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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界新生活編 ~
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城内を歩こう

 転移門の部屋を出て、割とすぐに石壁の階段があった。


 ぺたりと触るとひんやりとしていて人間界の材質との違いは分からない。


 でも、星が違う以上、鉱石とかの成分比率も異なるらしいから、やっぱり違うのだろう。

 よく見ると妙にキラキラしているし。


 結構長かった階段を上ると、広い廊下っぽいところに出た。


 天井も高く、豪華なシャンデリアが煌いている。

 その廊下にはオレンジ色の絨毯みたいなのが敷かれていてこれも少し、フカフカだ。


「ここは東の塔。兵たちの詰め所がある場所だよ」


 雄也先輩の言葉に、身体がびくりと揺れた気がする。


 兵なんて単語、日常生活で耳にすることなんてなかった。


 精々、自衛隊ぐらいだ。

 それも災害派遣とかそういった、救助目的のもの。


 でも、この国では違う気がしたのだ。


「……っと。やっぱり誰かと会わずに抜けるのは無理みたいだな」


 雄也先輩の視線の先には、オレンジと赤のド派手な鎧を着込んだ人がいた。

 その色合いは鎧としてはあまり趣味が良いとは言えない。


 少なくとも、隠密行動はできないだろうね。


 気のせいか、魔界に来てからオレンジ色を良く目にする気がするんだけど、この色が好きな人でもいるんだろうか?


「警護、お疲れ様です、フーバ」


 雄也先輩の方から声を掛ける。


「おや、ユーヤじゃないか……。どうだい? 調子は……」

「ぼちぼちやってますよ」

「キミなら城住まいも許されそうだが……、まだその気にならないのかい?」

「城に住むなんて恐れ多い。城下で十分ですよ」


 その会話から、雄也先輩はお城に住んでも問題ないらしい。


「欲がないな、キミは。王妃殿下に気に入られ、国王陛下に目を掛けていただき、王子殿下にすら慕われている。今後の出世を約束されているも同然の身だというのに……」


 …………あれ?

 その状況って、雄也先輩の立場からすればとんでもない話ではないのか?


 それに……。


「買いかぶりすぎです。それに私は庶民の出。伝統と格式、歴史あるこの国の城でこのように自由に出歩けるだけでも光栄なことなのです」

「そんなもんか?」

「はい」

「昨今の王は能力が高い者を重鎮に据えるようになった。これはお前を取り立てたいためだという噂もあるようだが?」


 派手な鎧の人の目が妖しく光った。


 そして、その言葉はわたしにも分かるほどの探りだ。


「その噂の出所や真偽については解りかねますが、私は高い地位を望んではいないことを王はご存知です。それに……、私などより優れた者は大勢いらっしゃいます。その筆頭が、フーバ。貴方でしょう?」


 だけど……、雄也先輩は口元に笑みを浮かべたまま、そう返した。


「……お前は上手いな……」

「真実です。王が能力主義へと移行された途端、異例な早さでの抜擢。貴方が秀でていると言う何よりの証明だと思いますが、如何でしょう?」

「本当にお前と話していると調子が狂う。嫌味の一つでもと思っていたのに、そんな気すら起きなくさせるのは、一種の才能だな」

「お褒めの言葉としてありがたく頂戴いたします」


 雄也先輩は相手に一礼する。


「……これだよ。ま、精々、気をつけな。古株どもが最近落ち着かなくなっている。お前も城仕えが長いと知っているが、油断しているとヤツらにはめられかねないぞ」

「ご忠告痛み入ります」

「お前なら大丈夫そうだがな。それじゃ、また」

「失礼致します」


 雄也先輩はそう言って深々と頭を下げた。


 その……、何と言うか、いろいろと凄い会話だった気がする。


『なんか……、白々しい会話だったな』


 先ほどの人の姿が完全に見えなくなると同時に、九十九が溜息混じりにそんなことを言った。


『いろいろと駆け引きがいっぱいあったわね。聞いていて少しハラハラしちゃったわ』

『わたしは、どっかでなんか引っかかったんだよね、さっきの会話。どこだったっけ?』


 なんとなく、あれ? 何かがおかしい気がする……と思ったのだ。


「彼は素直な方だから話しやすいですよ。俺の言うことも疑いませんし」

『あの姿……。王妃殿下の近衛隊長といったところかしら?』

「はい。彼は王妃殿下の警護が主な職務ですね」

『つまりは敵か?』

「阿呆。世の中、敵か味方しかいないわけではない。どちらかというと、中立、無関係な人間の方が多いのだ。王妃殿下の下にいるからといって全て敵という認識は捨ておけ」


 その言葉でわたしの頭に浮かんだことがあった。


『あの……』

『どうしたの? 栞』

『あの人の台詞……、変じゃなかった?』

『あちこち変だった気がするが? あんな分かりやすい世辞で誤魔化されるとか不安しかねえ』


 九十九が根底を覆そうとする。


『いや、そ~ゆ~のじゃなくて、言葉の違和感。……ってゆ~か、順番が変だった気がするんだけど』

『順番?』

『そう。国によって違うかもしれないけど、普通は上からか、下から言うもんでしょ? 王、王妃、王子……。もしくは王子、王妃、王……。それがあの人の場合、王妃が最初だったんだよ。まだ王、王子、王妃ってなら百歩譲って解らないでもないけど……』


 少なくとも女性……、それも王に付随するだけの王妃を先に持ってくるなんておかしい気がしたのだ。


 これが、女王さまとかなら解る。

 でも、王妃は……、ただの王の妃でしかない地位じゃないっけ?


