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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ それぞれの模擬戦闘編 ~

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お付き合いください

※ 勿論、男女交際的な意味ではありません

 わたしは、九十九に魔法勝負を申し出た。


「いや、どうしてそうなる?」


 九十九が分かりやすく怪訝な顔をする。


 うん。

 その気持ちは分からなくもない。


「こう……ごちゃごちゃ考えるのが面倒になったと言うか……」


 いろいろなことを全て、吹っ飛ばしたくなったと言うか。


「オレは兄貴と違って、ソフトボールなんかできねえぞ?」


 日中のわたしと雄也さんとの魔法勝負を思い出したのか。


 九十九はそんなことを言った。


「いや、あれを魔法勝負と言い張るのは、雄也さんぐらいだからね?」


 個人的には、今度は普通の道具を使わせて欲しい。

 あれで、かなり疲れて集中力がなくなってしまったから。


 欲を言えば、もっと勝負をしたかったのに……。


「あ~、お前が言う『魔法勝負』はどんな勝負だ?」


 どうやら、気は進まないが、勝負をしてくれる気はあるらしい。


「なんでもありで」

「……何でも?」


 九十九の眉間に深く皺が刻み込まれる。


「召喚魔法おっけ~、道具おっけ~」

「そこまですると、お前がかなり不利だぞ?」


 あっさりと言い切るわたしの優秀な護衛。


「ぬう」

「道具は使わない。身体強化も使わん。物理攻撃も可なら、オレが有利すぎる」

「でも、わたしには『魔気の護り(じどうぼうぎょ)』があるよ?」


 わたしの意思で発動するものと、無意識に護るもの。


「水尾さんと兄貴との勝負を見ただろう? あまり、『魔気の護り(じどうぼうぎょ)』を過信するな。相手の心を制圧、心を折るだけなら、こっちに害意がなくてもできる」


 なるほど……。

 力量に圧倒的な差があるだけで、相手の心は折りやすそうだ。


 そして、目の前の護衛はそれをできるだけの技術があり、それをわたしに使う気がないってことを伝えてくれている。


 実際、わたしは、一度、彼によって心を折られかけているのだ。


 それに、「発情期」中の彼の行為に対して、わたしの「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」は全く発動しなかった。


 それは、意識的に自分である程度、押さえつけてしまった部分もあるだろうけど、無意識に害意に対して発動もしなかったのだ。


 それは、あれらの行為の数々も、九十九からすれば、わたしに対する害意……ではなかったのだろう。


 怖い思いをした身としては、その辺り、ちょっと納得がいかないのだけど。


 でも、ちょっと思う。


 あの状態で、我慢することなく、自分の意思で体内魔気の大放出をしていたらどうなっていただろうか?


