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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ それぞれの模擬戦闘編 ~

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心を折りにくる主人

 オレたちの勝負はますます()()()()()()となっていく。


 オレが「大水魔法」を放てば、何故か栞は「土嚢」という言葉で、大量の「土嚢袋」を召喚する。


 その反撃として、栞が「風魔法」を放てば、オレは、魔法を使わずにその場で踏みとどまった。


「いや、待て! いろいろおかしい!! なんだ? 『土嚢』って」


 しかも、それはご丁寧にも「土嚢袋」と呼ばれる袋に土などを詰めて、積み重なっている。


「洪水には必須だよ? 土嚢袋って」

「知ってるよ!! そこじゃねえんだよ!!」


 そして、なんで災害現場の応急処置のような知識が無駄にあるんだよ!?


「いや、わたしの魔法に対して、踏ん張るだけで耐え切っちゃう九十九も十分、おかしいからね」


 おかしいって言うな。


 これまでに、一体、どれだけお前の魔法に吹っ飛ばされてきたと思っているんだ?


「お前の魔法でいちいち吹っ飛んでいたら、お前の護衛なんて務まらないだろう?」


 そう言いながらも、無詠唱で「光弾魔法」を数発、放った。

 これぐらい、彼女に対しては大した足止めにもならない。


『防弾!』


 やはり、あっさり不可視の盾に防がれる。


 彼女は、昼間、魔法国家の第三王女の魔法すら弾き返しているのだから。


『跳ね返せ!』


 栞の言葉で、全てではないが、先ほど放った「光弾魔法」が二つほどまっすぐオレに向かって弾かれた。


 おいこら?

 なんで、水尾さんの時よりも()()()()()()()()()()んだ?


 オレの時は、味方だったはずのオレに向かって跳ね返ってきたはずだが?


 だが、オレは自分の魔法ぐらいなら吸収できる。


 魔法を吸収したからと言って、魔法力の回復には繋がらないが、肉体的に損傷することはほとんどない。


 これは、兄貴の教育の賜物だった。


 自分の魔法を反射されただけでやられるような無様を晒すな、と。


「自分の魔法を食らうやつなんかいねえ!!」


 そう言って、さらに「光弾魔法」を放つ。


 先ほどのような生温いものではない。

 今度は、彼女の周囲を隙間なく埋め尽くすように、大量に。


『吹っ飛べ!!』


 栞は、地面に両手を突くと、土が一斉に盛り上がり、オレの出した「光弾魔法」を飲み込んでいく。


 それぐらいはするよな?

 だが、隙の多い動きだと思える。


 だから、栞のいた場所に向かって雷撃魔法を放ってみた。


 彼女も雷撃魔法を使える。


 そして、ある程度の耐性があるため、少しぐらい激しいものでも、致命傷にはならないだろう。


 しかし、その時点で、栞は既に後退していたため、全く食らうことはなかった。


「ちっ、巧く躱しやがった」


 思わず舌打ちしてしまう。


 先ほどの動きは、偶然か?

 読まれていたか?