「あのフーバは王妃殿下崇高主義だからね」


 そう言って、雄也先輩は笑った。


 それでも、国で一番高い地位にいるはずの王やその次の地位であるはずの王子より先に口にするなんて、不敬罪とかいうものにならないのかな?


 単にわたしの頭が固いだけ?


『先ほどの会話と言えば……、国王陛下が能力のある者を取り立てるようになったと言う話だけど』


 母は母で気になる部分があったらしい。


「ええ、それは本当ですよ。まだ半年ぐらいのことですけどね。最近、外交での失敗が続いたようで、流石に王も業を煮やされたようです』

『外交のミス?』

「文官がその知識不足を露呈したと聞き及んでいます」


 なんと!?

 ただのミスならともかく……、外交……、別の国が絡んでいるなら、それはかなり恥ずかしい。


『外交でのソレは……、致命的ね』

「はい……、お恥ずかしい限りです」

『文官の知識がないというのは困りますね』


 その言葉から知識の宝庫ってイメージがあるのに。


「そうだね。半年ぐらい前までは完全に世襲制だったから、無理ない話と言えば、そうなんだろうけど……」

『つまりバカでも偉い人間として君臨できるわけだな』


 九十九の口は悪い。

 彼のような努力型の人間には我慢できないことなのだろう。


「言葉は悪いがそういうことだ。無能者が要職につくなど他国ではありえない話だがな。国の崩壊を招きかねない」

『今までそうだったわけですね』


 危ないなぁ。

 疑問も持たない世襲制って……。


「幸い、今の国王陛下はご幼少より勉学に励まれていたらしく、国民からの支持も高い。魔界では国王の地位は完全世襲制だけど、今の国王陛下なら、全く問題ないよ」

『……そうですか』


 王が駄目だと、国民が可哀想だもんね。


 それにしても、この国は完全に血筋がものを言うのか……。

 それって、お馬鹿が王になったら国の悲劇なんじゃないかな?


 それとも時代によっては、(まつりごと)は、大臣とかそんな人が代わりにやってたりするのかな?


 人間界でもあったよね。


『努力の人だったものね。お兄さまのために頑張って……。ちょっと要領が悪いところもあったけど、得たものを無駄にしていないのなら、それは国にとって良いことかしら』


 姿は見えないけど、母の声はどこかいつもと違う気がした。


 ……と言うか、王のことを話す母は、わたしも知らない人みたいに見えるので、ちょっと遠く感じてしまう。


「千歳さまも、十分、努力の人だと思いますが……」

『先ほどの方じゃないけど、本当にお上手ね、雄也くん』

「いえ、そんなことは……」

『でも国の文官ね。今の人達に知識がないなら、貴方がなっちゃえば良いのに』

「と、とんでもない!! 俺みたいな若輩者には手に余りますよ!!」

『あら? そうかしら? 結構、良い考えだと思ったんだけど……』


 唐突な母の発言に雄也先輩にしては激しく動揺していた。


 それだけ、文官と言う地位は高く、そして重いものなのだろう。

 まあ、雄也先輩はまだ17歳。


 もうちょっと歳を重ねて順調に経験を積んで、それ相応の年齢になれば、ちゃっかり納まっていそうだけど。


「ま、まあ、そんな経緯から、今、この国は少しだけ変わろうとしています。ほとんど変革がなかった長い歴史において僅かな一歩を踏み出したところなのですよ」

『じゃあ、手柄を立てればオレでもいけるってことか?』


 そんな九十九の言葉を聞いて、雄也先輩はひどく疲れた顔をした。


『な、何だよ?』

「能力があるかを見極める権限は王族にある。お前の言葉を借りるなら、半分以上は敵と言うことだ。それでどこに行こうと言う気なのだ? お前は。」

『うげ』

「だから先に言っただろう。少しだけだと。現実にはまだ、コネとかそう言ったものが蔓延(はびこ)っているんだよ」

『袖の下とかもあったりするんですか?』


 あの時代劇に良く出てくるようなイメージ。

 山吹色のお菓子とか……。


「袖の下……、ああ、似たようなものはあるかもしれないね」

『魔法やら城やらファンタジーの世界が一気に生々しい政権闘争の場に~!!』

『政権じゃねえだろ?』

「権力闘争と言いたいんじゃないかな?」


 そのとおりです、雄也先輩。

 言葉が出てこなかっただけなの。


『まあ、魔法を使える使えないに関係なく、出世した方がいろいろとメリットも多いみたいだから、そのためにいろいろ画策するのは仕方のないことなのかもしれないわね』

『……と、言うことは、魔界でも裏街道や闇社会が広がって……』

『お前の頭がファンタジーだ』


 九十九はまた酷いことを言う。


「まあ、どの世界でも裏や闇は付きものだろうけどね」


 雄也先輩がそ~ゆ~ことを口にすると、妙に説得力があると思うのはわたしだけでしょうか?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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