「うぬぅ。じゃあ、『物理攻撃なし』でどう?」

「『身体強化もなし』で。身体強化したら魔法攻撃の早さも変わるからな」

「……じゃあ、それで」


 できるだけ、ハンデを付けて欲しくはないのだけど、勝負にならないのも問題だ。

 ある程度は、仕方ない。


 それだけ、九十九とわたしの差があるってことなのだから。


「召喚魔法の制限は?」

「なしで良いよ。なんなら、犬を召喚してくれても良い」


 九十九なら、犬の召喚ぐらいできそうだ。


「言っておくが、犬は召喚しない。お前がうっかり魔力の暴走をさせても困る」


 雄也さんは、隙ができるから……と言っていたけど、九十九は別の理由から召喚の制限をするようだ。


「今までに犬を見て暴走した覚えはないよ?」


 そんなことがあれば、もっと早くこの世界に来ることになっただろう。


「魔力の封印を解放した後か?」

「解放する前だねぇ……」


 言われてみれば、確かにそうだった。

 封印を解放した後に、犬らしき生き物を見た覚えはない。


「わたしは何も制限しなくて良い?」

「…………ほう?」


 あ。

 今の言葉は良くなかったらしい。


 九十九の顔がちょっとだけ引き攣った気がする。


「ようやく、魔法を自分の意思で使えるようになった程度で、お前が、このオレに勝てるとでも?」


 それはまるで、護衛というより、悪役の言葉だ。


 いや、九十九の立場からすれば、当然なのだろうけど。


「風魔法以外の手段ができたからね。少しは違うんじゃないかな?」


 わたしの風属性魔法は、確かに九十九を吹っ飛ばす程度の威力はある。

 だが、吹っ飛ばすだけで、彼にダメージはないのだ。


 下手すれば、それを追い風として、九十九は自身の攻撃に利用することすらできてしまう。


「ほほう?」


 九十九が口元に笑みを浮かべた。


 だけど、目は笑っていない。


「分かった。その勝負を受けてやろう」


 そう言って、九十九は手を差し出した。


 どうやら、勝負の場所に連れて行ってくれるらしい。


「お手柔らかにお願いします」


 わたしはそう言って、手を伸ばす。


 雄也さんの手は、なんとなく、ダンスのお誘いのような印象を持ったけど、九十九はまた感じが違う。


 彼の誘いが不慣れというわけではなく、どちらかというと、ああ、アレだ。


 ストレリチア城で、カルセオラリア国王陛下と対話する前にあった緊張感のような、安心感のような感覚。


 あれは確か、手を載せて、その場所に挑むことで、絶対的な信頼をよせるみたいな意味があったはずだ。


 そうだね。

 今から、勝負の場に赴く時に、浮かれるのはちょっと違う気がする。


 この人に任せる。

 この人を信頼する。


 そう言う意味で、この手を重ねよう。


 まあ、その手を重ねようとしている相手は、わたしが今から勝負しようとしている相手でもあるのだけど……。


「オレに負けても泣くなよ?」


 九十九が挑発的な笑みを浮かべて、わたしの手をとる。


「九十九に負けたぐらいでわたしが泣くと思う?」

「…………思わん」


 少しの間の後、九十九はそう答えた。


 わたしが泣く姿を想像できなかったらしい。

 そのことが、なんとなく可笑しくて笑ってしまった。


「余裕だな?」


 そう言って、九十九が移動魔法を使う。


 そして、いつもの広場へとやって来た。


「一応、確認するが、なんで、オレと勝負しようと思った?」

「いや、九十九だけ勝負していないなと思って……」

「あ?」

「水尾先輩との勝負は何度かしているし、雄也さんとも一応、やったけど、九十九とはまだ一度も勝負したことがないんだよ」


 一方的に、彼を標的とした覚えは幾度となくあるのだけど……。


「護衛だからな。主人と魔法勝負するのは、おかしいだろ?」

「護衛だから、主人のストレス解消にお付き合いくださいな」


 九十九の言いたいことも分かる。


 これはわたしの我が儘だ。

 昼間、抱いた感情を……単に実践したいだけ。


 だから、できるだけ九十九にとって抵抗がなくなるような言葉を選ぶ。

 この言葉にも嘘はないから。


「魔法力の回復中にしなきゃいけないことだとは思えんけどな」

「でも、この広場を使える間しかできないことだよ?」


 自分たちで結界を張ることなく、遠慮せずに広範囲の魔法を使うこともできる空間なんてそう見つからないだろう。


 当然の話だが、城や大聖堂にある契約の間と違って、一般的な契約の間はそこまで広くもないのだ。


「それも、そうだな」


 昼間、この場所で空中を自在に飛び回った青年はそう答えた。


 どうやら、納得してくれたらしい。


「ああ、わたしも『命呪』は使わないからね」

「それは当然だ」


 わたしが「命令」の言葉を口にするだけで、彼はわたしの意のままになってしまう。


 それは、ハンデとしても大きすぎるだろうし、それこそ、単なるストレス解消で使って良い手段でもない。


「オレに勝てたら、何でもしてやるよ」

「へ?」

()()()()()()()に、従者から心より褒美をくれてやると言ったんだ」

「そのネタ、まだ引っ張るの?」


 ちょっといい加減に勘弁して欲しい。


 九十九の顔と声で「可愛い」と言われ続けたら、いろいろ集中できない気がする。


「でも、何でも……、か」


 それはちょっと……、いや、かなり魅力的な申し出だ。


 ちょっと前にここで言われた「何でも」は、彼にとって「贖罪」の意味が大きかった。


 でも、今回は違う。

 純粋なご褒美だ。


 それならわたしのやる気も出るというモノ。

 それだけの自信も彼にはあるということだ。


「寝姿のモデルとかでも良いってことか……」

「お前こそ、まだそのネタを引っ張る気かよ」

「以前のような半裸のモデルもおっけ~ってことだよね?」

「さらに業を深めるな」


 だけど、九十九が嫌がることでなければ意味がない。

 わたしは、手を抜いて欲しくないのだから。


 お遊びだと適当に流されては困るのだ。


「じゃあ、九十九が勝ったらご褒美は何が良い?」

「は?」

「流石に『何でも』……は無理だけどね?」


 わたしは九十九ほど自信があるわけではない。


 九十九は少し……いや、かなり、悩んで……。


「お前に勝ってからゆっくり考える」


 そんなことを口にしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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