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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ それぞれの模擬戦闘編 ~

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あれは「魔法勝負」?

「なんですぐに起こさなかった!?」


 水尾先輩が叫んだ。


「いや、水尾先輩はお疲れだと思って……」


 わたしはそう答えるしかない。


 雄也さんが寝かせてあげてと言ったのが理由ではあるのだけど、それを知った後の方が怖い気がした。


「水尾さん、栞は魔法力回復中なのでもう少し押さえてください」


 九十九がそう言って、庇ってくれるが……。


「先輩と高田の魔法勝負を見ることができなかった私の気持ちが、九十九に分かるか!?」

「いや、オレも途中からでしたから」

「全く見てないよりもマシだ!!」


 水尾先輩はそう叫ぶけど、あれを「魔法」勝負と言っても良いものだろうか?

 倒れたままの姿勢でそう思う。


 わたしの感覚ではソフトボールの投手と打者の勝負だったから。


 魔法を使ってはいたけれど、今まで経験してきた「魔法勝負」とはかなり違うものだったことは間違いない。


 それでも、自分の魔力で「光の棍棒」を出し続けるのはちょっときつかったようだ。


 ずっとそれをイメージし続けなければいけないし、同時に打者としても「光球魔法(ボール)」に向き合う必要があった。


 その結果、わたしの魔法力が尽きて……と言うか、「光の棍棒」が次第に形にならなくなって、そこで白旗を振ることになったのだ。


 自分からそんな形で負けを認めるのはすっごく、悔しかった。


 本物のソフトボール勝負だったら、体力的に、もう少しできたと負け惜しみを言いたくなるぐらいに。


 でも、どれぐらい打ち返したかは分からないけれど、打ち損じもそれなりにあった。


 幸いにして、「光の棍棒」を出し続けている間は、見逃しも、空振りも全然なかったけれど、それについては投手の腕としか言いようがない。


 際どいコースもあったけれど、ほとんどストライクだった。

 こんな投手は、見たことがない。


 でも、野球経験者だからって、簡単に「ウインドミル」とか「スリングショット」を投げられるはずがないよね。


 上投げ(オーバースロー)が中心の野球と違って、下投げ(アンダースロー)()()のソフトボールの投球方法は本当に難しいのだ。


 ソフトボール経験者だって、何度も投球練習を繰り返した果てに投げられるのに。


 特に、「エイトフィギュア」なんて、わたしは、雨の日の座学で見せられたDVDの動画でしか見たことがなかった。


 一体、いつ、どこで、何のために練習していたんですか? 雄也さん。

 

 幸いにして、魔法力が尽きた状態ではなく、減った状態なので、意識はなんとか残ってくれたみたいだけど。


 但し、身体が動かしにくいような状態にはなっているようで、起こすこともできないし、指が少しだけピクピクと動かせる程度ではある。


 そして、わたしが倒れると同時に、水尾先輩の目が覚めて、冒頭の流れとなったのだ。


「ところで、九十九はいつ、移動したの?」


 すぐ横で片膝を立てて座っている九十九に、寝たままの姿勢で確認する。


 わたしは勝負に夢中になっていて、彼が動いていたことにも気付いていなかったのだ。


「目が覚めて割とすぐだな」

「まだ回復中みたいだけど、身体を起こして大丈夫?」


 一度、魔法力が枯渇した状態に陥ってしまうと、回復にはかなり時間を要する。


 身体を動かしたりせずに、横になって安静にしていた方が回復力も全然違うのに……。


「お前よりは大丈夫だよ」


 九十九が笑う気配がする。


「それより、今から、本日のメインイベントだろ?」

「え……?」


 九十九の言葉の意味が分からなくて、短く問い返す。


「兄貴と水尾さんの一騎打ち」

「おお」

「いや、お前、『おお』って……」


 どこか呆れたような九十九の声。


 仕方ないじゃないか。


「わたしとしては、先ほどの勝負で満足してしまった感が強くって……」


 もうあんな勝負は望めない。


 やり切ったと言うか、妙にすっきりした感じなのだ。


 そして、同時に、自分がどれだけソフトボールという競技が好きだったのかを思い出してしまった。


 九十九が、わたしに絵を描く楽しさを思い出させたように、この護衛兄弟は本当にわたしの心を揺り動かしてくれるから本当に困るね。


 戻れないと分かっている人間界に繋がる記憶なんて、あまり思い出したいものでもないのだけど、それでも、楽しくなってしまうから仕方ない。


「……そうかよ」


 おや?

