはいかないよ」

「「ご招待?」」


 わたしと九十九の声が重なる。


 少なくとも、わたしは彼らを自分の夢に招待した覚えもないのだけど。


「九十九も知らないの?」

「おお。いきなり碌な説明もないまま、兄貴に無理矢理、寝床に引き摺り込まれた。疲れていたから、抵抗する間もなかったな」


 九十九がどこか遠い目をする。


 でも、その表現はどうなのだろう?


「えっと、雄也さん?」

「しっ……」


 わたしが声をかけると、雄也さんは自分の唇の前に人差し指を立てた。


「どうやら、今回の首謀者のお出ましのようだ」


 首謀者?


『あらあら? 随分な口を叩くようになったみたいね、ユーヤ』


 そんな高い声と共に、金色の髪をかき上げながら、長いスカートを靡かせて、その華やかな存在が現れる。


「ま、まさか……」


 その姿を目にした九十九の声が震えた。


『久し振り、ユーヤ、ツクモ。ちゃんと良い男たちに育ったようで、私は嬉しいわ』

「み……、ミヤ!?」


 九十九が叫んだ。


 彼が叫んだのは確か、彼らの師である「ミヤドリード」さんという女性の愛称だったはずだ。


 そして、その名を叫んだ直後、九十九は自分の口を押さえて下を見てしまった。


 ああ、つまり……。


「やっぱり、本物なのか……」


 わたしはそう呟く。


 ここ数日、わたしの夢の中に何度も現れた女性。


 それは、何度か「過去視」で視た姿ではあるのだけど、それが本当に本物なのか分からなかったのだ。


『いやいや、私が本当に本物かは分からないのよ、シオリ』


 その青い瞳をわたしに向けて、金髪の女性はそう言う。


『だから、簡単に他人の言葉を信じない方が良い』


 そんなどこか悲しい言葉を口にしながら、さらに微笑んだ。


「「それが、嫌なら嘘か本当か見極める眼を養いなさい」」


 不意にわたしの側から低い声が重なった。


「「貴方たちにはそれができるはずだから」」


 下を見たままの九十九と、天を仰ぐように上を見た雄也さんが、さらにそう言葉を続けた。


『よろしい』


 金髪の女性は両手を腰に当てて嬉しそうに笑いながら言った。


『私の言葉を覚えていたようね。感心、感心』


 当時、7歳と5歳の子に教えるような言葉ではない気がする。


 そして、それをほぼ同じタイミングで彼らが口にしたってことは、かなり言われていた台詞なのだろう。


『まあ、私の知識を文字通り、身体に叩き込んだのだから、当然なのだけど』


 えっと、その「文字通り」ってどういう意味でしょうか?


 九十九や雄也さんが、どこか体育会系な印象があるのは、そのせいなのかもしれない。


「そんな確認をするためにわざわざ、主人の夢に来いと言付けたのですか?」


 雄也さんが鋭い目を向け、金髪の女性に確認する。


『あらあら、ユーヤったら……。いつの間にシオリを『主人』なんて、かっこつけた言い方で呼ぶようになったのかしら? あんなに昔は『シオリ』、『シオリ』って可愛らしい声で呼んでいたのに』


 すみません。

 覚えていません。


 でも、このミヤドリードさんの表情とその口調から、本当に小さな頃の雄也さんは可愛かったんだろうなとは思う。


 今はどう見ても、可愛いとは違うもんね。


「もう小さな子供ではないのだから、あまり揶揄わないでください」

『しかも、私相手に敬語とか。いや~、随分、成長したものね~。あんなにクソ生意気なガキだったのに』


 いろいろ突っ込み所は多かったけど、九十九の口の悪さって、実はこの人のせいではないだろうか?


 なんとなくそんな気がした。


「ミヤ、そんな無駄話をしている時間があるのですか?」


 それでも、気にした様子がない雄也さん。


『もう……。すっかりノリが悪くなっちゃって……。記憶を封印しちゃったシオリは全然、覚えていないと思うのだけど、この男、こう見えても……』

「ミヤ」


 さらに、何かを言おうとしたミヤドリードさんの言葉をやや強めの呼びかけで遮る。


『はいはい。貴方たちの過去を知る者は素直に黙りますわよ』


 そう言いながら、口を手で隠す。


 だけど、目は分かりやすくニコニコとしているミヤドリードさん。


 あの情報国家の国王陛下の妹であり、母の友人だけあって、掴み所がないと言うか。

 捉えどころもないと言うか。

 

 それが、彼らを前にしたミヤドリードさんに対する感想だった。


 わたしと2人だけの時とは随分、違う印象だとも思ったのだけど。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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