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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ それぞれの模擬戦闘編 ~

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身体が重くなって

「うぬぅ、負けちゃった……」


 わたしは、大の字になって空を見ている。


 目に映る大空は、どこまでも青く澄んで……はいなかった。


 確かに空が高いな~とは思うけれど、このスカルウォーク大陸で見る空は、あまり綺麗な青ではなく、薄い水色のような色が多い。


 雲があるわけではないけれど、どこか灰色っぽくもあるような……、そんな色だった。

 でも、空気が悪いという感じはない。


 その辺りちょっと不思議だよね。

 どこか現実逃避気味な思考……。


 ああ、うん。

 大丈夫、大丈夫。分かっている。


 この状況が分かっていないわけではないのだ。


 今、ぶっ倒れているわたしの上には九十九が乗っかっていた。

 いや、正しくは、わたしを庇ってくれたのだ。


 あの時、凄い爆発音の後に、物凄く熱い空気の流れが自分に向かって襲い掛かってくる気配があって、九十九はソレからわたしを護ろうとしてくれた。


 だが、その時には既に、わたしの危機察知能力の一種でもある「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」が発動していた。


 あの時点では止められなかったのだ。

 わたしには、どうしようもなかったのだ。


 まあ、つまり……。


 熱い空気を吹き飛ばすかのような激しい空気の渦が、わたしの身体から発生し、わたしの盾になろうとしていた護衛青年ごと巻き込んだ。


 そして、そのまま彼の意識を刈り取ってしまった……らしい。


 いや、「らしい」と付くのは、あの状況で何が起こったのか自分でもよく分かっていないのだ。


 本当に移り変わりが激しかったと言うか。

 場面転換が瞬間的に切り替わっていったと言うか?


 いろいろな感覚が入り乱れて、それで、気が付けばこんな状態になっていたのだ。

 その九十九は今、わたしの上で意識を失っている。


 意識を失った人間の身体ってかなり重いと聞いているのだけど、不思議と重さを感じなかった。


 カルセオラリア城でウィルクス王子殿下を持ち上げようとした時は、あれほど重たかったのに。


 もしかしなくても、わたしの身体も一部、麻痺しているのかもしれない。


 この体勢を変えたいのだけど、今は身体も重くて動かせないようだ。

 なんとなく、腕や足が痺れているような気がする。


 身体が重く感じているのは、魔法力が枯渇している時とはちょっと違うことぐらいしか分からない。


 意識を失っている九十九に治癒魔法をかけるべきなのだろうけど、大きな怪我をした様子はない。


 だから、なんとなく、普通に休ませたかった。


 それが自分の身体の上に乗った状態なのはどうかと思わなくもないのだけど、動けないし、動かないのだから仕方ないよね。


 いつもはわたしが寝具にしているのだ。

 たまには逆になる日があっても良いかもしれない。


 難しいことは後から考えよう。

 だから、今は、ちょっとだけぼんやりとしたい。


 身体だけではなく、頭を休めることも大事だと思うから。


 最近、ずっといろいろなことがあった。


 ここ数日ぐらい、九十九とのんびりと過ごしていたような気がするけど、その間に、精神的な緊張がなかったわけでもないのだ。


 ……少なくとも、わたしにはあった。

 だけど、九十九にも同じように、精神的な緊張があったかどうか分からない。


 ないな、絶対。

 そう断言しても良い。


 彼は基本的にわたしを異性扱いはしないのだ。


 一応、異性として見ることはある……と言ってくれたけど、その扱いとしては、今でも王族から守るように言われた「貴重品」のままだ。


 良くて、大事なお子様をお預かりしている保育士目線?


 でも、どう転んでも、彼から異性として見られている気はしない。


 だけど、彼からその手のことで、揶揄われることはちょっとばかり増えた気がする。

 わたしにそういったモノが通じてしまうと分かったのだろう。


 全く持って、性質が悪い。


 そして、困ったことに彼は、わたしを揶揄った後、決まって、笑いを堪えるかのように自分の口を手で覆ったりしているのだ。


 あれって、かなり失礼な態度だと思う。


 少なくとも主人にする態度ではないよね?