 九十九の声に不機嫌な色が混ざった気がする。


「どうかした?」

「別に」


 答える声は、分かりやすく不機嫌になっている。


 なんでだろう?


 心配したのが悪かったのかな?

 それとも、これからの勝負を忘れていたこと?


 どっちだろう?


「まあ、良い。これから先輩をぶち倒してスッキリするから」


 水尾先輩がそう言って、髪をかき上げると雄也さんに向き直る。


「高田と勝負して随分、疲れているようだけど、逃げはしないよな、先輩」

「貴女との勝負する程度には魔法力を残してあるから大丈夫だよ」


 雄也さんはにっこりと微笑む。


 でも、流石に、九十九の補助をした後、わたしとの勝負で「光球魔法」を幾つも投げ込んでいる雄也さんの魔法力は、いつもよりもかなり少なくなっている気がする。


 こんな状態でさらに魔法国家の第三王女との魔法勝負なんて、大丈夫だろうか?

 そんなわたしの心配をよそに、雄也さんはとんでもないことを言い放った。


「そんなに()()()()使()()()()()()()から」


「なんだと?」


 今の台詞は、水尾先輩にとって、挑発行為ととれる。


 煽って、彼女の平常心を奪うことが目的?

 でも、それならもう少しやり方も言い方もあるだろう。


「事実だよ」


 雄也さんはいつものように微笑んだ。


 それは、余裕の笑みに見えてならない。


「ね、ねえ、九十九」

「なんだよ?」


 まだ不機嫌モードは解除されないらしい。

 言葉がぶっきらぼうだ。


 最近、妙な甘さ含む声を聞いてばかりだったから、少しだけ落ち着いてしまった。


 そう言えば、この「ゆめの郷」に来る前の九十九は、ずっとこんな声だったね。


「雄也さんが何を企んでいるか分かる?」

「企む……。まあ、企むで間違ってないな。真っ当な手段では、魔法国家に太刀打ちなんかできねえ」


 どうやら、弟も兄が何か企んでいることは分かったようだ。


「だが、さっきのお前たちを見て、なんとなく、『魔法勝負』って、少しでも『魔法』を使っていれば、『魔法勝負』って言いきれるんだなとは思った」

「ふえ?」


 なんだろう?


「それって当然のことなんじゃないの?」

「いや、普通、『魔法勝負』って、魔法の撃ち合いだろ? でも、お前と兄貴の戦いはどう見たって魔法の撃ち合いとは少し違った」

「まあね」


 確かに雄也さんが魔法を放ち、わたしが打ち返していた。


 あれを見て、「魔法勝負」と言う人間はいないだろう。

 加えて言えば、その前の雄也さんが使った「幻影魔法」も、微妙な判定になると思う。


「それを考えれば、兄貴の考えていることはなんとなく分かる気がする」

「へ?」

「まあ、見とけ」


 そう言って、九十九はわたしの身体を抱き起こした。


「ちょっ!?」


 いきなりの行動の意味が分からず、思わず抗議する。


「その寝そべった状態で何が見える? ()()()()()()()()()ってんだよ」

「いやいや! この体勢は恥ずかしい!!」


 確かに抱き起こされて、九十九に支えられた状態なら、水尾先輩と雄也さんが向き合っている状態までよく見えるようになった。


 2人がなんとも言えない視線をこちらに向けていることまでしっかりと。


「今更だろ?」

「今更だけど!! これまでの状況と、人前でするのは全然違うでしょ!?」

「オレは気にしない」

「ちょっとは気にして!!」


 ああ、2人がふいっと互いを向き合った。


 違うんです!!

 誤解なんです!!


 これは、わたしの過保護な護衛がわたしの身体を休めつつ、あなたたちの勝負を見せてくれようとした結果で……。


「観念しろ」

「その言葉は使い処を間違っていると思うよ」


 実際、観念するしかないのだ。


 自分の身体も微かにしか動かせない状態にある人間が、力のある人間にまともな抵抗ができるはずもない。


「良し。良い子だ」


 わたしが抵抗する気もないことが分かったのか。


 九十九が頭を撫でながら、そんなことを言った。


「子供扱いするな」


 反射的にそう口にすると……。


「大人扱いが良いか?」


 耳元で九十九が甘く囁く。


 先ほどの不機嫌オーラはどこへいったのだろうか?


「謹んでご辞退申し上げます!!」


 わたしはいろいろな意味で観念するしかなくなったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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