 まあ、どっちでも良い。


「素直に当たっておけば良いのに……」


 そうすれば、オレもこれ以上魔法を使う必要はなくなる。


 一撃でも当てれば、実戦慣れしていない彼女は怯むはずだ。

 そのまま追撃すれば、その意識を奪うこともできるだろう。


 だが、その一撃があまりにも遠い。

 まあ、一発で当たらなければ、手数を増やせば良いだけか。


 栞はまだ移動魔法を使えない。

 そして、身体強化も。


 だから、自力で回避し続けるには、限度がある。


「安心しろ。万一、食らっても、一筋の跡も残さず治してやるから」


 できれば、食らわせたくなかったが、手加減して勝てる相手ではないことも分かっている。


 そして、うっかり仏心を出そうものなら、その隙間を縫うような手段も遠慮なく使うような女だ。


 だが、護衛としてオレも簡単に負けられない。


 次々と、雷撃魔法を放つ。

 ある程度は彼女自身の「魔気の護り(まほうたいせい)」が仕事をすると信じて。


 だが、半端に知識がある栞は、簡単にはやられてくれない。


『鉄塔!!』


 何故かオレの傍に、どこかで見たことがあるような鉄の塔を創り上げた。


「なっ!?」


 一瞬、避雷針を出したかと思った。


 だが、どうも違う気がした。


 避雷針には理論上いろいろ足りていない。

 あの形状では、雷のエネルギーを逃がせないはずだ。


 だが、それに近いものを感じる。


 オレが放った雷撃魔法は、栞に向けたはずなのに、次々と吸い寄せられるように、その鉄塔に向かって、その光ごと爆発的なエネルギーを逃がさずに蓄えていく。


 雷の蓄電は現代の科学では費用対効果上、無理だとされていた。

 雷は、莫大なエネルギーが瞬間的に放出される現象だからだ。


 たった一瞬で安定させ、電気を貯め込むような機能ができないらしい。

 まあ、発生を予測できないという理由もあるようだが。


 だが、あの鉄塔とやらは、光っている辺り、その力を蓄えていると思ったのは間違いではないだろう。


 さらに……。


『折れろ!!』


 オレの主人は容赦なく、それを利用する。


 その鉄塔は放電しながらも、根元からぽっきり折れ、オレに向かって圧し潰そうと倒れてきやがった。


 そのために、自分の傍ではなく、オレの近くに生やしたのか。


「この性悪女!!」


 想像以上にいい性格をしていやがった。


 オレは放電しながらも、単純に倒れてくるだけの鉄塔を回避しながら、「光刃魔法」を放つ。


 そして、このタイミングで発動しやがった。


 栞の「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」は、オレが放った魔法を、残らず的確に撃ち落としていく。


「くそっ! 意外と隙がねえ」


 反応はまだ鈍い。

 だが、それを補うだけのものがある。


 これで、実戦慣れしたら、本当にどうなってしまうのか?


『落石注意!!』


 さらに、そんな言葉を吐かれた。


 大きな岩が7つほど、オレに向かって落ちてくる。


 これは、隕石魔法か?

 流星魔法ではなさそうだ。


「なめるな!!」


 だが、ただの岩なら、対応できる。


「『砕石(crushed)魔法( stone)』!」


 凄いとは思う。

 だが、相変わらず無駄が多い。


 それでも、知識である程度カバーしている辺り、厄介な点に変わりはなかった。


 さらに……。


『光球!!』


 そのイメージの正確さには恐れ入る。


 あの「光球魔法」は、幼い頃のオレにとって、()()()()()()だった。

 致命傷にならない程度に、手や足を的確に狙ってくる兄貴の得意魔法。


 おかげで随分、光属性系魔法の耐性も強くなったと思っている。


 それだけに、まさか、ソフトボールに応用された時は、複雑な心境以外の思いを抱くことができなかったわけだが。


 栞はその「光球魔法」を兄貴が使うように周囲を巡らせて……。


「行くよ!」


 それをオレに向けて放った。


 だが、遅い。

 兄貴の魔法はこんなにあくびが出るほどじゃねえ。


「はあっ!!」


 オレは自分の体内魔気(まほうたいせい)の出力を上げて、かき消す。

 身体強化とはちょっと違う使い方だ。


 威力は十分だが、速度が全然足りてない。

 いや、見ただけでそれなりの魔法になっていることは驚くべきことなのだが……。


「オレを風属性だけの男と思うなよ? 」


 風属性に次いで、光属性の耐性が高いのだ。


 それは、ミヤドリードのおかげだったかもしれないし、光属性魔法を好んで使う兄貴のせいかもしれない。


 栞は次なる手を使う。

 これで、魔法初心者なんて、誰が思うだろうか?


『羽ばたけ、朱雀!』


 水尾さんとの戦いで見たことがある火の鳥が出てきた。


「出やがったな、化け物」


 人間界の神獣の再現とか……。


 どれだけ潜在能力を持っていやがったんだ?


 炎をその身に纏う、巨大な鳥は、昼間、見た時よりも小さく見えた。

 魔法力を大分、消費しているようだから当然か。


 そして……。


『クケーッ!!』


 何故か叫ぶ。


 魔法力の無駄遣いとしか思えない。


氷槍魔法(Ice spear)!」


 全て氷でできた槍を炎の鳥に向かって投げつける。


 あまり、効果はなさそうだ。

 だが、少し小さくなったか?


 これの維持は大変だろう。

 だから、少しずつ周囲の炎を弱めていけば良い。


 これは、意思を持った生物のように見えても、魔力だけでできた魔法であることに変わりないのだから……。


 そんなことを考えていた時だった。


 いつだって、無敵の主人は、オレの心を折りにくる。


『出でよ、青龍!』


 そんな力強い言葉と共に。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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