 ああ、うん。

 冷静になってきた気がする。


 具体的には、このままごろんと上に乗っかっている彼を、勢いのまま地面に転がしたいぐらい。


 だけど、わたしを護ろうとした結果だと分かっているので、それはできない。


 激しい爆発に巻き込まれた後の水尾先輩は恐らく無事だろう。


 だからこそ、「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」が発動したのだ。

 彼女の身を護るために。


 それだけの攻撃力……、と言うか、火力だったことは間違いない。

 少なくとも、彼女が焦る程度の攻撃ではあったのだろう。


 でも、その後が悪かった。


 水尾先輩の「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」が発動した時点で、負けが決定することになるなんて、本当にいろいろ酷い能力を持っている相手だと思う。


 あんな規格外の人間をどうすれば越えられると言うのだろうか?


 しかも、恐ろしいことに、彼女より上の人間は、この世界にはまだまだいるのだ。

 頭が痛くなってしまう。


 さらに、彼女の「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」に反応して、わたしの「魔気の護り(じどうぼうぎょ)」も発動してしまった。


 それでも、倒れたのはわたしたちの方だった。


 いや、正しくは、味方である九十九を倒してしまったのは、自分って気がするのだけど。


 でも、そんなわたしまで起き上がれなくなったのはどうしてだろう?


 九十九が身体の上に乗っかっているから?


 その辺りが分からない。


「大丈夫かい?」


 不意に頭上から声がした。


「だ、大丈夫です」


 反射的に言葉を返す。


「まずは、この愚弟をどかすね」


 そんな声がして、わたしの上に乗っていた黒髪の青年の姿が……()()()


 ……って、消えたって何?!


 でも、その場には同じ黒髪をして似たような顔をしている声の主しかいない。

 その手にも、周囲にも、何もなかった。


「つ、九十九は……?」


 身体を起こそうとしたが、やはり、起こせなかったので、このまま尋ねる。


「ちょっと飛ばしたよ」


 飛ばしたってなんでしょうか?

 そして、彼はどこに飛ばされたのでしょうか?


「いつまでも栞ちゃんにお荷物を載せたままにしたくはなかったからね。でも、大丈夫。少しぐらい乱暴に扱ったぐらいで、簡単に壊れるような男じゃないから」


 それって、ちょっと乱暴に扱ったということではないでしょうか?


「身体は起こせる?」

「ちょっと難しいです」


 九十九という重しがなくなったはずなのに、まだわたしの身体は地面に縫い留められていた。


「ふむ……」


 そう言って、もう一人の黒髪の青年……、雄也さんはわたしの額に手を当てる。


「なるほど……」


 それだけで何か分かったらしい。


「ちょっと、ごめんね」


 そう言いながら、雄也さんは目を閉じた。


 ……そっくり……。

 いや、誰にとは言わない。


 でも、目を閉じると本当によく似ている。

 その伏せられている少し長めの睫毛までしっかりと。


 この兄弟の違いは……瞳なのか。


 その両目が開いている時は、どことなく顔の造形は似ているのに、印象……雰囲気が全然違う気がするのだ。


 そんな阿呆なことを考えているうちに、わたしは手足が動かせるようになっていた。


「あれ……?」


 そのまま、身体を起こしてみる。


 重さはなかった。

 いや、普通に身体の重さはあるのだけど、先ほどまでと全然違うと言うか?


「九十九の魔法の影響下にあったみたいだね」

「はい?」


 九十九の、魔法?


「栞ちゃんに、『加重魔法』が使われていたみたいだ」

「か、かじゅう?」


 果汁?


「一時的に、対象の重量を増やす魔法だね。筋トレとかに負荷をかけるために、使うことが多いかな」

「じゅ、重量?」


 つまり、加重?

 重さの追加?


 えっと、何のために?


「いきなり自分の身体が重くなれば、動きが鈍くなるからね。実際、栞ちゃんは動けなかったぐらいだから、はっきりと言いきれないけれど、重さにして、3倍から4倍くらいは体重が変わっていたかな?」


 ちょっと待ってください?


 それって、わたしの体重が知らないうちに、100キロを超えていたということでしょうか?


「あの男は、なんてものを使ってるんだ!?」


 その場からいなくなった相手に対して、わたしは叫ぶ。


 これは酷い。

 本当に酷い。


「まあ、一時的とはいえ、あまり女性に対して無許可で使うものではないね」


 雄也さんは苦笑する。


「雄也さん。あなたの弟を殴る許可をください」


 わたしはそう拳を握り締める。


「お手柔らかにね」


 わたしの申し出に、雄也さんは止めることなく、やんわりとした口調でそう言ってくれたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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